ありふれたかもしれないIFの世界   作:uruka

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ラーメン餃子さんからのリクエストです。


転移先のIF

もし、トラップに巻き込まれたとき、転移した先がユエがいる部屋だったら。

そんなIFのお話。ルートは1つ。

※トラップ発動までカット

 

 

 

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。

 

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが・・・間に合わなかった。

 

部屋の中に光が満ち、ハジメ達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

ハジメ達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

尻の痛みに顔をしかめながら周りを見渡す。どうやら、メルド団長たちも含め、全員がここに転移してしまったようだ。

 

「・・・だれ?」

 

その声は、とても良く響いた。その声がした方に全員が目を向ける。暗くて見えづらいが、何やら箱みたいなものがあるようだ。

 

ハジメや香織、メルドはその声がした近くにいたため声がした方に向かって歩き出した。

 

近くに行くと、どんな形なのかがよく見えた。金属か何かでできた立方体に、全裸の少女が埋め込まれているような形だ。少女は生きているらしい。

 

「あなたは・・・誰?どうして・・・ここにいるの?」

 

香織の質問にその少女は答える。

 

「・・・私、吸血鬼の末裔。先祖返りで、すごい力持ってる。国のために頑張った・・・だけど、ある日・・・家臣のみんな・・・お前はもういらないって・・・力があって殺せないから、封印するって・・・それで、ここに」

 

「・・・君、どこかの国の王族だった?」

 

ハジメの質問に、少女はコクコクと頷く。

 

「殺せないって?」

 

「・・・勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

 

「・・・すごい力ってそれか・・・そりゃ、殺せないよね」

 

「それもだけど、魔力を直接操れる。陣もいらない」

 

『なるほど・・・魔力を直接操れるなんて魔物と同じだ。良いように利用されて、最後は迫害されて封印される、か』

 

そうハジメが思案にふけっていると、少女がか細い声で言った。

 

 

「助けて・・・」

 

 

その声を聞いて少女の方を見ると、身体が震えている。よくよく見てみると、涙も流していた。

 

その言葉を聞き、無言で手を立方体に押し付け、『錬成』と唱える。しかし、抵抗が強すぎてバチッと弾かれてしまった。

 

「だめだ。抵抗が強すぎる・・・そもそも、魔力が僕では全然足りない」

 

その言葉を聞いて、メルドがハジメに言った。

 

「俺の魔力を使えないか?効率は悪いが、俺ならお前に魔力を渡すことができる」

 

そう言って、肩にメルドは手を乗せた。そして、何か気持ち悪いぐらいに生温いものがハジメの身体を駆け巡る。その時、ハジメは魔力が回復していくのを感じた。

 

そしてもう一度錬成してみるが、それでもやっぱり弾かれてしまった。

 

「・・・やっぱりだめか。俺でも無理なら、ここの全員の魔力をハジメに渡しても・・・」

 

そう呟いたとき、少女が言った。

 

「それ、私もできる。・・・ちょっと、血を吸わせて」

 

「「「「「「「「「「はい?」」」」」」」」」」

 

ハジメや香織、メルドどころか周りにいて話の行く末を見守っていた騎士や龍太郎たちも素っ頓狂な声を上げた。

 

え、チンピラーズは何してるんだって?全裸の少女を見てゲスな考えをしていたので騎士にしばかれていたぞ。多分5時間は目が覚めないだろう。

 

「私、吸血鬼。吸った血を魔力に変換させられる」

 

その説明で聞いていた人のほとんどは理解できた。ならば、とハジメが少女に血を吸わせようとすると、香織が止めた。

 

「ハジメくんはこれを錬成しなきゃいけないんだから、体調は万全でいないと。ここは私が」

 

というのは建前で、本音はこれだ。

 

『まだ私もハジメくんの血は吸ったことないのに!それは私が先なんだから!』

 

ということらしい。『まだ』の部分が今後しようと考えているのだと思うと恐ろしい。

 

そうして、香織は少女に肩辺りから血を吸わせた。15秒ほどして口を離したあと、今度はハジメに呼びかけた。

 

「じゃあ、私に触れて」

 

そう言われたハジメは、少女の頬に手を当てる。一瞬だけ隣から殺気が来たような気がする。気のせい気のせい。

 

