「予知担当から情報来たぞー」
早くも迎えた土曜日。
例の如く、客もバイトも少なく、ガラガラなファミレスに集まった僕たちは、先輩の置いた携帯を揃って覗き込んだ。
「今度はお国がやらかすパターンだと」
「うっわ、めんどいの来た…」
「あの…、聞くの忘れてたんですけど、お国が…って、どういう…?」
思わず眉間を摘み、項垂れる僕。
一方で、平良さんはまだ「お国のやらかし」の経験がなかったのだろう。
不安気に顔を歪め、僕たちに問いかけた。
じっくり説明したいのはやまやまだが、中には聞かせない方がいい情報もある。
僕は暫し言葉を選び、彼女に言い聞かせた。
「いるんだよ。平和のためなら何やっても許されるって心から思ってるボケが」
「あー…」
しかも、そういうのに限って変に権力持ったりしてるから、事態が余計に拗れるんだよな。
そのせいで捕まり、前科が付きかけたヒーローもかなりいる。
今のところはその全てにおいて無罪判決、釈放の措置が取られているが、いつそれが覆るか。
「場所は?」
「私らの活動範囲からはちょっとズレてんな。行こうと思えば行けるとこ。座標送るな」
「はーい……、ん?」
あれ、ここらへんって確か…。
ふとあることに気づいた僕は、先輩から送られた位置情報と地図を照らし合わせる。
やはり、気のせいではない。僕は安堵を顔に浮かべ、どう動くべきかと思案に暮れる先輩に声をかける。
「…ここゼロん家近いっすよ。ほっといても大丈夫じゃないっすか?」
「え、家ここらへんなの?」
「こないだ買ったらしくて」
「ほーん」
「……あ、あの、なんでゼロさんの私生活にそんな詳しいんで?」
ああ、そういえば言ってなかったっけか。
反応が面倒くさいことにならないといいが、と思いつつ、僕は彼女の問いに答えた。
「ゼロと僕、義兄弟なの」
沈黙。
その間にみるみる平良さんの表情が変わり、口を震わせていく。
うまく言葉にできなかったのだろう、何度か吃りながらも、彼女は僕になんとか問いかける。
「ぎ、ぎきっ、ぎ、ぎ、きょー…、だい?」
「ゼロはシュウヤの姉ちゃんの旦那なんだよ」
「………………は!?!?」
「ちなみに子持ち親バカ」
「こもちおやばか!?!?」
目をひん剥いて叫ぶ平良さん。その気持ちはよくわかる。
かくいう僕も、「お付き合いしてる人が」と姉が家に連れてきた時はひっくり返った。
ゼロのような復讐鬼タイプのヒーローは復讐を終えた途端、幸せになるジンクスがあるんだよな。あれ、なんでなんだろうか。
「んじゃ、今回はサポートに回るか。新装備試したいだろうなごみにゃ悪いが」
「いや、それはいいんですけど…、サポートって具体的にはなにするんです?」
「…………なにする?」
「や、僕もわかんないっすよ」
サポートといっても、そこらに湧いて出る雑魚怪人を相手取るくらいしか思いつかない。
僕も先輩も戦闘特化のヒーローだから、足になるか、相手を殴るくらいしか能がない。
情報を引き出そうにも、国のデータベースに潜り込めるほどのスキルもないから、そっち方面ではお荷物確定。
どうしたものか、と悩んでいると、平良さんが苦笑気味に口を開く。
「先輩たちからして『この状況でこれやってもらうと嬉しいなー』っての、あります?」
「幹部枠の足止め」
「雑魚狩り」
「ヘイト稼ぎ」
「陽動」
「…先輩方が普段やってることと変わらなくないですか、それ?」
「変わんないな」
「変わんないっすね」
結局、自分ができることをやるのが1番のサポートか。いつもこの結論に行き着くなら、この作戦会議やらなくてもいいかもな。
…そんなこと言ったら先輩にしばかれるだろうから、口にはしないが。
「……確認してもいいです?」
「おう、なんかわからんことあったか?」
「お国がやらかすんですよね」
「おう」
「国が敵ってことですか?」
「違う」
「へっ?」
先輩の否定に、平良さんが目を丸くする。
新人らしい勘違いだ。確かにそのパターンもあるが、そっちはかなり珍しい。
先輩は過去の事例を思い出したのか、顔を顰め続けた。
「『お国のやらかし』はそのほとんどが『公的な機関に属してる奴の大ポカ』だ。
なごみが知ってそうなのだと…、『魔法少女・デミ事件』。あれは有名だろ」
「…………ご、ごめんなさい、聞いたことないです」
「え、あれぇ?結構話題になったよな…?」
不安気な表情で僕を見る先輩。
僕はそれにため息を吐き、先輩が忘れてるだろう真実を告げる。
「その事件、公になってないやつっす。話題になったの、当時対処した僕らの間だけ」
「え゛」
事件の内容があまりにショッキングだったから、情報統制されたんだよな。
平良さんぐらいどころか、それよりも幼い子供が多数犠牲になったのだ。しかも、それをやったのがよりにもよって子どもを守るべき警察機関の上層部。現状以上の混乱を避けるため、情報統制されるのも仕方がないだろう。
先輩と平良さんが揃って滝のような冷や汗を流す。
平良さんが泳ぐどころか、バタフライをかます目を向け、声を震わせる。
「そ、それ、聞いちゃって…」
「聞かなかったことにしろ」
「いやもう」
「聞かなかったことにしろ」
「む」
「聞かなかったことにしろ」
「………はい」
もう手遅れな気がする。
あとでお国からお叱りが入るんだろうな、と呆れつつ、僕は残ったジュースを飲み干した。
♦︎♦︎♦︎♦︎
その頃、とある新築の一軒家にて。
積み木やガラガラなど、赤子用のおもちゃが床に散乱する中、和装の男が携帯を見つめ、深いため息をつく。
「………明日は帰りが遅くなる」
「そうか」
男の伴侶だろう、凛とした佇まいの女性はそれだけ言うと、その手に抱いた赤子へと目を向けた。
「ほら、くおん。パパ、頑張っては?」
「がーあって」
「うん。パパ、がんばる…」
和装の男は泣きそうな顔を妻子に見せぬよう、必死でそっぽを向いた。
ゼロ…復讐鬼卒業系ヒーロー。付き合ってた相手の弟がまさかの後輩だったことで、気まずさで死にそうだった過去を持つ。普段は呉服屋の店主をしている。