「楠雄、ちょっといい?」
なんだ、朝一番で早々に。
真剣な様子の暁山さんに連れられて、廊下の端の方に2人で固まる。
「……ちょっと、ボクもよく分かんないんだけど…雪が居た場所に楠雄も来てたって、本当?」
やれやれ、テレパシーで分かってはいたがその事か。
心の声を聞くと、どうやらあの後メンバー全員が白いセカイに入ったらしい。確かに朝比奈さんをバールのようなもので殴り損ねていたが…まさか朝比奈さん専用の場所ではないとはな。
朝比奈さんはまるで自分の領域のような考え方をしていたが、どうやら公共のスペースだったようだぞ。
やれやれ……いや、普通にどうするか……。
「しかも、念力みたいなことしたり瞬間移動してたりしたって聞いたんだけど…。」
……。
大丈夫だ、この状況を打開する手段を326個今思いついた。内322個は著しくモラルに欠けるか法に反するものだが。
さて、残り四つの選択肢の内どれが最適かを脳内でシュミレーションしてみるか。
take 1
「え? どうしたの、ヘアピンなんか外しあびゃ」
[1日戻しっと。やれやれ、この状態ならだいぶ記憶を削除できるな。]
「……ふぇぇ〜、ち、ちっちゃくなってる〜〜?!」
[あ、制御装置が無い時は七年戻しだった…]
take 2
「え? どうしたの、ヘアピンなんか外して。」
ーーセカイで超能力を使えるのは何も不思議なことではないーー
[マインドコントロール完了っと]
「まあ瞬間移動の話は良いとして、どうやってまふゆの所に行ったの?」
[あびゃ]
take 3
[知りたいか? “真相”を…]
「ゴクリ…!」
[ククク、これを聞いては生かして返せないがなァ、僕はダークリユニ
まあ4番目しかあり得ないな。
喰らえ!
「……な、何その顔?」
あれ? 僕の最大限のおとぼけ顔だったのだが。
それと、『こんなのが作戦かよ』と思った読者の皆様には安心していただきたい。ちゃんと続きがある。
[本当に身に覚えがないな。それは本当に僕なのか?]
「……? そ、それはどういう…?」
[どこの話をしてるのかは知らんが、僕の姿をした奴は超能力を使っていたんだろ? そんなデタラメな奴なら、能力を隠したがるだろう。みすみす姿を見せるなんてことはしない筈だ。つまり、朝比奈さんの後を付けるか何かをしていた途中で、適当に目についた僕に姿を変えていたに違いない。]
「……。」
実際にはつけ回していたのは僕だがな。
これ以上関わるつもりもあまりないし、時間が経てばそういうことで納得してくれるだろう。ダークリユニオンの仕業だとでも思ってくれ。
「……ねぇ、『朝比奈さん』って?」
[ ]
………Oh……。
いやまだだ。リカバリーは充分効くはず。
[財布を取り出す時に学生証が少し見えたんだ。それで苗字を知っただけだ。]
「……ま、それもそっか。」
《楠雄が超能力者なわけないもんね…。》
よし。
心の声を聞く限り、朝比奈さんに追い返される前に暁山さんだけがあの事を伝えられたようだし、メンバー全体に広まることも無いだろう。2人が忘れてくれた時、僕の超能力は――
「瑞希、久しぶり」
「類!」
……。
最悪だ。
「今の話、詳しく聞かせてもらえるかい? 念力とか瞬間移動がどうとか聞こえたんだけど。」
コイツは僕を昨日ずっと探していた奴だ。
近くに行かないようずっとテレパシーで警戒していたのだが……クソ、動揺で注意を逸らしたらすぐコレか。
「あー、えっと……ごめん、これ2人でゲームしてる時の話でさー」
?! 誤魔化した!
そうか、超能力も“セカイ”も余りに突拍子もなさすぎる話だ。暁山さんからしたら、ベラベラと話せる事でもないだろう。
「楠雄のキャラがずーっと周りに念力で岩を浮かせるから攻撃が全部防がれるし、瞬間移動の位置入れ替えで岩が確定で当たってダメージが入るからチョー卑怯なんだよね〜。」
グハッ!!
