真・女神転生:オタクくんサマナー外伝 ある少年のカルぺ・ディエム   作:ミートスパゲティ

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少年と天使の出会い、そして始まり

全身を引き裂くような痛みが走り、傷が滲み、血潮が噴き出る。

赤黒い血が零れ、地面へと滴り、広がる。

 

『まだ生きたくば立ち上がり、その十字架(ロザリオ)を手に取りなさい』

 

体を凄まじい痛みが蝕むが、床に倒れ込みつつ全身を震わせて立ち上がる。

ただ死にたくない。その想いを糧に一歩、また一歩と何回も転げながら進む、這いずる。

 

死体へと伸し掛り、首に掛けた十字架を引き剥した。

それを熱いほどに強く握り、声の主へ高く掲げる。

何故そんなことをしたかは僕自身も分からない、ただそうすべきだと直感が過ったのだ。

 

強く十字架を掲げた先には【天使】がいた。

聖典に描かれるような翼を備え、豊かな黄金の髪に、目隠しを施した端麗な顔。

だがその翼と手は血肉により紅黒く染め上がっていた、その姿を以て美麗だけな存在ではないと強く体現している。

 

 

『今ここで改めて聞かせてください、貴方の名と願いを』

 

「僕は…レン、出音(シュオン)レンだ。お願いだ、僕の力になってくれ」

 

 

枯れた喉から皺がれた声を響かせながら、【天使】に助力を願う。

その瞬間に僕の想いに同調するように十字架が眩く輝いた。

 

それを見た【天使】は深々と頷くと、僕の眼の前に舞い降りる。

 

 

『これで契約は果たされた、私の名は天使【エンジェル】、今度ともよろしく、サマナー』

 

 

地に舞い降りた天使とそれを縋るよう拝む人間が、交わされた契約。

これこそが表の世界で生きた僕の新たな始まりとなった。

 

 


 

東京、この国の首都の夜は天高く聳える塔、スカイツリーを始めとした建物群が眩い光を灯す。

黒の帳を裂くネオンの輝きは人の繁栄を象徴する証が一つだ。

 

だがビルという巨人の目が届かない故に、その足元ではより深い闇が生じてしまうのだろうか。

十数階建てのビルの狭間、路地裏には漏れなく塗り潰された夜が続いている。

そんな現世とは思えない異界への入り口を想起させる路地裏の前に、僕は立っていた。

 

 

肩にかけたペンライトのスイッチを押し、腰に携えた剣を抜刀する。

シャ、と金属が擦れる音は馴染み深く、胸を圧し潰す不安を搔き消える。

脅威へと対抗する術があるのだと教えてくれるのだ。

 

一つ大きく息を吐きながら納刀し、胸元の十字架を左の掌で数度弄んでから強く念じる。

 

「皆、また力を貸してくれ」

 

\カカカッ/

悪魔召喚師(サマナー):出音 レン Lv13耐性:破魔無効

 

 

強い輝きが掌から零れ落ち、その中でもより一際強い光の束が収束され――

 

 

\カカカッ/

妖精:ピクシー Lv3耐性:氷結・銃撃弱点・電撃耐性)

 

『あははっ、頼まれたからには応えるわっ! 私に任せなさい、サマナーッ!』

 

\カカカッ/

妖精:ジャックフロスト Lv11耐性:炎弱点・氷結吸収

 

『ヒーホッー!!働かざる者食うべからず、明日のアイスの為に今日も頑張るホッー!!』

 

\カカカッ/

天使:エンジェル Lv13 耐性:呪怨、銃撃に弱い・電撃に強い・祝福無効

 

『ここが例の場所ですか。ではサマナー、命を大事に頑張りましょう』

 

透明な羽根を備えた掌サイズの少女、雪達磨を思わせる真ん丸な妖精、純白の翼を羽搏かせる女性。

 

所謂人間とは大きく乖離し、既存の生物とも例がない異形の存在、【悪魔】が創られる。常人であるならば驚愕が先に来るだろう現象を平然と見ている。

幾ら非現実的な光景であっても、自分が意図して起こした事なら話は変わる。

 

