“セカイに全員が行く前にバタフライエフェクトでオフ会を一度したことがある”
ということになってます!!
ご理解の程よろしくお願いしまァす!!
「ほら、おいで?」
神山高校屋上にて、神代類はドローンを呼び戻し掌に乗せた。ロボット劇の出来を確認するために浮かべていたそれを機械に繋ぎ、映像を確認する。
(……上昇気流を分かり易くするために煙を使うのは上手くいきそうだけれど、もっと量を減らさないと遠くからじゃ中が見えにくいね。数値を2/3程度に抑えておこうか。)
沢山の機械やロボットと映像を並べて調整を続けていた所、突然不自然なものが目に映る。遠くから見下ろす形で映っていた路地裏にだ。
(あれ? 映像に乱れが……ピンク色の何かが一瞬にして消えている? でも劇は普通に繋がっているし、映像が飛んだわけではなさそうだ。)
機械の故障でないのなら何なのだろうか、と興味本位で何度か映像を巻き戻し確認する。
(……人間? ピンク色のは髪で……制服の色合いからして、ここ神高の生徒かな?)
やはりその生徒は突然にして消滅したように見える。これが手の込んだ神代への悪戯でないとすれば、超常的な何かが起こっているとしか思えない。
(濃いピンク髪の、神高生徒。細かい部分は分からないけど、色合いや算出した身長を使って探せば簡単に見つかりそうだね。)
確かにただの好奇心だ。
しかし……そこには微かな期待も含まれていた。長年演出家をしてきた神代としてもアレは高難易度なパフォーマンスだ。もしかしたら、あの生徒は自分と同じかもしれないと、そう思ってしまう心も少しだけあった。
――
ミラレテタ。
昨日は見たい番組をリアルタイム視聴するために瞬間移動を使ってしまった。テレパシーで半径200mを確認した上で路地裏で発動したが、やれやれ、まさか屋上でドローン撮影とは…。
何故リアルタイム視聴に拘るかって? 当たり前だろう、番組が終了した瞬間には町中にネタバレが溢れ返るからな。
目撃者に探されているようだが、まあテレパシーを使って逃げ続ければその内ほとぼりも冷めるだろう。
「楠雄〜、一緒に帰ろ!」
高校生活も結構な期間が過ぎた。
暁山さんは大分僕と過ごすようになったな。別にもう隣の席という訳ではないが、流石に今更邪険にするわけにもいかないだろう。それに、もし僕がそうしたら恐らく一瞬にして暁山さんは不登校になる。
暁山さんに連れられて来たのは、新しく出来たというスイーツ店だ。
「ここのスイーツがすっごく可愛いんだって!」
可愛い物好きを微塵も隠さなくなった暁山さんはキラキラとした目でショーケースを眺める。
僕達が行くのは専らこういう所だ。ラーメン屋よりは大分マシだ。
「え、amia!」
やれやれ、話しかけるかどうか迷っていたようだが来た様だな。
紫髪を揺らして、真面目そうな女子が爽やかな表情で声を掛けてきた。
「雪!! 偶然〜!!」
「見かけちゃったから、つい。えっと、そっちは彼氏?」
それを言われた暁山さんは頬を赤くして、ブンブンと手を振る。
「ち、違う違う! そういうのじゃないって!」
こんな時、僕はどういう顔をすればいいのだろうか。
彼氏扱いされたことではない。
《……声掛けなきゃ良かった……この様子なら無視してもバレなかったのに……》
うん、こいつとんでもなく冷めてる。多分僕より冷めてる。
「ボク達ここでスイーツ食べようとしてたんだ! 雪もどう?」
「なら私もおじゃまするね! わぁ、美味しそ〜う!」
「でしょでしょ!」
《……楽しそうでいいね》
内面と振る舞いかけ離れ過ぎだろ。最初の暁山さんとは比にもならないぞ。やれやれ、これまで見た中でも離れ具合は一番な気がするな。
店に入った後、注文が届くまでの間2人が話しかけて来る。
「そういえば、ボクがamiaって呼ばれてるのよく分かんないよね? 実はボク、音楽MVの制作に関わってるんだ〜」
知ってる。
「ネットでの呼び方にはなるんですど、それでamiaなんです。グループ名は……流石にやめとく?」
「んー、ボクだけなら良いけど雪は知らない人だもんね。」
『25時、ナイトコードで。』だろ? 知ってる。
そうこうしてる内に、ウサギを模ったスイーツが運ばれてきた。
「可愛い〜!! ぱくぱく…美味ひぃ〜〜♡♡」
「だね!」
《味がしない》
普通に鬱病じゃねーか。精神科行け。
(もにゅもにゅ…)
やれやれ、困ったものだ。全く…。
(もにゅもにゅ…)
「……凄く幸せそうに食べますね」
[なんのことだ(キリッ)]
「でしょ! この顔が見たくて半分スイーツ屋に誘ってるまである!」
やれやれ、そんな顔をしてるわけ、む、中にアーモンドが入っているのか。良質な甘みだ、悪くない――
《疲れた……。ミク、私…もうずっと“セカイ”に居たい。》
ん?
「あー、美味しかったね!」
「うん!」
皆食べ終わっているため、自然な流れで会計に移っていく。
何だ、さっきの思考は…? ゲームか何かの話か?
