劇場版規模の敵が週一でやってくるんだが   作:鳩胸な鴨

22 / 22
偽物騒動

今週も変わらず日曜日が来た。

憂鬱だ。頼むから、もう1日休みを増やしてほしい。…社会経済的に考えると、そんなわけにはいかないんだろうけど。

いつもと同じ怨嗟を抱きながら、僕は待ち合わせ場所の公園へと向かう。

予知された座標からは少し遠いし、もうしばらくは暇だろう。コンビニで菓子でも買って持ち寄ろうか。

浮かんでは消える誘惑に揺れていると、背後から「せんぱーい!」と元気な声が響いた。

 

「おはようございます!」

「おはよ。日曜の朝なのに元気だね」

「そうですかね?」

「普通は僕みたいに肩を落としてトボトボ歩くもんだよ」

「それは肉体的にも精神的にも不健康な気がします…」

 

経験を積んだ故の弊害だ。

重い足取りで公園へと向かう僕に、平良さんが怪訝そうに問いかける。

 

「…先輩、トボトボ歩いてます?」

「気持ちだけね。実際にやると先輩にどやされる」

「前々から思ってたんですけど、先輩は精神が不健康だと思います…」

「自覚してる」

 

健康な精神なら、ゾンビアタックを基本戦法にしてない。

世界が僕を健康にさせてくれないんだ。よって、この世界が悪い。

…自分で思ったけど、いつまで経ってもダイエットしないデブみたいな思考だな。

余計に不健康になりそうだから、これ以上考えるのはやめておこう。

 

「……ぁ……!」

「…………ぉ!」

 

揉め事だろうか。公園の方から怒鳴り声が聞こえる。

ただでさえ日曜の朝なのだ。こんな日くらいは大人しく避難してほしい。

 

「なんでこんな日に揉め事起こすかね…」

「………あれ?片方、遠藤先輩じゃないですか?」

「え?」

 

平良さんに言われ、目を細める。

…確かに、炎が舞っているのが見える。

あの不自然な炎の動き。確実に先輩がそこにいる。しかもアーマーを纏って。

 

「あー、一番めんどくさいパターンだこれ…」

「予知が外れたとかですか?」

「いんや、大暴れする前の試金石代わりに僕ら選んだんだろうね。

なんにせよ、助太刀した方がよさそうだ」

 

このタイミングで襲ってくる相手に勝てた事、ほぼないけど。

いつでも逃げ出せるよう、バイクを出せるように構えておこう。

変身しながら公園へと走る最中、魔法少女となった平良さんがふと声を上げた。

 

「あの…、遠藤先輩、二人いません?」

「………いるねぇ」

 

うっわ。コピー騒動系かよ、面倒くさい。

いや、極論なんでも面倒くさいんだけど。その中でも特に面倒なの引いちゃったぞ。

本体と同スペック程度のコピーが無限に召喚される系か、それとも高スペックな偽物だけ湧いて出た感じか。

 

「すんごいそっくりですけど」

「そっくりだねぇ」

 

…先輩のコピーな時点で前者か。

高スペックな偽物は総じて見た目がちょっと違う。

今回の場合は先輩まんまだし、あっても先輩のスペックと同程度だろう。

しかし、困った。見た目はもちろん、両者の実力も戦闘スタイルも瓜二つで、僕でも見分けがつかない。

どこに力入れてんだ国。とっととシェルター作れ。

平良さんもどっちがどっちだかわからないのか、目を回して僕に問いかけた。

 

「ど、どっちに加勢したらいいんでしょう?」

「ごめん、僕もわかんないや」

「えっ!?」

 

果たして、どっちを殴ればいいんだか。

僕たちが迷っていると、二人の先輩がこちらに気付いた。

 

「二人とも見てねーで手伝え!!」

「何勝手に…っ、おい、シュウヤ、なごみ!こっちだこっち!」

「え、えっ…!?ど、どうしましょう!?」

「なるほど。意思疎通は可能と。ならアレでいいかな」

 