 

「皆応えてくれてありがとう、事前の打ち合わせ通り、3人は僕の援護をお願いするよ」

『んー事前の打ち合わせ通りかぁー…じゃあサマナーは私達の前に立っちゃうわけ?』

 

 

掌サイズの妖精、ピーちゃんの心配が交る言葉に肯定の意を以て頷く。【悪魔】は人間と隔絶した超常の力を奮う、だがこの中で一番頑強なのは人間である僕だ。

 

 

『ピクシー、貴方の心配も理解します。けれども、私達は前衛向きではない、割り切りなさい』

『むー、貴方に言われなくても分かってるわよ。でもサマナーが死んだら私達も終わりだよ?』

 

 

ピーちゃんと翼を備えた天使、エンジェルの信用を醸すやり取りについ微笑む、同時に緊張し張り詰めた心が緩んでいくことを実感する。

 

 

「ピーちゃん、大丈夫だよ。ベテランの人達と決めた作戦だし、事前情報もある。やるべき事を的確に出来れば勝てる」

『まぁ、それはそうと油断しない事は大事ホー。本番で気を抜いて死んだら元も子もないホー。』

 

 

ありがとう、と雪達磨の妖精、ジャック君を撫でながら言葉を返す。ジャック君の言う通り作戦は既に決めてはいる、でもだからといって油断すれば死は免れない。

 

命の掛け合いとして刻むべき心構えを想い、輪を結び付けた紐を辿り、ポーチの中へと手を入れる。硬く丸いそれの手触りを数個、数回遊びながら確かめる。

 

準備は十二分に整っている。

 

 

「じゃあ、行こうか皆。 ガキ退治の始まりだよ」

 

 

呼び掛けに応える仲魔と一緒に、異界の入口へと踏み込んだ。

 

 


 

 

異界に入った瞬間、甘く湿った空気が鼻を刺激する。匂いの先を照らすと腐肉や野菜くずなど生ごみが土壁の隅で散乱していた。

 

『匂いがきついですね……マスクでも持ってくるべきでしたか』

「だね…うっ、甘ったるい匂いが纏わりつく……ッ。 早く進もう……」

『はぁい、早く外に出たーい……がんばるぞっー……』

 

この暗闇の中で迷うことがないのは幸いだ、土に代わり柔らかくなった地面を踏みしめながら歩む。後ろでみんなの羽音や足音が聞こえる。

2から30歩、ただ黙って歩むと口を開きたくなる衝動に駆られるが、グッと堪えた。この張り詰めた緊張感こそが僕を平静さを齎してくれる根源なのだ。

 

物静かな時間がしばらく続く、次の小部屋が見えたと思った瞬間、ぬるりと小さな何かが現れる。

 

茄子色の体色をした、ぷっくりと膨らんだ腹が目立つ小人。

その手足は枯れ枝を思わせる程脆く細い、だがその目は奇妙なほどに輝く。

 

これこそが今回、命を奪い合う相手である悪魔【ガキ】。

仏教に伝わる餓鬼道の住人にして、尽きる事のない餓えに苦しむ鬼だ。

 

 

\カカカッ/

幽鬼:ガキ Lv4耐性:???

 

 

それがライトの灯りに惹かれて1体、また1体と、計4体は現れる。

それらは僕達を数拍の間、見たと思うと――

 

 

『『『『ニクダアアアアッ!!!』』』』

 

 

紅く充血した眼を輝かせ、凄まじい勢いで走り寄ってくる。

その迫真さに驚くが、身構えるまでの距離は十二分にある。

 

『サマナーッ!』

「分かってる、前衛は僕に任せて、皆はそれぞれ魔法を――」

 

剣の鍔に手をかける、皆も僕に言われるまでもなく戦闘態勢を取った。

余裕をもって戦えると先を想像して――横から風を切る音が鳴った。

 

【敵に背後を取られた!!】

 

左眼を逸らすと、そこには爪を振り被ったガキが居た、仲間が動くまで隠れていたのだ。

回避は間に合わない、奇襲だ、損切りするしかない。

 

 

