超能力者のセカイ   作:聖剣エクスカリバー

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第七χ Ψ高のショーを作るぞ! 準備期間と日常と

 賑やかなセカイに訪れてから一日後。

 昼休みが始まってすぐ、僕は教室を後にした。まだ詳細が決まっていないセリフや演出が大量にあるので、メンバーの全員でその会議をするのだ。別校の鳳さんとは電話で繋げることになっている。

 

 ちなみに、暁山さんは今日登校していない。サークル内での問題が片付くまでは暫くそちらに集中するのだろう。

 

 言われたクラスに着くと、そこには既に神代も居た。その隣では金髪の男が教室の外まで響き渡る高笑いを上げている。

 

「ハーーーッハッハッ、やはりこのスターが考えた脚本は素晴らしいな!!」

 

 うるさっ。

 

「やあ、楠雄くん!」

「楠雄も来たな! ……寧々は、本当に来るのか?」

 

 訝しげに天馬が疑問を投げかける。今日この時間、初めて草薙さんは皆の前に姿を現そうとしている。……まあ、この場に居る内草薙さんと直接会ったことないのは天馬だけだが。

 

「ちょっと…あ、あんまり舐めないでよね。」

 

 その時、入口の扉の影から草薙さんがひょっこりと顔を覗かせた。僕が来た頃には既にそこに隠れていた。

 

「マジでか……。こいつが、寧々……もっと憎たらしい顔をしているのかと……。」

「し、失礼しちゃう。……ま、精々気を付けることね。唯一の欠点を克服した私には、も、もう何一つ勝てなくなっちゃうかも。」

「くっ、憎たらしい口調だけは変わらん奴だな!!」

 

 確かに、多少無理をしてでも天馬に対する好戦的な姿勢は崩さない様だな。もし人見知りを克服できず深刻な問題が起こっていたら、それこそ大喧嘩になっていただろうが、今となってはただの仲良しな2人になったな。

 

「ま、その努力は褒めてやらんでもない。……正直、人前で歌ったのを聞いた時は結構驚いたぞ。」

「っ……あり、がと」

 

 やれや――

 

『寧々ちゃーーーーーーん!!!』

 

 ……は?

 

《寧々ちゃん寧々ちゃん寧々ちゃん寧々ちゃん寧々ちゃん!!》

 

 聞き間違いか?

 今のは鳳さんの声で、しかもテレパシーで心の声が聞こえる前に鳴り響いた様に感じたんだが……嘘だろ? テレパシーの有効範囲は200mだぞ?

 

「今の声は…?!」

「え、えむちゃんの…?!」

「これは……凄まじいね。校門を見てごらん?」

 

 ピャーーッと、驚異的な速さで駆け抜けていく鳳さんは当たり前の様に神高に侵入する。いや色々とアウトだろ。

 

『寧々ちゃーーん、どこ〜〜〜?!』

「ちょっ?! む、迎えに行かなきゃ!!」

 

 顔を真っ赤に染めた草薙さんが駆け出していくのに、3人揃って着いていく。自分の名前を叫びながら校内を走り回る不審者か……僕だったら軽く殺意を覚えるな。

 

「ここかな?! それともここ?!」

 

 一年生の教室に連続で頭を突っ込んでいく鳳さんの肩を、草薙さんが必死の思いで鷲掴みにする。

 

「はぁ、はぁ、本当に――」

「寧々ちゃーーーーん!! 会いたかったぁーーー!!!」

 

 ぎゅっと力強く抱擁された草薙さんは、元々真っ赤だった顔を更に真紅と言えるまでに染め上げ手をばたばたと動かす。

 

「すすすす凄い見られて……」

「可愛いね寧々ちゃん! 声もすっごく可愛いね!!」

「あわわわわわわ…」

 

 やれやれ……心底同情するぞ……。

 

 

――

 

 

