8話完結です。
僕の名前は斉木楠雄。超能力者である。
手を触れなくてもスプーンは曲がるし、伏せられたカードだって分かる。気になるあの子の考えていることもお見通しだし、スロットマシンなんてお金を吐き出す機械でしかない。
まさに夢のような人生!! 産まれた時から全て与えられた世界一幸せな男!!
それが僕、斉木楠雄――
[だと思ったら大間違いだ!!]
この力のせいで僕の人生は………。
[……? なんだろう、説明が途轍もなく面倒になってきたぞ。何故だか皆は僕の苦労をよく知ってくれている気がしてきた。まあいい、不満だったらジャンプラで本当の第一χでも読んでくれ。]
という訳で僕は今日から高校生だ。
近所にある、都立神山高校に入学することになった。
疑り深い奴等のために予め言っておくが、なんらかの超能力事故で世界を移動しているとかそういう話ではない。最初から僕はこの世界で生まれ育ったという設定である。メタ発言多いな。
兎に角今日から僕は晴れてピカピカの高校一年生なのである。
桜が舞う綺麗な校舎に到着した。ものの数秒で透視が始まり桜は消えた。
さて、ここが所謂神高という所らしい。色々と普通な割には設備が充実しているようなので、僕はかなり期待しているのだ。ちゃんと応えてくれよ?
体育館で配布物の受け取り等の作業が行われた後、暫くして長い入学式が終わり、それぞれのクラスに初めて移動することになった。
まあ、かなり良い場所だなここは。
校長の有難いお話の途中で貧血のフリして僕に保健室まで運ばせた挙句、仮病がバレそうになったら俺に責任を押し付けてくる奴も居ない。
『お? お?』とか言いながら空っぽの頭でいつ刺してくるかも分からない、僕のテレパシーを掻い潜ってくる奴も居ない。
実に快適だ。過ごしやすい世界観である。
さて、ここから教室に着いたら始まるのは書類の配布や必要事項の確認、そして――
自 己 紹 介
この世で最も不愉快なイベントの一つだ。
過度に地味過ぎればイジメの対象としてロックオンされかねないし、明るすぎるのは普通に無理だ。つまり“普通さ”を極限まで追求する必要がある。もしうまくいったとしても、僕1人に注目が集まったという事実自体が単純に不快だ。
面倒なことこの上ない。
教室に入った僕は自分の座席を確認する。後方端っこの席か、かなり当たりだな。
隣の薄ピンクの髪の女子に軽く会釈だけして座る。すると人当たりの良い友好的な声で早速話しかけて来た。
「お、よろしく〜!隣の席だね!」
やれやれ、こういうコミュ力の塊みたいな奴は苦手なんだ。
さっさと無難な返事を繰り返して反対側の奴に興味を逸ら――
[ッッ?!]
「え? どうしたの?」
“透視”、それは制御不能の忌むべき力。テレビが見にくいったらありゃしない。
一部の人間からは喉から手が出るほど欲しい能力なのだろうが、断言できる。
この能力はクソofクソだ。
女の子の裸を覗き見だぁヒャッハー? よく考えてみて欲しい。
人間は隠されたものに興奮を覚える生き物だ。胸部を隠す風習がない文化には胸を見られるのを恥じるという概念が存在せず、それ即ち胸に興奮するという感情にも乏しい。
もし鼻を隠すのが当たり前の文化が日本にあったら、
〈……どう……?〉
〈こ、これが百合子ちゃんの鼻…! すごく可愛いよ!!〉
〈恥ずかしい…〉
〈これが俺の鼻だァ〜〉
〈キャー、変態よぉーー!!〉
なんてことになる筈だ。
シュールで馬鹿みたいだろう? そう、それが僕のお前等への感情である。
つまり何が言いたいかと言えば、勝手に何でも透視し始めるこの能力は現状僕にとって何の役にも立たないゴミ能力だということだ。
現実逃避はここまでにするか。
まあ少し驚いただけだ。今時そこまで珍しくもない。
容姿の観点からしてここまで違和感のない人が、そうだったから流石に予想外だっただけだ。
不思議そうにする彼女…いや彼……うん、どっちだ…?