『ギえええアアアアアッッ!!!』 【ひっかき】*1

「っ、痛ぁっ!?」

 

抜いた剣を片手分の爪と合わせて防いだが、止めきれなかった分の爪が僕の腕を抉る。

動かなく程の傷ではないが、咄嗟の痛みに思わず呻き声が漏れる、だが怯んでいる場合じゃない。

 

 

『『『『キエエエエッッッ!!』』』』 【ひっかき】【ひっかき】【ATTACK】【ATTACK】

 

 

 案の定、前から走り寄ってきたガキたちが距離を詰めて、無防備に近い獲物へと襲い掛かる。

だがその攻撃は大振りが過ぎる、余裕をもって防げる。

 

「っ、あまりっ、調子に乗るなっ!!」

【MiSS】【Hit】【Hit】【Hit】

 

相手の攻撃に合わせて剣を払い、身体に蹴りを入れて間合いに立ち入らせない。多くの攻撃が僕を傷つけるが、それでも不意打ちからこの程度の傷で済んだのは幸運だ。

 

 

『サマナッ―! まだ前に立てますかっ!』

「大丈夫ッ! 手が斬られた程度っ!」

 

 

手から血をひどく流す獲物を目前にガキたちはニタニタと笑いを浮かべている。

自分たちの奇襲が決まった事を歓喜し、目の前の肉を貪る妄想をしてるのだろう。

 

 

「最初で殺せなかったのが、運の尽きだね」

 

 

 後ろへと下がりつつ紐付きの輪に指をかける、そのまま結んだアイテムごとガキたちへのスナップの要領で投げつける。

そうしてガキたちに投げつけられたのは、小さくゴツゴツした紅い石。

 

自分たちに当たろうとも大した痛みもない石にガキたちは気を払う事はない、またその血肉を抉る為に爪を振り翳したガキの一体の頭に小石が当たり――

 

【マハラギストーン】*2

 

石が大音響と共に爆裂、猛烈な火が周りへと弾け飛ぶ。

その中心にいたガキの全身が灼熱の炎が覆い尽くされ、他のガキ達をも喰らい尽し――僅かな炭だけが残った。

 

 

「…効果は、事前情報通り覿面と。よし皆。傷を癒して次へ進もう」

 

 


 

 

『ウギャアアアッッ!?!?』 【WEAK!】

 

 

【マハラギストーン】で大半のガキが燃え尽きる中で一体だけ耐える。

だが一体だけ瀕死になりながら生き延びてもほぼ意味がない。

地面を酷く転がり回るガキの喉を貫き、止めを刺す。

 

 

「これで終わりッと、炎が効かないタイプのガキって、本当にいないね」

『凄い刺さり具合ホー、稀に強い奴もいるけどそれも瀕死にしてるホー』

 

 

ガキ達が魔力、【MAG】へと光の粒状に霧散してから鞘に納める。

この異界に入って三回目の殺し合いも、【マハラギストーン】のお陰で楽々勝てた。

 

 

『やはり弱点を突くのは常道ですね。【火属性】に弱いガキがメインなのも幸いしてます』

「ここだとこの石を投げるだけで良い、流石に言いすぎじゃないかと思ったけどその通りだったね」

 

この世界には属性という要素がある。

創作でよく使われる【火属性】や【雷属性】などの超常現象が想像しやすいだろう。

そして今回の異界に出てくる悪魔、【ガキ】はその中でも【火属性】に弱いと有名なのだ。

 

 

「弱点を突かれた悪魔は著しく脆い、そう聞いたけど本当にそうなんだねぇ……」

『ちなみにオイラも火に弱いホ、だから間違ってもオイラを巻き込まないでほしいホ』

『滅多にありませんから安心しなさい。マッカとアイテムは回収しました、先に進みましょう』

 

 

ありがとう、と軽く返して先へと歩き出す、最初の歩みと比べると幾分か軽やかだと自覚する。

油断しなければ勝てると実体験したからだろう。

 

 

『んー? サマナー、なんかボロボロの扉があるけどあれがボス部屋じゃない?』

『どうやら適当なゴミで作ったみたいだホー、たぶん普通のガキより頭のよい奴がいるホー』

 

