暗き月の王、狭間の地より来たり 作:Crimson Wizard
「ふぅ……やっと抜けられましたね。」
冒険者モモン、その真の姿は
今はアインズ・ウール・ゴウンと名乗り、癖の強いNPC達を纏め上げるギルド長である。
彼もかつては一般人であり、文字通り社会の歯車として扱き使われていたが……
彼の全てと言っても過言では無い程やり込んだゲーム、ユグドラシルというDMMO-RPGのサービス終了時間までログインしていた彼は、
今は息抜きの為に何とかNPC達を説得し、ようやく冒険者としての活動を始められたのだ。
そんな彼は今、三つのチームの共同依頼という初任務の真っ只中であった。
漆黒のフルプレートアーマーの中から勘づかれないよう注意を払ってシルヴィアと名乗った女性を見つめる。
見るからに聖騎士といった風貌をしており、その兜の中は赤髪に、翡翠色の瞳をした美女であった。
馬車と同じ速度で歩きながらモモンガは考える。現地人にしては容姿が特徴的過ぎる。装備も他の冒険者とは明らかに違う。
プレイヤーにしては装備が貧弱過ぎる気もするが……少し覗き見してみるか。
《
こっそりと、彼女が握っている剣に鑑定の魔法を掛ける。
【血のレディソード+25】
【能力補正】
筋力D
技量B
知力‐
信仰‐
神秘D
【戦技】「片翼の構え」
静かに右側に構え、攻撃に繋げる戦技
通常攻撃で、高速の三連撃に
強攻撃で跳躍からの突きに派生する。
(俺の知ってる武器のステータスじゃない!!!)
まるで別ゲーじゃないか……ユグドラシルにこんな武器あったか?いや、見た事がない。
「……私を見たな?」
ビクッ!とモモンガことモモンは肩を震わせた。モモンガが視線を向けるとそこには此方を眺める黒い兜があった。
「も、申し訳ない、見たことの無い武器だったのでつい気になって鑑定の魔法を使ってしまった。」
「……まあ別に構わないが。」
女……シルヴィアはそれだけ言うと特に気にした様子もなく再び歩き出した。
何やってんだ俺……。
普通にマナー違反だし、下手したらカウンター食らってた可能性もあるのに、冒険者って事で少しはしゃぎすぎたな。
モモンガは自分の軽はずみな行動を反省する。
それにしても……この女、ステータス看破の魔法を使っていないから分からないが、明らかに強い。
ステータスではなく、こう……強者独特の覇気のようなものがある。
まああくまでただの勘なので、外れている可能性もあるが。
「あ!皆さん、オーガとゴブリンの群れです!」
モモンガがシルヴィアの正体について考察していると、いつの間にか辺りをオーガとゴブリンの群れが取り囲んでいた。
「……私が出よう。」
そう言ってシルヴィアは剣を構えてオーガに突撃していった。
「ナーベ!私達も行くぞ!……漆黒の剣の皆さんはバレアレさんの護衛を!」
そうして、モモンガは高レベルの身体能力で二振りの大剣を振り回す。ただそれだけでゴブリンもオーガも身体を真っ二つにされて倒れていく。
ふと、モモンガは気になってシルヴィアの方を見てみる。
彼女はその剣で舞う様にゴブリンを切り刻み、オーガも一撃で両断していた。
……やはり強いな。
「……これで最後か。」
シルヴィアはそう言ってオーガの首を斬り落とす。
「す、すげぇ……」
「まるで英雄の様でした!」
「すぐランクを追い抜かれそうであるな……」
「私にも、あれだけの力があれば……」
漆黒の剣は三者三様の反応を示し、ンフィーレアに至っては大口を開けたまま呆けてしまっている。
「……貴公、本当に戦士か?」
剣の血を払いながらシルヴィアがしてきた質問にモモンガはビクリと肩を震わせる。
「なんの事かな?」
「いや、貴公の剣には術理が無い。力任せに剣を振るっているようにしか見えない。」
……図星だ。それはそう。モモンガは本来
だが、この場でそれをバラされるのは困る。
「シルヴィアさん、これには事情があってだな、後ほど詳しく説明するので今は黙っていて欲しい。」
モモンガは小声で囁いた。
「なるほど、訳ありか。では後ほど教えて貰うとしよう。」
ふぅ、とモモンガは安堵からため息を零す。
「では、もう日も落ちますし今日はこの辺で野営しましょうか。」
「そうだな……では私は食材を集めて来る。少し待っていてくれ。」
そう言うとシルヴィアは指笛を鳴らし、何処からともなく角の生えた馬が現れる。
「えぇ!?馬を召喚した!?」
「……霊馬のトレントだ。では、野営の準備をしていてくれ。」
……本当に何者なんだ、彼女は。明らかにその辺の冒険者とは違う。
モモンガは
『デミウルゴス、聞こえるか?』
『はっ!聞こえております。どのようなご要件でしょうか?』
『私が今冒険者として共同依頼を受けているのは知っているな?……シルヴィアという女の素性を調べてくれ。』
『その女に何か?』
『ああ、明らかに現地の人間では無い。それにこの辺の冒険者とは恐らくだがレベルが違う。』
『……畏まりました。すぐに隠密系に特化した下僕を手配します。』