店の外に出て、暁山さんと紫髪の女子は手を振る。
「じゃ、雪も楠雄も、またね〜!」
「またね!」
……それにしても、本当に自分を隠すのが上手いな。あれだけの負の感情を持ちながら、よく自然に振る舞える。日常的に繰り返し続けているのだろう。
だが、かなり限界に近い様子だった。直近で嫌な出来事があったのか、余りにも積み重なり過ぎたのか。あの様子だと冗談抜きで万が一が起こりかねない。
明日になったら、暁山さんに話を聞いてあげるよう促しておこう。今日の間は、やれやれ、面倒だが見ておいてやるか。
20mほど離れた場所で思考を盗聴しながら後を付けていく。やってることは史上最悪のストーカーだな。
家らしき場所の前で足を止めたかと思えば、荒い呼吸を繰り返し、早足でそこから去っていく。テレパシーで分かっていたがやはり家庭環境が原因らしい。
路地裏に駆け込んだ彼女は、スマホを操作し始めた。
《あった、“Untitled”――》
路地裏から光が溢れ出す。
……。
……は?
姿が跡形もなく消えた。
心の声が聞こえなくなった。
ありえない。距離は20m程度だった。あと180mも一瞬で移動しなければ範囲から逃れられない。
そもそも路地裏は袋小路だ。あれ以上奥には進めないだろう。
まさか、本当に、超常現象が?
[やれやれ……面倒なことになったな……]
一分をかけて僕は透明人間になった。姿を完全に変えてから透明化を重ねがけした方が正体は隠せるのだが、流石に人命が掛かっている状況で数時間必要なそれをする気はない。
“セカイ”とやらに定期的に行っていたらしいが、安全性は全く以て不明だ。何かしらの超能力を悪用する集団による仕業の可能性もあるし、僕が昔無意識に生み出してしまった空間かもしれない。
とにかく、僕の制御下にない超常現象は一刻も早く根絶しなければならない。誰かに“他にもあるかもしれない”なんて思われたら、たまったものではないからな。
母親の心の声であの女子、朝比奈さんの部屋は二階の窓際だと分かった。空を飛んで窓の扉を…開かないな。
[サイコキネシス]
外側から鍵を開けて、中に侵入してから鍵を閉じる。やれやれ、行為だけなら本当にストーカーじゃないか。
思念が篭っていそうなものを適当に探しパソコンに目を付けた僕は、慎重に極薄の手袋を外す。触れることで発動するこの能力を、普段はこうして封印しているのだ。
[サイコメトリー]
朝比奈さんの日常が、パソコンを通して一気に脳内で再生されていく。
……やれやれ。
期待に応え続けた末に、自分が何者なのかもやりたいことも分からなくなった、か。難儀な人生を送って来たらしいな。
それよりだ。
サイコメトリーで手に入れたパソコンのパスワードを入力し、起動。
……これか。
フォルダを開き探すと、“Untitled”という名前の音楽ファイルが見つかった。
何かしらの準備をしてから行くべきか?
……まあ、入った瞬間死ぬ様なことは流石にないだろう。これでも、世界を3日で滅ぼせる程度には強い超能力者だ。今まで迷惑でしかなかったこの過剰な力が、いざという時役に立たないならばもう発狂するしかない。
クリックした瞬間、画面から光が溢れ出す。
[ッッ……]
――
/誰もいないセカイ/
気が付いた時には、真っ白で無機質な空間に立っていた。とりあえず、入った瞬間超高温で焼き切られたり脳の処理に無限回の作業を強制されたりはしないようだな。だが透明化が解除されているな……危険はやはり未知数だ。
辺りを見回していると、遠くに2つの人影らしきものが見えた。そこそこ離れていたが、瞬間移動で文字通り一瞬で距離を詰める。
「ッ!? ミ、ミク!!」
〈まふゆ、落ち着いて〉
このグレー色の少女が初音ミクだと?
声は確かにそうだが、そんなわけがないだろう。
……コイツ、思考が全く読めない。
やはり同じ能力者か?
「あ、あなたは…何なの?!」
答える必要はない。
すぐにこの状況をどうにかして、バールのようなもので記憶を消せばいいだけだ。そうだな、一分間でケリを付ける必要がある。
[今すぐに能力を解除しろ]
〈……。〉
「amiaの友達?! いきなり来て、何のために……っっ」
[すまないな、少し我慢していてくれ]
朝比奈さんを念力で軽く抑えつけた後、白い少女に向き直った。
[この結界を解除しろ]
〈まふゆに酷いことしないで。〉
[解除しろと言っているぞ]
〈……。〉
無視か。
良い度胸だ、能力者としての格の違いを思い知らせてやろう。
付近に突き刺さっていた残骸の様な柱をサイコキネシスで引き抜き、その先端を少女に向ける。
[殺せば消えるか試してみるか?]
「ッ?!ミクに…何を…!!」
……洗脳でもしたのか? 全く、厄介な能力者だ。
[これが最後のチャンスだ。解除しろ。]
〈……楠雄。〉
変わらぬ表情で、少女はゆったりと口を開く。
〈言わなきゃ、分かんないよ。〉
……聞こえて、いないのか。
最初から…。
〈やらないのに、こんなことしちゃダメ。キミがかわいそう。〉
止まった腕にミクが掌を伝わせる。
〈安心して。ここは皆の“本当の想い”を見つけるための場所だから。だから、いつかキミも――〉
――
気が付いたら、朝比奈さんのパソコンの前に座っていた。
[……。]
どうやら戻って来てしまったらしい。
……“本当の想い”か。僕は平穏な暮らしがしたい、それだけだ。
画面には“Untitled”に合わされてそのままのカーソルが映っている。少しして一分間のインターバルが終わった僕は、瞬間移動で自室に転移した。