二人が指差す方向に手作業で作れただろうボロボロの壁と扉があった。

その方向から生臭い匂いが強く漂ってもいる、この先に何かいるのは確実だ。

どう突入するか悩む中、これまでの戦闘からある方法が浮かび上がる。

 

『サマナー、この先の相手は私達を待ち構えています。そしてこの暗闇です、そのままだとまた奇襲に遭うでしょう』

「ただ、この具合の壁や扉だと……うん、いけるね」

『えぇ、おそらく同じことを考えてます』

 

『えっー、なにないっ!教えてっ!』『おいらも何を考えたが気になるホッ!』

 

 

エンジェルとの食い違いはないか、また皆に伝える為に仲魔たちとしばし話し合う。

 

 

『えぇ、それで行きましょう。上手くいけば光源も確保できます』

『わぁっー、思ったよりバイオレンスー』『でもそれが良さそうホー』

「でしょう? じゃあ皆、これでいってみようか」

 

 

どうやら皆の了承も得られたようだ、僕の呼び掛けにそれぞれ頷く形で応えられる。

 

それじゃあと早速行動するために、扉の前へと足早に移動。

そして【マハラギストーン】を取り出し――――思い切り投げつけた。

 

 

『『ギャアアアアアアッッ!?!?』』

 

 

どっかぁんっ!と大きな響く大音響と共に爆発により扉と周りの壁、そして隠れてたガキごと破砕された。そしてぽっかり出来た大穴の向こうにはガキが5体、そして金色の兜を被ったガキのような悪魔が1体。

 

 

\カカカッ/

幽鬼:ガキ Lv11耐性:火に弱い/???

 

\カカカッ/

幽鬼:ヤカー Lv??耐性:???

 

 

『コ、コノヤロウッ!? ナンテコトシヤガルっ!?』

 

 

ボス格だろう悪魔とその取り巻きは明らかに動揺を隠せていない。

自分の家が突然爆破されたらそうもなろうと、理解できる振る舞いだ。

 

 

「そこに、もういっかーいっ!!!」

 

『『『『ギャアアアアアアッッ!?!?』』』』

 

 

それでも無理に動くべきだったろう、驚きのあまりそのまま突っ立っている相手に【マハラギストーン】で追撃する。

紅い火花が向こうで炸裂しガキの内2体は焼死、3体は瀕死まで追い込んだ。

 

 

『コノヤロウッ!!!チョウシニノルナヨッッ!?』

 

 

だがボス格の悪魔、ヤカーは傷は見られるが立っている。

純粋に耐えたにしては火を嫌がる様子もない。

 

 

『耐えましたか、では先に取り巻きを』【コウハ】*3

『引くくらい滅多打ちだホー。あっ、耐えられたホ』【ブフ】*4

『ありゃりゃ、フォローしておくね』【ジオ】*5

 

 

なら取り巻きからと仲魔達の追撃が行われ、止めを刺される。瞬く間に自分一人だけ残された事に動揺するヤカーだが、まだその心は折れていない。

 

 

『コロシテヤ――』

 

 

鋭利な爪を輝かせながら手を振り被り、そのまま突進しようとするが――

 

 

「僕の方が早いっ!!」

 

 

 左踵で地を思い切り蹴り飛ばし、前方へそのままの勢いで疾走。

抜刀した突剣をそのまま頭部へと突き出すが、その直前でヤカーの手が振り下ろされる。

無理やり妨げたヤカーの腕が深く裂かれるが、致命傷に程遠い。

 

 

「やるねっ!!」

『シンデタマルカッ!オマエガシネッ!!』【デスタッチ】*6

 

 

そのままヤカーはもう片方の腕を振り下ろし、僕の体を裂く。

半身を逸らしたため致命傷にまで届かないが、それでも熱い痛みが強く感じられた。

それに反してヤカーの傷が塞がっていく、先ほどの攻撃で爪に付いた僕の血が火傷に吸われたのが見えた。

 

 

『オマエヲ、クッテヤルッ!』

 

 

相手を傷つけながら、自分の傷も癒す技。それをヤカーは持っているようだ。

ダメージレースという点だけ見ると、僕一人だけではあまりに不利だろう。

 

 

「追撃、お願いっ!」

 

『マテッ、ギャアッ!?』

 

斜め後ろへとステップ、僕が居た方向からヤカーへと光の矢と氷の礫が突き刺さる。

光の矢が刺さりふら付いたその体に、氷の礫が直撃し大きな悲鳴が上げられる。

 

 

『おいらの攻撃が刺さったみたいだホッ!』

 

 

幽鬼:ヤカー Lv??耐性:氷結に弱い/???

