今週も変わらず日曜日が来た。
憂鬱だ。頼むから、もう1日休みを増やしてほしい。…社会経済的に考えると、そんなわけにはいかないんだろうけど。
いつもと同じ怨嗟を抱きながら、僕は待ち合わせ場所の公園へと向かう。
予知された座標からは少し遠いし、もうしばらくは暇だろう。コンビニで菓子でも買って持ち寄ろうか。
浮かんでは消える誘惑に揺れていると、背後から「せんぱーい!」と元気な声が響いた。
「おはようございます!」
「おはよ。日曜の朝なのに元気だね」
「そうですかね?」
「普通は僕みたいに肩を落としてトボトボ歩くもんだよ」
「それは肉体的にも精神的にも不健康な気がします…」
経験を積んだ故の弊害だ。
重い足取りで公園へと向かう僕に、平良さんが怪訝そうに問いかける。
「…先輩、トボトボ歩いてます?」
「気持ちだけね。実際にやると先輩にどやされる」
「前々から思ってたんですけど、先輩は精神が不健康だと思います…」
「自覚してる」
健康な精神なら、ゾンビアタックを基本戦法にしてない。
世界が僕を健康にさせてくれないんだ。よって、この世界が悪い。
…自分で思ったけど、いつまで経ってもダイエットしないデブみたいな思考だな。
余計に不健康になりそうだから、これ以上考えるのはやめておこう。
「……ぁ……!」
「…………ぉ!」
揉め事だろうか。公園の方から怒鳴り声が聞こえる。
ただでさえ日曜の朝なのだ。こんな日くらいは大人しく避難してほしい。
「なんでこんな日に揉め事起こすかね…」
「………あれ?片方、遠藤先輩じゃないですか?」
「え?」
平良さんに言われ、目を細める。
…確かに、炎が舞っているのが見える。
あの不自然な炎の動き。確実に先輩がそこにいる。しかもアーマーを纏って。
「あー、一番めんどくさいパターンだこれ…」
「予知が外れたとかですか?」
「いんや、大暴れする前の資金石代わりに僕ら選んだんだろうね。
なんにせよ、助太刀した方がよさそうだ」
このタイミングで襲ってくる相手に勝てた事、ほぼないけど。
いつでも逃げ出せるよう、バイクを出せるように構えておこう。
変身しながら公園へと走る最中、魔法少女となった平良さんがふと声を上げた。
「あの…、遠藤先輩、二人いません?」
「………いるねぇ」
うっわ。コピー騒動系かよ、面倒くさい。
いや、極論なんでも面倒くさいんだけど。その中でも特に面倒なの引いちゃったぞ。
本体と同スペック程度のコピーが無限に召喚される系か、それとも高スペックな偽物だけ湧いて出た感じか。
「すんごいそっくりですけど」
「そっくりだねぇ」
…先輩のコピーな時点で前者か。
高スペックな偽物は総じて見た目がちょっと違う。
今回の場合は先輩まんまだし、あっても先輩のスペックと同程度だろう。
しかし、困った。見た目はもちろん、両者の実力も戦闘スタイルも瓜二つで、僕でも見分けがつかない。
どこに力入れてんだ国。とっととシェルター作れ。
平良さんもどっちがどっちだかわからないのか、目を回して僕に問いかけた。
「ど、どっちに加勢したらいいんでしょう?」
「ごめん、僕もわかんないや」
「えっ!?」
果たして、どっちを殴ればいいんだか。
僕たちが迷っていると、二人の先輩がこちらに気付いた。
「二人とも見てねーで手伝え!!」
「何勝手に…っ、おい、シュウヤ、なごみ!こっちだこっち!」
「え、えっ…!?ど、どうしましょう!?」
「なるほど。意思疎通は可能と。ならアレでいいかな」
気は進まないが。
ため息を吐き、僕はよく聞こえるように声を張り上げた。
「せんぱーい!腰アーマーに肉乗ってる方が本物でいいっすよねー!?」
「「言うなゴラァァアアッッ!!!」」
ほぼ同時に怒鳴る二人の先輩。
僕はその反応の差を見比べ、右の方に立つ先輩を指差す。
「右、本物ね。反応早いしうるさい」
「先輩、流石に今のはどうかと思います…」
「これが一番手っ取り早いし」
「後で覚えとけよテメーッ!!」
これやると後で殴られるんだよな。うだうだ迷ってジリ貧になるよりかはマシだが。
そんなことを思いつつ、偽物の方の先輩に何発か雷撃を放つ。
「チッ…!!」
感情があるのか、それとも本人を再現しているだけなのか。
距離を取り、舌打ちをかます偽物。
僕は汗を拭う先輩のそばに駆け寄り、考えられる推測を述べる。
「テメ覚えとけよコラ」
「後で聞きますから。シンプルにそっくりな悪党が化けてる感じっすか?