……何故か精神的ダメージを負ってしまったな。
「そ、そうなのかい……いきなりすまないね。瑞希がよく話題に出す友人と僕も話してみたかったんだ。」
《まさか同一人物だとは思わなかったけどね》
「結構無愛想だけど、良い奴だよ〜」
やれやれ、なんとか乗り切った……のか?
暁山さんは最早本気で疑っている状態ではない。この…神代という上級生も、僕が超能力者だとは思っていない。
片方ずつ冷静に対処していけば誤魔化しは効くだろう。両方が会ったこの瞬間が一番の危機だった訳だ。
二三言話すと、意外にすんなり神代は帰ってくれた。まあ、どっちみち後で2人きりで話すことになりそうだが。
暁山さんの顔はかなり不安げだ。
まあメンバーの1人がおかしな世界に閉じこもった上にサークルから離脱し、謎の危険な超能力者の存在を自分だけが知り、作曲担当のメンバーは倒れそうな勢いで作曲を続けているとなれば、仕方ないだろう。
……やれやれ。
僕の行動で余計に不安要素が増えてしまったのは事実だ。
そのまま放置というわけにもいかないな。
《誰よりも消えたがってるくせに、か……。》
「ねぇ楠雄」
暁山さんは俯いたまま呟くように問いかけてくる。
「ボクの格好、どう思う?」
[!]
……ストレートに聞いて来たのは初めてだな。いや、遠回しにも聞かれたことはない。
暁山さんは僕に“普通に接してくれること”を求めていたからだ。
朝比奈さんに言われたことが酷く心に残っているのだろう。それが、あながち否定できるものではなかったから。
暁山さんは顔を上げて無理に笑った。
「ごめん、忘れて。さ、そろそろ行かないとHR始まっちゃうよ〜!」
歩き出す暁山さんの背中は弱々しい。
…せめてもの罪滅ぼしだ。プライドぐらいくれてやる。
[僕は…自分のスタイルを曲げない、芯がある人は好ましく思うぞ]
暁山さんはピタッと立ち止まる。
「…珍し〜! そんな言葉、楠雄の…口から……」
暫く顔を背けたまま無言で立ち止まっていた暁山は、一度掌で顔を拭うと、いつもの笑顔で振り返った。
「本当だろうな〜?!」
[嘘ではない]
「あ、また捻くれ君に戻った! 全く、『悪くない』だの『嫌いじゃない』だの、素直に表現出来ないのかな〜?」
[余計なお世話だ]
やれやれ……。
「やあ! また会ったね斉木くん。」
屋上に来た僕は、楽しそうに笑う神代を睨みつける。
[なんの真似だ]
僕は自分の真上を飛んでいる小さなドローンを指差す。
破壊しようかとも考えたが、そうすれば超能力の決定的瞬間を映像として送信されてしまうこととなる。付けられた時点で詰んでいるのだから、こうして直談判しに来る他なかった。
「さっき会った時付けさせて貰ったのさ。ごめんね、君は中々面白そうだから。」
[やれやれ、いきなりどうしたんだ?]
「この映像を見てほしい」
バサバサと飛んで来たドラゴン型のロボットが、パカっと口を開くと壁に映像が投影された。
この演出必要あった?
