劇場版規模の敵が週一でやってくるんだが   作:鳩胸な鴨

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お久しぶり


二世帯経たのにスパルタ

「え?じいちゃん出てたの?」

 

月曜、放課後。いつもの如く、チェーンのレストランに僕たちを呼んだ先輩が、心底驚いたと言わんばかりに目を見開く。

その視線の先には、引きずられてきただろうじいさんが茶をしばいている。

流石に「そのじいさん、あんたをワンパンしましたよ」とは言えず、僕は彼の活躍を端折って説明した。

 

「情報は引き出してくれましたけど、最終決戦でギックリ再発。あとは終始お荷物でしたよ」

「やっぱ装備取り上げとくべきだったか…」

「そうするとダメージを気にしない先輩とかいうバケモノが僕らめがけてハンマー振り回してくる可能性が出てくるのでやめてください」

「んだよ、それならお前が使えばいいだろ」

「無理ですよ、外骨格との兼ね合いでアーマーを纏うなんて出来ないんですから」

「本人がいる前でその話しないでほしいんだけど」

 

じいさんが眉を顰め、愚痴をこぼす。

が。この問題ばかりは譲れない。先輩もそう思ったのだろう、ぎろり、と目を細めた。

 

「厄介側に回ってたアタシがいうのもどうかと思うけど、乱戦で足手纏いが増えるって死活問題だからな?

悪いこと言わんから、もう手放してくれって。装備なくても、逃げるくらいできるだろ」

「若者が死地に立ってんのに、老い先短いジジイが真っ先に逃げられるか」

「逃げていいんだってば」

「逃げてくれた方が面倒少ないンすよ」

「そ、そんなキツく言わなくても…」

 

キツく言っても聞かない人が何を言う。

僕たちが呆れを込めて睨むと、じいさんのでかい図体が縮こまる。

しかし、どうしたものか。このまま装備を持たせても、最終的にぎっくり腰が再発してリンチに遭う未来しか見えない。取り上げるだけの口実も思いつかない。

悶々とする僕に、同じように唸っていた先輩がふと思いついたように声を上げた。

 

「そうだ。なごみに渡せばいいじゃん」

「いいっすね。使いこなせてたもんね、あのバカみたいに取り回しの悪いハンマー」

「…まあ、それなら……」

「………………へっ???」

 

まさか自分に飛び火するとは思わなかったのだろう。

平良さんは目をひん剥き、ぶんぶんと首を横に振った。

 

「いや、無理、無理無理無理!!」

「大丈夫大丈夫。振り方や立ち回りはワシが教えてやるから」

「そういうことじゃなくて!荷が重いというか…、え、遠藤先輩じゃダメなんですか!?」

「無理。じいさんの装備って一撃叩き込めばよろしのゴリ押し近接特化だから、アタシみたいに動き回って避けるタイプは上手く使えん」

「そ、それ言うなら私だって動き回って避けてますよ!」

 

平良さんの叫びに、数秒の沈黙が漂う。

「何言ってんだ、こいつ」と空気が語るのが聞こえたのだろう。

失言をかましたと思ったのか、彼女は萎んだ声で「ごめんなさい…」と漏らした。

 

「……あのな、なごみ。ビット攻撃避けながら得物を振り回すなんて、普通無理なんだよ」

「だから、君が継いでくれるのが一番安心なの。じいさんも、それなら文句ないよね?」

「おう。嬢ちゃんなら上手く使ってくれるだろ」

 

じいさんが変身デバイスを外し、机の上に置く。

平良さんはそれを前に絶えず垂れる冷や汗を拭い、言葉を絞り出した。

 

「いや、流石にそれは早計というか…。

あ、あの、魔法少女の装備と併用できないという可能性も…」

「アーマーと魔法を併用してる人いるし、そこんとこは心配ないよ」

「前例いるんですか?」

「カラワンの今の黄色」

「世間が狭い…」

 

世間が狭いも何も、50年近く目まぐるしく世代交代を繰り返しているのだ。前例のないヒーローを探す方が難しい。

…まあ、さすがに50年近くトップ勢に名を連ねるヒーローの装備を渡される魔法少女なんて史上初だろうが。僕だったらプレッシャーで死ぬ。

平良さんは変身デバイスとじいさんを何度か見比べ、恐る恐る手を伸ばす。

 