 あれから数週間程度が経った。ショーの準備は着々と進んでおり、初公演の日までそう遠くもない。

 

「おっつかれ〜い!」

 

 帰りのHRが終わった直後、暁山さんは元気に僕の隣にやって来た。

 どうやらサークルでのゴタゴタは片付いたらしいな。

 

「どうする? 今日はボク、クレープの気分なんだよね〜」

[悪いが、少し用事がある]

「また〜? 楠雄、最近忙しいね…。もしかして、なんか塾とか?」

[いや――]

「やあ楠雄くん!」

 

 窓をガラッと開けて現れたのは、一年上の先輩である神代だ。

 

「類?! え、2人、いつの間に仲良くなってたんだ!」

「瑞希。ん、知らないのかい? 今、彼と僕を含む5人のメンバーでショーを作っているんだよ。」

「………へ?」

 

 暁山さんはロボットの様な動きで、僕と神代を交互に眺める。

 

「楠雄が……ショーを?」

「そ、そんなに不思議かい? 楠雄くんは以前からマジシャンとして活動していたそうだけど…。」

「……………」

 

 今度は完全に暁山さんの動きが停止した。

 そして10秒ほど経ってから、漸く。

 

「えぇえぇぇぇえぇえぇええーーー?!?!」

 

 

 

「それで楠雄くんの姿が消えたわけだ。そして気付いた時には、なんと塔屋の上に瞬間移動していたのさ!」

「瞬間移動……」

 

 場所は賑やかなクレープ店。

 そこまで時間も掛からないしどうせ方向が一緒なら、ということで僕達は一時のスイーツタイムを楽しんでいた。ちなみに、僕が頼んでいるのはバニラアイスとバナナチョコ入りのものである。

 

(もにゅもにゅ…)

 

「いやぁ、本当に素晴らしい奇術師だよ。そうだ! この動画を見てごらん?」

「うぉぉ……すっごく迫力あるドラゴンだね!」

「これ、楠雄くん1人で動かしているんだよ? まるで念力だ!」

「念力……」

 

(もにゅもにゅ…ごくり)

 

 ふぅ、悪くない味だった。

 

「……とても幸福そうに食べるねぇ。」

「でしょ!」

[誰の話だ]

 

 それにしても、暁山さんの髪はふわふわで甘そうな見た目――おっと。

 ……人生で三本の指に入る黒歴史だ。暁山さんとスイーツを食べ過ぎて無意識に二つが繋がっていたようだな。頼むから忘れてくれ。

 

「ねぇ楠雄、なんかマジック見せてよ!」

 

 む、やはり来たか。まあ他の客も居るし、あまり派手なものは使えないだろう。

 この前マジシャンの体裁を取るためコンビニで買ったトランプを取り出す。

 

「おや? トランプのマジックかい、珍しいね。」

[普通のマジックも出来るぞ、僕は。一枚適当に引いて覚えておいてくれ。]

 

 暁山さんにトランプの束から一枚引いて貰う。

 

《8のスペードだね》

「うん、いいよ!」

[じゃあ束ごとあげるから、適当に混ぜてくれ]

「え? それ大丈夫なの?」

 

 暫くトランプをシャッフルしてもらった。

 

「……こんぐらいでいい?」

[じゃあ貰うぞ]

 

 手を翳し、トランプを一気に僕の掌に吸いつけた。

 

「わあっ?!」

「出た、楠雄くんの十八番だね」

 

 最近念力を細かく使うことがとても多かったからか、精密動作性が大幅に上昇した。全く、この身体の成長性には驚かされる。

 掌の上に積み重なったカードに念を送るような動きをする。うさんくさく見えるが、こういう準備動作を挟まないとあまりに非現実的すぎるからな。

 

「来てます来てますって感じだね!」

 

 ネタが大分古いな。wikipediaによるとブームは1989年らしいぞ。

 

[これか? ハートの2。]

「…ち、違うかも…」

[そうか]

 

 すると、カードが一瞬にしてスペードの8に変化する。

 

[じゃあこっちか?]

