カレーの付け合わせは福神漬けよりらっきょの方が好きなんだけど甘酢漬けにしたはずの瓶の中から勝手にテレポートして外に出ちゃってる件について 作:大神山
「ブルーム、スピードスターで牽制。」
その言葉の通りにイーブイから5発の星弾が発射される。
しかし相手のイシツブテは躱すことなく受け止める。
(躱してくれた方が楽だったが…まぁいい。)
「右から回り込んで、いあいぎり。そのままとっしん。」
「イシツブテ、こらえろ。」
相手のイシツブテは腕をクロスしてイーブイの攻撃を耐える。
(なるほどそう育てたいのか。なら…。)
「とっしんの反動で距離を取って、そのままディフェンシブサードまで下がれ。」
相手のイシツブテも深追いはせず、互いの距離がいったん開く。
(相手方は捕まえたばかりで試したいって言ってたしなぁ…。このままスピードスターで距離を取りながら戦えば確実なんだが…。)
ポケットモンスター。縮めてポケモン。この星の、不思議な不思議な生き物。
ゲームだけでなくアニメやカードゲームに幅広く展開しており、全世界で最も有名なゲームの一つだ。
対戦ゲームとしては世界大会も開かれ、強いプレイヤーは多くの人々の尊敬を集める。
そんな俺もレート対戦に参加しては勝敗に一喜一憂しながら大いに楽しんだものだ。
(捕まえたばかりイシツブテと言っていたが、相当防御性能に自信のあるタイプに見える。だからどこまでやれるか試したいし、そういった方向に育てたいってところか。なら…。)
「ブルーム、前に。いあいぎりで畳みかけろ。」
(俺のイーブイもアジリティとクイックネスをベースとした近接アタッカーだ。乗ってやるよ、その思惑に。)
「イシツブテこらえろ。」
俺が大好きなポケモンの世界に転生して早十年。
今年でスクールを卒業して旅を始めたが、転生した頃の嬉しさは格別だった。
そう、だったのだ。
当たり前だ。転生したという事はこの世界は俺にとって現実となった。そう、ゲームではないのだ。
互い違いに攻撃を繰り返す訳でもない。命中率百%も無い。そもそもバスケットコートを一回り大きくした様なフィールドには距離がある。A特化のポケモンなど育てようものなら、遠距離からハメ殺しにできるし、逆にC特化のポケモンは近づけば封殺できる。
物理型のポケモンも中距離で繰り出せる特殊技を持っているし、特殊型のポケモンも近接技をいくつか保有しているのが当たり前だ。
ホウエン種族値などと馬鹿にされていた彼らの方が有能であり、戦闘民族と呼ばれたパルデアのポケモンの方がピーキーで使いずらいのが現実だ。
だからなのか、この世界のパルデアはゲーム同様ポケモンリーグとしては人気がなく、マイナーなポケモンばかりだ。
もちろん努力値がある訳もない。大まかに種族値や個体値はあるが振れ幅も大きいし、ヤヤコマを256匹倒したところで足が速くなるわけでもなく、ヤングースを256匹倒したところで筋力が上がるわけでもないのだ。
もちろんルールもより厳密だ。好き勝手交代していいわけでもない。
交代したければポケモンをペナルエリアへ戻さなければならない。
ステルスロックやまきびし、どくびしはファイナルサードへの展開しか許されないし、当たったり踏んでしまえば自分のポケモンだってダメージを受ける。
両方がステロを撒いたバトルなんて限られたエリアでの近接戦闘に限られる。だからこそこの世界でステロを撒く奴はめったに見ない。戦闘フィールドに制限を掛けたい近接狂いが大半だろう。
技だってそう、一回しか使ったことのないハイドロポンプと千回以上練習したみずでっぽう。さて、どちらの方がバトルで使えるでしょうか?
