劇場版規模の敵が週一でやってくるんだが   作:鳩胸な鴨

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久しぶりの更新です


歴史改変、戦力激減

平良さんが加入して初めての土曜日がやってきた。

予知担当が次に来襲する敵を特定するのは、決まって土曜の午前9時。

せっかくだから朝食も済まそうと馴染みの喫茶店に集った僕たちは、スマホの画面を睨め付け知らせを待つ。

 

「……あの、チャットで連絡来るんなら集まる必要ないんじゃ…?」

「普段ならな。今回からなごみもいるし、一連の流れを掴んでもらおうかなと」

「……先週、呼ばれてませんでしたけど…」

「よそ行く子にうちらの流れ叩き込むわけにもいかんでしょ」

 

敵を倒す…というおおまかな目的は一致しているものの、その流れは千差万別。

明日のストレスに備え、のんべんだらりとガスを抜くチームもあれば、対策のために知恵を絞り出すチームもいる。

僕たちの場合は後者である。

…まあ、どのチームも対策が意味をなしたことなどほぼないが。

いつか対策が意味をなすことを祈りつつ、その時を待っていると。

ふと、平良さんが怪訝そうに問いかけた。

 

「対策してるという割には、どのヒーローも後手に回りがちなような…」

「限定的な予知だからな。

出てくるのがどういうタイプの理不尽なのかくらいしか言わん」

「…それ、結局は対策できないんじゃ…」

「傾向を事前に掴めば先んじて行動できるだろ」

 

それしかできない、とは言えなかった。

先輩が言葉を濁したのに気付いたのだろう、平良さんの目が「大丈夫なのかな、この人たち」とでも言いたげなものに変わった。

他人事みたいな顔してるけど、世間一般から見れば君もこっち側だぞ。

 

「一番困るのは歴史改変系だな。

私、適性ねーしなぁ…。当たると、シュウヤに頑張ってもらうしかねー」

「適性が必要なんですか?」

「…お前、ヒーローになってから歴史改変の類が起こったことは?」

「ないです」

「そっかー…、知らねーのか…」

 

かなり起こっている印象だが、まだ経験がないのか。

それとも、適性がなくて覚えていないのか。

どちらにせよ、説明しておくに越したことはない。

 

「適性がない戦力は軒並み歴史改変されて敵対するか、無力化されるんだよ。

トップ層も適性がない人ちらほらいるし、結構厄介なんだよね」

「……か、勝てる気しないんですけど…」

「僕も。基本的に無視して大元叩きに行くね。

僕はほぼ不死身だからゾンビアタック戦法取れるけど、平良さんだと難しいかな」

「あ、あった方がいいですかね…?」

「なごみみたいなタイプだと、ない方がいいぞ。まだ弱いし」

 

先輩のあまりにストレートな物言いに撃沈する平良さん。

確かに、いくらキツめのトレーニングを積んだからって1週間で劇的に強くなれるわけもないが、もう少しオブラートに包んでもいいんじゃなかろうか。

鈍器のように現実を振るう彼女に半目を向けていると、なんとか立ち直った平良さんがおずおずと声をあげる。

 

「参考までに聞きたいんですけど、出雲先輩以外で歴史改変系で『この人は絶対に大丈夫』って人いるんですか?こう、特異点的な…」

「式村さんは大丈夫だぞ。専ら裏方だけど」

「戦力的に頼れる人は…、残念ながらいないね。ちょっと前に引退しちゃって」

「あっ、ご、ごめんなさい…」

「ぎっくりが再発しやすくなってな」

 

平良さんがへなへなと脱力した。

重い理由だと勘違いしていたのだろう。いや、ぎっくり腰も十分な理由だと思うが。

その反応を見てか、先輩は苦笑を浮かべた。

 

「もう結構歳だよね。いくつだっけ?」

「詳しくは知らんぞ。90超えてんでねーの?」

「そ、そんなご老体がヒーローしてたら、話題になりそうなもんですけど…」

「あの爺さん、フルアーマータイプのヒーローだったんだよ。

どこかしらガタが来るたびに戦闘スタイル変えてたから、『若人に受け継がれた』みたいに語られてたっぽい」

 

「結局、ぎっくり腰で途絶えたけどなー」と付け足し、くぴくぴと水を飲む先輩。

いくら自分の祖父だからって、ここまでこき下ろしてもいいものだろうか。

僕が呆れを向けていると、皆が手に持った携帯が震えた。

ばっ、と一斉にその画面を見て、渋面を作る。

噂をすればなんとやら。

怖いほどに諺通りの状況に、僕は呆れを向けた。

 

「………先輩が話題振るから」

「お前も乗っかったろ。同罪だ」

「あの、この場合対策は…?」

「しても無意味。私が忘れる」

「あ、はい」

 

画面に映るは、ヒーローたちが使っているグループチャット。

最新のメッセージには端的に、「歴史改変系」と書かれていた。

 