それともコピーが本物越えようとしてる系?」
「アタシを再現できてるかどうかの確認、ついでにアタシの排除。そんなこと口走ってた。
聞いた感じ、他のヒーローんとこにも何体かコピーが行ってるっぽい」
「………」
一瞬、嫌な想像が頭をよぎった。
「つかぬことを聞きますけど」
「なんだ?」
「歴代ヒーローパワー全盛チート野郎とかいたり?」
たまに出るんだよな、歴代ヒーローの力を使ったり、偽物を召喚したりするやつ。
そいつが出てくると、どう足掻いても総力戦になるから嫌なんだが。
僕の問いに、先輩は露骨に顔を歪めた。
「お前が言っちゃったからいるんでねーの?」
「あ」
ごめんゼロ。難易度爆上がりしたかも。
…いや、あいつなら一人でもなんとか勝てるとは思うけど。
いざってときは行かないとな、と思っていると。
先輩の死角に偽物の先輩が躍り出た。
「余裕かましてんじゃねぇ!!」
「うぉっと」
避けられるタイミングで声上げんなバカ。案の定避けられてるし。
そんな罵声すら送る気になれず、僕はガラ空きになった偽物の腹目掛け、蹴りを入れた。
「よっ」
「ぐ、ぁあああっ!?!?」
人工物だろうか。アーマーを纏っているとはいえ、とても人を蹴った気がしない。
その違和感は正しかったのだろう。
蹴りを喰らった箇所から偽物の先輩の肌がひび割れ、そこから爆炎が吹き出した。
「ロボットかなんかか…?
召喚系にしては脆いし再現度低いな…」
思ったより手応えがなかった。
…もしかすると、倒されるまでが役割だったタイプの敵か?だとしたら、余計な事しちゃったぞ。
そんな不安に駆られていると、愕然とする平良さんの声が聞こえた。
「こ、こんなあっさり…」
「いや、なんかクサイなこれ。わざと負け筋辿った感じある」
「あ、やっぱっすか?」
「へ?」
先輩がこう言うんだ。確定と見ていい。
やっちまったなぁ、と今更ながらに後悔し、頭を掻きむしる。
「なんで負けたんでしょ。データ収集達成したとか?」
「んやぁ、私に成り代わる的なこと言ってたし、そりゃないんじゃねーの?知らんけど」
「じゃ、余計な情報渡す前にさっさとくたばったとかっすかね?」
「その線あるな。アタシのスペックじゃ、お前相手に逃げ切れるわけねーし」
なるほど。だから逃げを捨てたわけか。
僕たちが推察を繰り広げていると、平良さんがおずおずと声を上げた。
「あのう…、それ、私らの偽物もいる可能性とかって…」
「あるねぇ」
「お前のフルスペックコピーとか出されたら終わるな。強化形態出されたらもう目も当てられんぞ」
「っすね」
「誰が勝てるんですかそんなの!?」
「評価が高いのは嬉しいんだけど、強化形態の僕に勝てる人なんてそこそこいるからね?」
パッと思いつくのは、ゼロと先輩。あとイーターちゃんも頑張ればいけると思う。
…強化形態までコピーされてる可能性は限りなく低いけど。
滅多に使わないし、そもそもデータがあるからで再現できるような代物じゃない。過去に再現を試みたバカは、理性全部吹き飛んだ挙げ句、自壊しながら大暴れしていた。
そこまで心配することでもないだろ、と思っていると。
「しゃーねー。合流したほうがいいな」
「え゛」
とてもじゃないが、受け入れ難い案が出された。
喉奥から変な声が出てしまった。が、そのことを気にしている余裕はない。