気は進まないが。

ため息を吐き、僕はよく聞こえるように声を張り上げた。

 

「せんぱーい!腰アーマーに肉乗ってる方が本物でいいっすよねー!?」

「「言うなゴラァァアアッッ!!!」」

 

ほぼ同時に怒鳴る二人の先輩。

僕はその反応の差を見比べ、右の方に立つ先輩を指差す。

 

「右、本物ね。反応早いしうるさい」

「先輩、流石に今のはどうかと思います…」

「これが一番手っ取り早いし」

「後で覚えとけよテメーッ!!」

 

これやると後で殴られるんだよな。うだうだ迷ってジリ貧になるよりかはマシだが。

そんなことを思いつつ、偽物の方の先輩に何発か雷撃を放つ。

 

「チッ…!!」

 

感情があるのか、それとも本人を再現しているだけなのか。

距離を取り、舌打ちをかます偽物。

僕は汗を拭う先輩のそばに駆け寄り、考えられる推測を述べる。

 

「テメ覚えとけよコラ」

「後で聞きますから。シンプルにそっくりな悪党が化けてる感じっすか?

それともコピーが本物越えようとしてる系?」

「アタシを再現できてるかどうかの確認、ついでにアタシの排除。そんなこと口走ってた。

聞いた感じ、他のヒーローんとこにも何体かコピーが行ってるっぽい」

「………」

 

一瞬、嫌な想像が頭をよぎった。

 

「つかぬことを聞きますけど」

「なんだ?」

「歴代ヒーローパワー全盛チート野郎とかいたり?」

 

たまに出るんだよな、歴代ヒーローの力を使ったり、偽物を召喚したりするやつ。

そいつが出てくると、どう足掻いても総力戦になるから嫌なんだが。

僕の問いに、先輩は露骨に顔を歪めた。

 

「お前が言っちゃったからいるんでねーの?」

「あ」

 

ごめんゼロ。難易度爆上がりしたかも。

…いや、あいつなら一人でもなんとか勝てるとは思うけど。

いざってときは行かないとな、と思っていると。

先輩の死角に偽物の先輩が躍り出た。

 

「余裕かましてんじゃねぇ!!」

「うぉっと」

 

避けられるタイミングで声上げんなバカ。案の定避けられてるし。

そんな罵声すら送る気になれず、僕はガラ空きになった偽物の腹目掛け、蹴りを入れた。

 

「よっ」

「ぐ、ぁあああっ!?!?」

 

人工物だろうか。アーマーを纏っているとはいえ、とても人を蹴った気がしない。

その違和感は正しかったのだろう。

蹴りを喰らった箇所から偽物の先輩の肌がひび割れ、そこから爆炎が吹き出した。

 

「ロボットかなんかか…?

召喚系にしては脆いし再現度低いな…」

 

思ったより手応えがなかった。

…もしかすると、倒されるまでが役割だったタイプの敵か?だとしたら、余計な事しちゃったぞ。

そんな不安に駆られていると、愕然とする平良さんの声が聞こえた。

 

「こ、こんなあっさり…」

「いや、なんかクサイなこれ。わざと負け筋辿った感じある」

「あ、やっぱっすか?」

「へ?」

 

先輩がこう言うんだ。確定と見ていい。

やっちまったなぁ、と今更ながらに後悔し、頭を掻きむしる。

 

「なんで負けたんでしょ。データ収集達成したとか?」

「んやぁ、私に成り代わる的なこと言ってたし、そりゃないんじゃねーの?知らんけど」

「じゃ、余計な情報渡す前にさっさとくたばったとかっすかね?」

「その線あるな。アタシのスペックじゃ、お前相手に逃げ切れるわけねーし」

 

なるほど。だから逃げを捨てたわけか。

僕たちが推察を繰り広げていると、平良さんがおずおずと声を上げた。

 