 

 

どうやら炎ではなく氷結に弱かったようだ、相手の弱点が抜けて勝ちへと近づく。

そして温かい何かに包まれた感覚と共に、熱さが引いていく。ピーちゃんの回復魔法、【ディア】によるものだ。

 

 

『クッ、クソッ!マッテクレッ!コウフクスルッ、コロサナイデクレッ!!』

 

 

自身の弱点を突かれ、相手の傷まで癒されたとあっては勝ち目はない。そう判断したヤカーは頭を下げて、命乞いをする。

その必死な有様に哀れと同情が搔き立てたれる。だけど――

 

 

「命乞いを聞く気はない、早く立ってくれ。悪魔と言えど無抵抗な者を斬りたくはない」

 

 

それを聞く気にはなれない、そもそも異界の主だろうヤカーを排除しなくてはこの異界は亡くならない。

自分の都合を押し付ける傲慢な理由だが、妥協する事は出来ない。

 

 

『クソッ!クソックソッ!!! ゴショウダ! タスケテクレヨッ!!』

 

 

ヤカーにとってはあまりにも無情な言い分だろう。何も出来ず命を奪われる、その恐怖で取り乱しながら懇願する姿。

その想いは理解できる、共感すらしている。

 

 

「…君の想いも分かる、同じ目に遭った事があるから」

『! ジャ、ジャアーー』

 

 

「でも、ダメだ。僕は君を逃す気もなく、確実に殺す。これは確定事項だ」

 

 

 眼下のヤカーに剣を突きつけ、生きる為に足掻けと促す。このまま殺せばいいと、理性が叫ぶが、あえて無視してその非合理な行為を続ける。

殺し合いにその甘ったれた余裕を持ち込む自分に嫌気が差す。

 

 

「だから最後まで足掻け、君には生き残る権利がある」

 

 

でもその想いを理解できるからこそこの甘さは出来る限り無くしたくはない、その傲慢な甘さを捨てれない。いや、捨てたくない。

 

 

「さぁ、立つんだッ!僕を殺して、生きてみせろっ!」

『くっ、クソッ!フザケテンジャネェッ!!ブチコロシテヤルッ!!!』

 

 

 ここまで嘗められた、傲慢な振る舞いをされたヤカーは湧き上がる憤怒を以て襲い掛かる。

その猛威は目の前の人間一人を十分殺せただろう、僕だけなら殺せるだけの勢いがあった。

 

だが相手は僕だけじゃない、後ろから飛ぶ光の矢に氷の礫に身を裂かれ、与えた傷は直ぐに癒される。それでもヤカーは雷光を放ち、回復魔法を唱え、足掻いた、生き残る為に。

だがそれでも苦境を覆す手札も運がなかった異界の主(ヤカー)は、その首を刎ねられる事でその生を終えた。

 

 


 

 

「……よしっ、無事に帰還っと。文明の光って本当に良いなぁ」

 

 

異界の主ヤカーを倒した後、僕らはマッカとアイテムを回収した後すぐに異界から脱出した。

長居する理由がないのもそうだが、主がいなくなった異界は自然と崩壊する。

直ぐに壊れる事はなくとも、さっさと脱出した方が安全なのだ。

 

 

『お疲れ様です、サマナー。さて、一つ言いたい事があります』

「ごめんよ、エンジェル。 言いたい事はわかってる」

 

 

地に降りて、目線を僕と合わせたエンジェルの語気は穏やかながら、怒っている人特有の圧があった。その理由が妥当が過ぎているので、ただただ頷くしかない。

 

