いや、私は別に暗い過去も壮大な裏設定もないただの憑依転生者なんですけどね 作:美味しいラムネ
続いた
人間とは、慣れる生き物だ。
初めは苦しかったとしても、それが続けば『苦しみ』は『日常』へと変わり、それがないことに不安さえ覚えるようになる。
「店長、あの子に何かしたんですの!?目が、目が死んでますわ!」
「ち、違...!」
久しく忘れていたこの感覚。
生きるのに必死で忘れていたこの感覚。誰かの下につき、過酷に、奴隷のように、物のように扱われるこの感覚ッ...!
少女は思い出した、そうだ!私は生きるために働くのではなく、働くために働くのだと!!!
「そういや俺もあの子が休んでるところ見たことないっすね」
「あいつ学生っすよね、毎日シフト入ってて大丈夫なんすかね?」
12:名無しの転生者
おい止まれ、もう休め、ここは前世とは違う!もうお前の戦いは終わったんだッ!!!
14 : 名無しの転生者
ワーカホリックとかいうレベルじゃない、誰かこいつを止めろ!バイト紹介したあの子の顔が死んでるから、もう目的は達成しただろ!?教科書代どころかもうサバイバル生活の必要がないぐらいには稼いでるだろ!だって休んでねえんだもん、掛け持ちしすぎてスケジュールから空白が消えてるもん!
15 : 全身ピカピカの新入生
でも、夜勤クビにされちゃったし、はたらかなきゃ...!うごかなきゃ...!
ちげぇよ見るからに働きすぎなお前見て心配して無理やり休ませてるんだよアホ、自分から破滅しようとするんじゃねえ、次々と飛んでくるレスさえ少女には届かない。
野生という環境は、哀れな魂を戦場から引き剥がした筈だった。しかし、運命は残酷なことに彼女を戦場に舞い戻してしまった。
「だいじょうぶ...私は、私はまだ戦える....!」
この職場が私の魂の居場所だとでも言いそうな顔で、休ませようとする同僚の腕を振り払い、店長にすがりつく。お願いだから次の指示をくれ、と。
そうだ、私に意味を、生きる意味をッ!指示を、指示をくれ!何故だ、いつもは意気揚々と安価に協力するのに、どうして協力してくれないッ!いつもは無限に仕事を増やしてクソ案件をとってくる癖に何故仕事を回してくれないッ!
同僚たちは引いた。理解できないものを見た時、人は恐怖する。
コーン男爵家の令嬢は泣いた。ごめんなさい、私のせいで1人の少女が壊れちゃった、と。
店長は、掛け持ちした他のバイト先と手を組んで、無理やり休みを叩きつけた。大人として、1人の学生の未来を守る必要がある、と。
この瞬間、世界を超えて意思が一つになった。無数の世界に散らばる名無したちと、この世界の大人たちの意思が一つになった。
「駄目だこいつ早くなんとかしないと」と。
102 : 名無しの転生者
すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。
風...なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに。
ここまでの惨事に至るのにかかった期間が1ヶ月。男爵令嬢にバイトを紹介してもらってから1ヶ月の間の出来事であった───
その間の、1日の平均労働時間、脅威の30時間。ここに加えて学生生活もこなしていたのである。
♦︎♦︎♦︎
放り出された店の外。少し歩いた先の噴水の横で空を眺める。
噴水の真ん中に鎮座するデーモンマンティコアの石像*1を眺めながらため息を吐く。
すること、無くなっちゃった...
いや待てもう働きすぎないって決意した筈、私は一体何を!?精神が壊れかかっていたぞ完全に。
自分を顧みて思うけど、ひどいねこれ。一度壊れた心はそう簡単に戻らないんだわ。っぱ許さねえわ前世の糞企業、地球に帰る魔法でも見つけたら念動魔法でペシャンコにしてやるわ、物理的に。
自分の膝をギュッと抱え込む。...お外寒い。
131:全身ピカピカの新入生
わたしは しょうきに もどった!