すると、手のひらから何かが来た。メルドのときとは違い、生温くはなくてむしろ心地よい温かさだ。

 

今のハジメたちは知る由もないが、このようにして魔力を他人に渡すとき、魔力の変換効率が高いほど心地が良いものになるそうだ。また、低いほど気持ち悪くなる。つまり、メルドは魔力の変換がド下手だということ。

 

しかし、なぜだろうか。最初は心地よかったはずなのに、今は気分が悪くなってきた。

 

「良い忘れてたけど、今は強制的に魔力袋を拡張してる。気分が悪くなるけど我慢して」

 

「ちょっとそれは先に言ってほしかったな!?」

 

まあ、ハジメは自分の魔力が少ないことを自覚しているので、甘んじて受け入れる。それにしても、長い。更に気分が悪くなる。

 

「あと多分、私は君の魔力量の・・・軽く100倍はある。まだまだ続くけど頑張って」

 

「いや、それも、先に、言って・・・」

 

 

 

10分後。

 

まずい。本当に気分が悪い。一瞬でも気を抜くと背中から倒れてしまいそうだ。

 

自覚はしていないが、ハジメの顔色は赤くなったり青白くなったりと不安定すぎる。隣にいる香織が回復魔法をかけ続けているのだが、これは体調不良の類ではないようでほとんど効果は現れていない。

 

そして、更に5分後。

 

もう倒れてしまおうかと考えたとき、気持ち悪さが収まりだした。手のひらの方に意識を向けると、温かいものは消えていた。

 

「ん、終わった。これで私とほとんど同じ魔力量になったはず」

 

そう言われ、ハジメは自分のプレートを取り出してみる。

 

==========================

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:26

 

天職:錬成師

 

筋力:15

 

体力:15

 

耐性:507

 

敏捷:15

 

魔力:13651

 

魔耐:4869

 

技能:錬成・言語理解

 

==========================

 

・・・いちまんさんぜんろっぴゃくごじゅういち?・・・よんせんはっぴゃくろくじゅうきゅう?

 

もう、桁がおかしい。というか、ドサクサに紛れて耐性も上がっている。なんだ507って。光輝でさえ300に到達していないはずなのに。

 

「ハジメくん、今は考えることはやめてあの子を助けてあげよう?」

 

「あ、そうだね、白崎さん」

 

そう言って、改めて立方体に右手を当てる。

 

そして、フゥー、と息を吐き出し、改めて少女の方を見る。期待するような目だ。

 

「行くよ・・・『錬成』」

 

そう言うと同時、ハジメの手と立方体の接触部分から紅い閃光がほとばしった。

 

さっきも言っていたが、この立方体は非常に抵抗が強い。人外レベルの魔力量になった今でも錬成させることは至難の業だ。

 

「ぐう、ぅ・・・」

 

無理矢理錬成しているせいで、ハジメの身体に走る魔力回路は悲鳴を上げだした。腕どころか、目、耳・・・身体中至る所から血が吹き出し始めた。

 

「ハジメくん!?」

 

香織はそう言ってハジメに回復魔法をかけ始める。だが、治ったところからまた血が吹き出始めており、終わりが見えない。

 

「まだ、まだ・・・」

 

そう言って、更に錬成の出力を上げる。紅い閃光だったものが蒼いものに変化した。

 

その直後、ハジメの手と接触している部分が融解し始めた。それは、この場にいる全員の希望になる現象。

 

ならば、とハジメは自分の血が吹き出ることもお構いなしに錬成の出力を上げ続ける。

 

「持ってきなよ、僕の全て・・・!」

 

そして閃光が黒く染まったとき、ドロリと立方体が溶け出した。

 

それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太ももと彼女を包んでいた立方体が流れ出す。

 

彼女の体はやせ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。

 

そのまま、体の全てが解き放たれ、女の子は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。どうやら立ち上がる力がないらしい。

 

香織は自分が身に着けている上着を少女に被せる。ハジメは極度の疲労感で地面にへたり込んでおり、息を整えている。

 

そして、ハジメの手を少女は握る。弱々しい、力のない手だ。

 

「助けてくれて、ありがとう」

 

「・・・どういたしまして」

 

疲労で顔をしかめながらも、笑顔を作り出す。

 