「あのう…、それ、私らの偽物もいる可能性とかって…」

「あるねぇ」

「お前のフルスペックコピーとか出されたら終わるな。強化形態出されたらもう目も当てられんぞ」

「っすね」

「誰が勝てるんですかそんなの!?」

「評価が高いのは嬉しいんだけど、強化形態の僕に勝てる人なんてそこそこいるからね?」

 

パッと思いつくのは、ゼロと先輩。あとイーターちゃんも頑張ればいけると思う。

…強化形態までコピーされてる可能性は限りなく低いけど。

滅多に使わないし、そもそもデータがあるからで再現できるような代物じゃない。過去に再現を試みたバカは、理性全部吹き飛んだ挙げ句、自壊しながら大暴れしていた。

そこまで心配することでもないだろ、と思っていると。

 

「しゃーねー。合流したほうがいいな」

「え゛」

 

とてもじゃないが、受け入れ難い案が出された。

喉奥から変な声が出てしまった。が、そのことを気にしている余裕はない。

僕は冷や汗を垂らし、なんとか先輩に思いとどまってもらうよう説得を試みる。

 

「い、いや、ゼロだけでも足りますって。むしろ過剰ですって」

「いや、無理だろ。コピーのお前とコピーのゼロがモノホンゼロをタコ殴りにしてる姿、ありありと見えるぞ」

「ぬ、ぬぐっ…」

 

あり得る。あり得るけども。

頭ではわかっているのだ。だが、どうも体が受け付けない。

逡巡する僕に、先輩が呆れた目を向けた。

 

「そんなに会いたくないか?」

「いや、まあ…、正直」

「ダメだからな。もう決めたからな」

「………………あい」

 

ダメだこれ。なにを言っても先輩の考えが覆るような気がしない。

今回ばかりは仕方ないと無理矢理に飲み込み、項垂れるように頷いた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「ふーっ…」

 

ちきっ、と音を立て、男が刀を下ろす。

刹那。周囲を爆炎が彩り、男のシルエットを照らした。

倒したコピーはこれで十数体。どれもこれも、男にとっては変身するまでもない相手だった。

この騒動の元はどこにいるのか。そう遠くはないと聞いているが、ここまで暴れても姿が見当たらない。

疑問に思った、その時。

 

軍服姿の男が爆炎を裂き、現れたのは。

 

「お前がゼロだな?」

 

よくよく見ると、その腕には見慣れないデバイスが装着されている。

同業か、それとも今回の騒動の大元か。

男は警戒を悟られぬよう、努めて冷静に問いかけた。

 

「見慣れないな。新人か?」

「ああ。生まれたてだ」

 

刹那、軍服姿の男が独特なデザインの銃を取り出し、放つ。

そんな芝居など見抜いていたのか、それとももとよりそのつもりだったのか。

男はため息混じりに弾丸を裂き、その鍔に収まった宝石に手を当てる。

 

「これから、無二となる」

「『お前らのような制御できない善意のボランティアは要らない』と言いたいんだろ。

その手の大義名分は聞き飽きた」

 

以前にも似たような騒動を経験したな、と男に呆れが浮かぶ。

 

「ユニゾン」

 

男が静かに告げ、宝石を押し込む。

瞬間。男の背から鉤爪にも似た棘が突き出、その体を刺していく。

まるで抜け殻を破るように、男の体から肌の色が消える。

やがて現れたのは、銀、紫、黒の三色。

目元を覆う紫の被膜に、側頭部から幾重にも伸びる銀色のツノ。

肌に食い込んでいるように見える骨のような装甲。

バーテクス…シュウヤに似て非なる姿のそれは、手に持った刀の先を軍服の男に突きつけた。

 