134:名無しの転生者
>>131 いやそれ戻ってないんだわ、とりあえず今は休め
137:全身ピカピカの新入生
自分でもわからないんだ、あの、教科書のために前借りで給料を貰った瞬間、自分が自分じゃなくなって...気づいたら止まらなくなってて...
138:名無しの転生者
>>137 もう休めッ...!ここはあの暗黒空間とは違うんだ、バ先の人、みんないい人だっただろう?
141:名無しの転生者
前借り認めてくれたの大分優しくないか?紹介ありとはいえ新人だぞこいつ
143:名無しの転生者
大惨事の三文字が相応しい状態でしたね...
145:名無しの転生者
ほら、もうサバイバル生活の必要もない、働きすぎて体を壊す必要もない、もう休め、休むんだ...!
146:全身ピカピカの新入生
うん、休む...
...でもこの瞬間も誰かは働いているわけで...だめだ不安になってきた
149:名無しの転生者
自己催眠の魔法教えるからさ、それで精神弄ろっか
151:全身ピカピカの新入生
>>149 お願いします、お願いします!
154:名無しの転生者
>>149 おい馬鹿やめろ、止めろ、おい馬鹿!!!
地面に座り込む私の頭上に、影がかかる。
「えーっと...いつまでそこで座ってるつもりなのかしら?もう家に帰れるのよ?その、もう今日はお休みなのよ?」
見覚えのある金髪ツインドリル。私の恩人、コーン男爵令嬢だ。彼女がいなければ今頃私は野生人になっていたかもしれない。聖女のように優しい御方である。この世界には現実に聖女と呼ばれる人もいるらしいけど、彼女の聖女度合いには勝てないね、うん。
というか同じ学校にいるらしいんだけどだったらあの「the 神の敵」みたいな怪物と戦ってる時に助けに来てくれよお前聖女なんだろ!?...考えが逸れてしまった。
「ん、だから休んでる。こうやって、じっとしてる」
動かないこと以上にいい休み方はない。私の経験則から導き出した結論。
155:名無しの転生者
...おい、まさか、コイツ...!?
157:名無しの転生者
あぁ、恐れていた事態が現実になっちまった
158:名無しの転生者
やばいって、想定の倍は重症だって!!!!
令嬢の顔が引き攣る。
「いや、休みなんだから家に帰って休んで、その後したいこととかないんですの...?」
「したい、こと...?」
161:名無しの転生者
こいつ...
休み方を知らないんだ!!!
ポロポロと涙が溢れる。
わからない、何故私は泣いているんだ。
「したいことが...わからない...」
164:名無しの転生者
か、悲しきモンスター
166:名無しの転生者
久しぶりに、想像以上の逸材に出会っちまったぜ...
169:名無しの転生者
異星の軍勢に滅ぼされた俺の世界ですら完全週休2日制なのに
170:名無しの転生者
>>169 週休二日制インベーダーとか嫌すぎるわ
気づけば、背中から抱き締められていた。
この時のコーン男爵令嬢の心の中は、「ここで手を離したら不味い、私以外に彼女を掴める人はいない」という焦りで一杯だった。そう思ったら、勝手に体が動いていた。それだけのことだ。
後に、この風景を見ていた通行人は「まるで魔物に育てられた少女が心を開いた瞬間とかそういうアレに見えた」と語ったという。
「...っ!あたた...かい...」
風吹いてて寒かったし。これが、人の温もり...!?
173:名無しの転生者
血涙流してやがる...
174:名無しの転生者
令嬢ちゃん顔引き攣ってるよ、どうしようって顔してるよ!!
175:名無しの転生者
血涙って本当に流れるんだな...
