入学式の日から1週間ぐらいが経った。
ボクに友達と呼べるような友達は居ないが、強いて言えば隣の席の斉木くんとは仲がいいと思う。斉木くんも他の人と話してる様子が全くないし、大体そんな感じだろう。
授業が終わり、ボクはぐぐっと伸びをしてから斉木くんの方を向いた。
「おっつ〜」
コクリと頷いて、ボクよりも大分濃いピンク色の髪を揺らした斉木くんはスマホを弄り始める。
笑った所も、口を開いた所も見たことがない(声は何故か聞こえるが)くらい無愛想な奴だけど、ボクは斉木くんが隣の席で良かったと思っている。
そういえば唯一顔が割と変化していたのは、ボクを最初に見た時だったな。もしかしたらなんだけど、あの時に気付いたんじゃないかと思う。
「今日は何読んでるの?」
[父さんが編集者の漫画の電子版だ]
「え〜すご!? どこのやつ?」
[週刊少年コニャックだ]
「こにゃ…?」
[終焉社の看板誌だぞ]
「シュウエン…? エイじゃなくて?」
[終焉社だ]
ふ、不吉な名前だなぁ…。
次の授業は体育なので、ボクは荷物を用意して席から立った。着替えには保健室を利用する許可を貰っている。
体操着等を持って歩いていると、やはり周りの一部から奇異の視線を向けられた。悪意のあるものではないと分かってはいても、やはり気分が良いものではなかった。
こんな時、隣に斉木くんが居て欲しくなる。
ボクのことを普通に扱ってくれるのも、何故か斉木くんが近くに居ると厄介な人達に声を掛けられないのもそうだ。
でも一番の理由は、なんとなく似ている気がするから。
確かに性格や立ち振る舞いは全然違う。だけど、根本的な何かが似ていると感じるんだ。
類にも似てる……かも?
よく分かんないや。
もし斉木くんが居なかったら、ボク、全然学校来れてなかったかもしれないな。
体操着に着替えた僕は早速グラウンドに集合していた。どうやらこれから一年間合同で授業を受けるクラスと、対抗でドッジボールをやるらしい。
やれやれ、面倒だな。僕は物を投げる行為が一番苦手なんだ。ボロを出さないようにさっさと当たらなければな。
基本的にこれからの体育は男女に分かれるそうだが、暁山さんは僕達と同じ組分けのようだ。女子側に入れてあげた方がいいんじゃないかと思ったが、まあ嫌がる女子も居るらしいからな。身体の違いの面から仕方ない部分もあるだろう。
それに、正直不登校にさえならなければ僕としてはどうでもいい事だ…。
「ちょ、斉木くんぼーっとしすぎ! もう始まるよ!」
ホイッスルが鳴り、投げ上げられたボールが相手チームにより弾かれる。まずは相手の先制か。最初に当たるのは流石に目立つから、5人目ぐらいがベストだろうか。
「っと、俺か……」
オレンジ色の髪の男子、周りの思考から多分苗字が東雲の奴が、中々の豪速球で2人を同時に撃破。中々に良い球だ、アレに当たるなら誰も文句を言わないだろう。
その後も涼しい顔で東雲が活躍し、クラスに20人程居た男子の内6人が外野送りとなった。そろそろぶつかるか。
「き、来たよ!!」
ぶん投げられたボールを、微動だにすることなく顔面で受ける。
「……斉木くん?!」
[問題ない]
よし、目立たず丁度いい感じに退場できたな。
ボールを持って適当な奴に渡してから行こうと――
《…今ボール取る気あったか?》
おっと、流石にわざとらしすぎたか。
僕はとりあえず頷いてから外野に歩いて行く。
「…? どこ行くんだよお前、顔面セーフだろ。それ狙ったんじゃなかったのか?」
[ ]
足を止めた僕に周りから大量の声が飛んでくる。
「顔面セーフか! 策士だな!!」
「頭脳キャラっぽいと思ってたんだよな」
「いったれ斉木ィ!! お前の力を見せてみろ!!」
「斉木くん、がんばれ〜!」
ふざけるなよ、何が顔面セーフだ。
しかもこの雰囲気、僕が投げるしかないじゃないか。
「早く投げろよ斉木ー!」
やれやれ、まあ手加減すれば死ぬ事はないだろう……念の為頑丈そうなコイツに投げておくか!