「せ、正解?! なに今の! うわ〜、全然分かんなかった〜!!」

《やはり無理か……トランプマジック程度ならトリックを見抜けると思ったんだけどね。》

 

 まあ、一生無理だろう。見抜けたらそいつは超能力者だ。

 このマジックには【テレパシー】【サイコキネシス】【アポート】の三つも超能力を使っているからな。

 

「それじゃあ、僕達はここらへんで。ショーの初公演は……この時間帯なんだけど、見に来てくれるかい?」

「お、いけるいける! 楽しみにしてるからね〜!」

 

 スマホを仕舞った類と共に、僕達はフェニックスワンダーランドへと歩き出した。

 

 

 

 

 ステージに着くと、丁度天馬が衣装に着替え終わった所だった。

 

「来たな、楠雄! すぐに始めるぞ、まだまだ練習すべき所は盛り沢山だ!!」

「うん、やる気があるね。でも準備体操は終わっているかい?」

「勿論! 未来のスターが準備運動の不足程度で未来を断たれては敵わんからな! さて、早速“あのシーン”を練習するぞ! 今日こそは成功させてみせる!」

 

 倉庫からプカプカと運んできた巨大な魔王をステージの左側に配置する。黒い鎧を着た人形のそれは神代が特別動かしやすく作ってくれたのもあり、本物としか思えない様な自然さで天馬に剣を向ける。

 対する天馬も、煌びやかに装飾された大剣を両手で頭の横に構える。

 

「ふぅ……『どうしてだと? そんなの、決まってるだろう! 世界中の人達を――笑顔にするためだ!!』

 

 クライマックスである、第二形態となった魔王との闘いは特に力を入れて演出が計画されている。

 王子は魔王が放つ火炎(ガチ)を横に大きく跳んで避け、指先から放たれる放電(ガチ)をバク宙で避け、飛んでくる氷の槍(ガチ)を剣で薙ぎ払う。

 いや、本当によくあんなのやれるな。勿論火炎や放電は当たらないことが確定してからでないと装置が作動しなかったり、氷の槍は僕が操作しているから万が一反応が遅れても大丈夫だったりと、安全確保はされているが……。

 

 スターになる男というのも頷ける。ショーに対する熱意は素直に驚異的だ。

 

 魔王と何度も鍔迫り合いを行った後、振り下ろされた巨大な剣を避けた王子は、それに飛び乗り駆け上がっていく。

 

『うおおおおぉぉぉ!!!』

 

 叫びながら跳び上がった王子は、鎧の隙間へと剣を深々と突き刺した。ステージの照明が激しく点滅し、苦しみもがいた魔王はゆっくりと仰向けに倒れて行った。

 

「よし…! やった!! やったぞーーー!!」

 

 両拳を高く突き上げた天馬は、劇中最高難易度のシーンを初めて通しで成功させたことに雄叫びを上げる。

 

「おめでとう! 素晴らしいね、昨日よりも動きのキレが増してるじゃないか!」

[悪くない出来だったぞ]

「はーーっはっはっ! 授業中ずっと続けたイメトレの成果が出たようだなぁ!!」

「それは……どうなんだい?」

 

 司は僕に向き直ると、太陽のような笑顔で感謝を告げる。

 

「ありがとな、楠雄! お前が居るから、どんな危険なシーンでも演技に死ぬ気で打ち込める!」

 

 確かに、僕は落下しかける等危ない状況に陥った時天馬を何度も助けていた。それが練習中の安心に、ひいては練習の質の向上に繋がった面もあるようだ。

 

「お前もだ、類! 最高の演出を本気で考えてくれる類が居るから、俺も最高の演技を本気で目指せるんだ!」

「フフ、それは良かったよ。……僕も、司くんや楠雄くんとショーが出来て本当に嬉しいよ。僕が考えた演出を完璧に実現してくれる楠雄くんと、それに12000%(?)で応えてくれる司くん。2人のおかげで、僕は今これ以上ないくらいに楽しいんだ。」