あの路地裏に居る僕がかなりズームインされた状態で表示される。
「この髪色に緑色の眼鏡、165cm程の身長と神高の制服。どう考えても君で間違いないよね?」
流石に違うと言うのは無理があるか…。
「それで……ここ」
僕の姿が一瞬で消え失せる瞬間がバッチリ捉えられていた。
「身に覚えはあるかな? どんなネタなのか教えてくれないかい?」
[……。]
やれやれ、どう言い訳したものか。
さっきから超能力の弁明ばかりしている気がするぞ。
[僕は…マジシャン、だ]
「マジシャン?」
クソ、どっかの緑色のアメージングがチラついて不快だがこう言うしかないだろう。
[そうだ。これは瞬間移動マジッ――]
その時、屋上の扉が音を立てて開かれる。
「はぁ。しかし今時放課後に屋上に居る奴なんか、カップルか変人くらいしか……居たー!」
「やあ! 君も来たんだね天馬くん。待っていたよ。僕に用があるんだろう?」
なんか来た。
「何? オレが探してたことをなんで知ってるのさ」
「君をずっと見ていたからさ」
「な……もしやお前は……オレのファン!?」
「ファン…? フフ、それは面白い発想だね。確かにファンかもしれないよ。君の頭上を見てごらん。」
「む…! これはドローンか? もしかして、これでオレを見ていたのか?!」
ドローン多用しすぎだろ。
「ああ、そうだよ。学校中を動き回る君が面白くてね、つい観察してしまったよ。」
二つのモニターで同時に監視する様子を思い浮かべたら一気にアホらしく思えてきたな。
2人の会話によると、どうやら全て神代が作ったものらしい。そしてロボットを使ったショーとやらもしていたそうだ。
「おや、僕のショーを見ていたのかい? 君もどうやら僕のファンのようだね。」
「いいや、オレはお前を勧誘しに来た! ……んだが、もう1人はお前のショー仲間か何かか?」
「彼はマジシャンらしいね。僕もさっき知ったばかりだよ。」
「どういう状況だよ?!」
それは僕のセリフだ。
やれやれ、ここに居る2人はどちらもショーなどという狂気的な行為に脳を汚染されているらしいな。このまま神代がコイツに着いていけば有耶無耶になって終わるかもしれない。
「偶然、僕のドローンに瞬間移動マジックの様子が映ってしまったんだ。見るかい?」
「ほぉ…全然タネが分からないな。よし、良い機会だ! 裏方としてお前も勧誘するぞ!」
……huh?
ショーだと? そんな注目を集めるものするわけがないだろう。
「2人共! このオレとともにショーをしよう!!」
「君と、ショーを? ……それはなかなか、おもしろそうだねぇ。」
…ん? 神代はホイホイ行きそうだと思ったが、案外そうでもないのか。
「そうだろうそうだろう! よし! そうと決まれば早速今から……」
「ショーをする者同士、それぞれ頑張ろうじゃないか。それじゃあ天馬くん、また会おう!」
[やれやれ、僕もお前とやる気はない。帰らせてもらうぞ。]
「へ……?」
ぞろぞろと歩き出す僕たちに、天馬が割と驚異的なスピードで周り込む。
「な、なぜだ?!」
「すまないが、僕はひとりで気ままにやるのが好きなんだ。僕は僕なりに、見てくれる人が心から楽しめるショーを作っていければそれでいいんだよ。」
「心から楽しめるショーを…? それならば、なおさらオレとやるべきだろう!」
天馬は自身を、客を必ず楽しませるスターだと自称する。神代の演出の腕を褒めた上で、それに対して12000%の結果で応えるというのだ。なお数値に根拠はないが、自信の表れだと主張している。
「……フフ、君はなかなかに面白い人だねぇ。一緒にショーをやるのはとても楽しそうだ。……これも、良い機会かもしれないな……。」
「なんだ? 下に誰か居るのか?」
神代は自分が推薦するメンバーも加えてくれるなら、快く引き受けることを伝えた。子供の頃からショーに触れているため、実力は保証できるらしい。
「すばらしい! 一気にメンバーが増えたぞ! この流れだ、お前もショーに――うわぁ、ゴキブリィィィッ!!」
次の瞬間には屋上の更に一段上の場所から2人を見下ろしていた。
やっちまった…。
「な…なーーーッ?! 一体どうやったんだ?!?!」
「凄いな…僕も全く分からなかったよ。一度断ったのは、仕込みの時間を稼ぐためだったらしいね。」
「サプライズ許諾か!! 演者すらも喜ばせる凄まじいエンターテイメント精神、気に入ったぞッ!!」
本当にやっちまった…。
やれやれ、もう断るとかそういう雰囲気じゃないぞ。適当に失敗でもしまくって退団させてもらうか…? いや、それだと注目が集まりすぎる。本当にどうすればいいんだ……。
瑞希との絡みはこれでひと段落。
ここからワンダショと本格的に関わっていきます。