「あの、その、...この際、貴女の過去に何があったのかなんて聞きませんわ。ただ───
何か言葉を紡ごうとしているのはわかる。でも、
178:名無しの転生者
あ、不味いなこれ
180:名無しの転生者
邪魔が入った
抱きしめてきた彼女を抱き返し、地面に押し倒す。
この一瞬まで気づかなかった。
「え、いや、ちょ」
「耳を塞いで口を開いて!!」
デーモンマンティコアの像が爆散し、散弾のように石片が散らばる。
「え...ぁ...」
彼女を守るのに必死で、自分の防御が疎かになってしまった。
こめかみから血が流れる。貴女の体を私の血で穢してしまうことを許してほしい。
「っ、傷がっ、いや、それよりも、爆発...なんで...」
脳が揺れて、彼女の体に倒れ込む。あー、脳震盪ってこんな感じなんだ。漫画でしか知らなかったけど、こりゃ立てないね。
「大丈夫、ちょっと切っただけ。場所が場所だから、量は多いけど傷は浅い」
大嘘だけど。石像の破片以外にも、鉄片やら釘やら、明らかに殺意のこもった破片が飛散していた。
通行人の痛みに踠く声が聞こえる。それをシャットアウトして、視線を巡らす。
183:名無しの転生者
何の何の何!?
186:名無しの転生者
治安悪いとかいうレベルじゃねえぞ、急に爆弾が爆発するとかどうなってるんだよ
189:名無しの転生者
理由よりも今は、誰がやったか、だ!
190:名無しの転生者
右上、屋根、クロスボウ持ち3人、...あーこれ間に合わねえわ
191:名無しの転生者
イッチ、頭だけは守れ、極論脳さえ無事なら多少の傷は治せるだろ!
194:全身ピカピカの新入生(配信中)
悪りぃ、私死んだ
(頭守れって言われたけど...言いつけ守れなかったなぁ)
思わず傷の治癒を優先してしまったのが失敗だった。
突如として飛来したボルトを防ごうにも、一瞬足りない。
誰か、指示を、私を助けて
「『風の第三層『
私の体を守るように展開された風の防壁が、ボルトを弾き飛ばす。
一手、足りた。...そういえば、私たち。魔導学園の生徒だった。
「あぁもう!何が起きているのかは分かりませんが...」
「立ってください、逃げますわよ!...何ぽかんとしてるんですの?」
魔法の出力も、その効率もこの前の魔神や私と比べたら随分と低いことはわかる。でも、手を引いて私を立ち上がらせる貴女は、とてもカッコよく映ったんだ。
ボルトの発射先に、飛散した石片を念動魔法で射出する。屋根の上にいた3人が吹き飛んだのを察知すると同時に、周囲のさまざまな店舗から火の手が上がり、ちょうど今吹き飛ばした三人と似た格好の不審者が両の手で数えきれない数現れる。
近くにいた衛兵たちはすぐさま、有無も言わせず「異教徒だ、殺せ!」と叫びながら不審者たちに襲いかかるが、不審者たちの方が練度は上なように思える。
混沌。カオス。何が起きているのか全く理解できない。いや、本当に。急に何が起きたんだ。逃げようにも逃げる先がない。私のバ先はまだ燃えていないが、周囲の他の建物は炎上したり爆散したりと散々だ。
2人がかりで、支え合いながら安全な場所を探す。飛び交う矢玉を逸らしながら、せめて室内に入ろうとする。どうやら私のバ先はまだノータッチらしい。じゃあお客様の避難を手伝わないと...
「あぁもう、本当に何事...」
それは私も知りたい。ちょうどいいことに、相手がそれを教えてくれるらしい。一際高い建物の屋根に、大柄な男が登ってきたのが見えた。
リーダー格らしき男が叫ぶ。
「我々は貨幣神の信徒なり!神が与えたもう貨幣の理由も忘れ、私腹を肥やす秩序の邪神の信徒どもよ!我らが貴様らの資本を残らず焼き尽くし、世界をあるべき姿に戻してやろうではないか!!!」
衛兵の体を槍で貫き、それを掲げながら叫ぶ狂人。あー、なるほど。
195:全身ピカピカの新入生(配信中)
急募:バイトテロでバ先が消えそうな時の対処法
196:名無しの転生者
バイトテロっていうかガチのテロじゃねえか!?
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この世界の宗教について:秩序神以外は全員邪神扱い。昔はそうじゃなかったけど騙し討ちで秩序神の勢力がそれ以外の神の聖女を皆殺しにしてからそうなった。