「そういえば聞いてなかったけど、あなた、名前は?」

 

そう、香織が少女に聞いた。少しだけ考えるような素振りを見せてから、言った。

 

「名前・・・付けて」

 

「「え?」」

 

まさか、長い間幽閉され続けて自分の名前を忘れてしまったのか、と思ったがどうやら違うらしい。

 

「前の名前はもういらない。・・・新しい名前、お願い」

 

そう言われ、少しだけ考える。

 

「『ユエ』なんてどうかな。僕達の故郷で『月』を意味する言葉なんだけど・・・」

 

「・・・ユエ、ユエ・・・」

 

「嫌なら新しいのを考えるけど・・・」

 

「んっ、大丈夫。・・・今日から私はユエ」

 

「私は香織。白崎香織」

 

「僕はハジメ。南雲ハジメだ」

 

そう話していると、メルトが急に叫びだした。

 

「お前ら、今すぐここから離れろ!上から何かデカいやつが来る!」

 

そう言われ、ハジメたちはその場から走って逃げる。直後、ドズゥゥン、となにか巨大なものが落下してきたような音がした。

 

姿は、巨大なサソリ。サイズは・・・全長5メートルレベルか。

 

ああ、そうだ。ここでさっき書いたことを訂正しておこう。

 

チンピラーズは5時間は目覚めないだろうと書いていたが、永遠に目覚めないことが確定してしまった。

 

「クソっ・・・お前ら、ここは俺達が時間を稼ぐ!どうにかしてここから離れろ!」

 

その直後、紫色の液体が毒針部分から噴出された。

 

それは避けられたが、地面についたそれはジュワァアアと地面を溶かし始めたのだ。

 

尾から放たれる毒液を避け、振り下ろされる爪をなんとか避け続けて攻撃する。だが、あまりにも表皮が硬すぎて一切の攻撃が通らない。さらに、騎士の何人かは吹き飛ばされてしまい腕を骨折すると言った怪我を負ってしまっていた。どうすれば良いのかと全員が考え始めたとき、ユエがハジメに抱きついた。

 

「「ユエ(ちゃん)!?」」

 

「2人とも、信じて」

 

そう言うと、ハジメの首元に噛みついた。

 

首筋にチクリと痛みを感じた。そして、体から力が抜き取られているような違和感を覚えた。

 

咄嗟に振りほどこうとしたハジメだったが、ユエが自分は吸血鬼だと名乗っていたことを思い出し、吸血されているのだと理解する。

 

『信じて』は『逃げないで』ということ。

 

そして、30秒ほど経過しただろうか。

 

「ん・・・ごちそうさま」

 

そう言って、妖艶に唇を舐める。

 

その直後、ユエは、おもむろに立ち上がりサソリモドキに向けて片手を掲げた。

 

その時、ハジメは何か不安を感じた。そして、こういうときの不安はよく当たる。

 

「メルドさん!騎士の皆さん!逃げて!」

 

2秒後、その華奢な身からは想像もできない莫大な魔力が噴き上がり、彼女の魔力光なのだろう――黄金色が暗闇を薙ぎ払った。

 

そして、神秘に彩られたユエは、魔力色と同じ黄金の髪をゆらりゆらゆらとなびかせながら、一言、呟いた。

 

『蒼天』

 

その瞬間、サソリモドキの頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がる。

 

直撃したわけでもないのに余程熱いのか悲鳴を上げて離脱しようとするサソリモドキ。

 

だが、奈落の底の吸血姫がそれを許さない。ピンっと伸ばされた綺麗な指がタクトのように優雅に振られる。青白い炎の球体は指揮者の指示を忠実に実行し、逃げるサソリモドキを追いかけ……直撃した。

 

「グゥギィヤァァァアアア!?」

 

サソリモドキがかつてない絶叫を上げる。明らかに苦悶の悲鳴だ。着弾と同時に青白い閃光が辺りを満たし何も見えなくなる。ハジメと香織は腕で目を庇いながら、その壮絶な魔法を唯々呆然と眺めた。

 

そして閃光が止んだとき、サソリは瀕死の状態だった。

 

「お前ら!今のうちにとどめを刺すぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

かろうじて被害範囲から逃れたメルドと騎士たちがもう一度サソリへと走る。そして。

 