 

『エンジェル―、そんなに怒らなくてもいいじゃない。勝ったのだから問題ないわよ』

『ピクシー、結果が全てではありません。あんな甘い行動を続けていたらいつか悲劇が生じます』

 

 

ピーちゃんがエンジェルを宥めてくれるが、エンジェルはそれでもと、譲らない。

そのまま仲魔達にこの話を任せるのは筋違いだ、まずピーちゃんに僕を庇ってくれた礼を言う。

 

 

「ピーちゃん、ありがとう。今回は僕が悪いから、大丈夫だよ。でもその心遣いは嬉しいよ」

『えっー、そう? なら、よかったぁ!』

 

 

きゃぴきゃぴと擬音が鳴るように喜ぶピーちゃんに自然と笑みが浮かぶが、話はまだ終えてない。エンジェルへと向き直り、顔をまた引き締める。

 

 

「次に同じ場面にあったら、そのまま斬り倒す。そう、誓うよ」

『……約束ですよ。確かに慈悲は美徳です。ですが半端なそれは自己満足に過ぎません』

 

 

エンジェルの言葉は真実だ、殺すしかない相手に半端な温情から立ち上がらせ、最後まで戦わせる。傲慢が過ぎる行為で、何か取り間違えたらこちらが負けていたかもしれない。

 

 

(それでも、僕は最後まで生き足掻いてほしい。そのお陰で僕は今ここにいるのだから)

 

 

それは過去の成功に由来する想い、いや妄執と言っても過言ではない。どんな死地に有っても全力で動き、考え、その果てに生き残る。

様々な幸運(生存バイアス)による妄執なんか心の内に留めておくべきと理解はしてる、だが自制できなかった。

 

 

『落ち着くホ、エンジェル。サマナーも反省してるんだし、次気をつければいいホ』

『そうよ、すぐに怒るんじゃなくて今は勝ったことを楽しもうよー』

 

 

二人の言葉を聞いたエンジェルは息を一つ吹き、そして僕の方へと向き直す。

 

 

『サマナー、気分を害して大変申し訳ありません』

「大丈夫だよ、むしろこうやって真剣になってくれてるだけ嬉しい限りだよ」

 

 

 だからこそ皆に見限られないよう精進しなくては、その姿勢こそが仮にも皆の主 (サマナー)として筋通すべき筋だろう。

そう改めて胸に誓いながらスマホをポーチから取り出す。

 

 

「それじゃあ皆、家に帰って休もう。 明日もまたよろしくね」

 

 

大きな課題を抱えながら、この世界での節目をまた一つ終える。

今の行く道の末が人として正しく終えれるか、無様に道半ばで終わるか想像もできない。

 

ただそれでも生き足掻き、理不尽に抗い、そして皆に報いる。

そう貫ける力が欲しい、淡い将来の願望を抱きつつ帰りの連絡を入れた。

 

*1
真3出典

*2
真1出典のアイテム、マハラギと同じ効果を相手に与える

*3
P5R出典、祝福属性の単体攻撃魔法

*4
P5R出典、氷結属性の単体攻撃魔法

*5
真3出典、電撃属性の単体攻撃魔法

*6
真3出典、相手のHPを吸収して そのダメージだけ自分のHPを回復する万能属性スキル




出音 レン:
ある事件に巻き込まれ、その影響で悪魔業界に入る事となった現役大学生。
その事件から様々な影響を受けたが、詳しい事は今後語られる。

現在はある組織の庇護を受けながら、大学生活の傍ら一般的なサマナーとして勤しんでいる。

エンジェル:
苛まれていたレンを救い出した【天使:エンジェル】の悪魔?
発現したての天使にしては十字架型のCOMPの機能を知っていたりと謎が多いが、レンを救おうとした思いは本物である。

ピクシー、ジャックフロスト:
レンが偶然出会った悪魔達であり、それぞれ【ピーちゃん】や【ジャック君】と名付けられた。
戦闘時はレンには出来ない役割をそれぞれ担いつつ、平時にはレンと俗世を楽しんだりと比較的友好的な関係を築けている。
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