困ったな。この時代、こういうのを間違えるととんでもない事になるぞ。
名前を聞いて地の文で使う名称を早く確定させなければ。
とにかく、僕は傾いている頭蓋骨に首を横に振った。
「ボクは暁山瑞希だよ。キミは?」
[斉木楠雄だ]
その後も元気に話しかけてくる暁山に適当に返事をしていたのだが――
《はは、適当に返事されてるな……もう嫌われたんだ……。》
矢鱈と元気に振る舞っている人間は割と心の闇を抱えている者が多いのだが、暁山さんも暗い部分を抱えていた。大まかな理由は想像がつく。
それにしても、これじゃあ僕が悪者みたいじゃないか。
しかも元々不登校気味みいだし、やれやれ、いじめっ子として注目を浴びては普通の高校生活を送れない。僕は目立ちたくないんだ。
仕方ない…。
[そろそろ始まるぞ。……声をかけてくれて助かった。]
「えっ……」
クソ、なんで僕がこんなセリフを言わなければならないんだ。キャラに合ってないどころの話じゃないだろ。これだからシリアス作品とのクロスオーバーは嫌いなんだ。
壇上に上がっていく先生を見て、生徒達のお喋りは段々と静かになっていく。僕としては、その分それぞれの心の声が増えるから逆にうるさくなるのだが。
《口下手なだけなのか……勘違いしちゃったかな。》
フン、勘違いをするなよ。別にこれっぽっちの感謝もしていないぞ。
暫くして自己紹介が始まった。
1人ずつ立ってべちゃくちゃと自分語りするのを聞き流しながら、僕は頭の中で冷静に思考を積み重ねていく。何を喋るのが正解だ? イントネーションは? クラス全体の雰囲気は?
そうしている内に順番がやって来て僕は立ち上がる。
〜〜徹頭徹尾 無難な自己紹介〜〜
よし、完璧だ。これまでクラス替えの度に築き上げてきた実力は伊達ではない。
フフッ…僕が話し終わって2秒も経っていないというのに、もうクラスの95%は僕のことが頭から消え去っているぞ。これは最高記録じゃないか?
尤も、隣の席の暁山はかなり緊張している様子だが。仕方ないな、フォーマットぐらいなら貸してやらんでもないぞ。
《今言った方が良いのかな…後で先生に皆の前で言われるくらいなら……ってもうボクの番?!》
椅子から立ち上がった暁山さんに一応顔は向けておく。目立つ格好だな。
「えっと、暁山瑞希です! これから一年間、よろしくお願いしま〜す! あ〜……趣味は動画のコラージュです!」
その後特に何らかの説明をすることもなく、暁山さんの自己紹介は終わった。
暫くして全員分の自己紹介が終わり、やっと僕は一息吐いた。とりあえず、ストリートミュージックなんてイカレ趣味に脳が支配された白石杏とかいう女子にさえ気を付ければ、平穏な学生生活が送れそうである。
そうして高校生として初の登校日は終わり――
だが、その前に先生は暁山さんについて説明を始める。
教室が静まり返り、クラスの殆どが僕の隣の席に振り返って驚く。例外は俯いている暁山さん本人と僕くらいだ。
そうして今度こそ解散が告げられると、サッと鞄を担いで暁山さんは帰って行った。教室は先程のことをちらほらと話す生徒と、友達作りに必死になる生徒に分かれている様だ。
やれやれ、僕も帰るとするか。明日には色々と静まっているといいんだがな。
その次の日。
「おっは〜」
登校してきた暁山さんは、僕に笑顔で挨拶をしながら隣に座った。軽く会釈だけをした僕は、再びスマホに視線を落とす。
すると、廊下側の窓が少し騒がしくなった。
「ほら、あの席の」
「うわマジ? 分かんね〜〜」
「ガチで居るんだなーああいうの」
上級生か、噂が早いな。
びくりと身体を震わせた暁山は、そちらに顔を向けることなく沈んだ顔で鞄を開き始める。
《……ボクは見せ物じゃないんだけどなぁ……》
……別に暁山を守ろうとしてる訳ではないが、ああいう輩は単純に不快だな。野次馬気取りで人の相違点を覗きに来る人間には僕も昔随分と辟易させられた。
《スゲェなこれ、須藤にも後で〈やっぱそんなの駄目に決まってるか〉……あれ? いやいや、こんな面白いの〈でも流石に失礼すぎるからやめとくか〉……ま、もういいか。そろそろ飽きてきたわ。》
テレパシー能力で思念を送りつけて、思い通りの方向へ誘導する。あまり強くない意志なら案外これで簡単に捻じ曲げられる。
残りの上級生も同様にすると、微妙な雰囲気になってぞろぞろと帰って行った。
《……あれ、もう帰った? 斉木くんがずっと睨んでくれてたからかな……。》
しまった、傍目にはそう映るのか。
「…ありがと。」
[何の話だ]
やれやれ、これ以上の面倒は勘弁願いたいものだ。
瑞希はまだ高校初日なので、そこまで慣れてない設定。