「キシュァアアアアアア!!!!!」

 

叫び、ゆっくりと傾いて倒れる。

 

討伐、完了だ。

 

 

 

さて、ここからどうしようか。

 

ここには水もなければ食料もない。だが、水はなんとかなる。

 

魔法で水を生成し、それをハジメが作った器などで蒸留すれば良い。問題は食料だ。

 

魔法で食料は生み出せない。ハジメは本で読んで知っていたが、魔物の肉は人間にとって猛毒であり、食べると身体が崩壊して死に至るのだという。

 

その結果、皆で話し合って決めたことは、ハジメの魔力に身を任せ壁を錬成し続けて地上へと向かうというもの。

 

正直ここが地上からどれだけ離れているのかはわからないが何もしないよりは絶対マシだ、ということで否定意見は出たもののまあしょうがないかという雰囲気だった。

 

そしてできるだけ多くの水を蒸留してから、上へと向かう。ハジメが先頭で、その隣にメルド。後ろには香織と騎士が1人。その後ろにクラスメイトたちが並び、最後尾には残りの騎士が全員だ。

 

 

 

何度か階層の床を錬成してしまって魔物と遭遇しかけた時もあったが、そのたびに壁の中に逃げ込むことで難を逃れられていた。

 

体力がなくなってしまった女子は体力に余裕のあるクラスメイトや騎士が背負って移動し続ける。

 

ハジメの魔力が残り僅かになったらそこに広い空間を作って休む。

 

 

 

そしてハジメの魔力が空になってから3回目の挑戦。ハジメの魔力が残り2割に到達するかというとき、水が垂れてきた。ハジメの頭上に。

 

「・・・ん?」

 

持ってきた水をこぼしてしまったわけではない。急にそこに水が現れたかのようだった。

 

疲労と空腹でまともな思考ができなかったのか、ハジメはその垂れてきた水を口にいれる。

 

「・・・は?」

 

ありえない感覚だった。魔力が急に回復したかのような。

 

「・・・どうした、ハジメ。何かあったか?」

 

「いえ、その・・・魔力が回復する水がありまして」

 

その言葉にメルドは驚愕の表情を作ったあと、何かを思い出そうとしているような仕草を見せる。

 

「何だったか、どこかの文献でそのような記述があった気が・・・」

 

そして何かを思い出したのか騎士の一人を呼び、その水を飲んでみろと呼びかける。

 

その騎士は骨折しているうちの1人だ。そして、その騎士が水を口に含む。

 

そして、またもや驚愕の表情を作る。

 

「う、腕が!治った!?」

 

その騎士を見ながらメルドはハジメに話しかける。

 

「おそらく、それは『神結晶』という鉱物の一種だ。非常に珍しく、俺も実物は見たことがない。特徴は、その神結晶から生成される液体は口にした者の魔力や怪我といったあらゆるものを回復させる効果があるらしい。」

 

そのことを聞き、ハジメは周りを錬成し始める。すると光り輝く宝石のようなものが現れた。

 

どうやら、これが神結晶のようだ。そして、メルドは生成された液体を怪我している騎士たち全員に飲ませる。

 

そして、もう一度先に進み始める。神結晶は周りにあった金属で覆い尽くすことでそれ以上液体が生成されないようにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時間・・・いや、何日が経過しただろうか。

 

これまでにあったように階層の床を掘り抜いてしまったようだが、これまでとは何かが違った。

 

・・・そうか。見覚えのある魔物がいるんだ。すぐそこにいる魔物はラットマン。奥に見えているのはあの忌々しいグランツ鉱石。ここは、20階層。

 

その事がわかったとき、1人の例外なく全員が歓喜に包まれた。

 

―――無事に、地上に戻れる。

 

その興奮状態を利用して、全員で階層を上へ上へと登りだす。めちゃくちゃ速い。

 

 

 

 

そして。

 

「無事に、地上に戻ってこれた。・・・帰還、成功だ!」

 

その言葉をメルドが発したとき、全員はもう一度歓声を上げる。

 

4人の死者が出たが、まあ良い。

 

皆無事で、良かった。

 

そんなことを思いながら、ハジメは身体を地面に倒した。

 

――今回最大の功労者に、一時の休息を。




それでは、良いお年を。
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