「え、えっと、ほ、ほんとに、私が受け取る流れで…、いいん、ですね…?」

「おう、構わんよ」

「じ、じゃあ…」

 

震える手でデバイスを手に取り、装着する平良さん。

その瞬間のことだった。突如として、デバイスが光に包まれたのは。

 

「わ、わっ…!?なになに、なにっ!?」

 

彼女の困惑に合わせ、光が増していく。…いや、それだけではない。デバイスの形も変化している。

煌めくコアはそのままに、その縁を彩っていた無骨な鉄の枠は、スパンコールがかかった青のリボンに。可愛げのなかった金属ベルトは、シュシュへと変貌している。

変身デバイスでこれなのだ。恐らくは装備も変化していることだろう。

平良さんはだらだらと冷や汗を垂らし、僕たちを見やる。

 

「か、可愛くなっちゃった…んですけど…?」

「あー…。なごみってポップリン系譜の魔法少女だったんだっけか…」

「え?」

「アイツ、こだわり激しくてさ。外付けアイテム認めない主義なの」

「えっ…!?これ使えないんじゃ…!?」

「大丈夫。以前、奥さんにお灸据えてもらって『デザイン変えてもいいなら』って譲歩させたから」

 

奥さん曰く、顔中ボコボコにされながらも「それだけは絶対に譲らないポプ!それだけは絶対に譲らないポプーっ!」と最後まで叫び散らしていたと聞いた。

そのこだわりが人を殺すかもしれないと自覚してるんだろうか、あいつ。…いや、してないだろうな。妖精の類いは変なとこで倫理がないし。

なんにせよ、これでヒーロー「ハンター」は本当に引退した。2度とその手にハンマーを握ることはないだろう。

ヒーローを卒業したことに未練を感じたのか、じいさんは軽くなった手首に目を落とし、深いため息をついた。

 

「はぁ…。これがボケに繋がらなきゃいいが」

「ボケるのはなごみを鍛えてからにしろ。新人がもらった装備で調子に乗って引退…なんて洒落にもならねーぞ」

「はいはい。まったく、じいちゃんづかい荒いんだから…」

「お、お手柔らかにお願いします…」

 

おずおずと頭を下げる後継者は、まっすぐな瞳でじいさんを見上げた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

翌日、放課後。最終決戦場としてよく使われる採石場にて。

日曜日ではないにも関わらず、どぉん、どぉん、と絶えず轟音が響く。

 

その音の源は、岩。

 

採石場の高台に立つじいさんの背には、そこらから引っこ抜いたかのような…というか、引っこ抜いたばかりの岩の数々。

じいさんが次々と投げ飛ばすそれに向け、スパンコールやらリボンやらと、可愛らしい装飾が加わったハンマーを振り下ろした平良さんを見やる。

 

「はひーっ、はひーっ、ひーっ、ひっ…」

「ほれほれ、全部砕かんと死ぬぞー」

「ひーっ!?」

 

雨のように襲いかかる岩。それを生身で、一つ残らずハンマーで砕く…というのが、じいさんが平良さんに課した試練だった。

無論、生身のひ弱な平良さんがあんなクソデカハンマーを振り回せるわけがない。故に、ハンマーを振り回せるよう、部分的な変身が許可されている。

聞くと、じいさんがヒーローになったばかりの頃、毎日欠かさずやってた修行らしい。流石は先輩の祖父と言ったところか。

僕は隣で平良さんたちの様子を見る先輩へと目を向け、呟く。

 

「………あのじいさん、先輩より容赦なくないっすか?」

「じっちゃーん!まだ余裕そうだから量増やせー!」

「こっちも容赦なかった」

 

二世代経たのにここまで似るか。先輩の声が届いたのだろうか、投げ飛ばす岩の量が先ほどよりも多くなった気がする。

平良さんはそれを次々と砕く中、涙を滲ませ、声を絞り出す。

 