 

 ……やれやれ。

 

[何を最終回らしいセリフを言ってるんだ。まだまだ練習箇所は残っているだろう。]

「ああ、そうだな! 次は鳥の足を掴んで客席全体を飛び回る所を練習しよう!」

「フフッ、見てごらん? 可憐な役者達もお出ましのようだよ。」

 

 振り返ると、疾走するネネロボに乗ってやって来る2人の姿が。それぞれの顔色を見れば、どちらが提案者なのかは言うまでもない。

 

「速い速ーーい!! 速いんだほ〜〜い☆」

「え、えむちゃん…!」

「な……何をやってるんだお前らはーーーッ!!」

 

 メンバー全員が揃ったステージは、騒がしさのボルテージを一気に引き上げるのだった。

 

 

――

 

 

「――本日はありがとうございました!」

 

 本番まで、あと一日と迫った夕方。

 今日の最終リハーサルは今までの積み重ねもあって非常にスムーズに進んだ。結成して初めてのショーだと思えないぐらいには、悪くない出来である。

 

 ちなみに僕は直接の出演シーンを持っているわけではない。基本的にはステージの裏側で、意味もなく手を怪しく動かすお仕事だ。常に無表情で淡々と話してる奴という印象の僕に、ステージに立って歌えというのも酷な話だからな。

 

「本番もすっごくすっごく楽しみだね〜!!」

「…うん!」

「宣伝も楠雄くんと着ぐるみくん達のおかげで、十分に出来たからね。きっとお客さんも沢山集まる筈さ。」

 

 あの宣伝は本当に効果抜群だったな。空を優雅に舞う人形達に、とても楽しそうに子供達はキャッキャッと手を振っていた。まあ、人形の中の人達も……思わず数十分トイレで雄叫びを上げるくらいには楽しんでたな。

 

「みんな! 私と一緒にショーをしてくれて、ありがとう!」

「えむ? なんだ?、急に真面目な顔になって…。」

 

 鳳さんは、いつもの様子とは違った少ししおらしい表情を見せる。

 

「あたし、このステージにショーを見に来てくれる人が、みーんなニコニコ笑顔になってくれることが夢だったの。」

「そういえば、えむは最初からこのステージにこだわっていたな。」

「みんなのおかげで、明日きっと、あたしの夢が叶うから……。だから、ありがとう!!」

 

 鳳さんはこの準備期間、ずっと僕達に黙っていることがある。それはワンダーステージが取り壊される可能性についてだ。

 もし次の連休までに採算が取れると判断されなければ、祖父から引き継いだ大好きなステージが、思い出が沢山詰まったステージが取り壊されてしまう。それなのに、メンバーを心配させないために隠し続けているのだ。

 

 僕がすぐに無理矢理にでも尻尾を巻いて逃げなかったのは、これを最初に知ってしまったからというのもある。まあ、ステージの存続が決まればもうここに居る必要はないが。

 

「まあ実際、オレのようなスターが居なければ、まともにショーをやることは出来なかっただろうしな! ハーッハッハッ!」

「ふふ、すぐ調子に乗る」

「まあいいじゃないか。じゃあ、今日はこれで解散かな? 明日は早いしね。」

 

 天馬は1日の締めに拳を振り上げる。

 

「類、楠雄、寧々、それにえむ! 明日のショーは必ず素晴らしいショーにするぞ!!」

「「「おーー!!」」」

 

 一応僕も手を挙げてやるが、叫びはしないからな。

 解散が宣言された後、僕は軽く伸びをする。流石に一日中細かく超能力を使っていたら、僕でも多少疲れはする。

 

 それに、何か変な気分だな……なんだかやけにそわそわしている。

 ……まさか、な。

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