そんなのは場面によって大きく変わる。そういう世界だ。ゲームの知識は有益ではあるが、対戦知識が役に立ったことなどほぼない。
だから、
「イシツブテこらえろ。」
その指示でこちらの与えるダメージが微々たるものに変化したところでなんの驚きもないのだ。
(まずいな、連続して技を出し続けて疲れから攻撃速度が落ちて隙が出来始めた。)
「いまだ、そこで体当たりだ。」
見落とすことなく連撃多用によって出来た隙をきっちり狙ってくる。
(やはりこのタイミングを狙っていたな。まぁ、こうなることをわかって乗ったわけなのだから…。)
ほぼゼロ距離で飛んできた体当たりをうちにイーブイがすんでの所で躱す。そしてジットリとした目つきでこちらを睨む。
(あらら、ばれてーら。まぁ、格下相手に制限つけてバトルさせられたら嫌でも気付くか。)
元々中距離でスピードスターをベースに距離を取った攻撃で勝てる勝負だし、格闘技打ってれば近接戦闘でも余裕で勝てただろう。でも、楽に勝ったところで何の意味もない。今晩は安心して寝れるわけだし、追い込んでもいいはずだ。
(先を読んでの自己判断はナイスだぞ、ブルーム。)
当たり前だが指示にはラグがある。躱せといってから躱したところでもう遅い。ポケモンバトルにおいてはポケモン自身の自己判断に頼るところが大きい。
だからこそ、そういった判断を的確にできるように育て上げるのがトレーナーの腕である訳で。
あちらの世界のプレイヤーが囲碁や将棋のような読み合いであるのに対し、こちらのトレーナーは育成技術を競う。まったくもって性質が違うのだ。
「ブルーム、いあいぎり。」
だからこそ俺は自分のイーブイをアジリティとクイックネスをベースにした技巧派近接アタッカーへと育てているわけだ。
まぁ、相当の紙耐久である訳なのだが…、それには理由もある。
そもそもうちのイーブイは小さいのだ。ゲームではない故に大小や重い軽いは明らかに攻撃力が違ってくる。
大きなポケモンほど体に占める筋力の絶対値は多くなるし、重さは威力に代わる。
それでこそあまりに小さく生まれたが故に捨てられたイーブイがいるくらいにはサイズの是非がバトルに大きく関わってくるのだ。
ゲームではないが故に可愛いカッコイイで済まされない現実がそこかしこに存在している。まったく嫌になるよ。
「イシツブテ、ロックカット。」
(今だ。)
変化の少ない展開に痺れを切らしたか、イシツブテの他の側面が見てみたかったのか。勝負の流れがここで変わる。
それを感じ取ったのは俺だけでなくブルームもそうだった。俺の出す次の指示を分かっているのだろう、ピョンピョンと可愛らしく2歩バックステップ。距離を取る。
「ブルーム、いあいぎり。」
ロックカット中に距離を取ったブルームが急加速で距離を詰める。
確かに重さは威力に変わる。だが、速度は重さ。速さも威力に化けるのだ。
確かに体は小さい。絶対的な能力値もそこまで高くないだろう。だが、そんな数字でどうこう出来るほど現実は甘くない。
ロックカット終了後の少しの硬直。その隙を突いて高速のいあいぎりが突き刺さる。
何千回と数えきれないほど振るわれてきたそのいあいぎりに、持ち前の速度と小さいながらも確かに存在する重さが無駄なく乗ったその一閃は同じノーマルタイプのきりさくすら超える一撃へと変わる。
これがこの世界のポケモンバトルだ。
ロックカットで耐久が下がっていたイシツブテはこらえきれず大きく吹っ飛びそのままダウンした。
「ふぅ、なかなか。」
悪くない一戦だった。
そう思い帰ってきたブルームを労う様に手を差し出すと、ペチという音とともに叩き落とされる俺の手。
しかし、俺の意図を汲んでいるうちの子は怒るではなく、疲れたといわんばかりに俺を置いて仲間のいるテントへと俺を置いて先に帰っていく。
「はぁ、今後が思いやられそうだ。」
始まったばかりのこの旅が思った以上に大変だという事に改めて思い知らされることになったのだった。