僕は冷や汗を垂らし、なんとか先輩に思いとどまってもらうよう説得を試みる。
「い、いや、ゼロだけでも足りますって。むしろ過剰ですって」
「いや、無理だろ。コピーのお前とコピーのゼロがモノホンゼロをタコ殴りにしてる姿、ありありと見えるぞ」
「ぬ、ぬぐっ…」
あり得る。あり得るけども。
頭ではわかっているのだ。だが、どうも体が受け付けない。
逡巡する僕に、先輩が呆れた目を向けた。
「そんなに会いたくないか?」
「いや、まあ…、正直」
「ダメだからな。もう決めたからな」
「………………あい」
ダメだこれ。なにを言っても先輩の考えが覆るような気がしない。
今回ばかりは仕方ないと無理矢理に飲み込み、項垂れるように頷いた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「ふーっ…」
ちきっ、と音を立て、男が刀を下ろす。
刹那。周囲を爆炎が彩り、男のシルエットを照らした。
倒したコピーはこれで十数体。どれもこれも、男にとっては変身するまでもない相手だった。
この騒動の元はどこにいるのか。そう遠くはないと聞いているが、ここまで暴れても姿が見当たらない。
疑問に思った、その時。
軍服姿の男が爆炎を裂き、現れたのは。
「お前がゼロだな?」
よくよく見ると、その腕には見慣れないデバイスが装着されている。
同業か、それとも今回の騒動の大元か。
男は警戒を悟られぬよう、努めて冷静に問いかけた。
「見慣れないな。新人か?」
「ああ。生まれたてだ」
刹那、軍服姿の男が独特なデザインの銃を取り出し、放つ。
そんな芝居など見抜いていたのか、それとももとよりそのつもりだったのか。
男はため息混じりに弾丸を裂き、その鍔に収まった宝石に手を当てる。
「これから、無二となる」
「『お前らのような制御できない善意のボランティアは要らない』と言いたいんだろ。
その手の大義名分は聞き飽きた」
以前にも似たような騒動を経験したな、と男に呆れが浮かぶ。
「ユニゾン」
男が静かに告げ、宝石を押し込む。
瞬間。男の背から鉤爪にも似た棘が突き出、その体を刺していく。
まるで抜け殻を破るように、男の体から肌の色が消える。
やがて現れたのは、銀、紫、黒の三色。
目元を覆う紫の被膜に、側頭部から幾重にも伸びる銀色のツノ。
肌に食い込んでいるように見える骨のような装甲。
バーテクス…シュウヤに似て非なる姿のそれは、手に持った刀の先を軍服の男に突きつけた。
「目障りだ。無に帰せ」
シュウヤ/バーテクス…先輩とはそこそこ長い付き合いなので、半端な偽物はすぐわかる。それでもわからなかったら「太った?」って聞く。今回はそのパターンだった。
遠藤先輩…スレンダーな上、アーマーのデザインのせいで太ったことがすぐにわかってしまうため、徹底して体型維持してる。そのため「太った?」と聞かれるとめちゃくちゃ怒る。実際に太ったかは彼女しか知らない。
平良 なごみ…いくら意図があるとはいえ、先輩のノンデリ発言にドン引き。ヒーローになってからは体型維持に苦心しているものの、甘味の誘惑に負けて後悔しがち。
ゼロ…シュウヤと同じ、クリーチャーと同化してるタイプのヒーロー。変身前でもめちゃくちゃ強い。剣術は実家の流派。なお、その実家は家族ごと消し飛んでる。