『可能な限り敵対的行動は避けてくれ。まだ底が見えていないからな。』
『仰せのままに。』
と、モモンガは直感的に当たらずとも遠からずな答えを導き出すのだった。
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「何かに見られているな……」
あらかた食材の収集は終わった。後は帰るだけなのだが……私は違和感のある空間に向かって流紋の短剣を投擲する。
すると空間から滲み出るようにして見たことの無いモンスターが現れた。
私はレディソードを手に取ると一気に距離を詰めてモンスターの背に剣を突き刺す。
「……なんだ、こいつは。」
まあ、いいか……
私は食材を片手に、再びトレントを呼び出し野営地へと戻るのだった。
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『何!?見つかっただと!?』
『申し訳ございません!ですが、一つ収穫がありました。
あの女は索敵系のスキルは持っていないようでした。気付かれたのは、恐らくただの勘でしょう。』
ただの勘で、隠密系特化の傭兵モンスターに気付くとは……やはりシルヴィアというあの女、何かある。
『とりあえず理解した、変に刺激しないように、一旦監視は中止する。』
『申し訳ございません、この失態は必ず挽回させて頂きます。』
……ふむ、今回のモンスターは一応現地基準だとかなり高レベルな筈なんだが、気付いて即殺害とは、やはり只者ではないな。
と、そんな事を考えていると、シルヴィアが馬に乗って戻って来た。
「鹿を一頭と木の実だ。」
「えー、まさか鹿をまるまる一頭仕留めてくるなんて……」
これにはペテルも苦笑いだ。
「血抜きも終わらせて内臓も抜いてある。後は皮を剥ぐだけだ。調理は好きにするといい。」
「いやぁ……僕達、鹿なんて調理した事無いです。」
ニニャが苦笑しながらそう言う。
「ふむ、なら私が調理番か。少し時間が掛かる。見張りを付けて待っていてくれ。」
そう言ってシルヴィアは鹿を抱えたまま去っていった。
去っていったシルヴィアを眺めながらモモンガがぼーっとしていると対面に座ったニニャが話し掛けてくる。
「シルヴィアさんって、かなり不思議な方ですよね。」
「え?ああ、そうですね。かなり戦える様ですし……」
「それを言うならモモンさん達だってそうですよ!すぐにアダマンタイト級になっちゃうんじゃないですか?」
モモンガの横に座ったペテルがそう言ってくる。
「いえ、私達も相応の実力はあると思いますが……どうなんでしょうね?」
「ははっ!何ですかそれ。まあモモンさん達ならすぐになれますよ。」
こうして話に応じてはいるが、モモンガの頭の中はシルヴィアの事で一杯だった。何より、恐らく彼女は全力を出していない。
オーガ程度では相手にならないのは分かるが、それにしたって鑑定したあの剣一本で彼女の事など理解出来る筈もない。
見た事のない武器のステータスも気になるが、恐らく……これはただの勘だが、彼女はプレイヤーではない。
仮に戦士系のプレイヤーだったとするのならば、あの場でスキルも何も使わないのは不自然だ。
それにこの世界特有の武技とやらを使う様子もない。使う必要が無いと言われればそれまでだが、どうにも引っ掛かる。
「出来たぞ。鹿肉のシチューだ。」
野菜は足りなかったので事前に買い溜めていた分を使っている。ルーンに変換しておけば腐る心配も無い。
「……あの、この野菜は何処から?」
「私のだが?」
「あ、はい。……この木の実は?」
「先程採ってきたものだ。食えるぞ。」
そうして、恐る恐るシチューを口にする漆黒の剣の面々だったが、一口食べると皆一様に驚いた。
「うまっ!」
「まさか野営でこんな食事が取れるなんて……」
「やっぱり付き合ってくれ!シルヴィアちゃん!」
「うむ、美味いな。」
皿を抱えてどうしようか迷っていると、シルヴィアが此方を向く。
「どうした?食わないのか?」
「……ああいや、宗教上の理由で、」
「それとも、食えないのか?」
更に近寄ってきたシルヴィアが耳元で囁いた言葉に、モモンガは固まった。
「貴公が人間では無い事は薄々気付いていた。貴公、死に生きる者だろう?」
「……その死に生きる者とやらは分からないが、私は人間だ。」
「言いたくないのならば構わない。それと、あの身体能力について後で詳しく教えて欲しい。」
モモンガは先程から何度も精神が沈静化され、ナーベは剣呑な視線をシルヴィアへ向けている。
「……私は別に敵対するつもりはない。流石に踏み込み過ぎたな。悪かった。」
「その話は、彼らが寝てからにしないか?それに、先程から君が私に近過ぎて、注目されてしまっている。」
そう言うと、シルヴィアは再び食事を取っていた姿勢に戻った。モモンガは漆黒の剣が眠るまで、無い心臓を鳴らしていたのだった。
あせんちゅは今後、武技の習得を
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しない