「!!」
へろへろへろと軟弱に放たれたボールは、大きく弧を描いてすっぽりと東雲の手に収まる。
[あ]
気不味い雰囲気が流れる。
《…さっきから手ェ抜きすぎだろ》
あ、ちょっとキレてる……。
まあいい、どうせこのまま僕を狙うだろう。このまま倒されると僕への平均好感度がかなり下がって面倒なことになりそうだが、無理に張り合って目出つ方が良くない。時間をかけてゆっくり戻していこう。
投げられたボールは真っ直ぐ僕に飛来し、それに特に抵抗することもなかったため、肩に当たって高く跳ね上がった。
よし、これで――
「うおおおぉおーー!!」
おい待て! 何をする?!
走って追いかけて行った暁山が、なんとキャッチしてしまった!
「へへ〜ん、どうだ! ……ってアイタタ、怪我しちゃった…保健室いってこよ!」
いや怪我してないだろ…離脱するタイミングを伺っていたな?
去り際に暁山から投げ渡されたボールをさっと避けて、僕の奥にいる別の仲間に譲る。
《ん? コイツ助かったのに喜んでねぇな…しかもパスを避けて……そうか、なるほどな…》
は?
《つまり、コイツは目立ちたくねぇって訳だ。うっし、じゃあ逆にコイツ最後まで残して目立たせてやるか》
FUZAKENNA
その後は有言実行とでも言うかのように、自分にボールを集めまくった東雲は僕以外の生徒を外野送りにしてしまう。
これで6対1か…。
東雲は持っていたボールを、挑発でもする様にゆっくりと高く投げた。
[!!]
これを落とすのは……流石にまずい。
僕の元に飛んできたそれを胸の前でキャッチする。
「せ、宣戦布告か?!」
「ウォォオオ、今度こそやれ! 斉木ィィイイ」
「またヘナチョコボール投げたらヤバいよな」
「な。オイ、真面目にやれよ〜!」
F U Z A K E N N A
やれやれ、僕は一体何を間違えたんだ。とにかく最善手を考えなければ。
本気で投げる? 少なくとも東雲を墓場送りにはできるだろうな。
また極限まで弱気を出す? ダメだ、これ以上僕の平均好感度が下がったらイジメの格好の餌食だ。
調整が成功するのに賭ける? どう考えても無謀だな。
こうなったら――
ブンっと投げられたそれは、いつか見たようなへろへろした軌道で東雲を超えて敵陣の奥に向かっていく。
《はぁ、こいつ…》
「ハ? マジかよ斉木」
「流石にアレはないわ…」
「真面目にやれよ!!」
確かに僕はボールを投げるのが苦手だ。
何故なら常人と僕では出せるスピードが違いすぎるからだ。音速の球(1400km/sくらい)を軽く放てる僕にとって10km/sも100km/sも、1割以下の微々たる誤差のようなものだ。そのためこの超スローボールも至って真面目である。
だが――
「よっしゃ、楽勝だな!!」
「あ〜あ、最低だな斉木…」
「はぁ〜おわりおわり」
本気で投げたからな。威力ではなく――
《――ッあの球!?》
「オーライオー…」
回転を。
パァンと弾かれたボールは地面に吹き飛び、猛烈に回転して勢いを失った。
「落としたぁーーー!?」
「えぇ〜?! 今の捕れねぇの?!」
「いや、なんか……あれ?」
地面に落ちたボールを取った味方がすぐに僕にシュートを放ち、あっけなくアウトとなって試合は終了した。
教師から体育の終了と集合が告げられたので、僕はいそいそと生徒の列に並ぶ。
やれやれ、なんとかなったな。
一応1人は倒した形になったし、東雲との直接対決も避けた。必要以上に嫌われることも好かれることもない最善の行動が取れたのではないか?
だが――
《……気に食わねぇな》
ヤンキーには目を付けられたかもしれない。
憂鬱だ…。