「う、う、うごっ、うごきっ、づらぁい…!」

「そりゃ変身せずに使ったら重いよ」

「何トンだっけ?あのハンマー」

「さあ?10トンくらい?」

「や、そりゃ軽すぎだろ」

「トンは軽くないですからね!?」

 

ヒーローの世界でトンは基準値だ。

式村さんのような異能型でもない限りは、ほとんどのヒーローは2桁のトン単位を「軽い」と感じるだろう。…変身してない状態で持ち上げられるのは、僕やゼロといった異形型くらいなものだが。

今の平良さんはほぼ生身なのだ。動きを大幅に制限された彼女が泣き言を漏らすのは、なんらおかしいことではない。

しかしながら、今のところは表情と発言の情けなさに目を瞑れば、つつがなく捌けている。

流石に変身時ほどのキレはないにしろ、全弾捌いた上でツッコミを入れる余裕すらある。

が。そのツッコミが受け入れられる可能性は、限りなくゼロだ。

 

「ツッコミ入れる元気あるなら、もっと増やしてもいいなー。じっちゃん、ギア上げてー」

「あいよー」

「やぶへびっ…、ぎゃぁああああっ!?!?」

 

岩の雨が更に密度を増し、平良さんの女の子らしからぬ絶叫が轟く。

流石に避け始めるか。この場にいる全員がそう思ったことだろう。

 

「ひぃぃいいいいっ!!!???」

 

が。平良さんはその意に反し、岩の雨を変わらず打ち砕いた。

情けない悲鳴が響く中、先輩が顎に手を当てる。

 

「…まだ余裕か。もうちょっとキツくしても…、え?余裕?新人が?あれで?」

「まだ歴浅い子ですよね…?復帰勢と言われた方がまだ納得できるんすけど…?」

「…………とんでもねぇやつ育ててるかも、アタシら」

 

限界を迎えてからが長いタイプなのだろう。顔をぐちゃぐちゃにしながらも、真摯に課せられた試練に立ち向かう平良さん。

体力のなさは課題だが、それさえなければ僕らを超えるヒーローになれるだろう。

こんな原石がどうして燻るだけに終わっていたのか。僕と先輩は顔を見合わせ、互いに口の端をひくつかせた。

 

「いくらなんでもパンピーがこんなに才能あるとかないでしょ…。平良さんってなんかやってました?」

「いや、特にはなんにもしてねーぞ…。家系にも名のあるヒーローいないって聞いてっし…」

「無から才能生えてきたパターンかぁ…」

「お前と同じでな」

「僕のはスペックによるゴリ押しですって」

 

蘇生じみた再生能力と強化形態でなんとか保ってるだけだと何度言えば。

僕はため息混じりに、ふと浮かんだ疑問をこぼす。

 

「あんだけのセンスあるならうちで育てなくてもやってけただろうに、なんであんなに自己肯定感低いんすかね…」

「それお前にも言えるだろ」

「僕はキレ症の猿がたまたまヒーローやれてる形になってるだけっすからね?」

 

別に高尚な使命感を持ってヒーローやってるわけじゃない。わけのわからん理由で殺されるのが我慢ならないだけだ。それが結果的にヒーローとして見られているだけで。

僕が先輩に半目を向けていると、ふと、高台に立つじいさんの声が弾む。

 

「おーおー、よぉ捌いたなぁ!!ほんじゃ、これはどうだー!?」

「ほんぎゃぁぁあああああっ!?!?」

 

ちょっと見ない間に雨どころじゃなくなってた。

もはやスコールの域に達した数の岩が降り注ぎ、半泣きならぬ全泣きで絶叫する平良さんによって砕かれていく。

心なしか、じいさんの長い髭に隠れた口元が笑っているような気がする。…いや、確実に笑ってるなあれ。後継者が才能の塊だったという事実に浮かれてる顔だ。

先輩が僕を鍛えてた頃の顔にそっくりだ。

隔世遺伝とはまさにこのこと。

先輩もじいさんの様子を見て、呆れたように眉を顰めた。

 

「あーあー、あーあー…。

なごみが才能の塊なばっかりにじいちゃんのテンション上がってら…」

「流石にもう止めましょうよ…。メンタルの前に物理的に潰れますよ、アレ…」

「だな…」

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