劇場版規模の敵が週一でやってくるんだが   作:鳩胸な鴨

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たまに例外はあるけど


妖精は語尾に名前の一部をつけがち

「ゔゔ…、着替えたい、顔洗いたい、歯磨きしたい、髪整えたい、化粧したい…」

「わがまま言わないの、僕らだって我慢してんだから」

 

逃亡後、人気のない山中にて。

遅めの朝食である缶詰をほじくりながら、とめどめない弱音をこぼす平良さん。

気持ちはよくわかるが、その希望を叶える術を僕たちは持たない。

「こうして朝食を摂れているだけマシ」と宥めると、「慰めになってません」と返された。

そりゃそうか。活動期間が長いせいか、感覚の麻痺が深刻になってきた。

自分の感覚がおかしいことに軽くショックを受けていると、式村さんが感心したように声を漏らした。

 

「しかし、驚いたね。まさか適性持ちなんて」

「こっちのセリフですよ…。

朝起きたら親の代わりに知らない怪人が住んでた私の気持ち、わかります?」

「よくわかるよ」

「そうだこの人ベテランだった…」

 

比較的軽いトラウマで済んで良かった。

僕なんて、実の妹に喉笛切られたんだからな。おかげで日曜に顔を合わせると、身構えるようになってしまった。

僕が安堵を覚える横で、式村さんが平良さんの調子を確認する。

 

「変身はできそう?」

「は、はい。ピースフルペンがあるので…」

「そんな名前なんだ、その変身アイテム。安直だなぁ」

「いや、私じゃなくてポ…、妖精さんのネーミングなんで…」

 

変身アイテムなんて安直な名前ばかりなんだから、そんなに恥ずかしがることないのに。

僕が使っている槍も、「ライジングランス」と勝手に名前をつけられた挙句、おもちゃとして売り出されていた。

わかりやすい方が受け入れやすいのかな、と思いつつ、僕はふとあることに気づく。

 

「ポで始まって羽ペンってことは…、ポップリンか。アイツの由来の魔法少女で適性アリとか初めてだなぁ」

「お二人とも、ポップリンのこと知ってるんですか?」

 

思い当たる妖精を挙げた僕に、平良さんが心底驚いたと言わんばかりに目を見開き、問いかける。

要素はそれらしいな、と思っていたが、どうやら正解だったらしい。

 

「まぁね。アイツが初めて羽ペン渡した子が二ヶ月くらい僕らのチームに居たから。君も会ってる人だよ」

「え、誰です?」

「カラフルワンダーの緑」

「わ、わぁ…。世間って狭い…」

 

本当にな、と僕が呆れ混じりにと返そうとするや否や。

視界の隅に、黄色い毛玉がゆらゆら揺れているのを見つけた。

 

「な、なごみ…?」

「噂をすれば…」

 

ぴょこ、と姿を現したのは、プリンみたいな色合いの小さなマスコット。

やけに汚らしくなっていたそれは、平良さんを見て、じわ、と涙を溜め、彼女に飛びついた。

 

「なごみー!無事だったポプねー!!」

「わっ」

 

このわざとらしい語尾に不憫が似合う姿、本物のポップリンだ。

平良さんは困ったように、わんわんと泣く彼を慰める。

それで周りを見る余裕ができたのだろう。

ポップリンの大きな瞳が僕たちを捉え、平良さんの懐から離れた。

 

「シュウヤと式村さんも無事だったポプか!」

「今日は妖精の国に帰らなかったんだな。歴史改変になるといつも帰ってるのに」

「…………ちょっと帰れない事情がポプね…」

「奥さんに締め出されたな」

「ぎくっ」

「………ポップリン、既婚者なんですか!?」

 

こんな見た目で立派な世帯持ちのリーマンである。

嫁に締め出されるのも、これが初めてではない。今度は何をやらかしたんだ。

平良さんの冷たい視線に耐えかねてか、ポップリンは慌てて軌道修正を図る。

 

「そ、それはとにかく!みんなが無事で安心したポプ!」

「話逸らした」

「この反応と体臭、妖精の合同飲み会でハメ外した挙句、酔い潰れて玄関先で寝てたな」

「なんでそれを…って、ボクの話はいいポプ!

この危機をみんなで乗り越えるべく作戦会議するポプ!」

「ふと気になったんだけど、奥さん持ちが語尾にポプとか付けてるの…?」

「これは妖精界の敬語ポプ!!

名前の頭文字を語尾にして、相手に最大級の敬意を表すんだポプ!!」

「へぇー」

 

そういえば他の妖精たちも、やたらと語尾が耳にこびりついたっけか。なになにだキラとか、これこれだぷるとか。

ポップリンの醜態や妖精界の敬語事情は気になるが、彼の言う通り作戦会議が必要なのも事実。

僕が「そろそろ作戦会議はじめよっか」と音頭を取ると、2人もポップリンへの追求をやめ、意見を出し始めた。

 

「怪人のフリして情報集めるとか?」

「パンピー怪人に手ェ出してもキリないよ。大した情報ないだろうし」

「地図を見て、変わったところがないか調べるとかどうポプか?」

「もう見た。少なくとも、僕らの活動範囲内で地理の変化はない」

「支配層にちょっかい出すとかどうです?」

「それが安牌かなぁ」

 

テロリストみたいな結論に落ち着いたが、手っ取り早く済ませるならこれに尽きる。

食事の跡を片付け、僕はある方角へと目を向けた。

 

「どこ見てんです?」

「国会議事堂」

「………………な、何をする気で?」

「怪人退治」

 

ばちん、と勢いよく目を覆う平良さん。

無理もない。要約すると「今から国家転覆します」と言ってるようなものだ。

常識に当てはめれば、ヒーローらしからぬ発言だろう。

が、しかし。そうでもしないと、この事件は収束しない。

 

「居るのは国を乗っ取った怪人なんだから、退治してもなんら問題ないでしょ」

「え、えぇ…?い、いいんですかね…?」

「いいのいいの。どうせ元通りになるんだし」

 

歴史改変のたびに誰かが吹っ飛ばしてる、とは言わないでおこう。卒倒しそうだ。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

鈍く、重い音が多数響く。

同胞が死の間際に放ったいくつもの爆炎を前に、倒れた怪人の1人がその元凶を見やった。

聳えるは、鈍色の巨人。彼は身の丈ほどの斧を軽々と肩に担ぎ、とん、とん、腰を叩く。

 

「ジジイに襲いかかってくんじゃねェ、馬鹿野郎どもが。おー、いちち…」

 

中から響く声は男のもの。

隙ができたと判断したのだろう。警官姿の怪人が飛び上がり、その剣を振り下ろす。

が。その一撃は指一つで簡単に止められ、その何倍もの威力があるであろう一撃が怪人を引き裂いた。

 

「ぐぁああああっ!?!?」

「久しぶりにやると腰いでェわ。

ヒビキんとこ…、あ、アイツはダメだったわな。ヒビキの後輩、名前なんつったっけ…?し、し…」

 

怪人の意識が薄れていく。

受けたダメージに体が耐えきれなかったのだろう。

びきっ、びきっ、と体が裂けていく音が頭に響く中、彼の言葉が鮮明に聞こえた。

 

「ああ、そうだ。シュウヤくんなら大丈夫だったなァ」

 

怪人の死による爆炎を背に、国会議事堂へと歩き始める巨影。

その数分後、多くの怪人が空へと打ち上がった。

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