「目障りだ。無に帰せ」




シュウヤ/バーテクス…先輩とはそこそこ長い付き合いなので、半端な偽物はすぐわかる。それでもわからなかったら「太った?」って聞く。今回はそのパターンだった。

遠藤先輩…スレンダーな上、アーマーのデザインのせいで太ったことがすぐにわかってしまうため、徹底して体型維持してる。そのため「太った?」と聞かれるとめちゃくちゃ怒る。実際に太ったかは彼女しか知らない。

平良 なごみ…いくら意図があるとはいえ、先輩のノンデリ発言にドン引き。ヒーローになってからは体型維持に苦心しているものの、甘味の誘惑に負けて後悔しがち。

ゼロ…シュウヤと同じ、クリーチャーと同化してるタイプのヒーロー。変身前でもめちゃくちゃ強い。剣術は実家の流派。なお、その実家は家族ごと消し飛んでる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【悲報】ビビリの俺、ホラー漫画に転生してしまう(作者:青ヤギ)(オリジナル:現代/ホラー)

モブに厳しい過酷なホラー漫画の一般人として転生してしまった。▼隣の家にちょうど主人公である「孤高で銀髪赤眼の美少女霊能力者」が住んでいたので怪異から守ってもらおうと近づいたら……物凄い勢いで依存されてしまった件。▼尚、原作は美少女たちの友情をメインにしたお色気要素がかなり強めの作風である。▼小説家になろう様、カクヨム様とのマルチ投稿です。


総合評価:29888/評価:8.85/連載:125話/更新日時:2026年09月23日(水) 18:43 小説情報

ミレニアム首席技術者ノルムーなのだ!!!(作者:モコマリ)(原作:ブルーアーカイブ)

「ミレニアム首席技術者!ノルムーなのだ!!」▼火急の案件を終え久しぶりの帰宅、次の日はようやく推しの実装日!!さぁさっさと寝よう…と思っていたら・。▼これはノルムー(見た目だけ)転生してしまった一般男性?が、キヴォトスでおもしろおかしくトラブルに巻き込み巻き込まれて行く…そんなストーリー


総合評価:3635/評価:8.24/連載:12話/更新日時:2026年09月15日(火) 17:30 小説情報

トニー・スターク先生(作者:DRYSUPER)(原作:ブルーアーカイブ)

指を鳴らしたトニー・スターク。▼次に目を覚ました場所は、銃を携えた少女たちが暮らす学園都市「キヴォトス」だった。▼※映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』終盤から分岐する、『ブルーアーカイブ』とのクロスオーバー二次創作です。両作品のネタバレ、独自設定・解釈を含みます。


総合評価:3335/評価:8.88/連載:8話/更新日時:2026年09月25日(金) 14:30 小説情報

新人先生はネタバレ生徒しか引けない(作者:KuRoNia)(原作:ブルーアーカイブ)

シャーレに着任したばかりの先生が、シッテムの箱で見つけた『募集』機能。▼それは、シャーレに入部届を出している生徒をランダムで呼び出す、いわゆるガチャのようなものだった。▼軽い気持ちで初回募集を行った先生の前に現れたのは、臨戦状態のホシノと黒いドレス姿のシロコ。▼だが先生は、まだアビドスにも行っていない完全な新人先生だった。▼「うへ……最序盤じゃん」▼「ん、ネ…


総合評価:14613/評価:8.91/連載:92話/更新日時:2026年09月25日(金) 00:00 小説情報

元パーティーメンバーに『ざまぁ』されないように世界の果てまで逃げる(作者:hoge55)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

日本人である前世の記憶を持つ男が自分のことを主人公だと思って人生を謳歌していると、パーティーを組んだ少年が“無能”と呼ばれて強烈な主人公力を持っていたため分からされていると、その少年が追放されたのを見て気付いた。▼「これ“ざまぁ”されるやつでは?」▼最強となった少年に“ざまぁ”されないように逃げて、誰にも脅かされないスローライフを送るまでのお話。


総合評価:11348/評価:7.08/完結:7話/更新日時:2026年07月05日(日) 20:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>