「だーっ…。役立たず確定かよ、アタシ…」

「力を失ってパンピーになってるか、価値観そのものが変えられて敵になってるかのどっちかですね。

できれば前者を願いたいんですけど…」

「言っちまったな。敵対コースだぞ」

「あー…」

 

自分の軽い口が恨めしい。

希望を口にすると、大概叶わないのはわかっているつもりなのだが。

そんなことを思いつつ、僕は平良さんへと目を向けた。

 

「もし適性があったらだけど、先輩を見かけたら殺す勢いで殴り掛かってね。

こっちが殺されかねないから」

「わ、わかりました…」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「………文明が滅んだ系ではないと」

 

迎えた災禍の日。

なんの変哲もないネカフェの一室を出て、店内を見渡す。

一見すると、何も変わらない世界。

だが、油断することなかれ。僕達が生活する上で致命的な部分は必ず変わっている。

命の価値。社会構造。支配者。

何かしらが狂った世界だということを頭に留め、僕は部屋から顔を出した。

 

「お」

 

同じように部屋の外の様子を確認しようとしたのだろう。

部屋から顔を出した式村さんと目が合った。

 

「おはようさん、力は失ってないかい?」

「力と体が一体化してるんで改変の影響受けませんよ、僕」

「わかってるよ。ただ、どこかしらに影響が出てないか、医療担当として心配しただけさ」

「そりゃどうも」

 

そう心配せずとも、影響が出たことなど一度もないのに。

無論、これからもそうだとは言えないので、口には出さないのだが。

 

「ところで、ネットはもう見たかい?」

「まだですね」

「見てごらん。どうやら、この世界では西暦が廃止されているみたいだよ」

「ほーん。人類が追いやられたとかですか?」

「だろうね。ほら」

 

式村さんが見せたのは、選挙ポスター。

眩い笑みを浮かべているであろうその顔は、まごうことなきチョウチンアンコウだった。

 

「怪人が選挙ポスターにデカデカと…ってことは…」

「おい!人間がいるぞ!!」

「なんですって!?」

「きゃーっ!!人間よー!!」

「捕えろ!いや、殺せ!!」

「ですよね」

 

他の客らしき怪人の口から、金切り声や嫌悪の悲鳴が飛び交う。

このアウェイな雰囲気。いつぶりだろうか。

つい最近味わったような気がするな、と思いつつ、槍を形成する。

 

「どうやら怪人主体の文化圏になったみたいだね。よろしく頼むよ」

「怪我したら治してくださいね」

「再生するじゃん君」

 

式村さんに戦闘能力はない。いや、厳密にはあるのだが、そこまで高くない。

せいぜい、今僕たちの目の前にいる雑魚湧き怪人にギリギリ勝てるくらいの実力だ。

警備員らしき量産怪人の攻撃を受け止め、雷で反撃する。

やはりと言うべきか、量産怪人はそこまでの強さを持たず、情けない悲鳴をあげて爆散した。

 

「きゃあああっ!警察、警察呼んで!!」

「変身せずに倒せちゃった…」

「惚けてないで、とっとと逃げるよ」

「はーい」

 

式村さんの手を引き、窓を突き破る。

広がる都市に人間は見当たらない。

怪人がこぞって僕たちを指さし、悲鳴をあげ、蜘蛛の子散らしたように逃げていく。

誰かが通報したのだろう、サイレンの音まで鳴る始末。

よほど黒幕にとって都合のいい社会と見える。

着地した僕は槍をバイクへと変形させ、そのハンドルを握った。

 

「んじゃ、しっかり捕まっててくださいよ」

「お姉さんが抱きついてるからって事故らないでね」

「………へっ」

「おいこらなんで鼻で笑った」

「ぐぇっ」

 

式村さんが腰に回した手に力が籠る。

女っ気のないマフィア顔に興奮しろって方が無理だろ、なんて思いつつエンジンをふかしたその時だった。

 

「乗ります乗ります私も乗りまーす!!」

 

聞き覚えのある悲鳴が響いたのは。

僕たちがそちらを見ると、大量の警官怪人を引き連れながら逃げ惑う平良さんの姿が。

碌に支度していない姿の彼女を前に、僕たちはこれ以上なく渋い顔を晒す。

 

「…………新人ちゃん、適性あったっぽいね」

「定員オーバーなんですけど」

「サイドカー作れば?」

「あ、そっか。平良さん、乗るならここね」

「はぁーーーーいっ!!」

 

めぎっ、と音を立てて車体からサイドカーが形成される。

平良さんがそこに飛び乗ると同時、僕は思いっきり加速した。

 

「みぎーーーーーっ!?!?」

「僕みたいに秒で再生しないなら喋んない方がいいよー、舌噛むし。あ痛っ」

 

ちょっと加速するだけでも法定速度を余裕で超過するの、どうにかできないだろうか。

そんなことを思いつつ、僕たちは警察怪人の追跡を潜り抜けた。




スペック上だと余裕で最高速度時速900kmとかあってビビる
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