もし、奈落に落ちたのがハジメだけではなかったら。また、ハジメではなかったら。
そんなIFのお話。ルートは3つ。
※落ちるところまでは原作と似た進みのためカット
ルート3 勇者パーティーと
メルドが魔法発動の合図をして、クラスメイトの魔法がベヒモスに向かっていった。
ただ一つを除いて。
その魔法、火球はハジメの方に方向を変えた。
着弾し、衝撃をもろに食らう。
なんとか踏ん張りみんなの下へ行こうとしたが、三半規管が潰され、足取りもフラフラとしている。
更に悪意が牙を向く。
生きていたベヒモスが殺意をハジメに向けた。
逃げようとするハジメに赤熱化した角を向け、突進してくる。
残された数少ない力を振り絞り、必死にその場を離れた。
刹那、異常とも言える衝撃が周りに広がる。
その衝撃によって、下からヒビの入っていた橋が更に割れていく。
そして、崩壊が始まった。
崩壊し始めた橋では重いベヒモスの体を支えられない。
グアアアア、と悲鳴を上げながら落ちていく。
断末魔が反響する。
ハジメもなんとか逃げようとするが、崩壊のほうが早い。
手を伸ばすが、届かない。
身体が浮遊感に襲われる。
ハジメの心が絶望一色に染まった時、誰も予想していなかったことが起きる。
「ハジメくん!!」
クラスメイトの一人、白崎香織がこっちに走ってきた。
クラスメイトは静止の言葉を投げるが、止まろうとしない。
そのまま、橋があったところから飛び降りた。
ハジメはその光景を見ながら、香織はハジメを視界から離さないようにして。
二人、奈落へと落ちていった。
ハジメに続き、香織も飛び降りてしまった。
そこからはもうパニック状態だ。
なにしろクラスメイトが2人も落ちた。しかも一人は学校の2大女神の一人だ。
光輝や雫は香織の安否を確認しようと穴に近づく。
彼女を助けようとする人間が続いて何人も近づく。一番最初に香織の安否を確認しようとしていた光輝と雫は押されてしまい、身体がよろける。
かろうじて龍太郎の腕が2人を掴む。
だがいくら力があるとはいえ2人を支えることはできなかった。
そして、またもや3人、落ちてしまう。
更にパニックになった生徒たちは今度は穴から逃げようとする。
隣りにいるやつを押しのけ、我先にと逃げ出す。
そしてその衝撃によって、体重が軽い鈴は逆に穴の方に押されてしまう。
そこから先はもうおわかりだろう。結界師の少女は誰にも気づかれず、穴に落ちてしまったのだ。
「・・・ジ・・・くん・・・・・・・・・り・・・て」
なにか声がする。その声にハジメは目を覚ました。
「ハジメくん!?起きた!?・・・良かった・・・」
声をかけてくれていたのは香織だった。
「白崎さん?・・・どうして?」
「忘れたの?ハジメくん。私が守ってあげるって言ったこと」
それを聞き、ああ、そうだったと思いだす。
「そうだったね・・・ありがとう、白崎さん。・・・ところで、ここは?」
「わからない・・・たぶん65階層よりかなり下じゃないかなと思っているけど・・・」
「そう・・・」
すこし、悲しみに暮れる。だが、まずは状況を確認する必要がある。
周りを見てみると、光輝、雫、鈴、龍太郎が川に横たわっていた。
近づいてみて確認すると、全員息はある。濡れたままでいると低体温症の危険もあるため、岸で火を起こして温まろうと提案した。
香織もそのことに賛同し、なんとか全員を岸に運ぶ。
香織に火を起こしてもらい、服を乾かそうとする。だが、そこで思い当たる。
「白崎さん少し離れた場所で、もう一つ火を起こしてくれない?」
香織は疑問に思ったが、慌ててその意図を理解する。
男に女子の下着姿を見せるわけにはいかない。
香織が火を起こした後、錬成でハジメが石壁を作る。
そして香織は雫と鈴の。ハジメは龍太郎と光輝の服を脱がし、火で乾燥させる。
乾くのを待っていると、雫が目を覚ます。
「ここは・・・?・・・香織!?香織は!?」
「落ち着いて雫ちゃん。私はここだよ」
そんな声が聞こえたのか、龍太郎が目を覚ました。
「んあ、ここは・・・?」
体を起こし、周りを見渡す。
「ハジメか・・・?助けてくれたのか?ありがとうな」
火。干された服。下着姿の自分。そして近くの川。脳筋ながらもすぐに状況を理解できた龍太郎はハジメに例を言った。
「そんなことないよ、この火を起こしてくれたのは白崎さんだったし・・・」
「でも火を起こすの提案したのはハジメじゃないのか?・・・てか雫たちはどうした?」
勘がいい。
「八重樫さんや白崎さんの女子はあっちの壁の向こう。あっちは男子禁制だよ」
「ああ、そうか。まあ、とりあえず乾くのを待つか」
服が乾く直前に鈴と光輝も目を覚まし、現状に慌てたが香織と龍太郎から説明を受け一旦は落ち着く。。
乾いた服を着て、脱出しようと上への階段を探し始める。
洞窟を6人は進んでいくが、六人が全員隠れられるほどの障害物は流石にない。そのためときに2人ずつに分かれ、ときに3人で隠れ、時にはハジメが錬成した壁で身を隠して先に進んだ。
そして6人は分かれ道にたどり着く。
どっちに進もうか話し合おうとするが、
「右に行こう!多分大丈夫だ!」
と勝手に光輝が進み始める。
「お、おい待てよ!光輝!」
龍太郎が呼び止めるが聞く耳を持たない。そのまま勝手に進んでいく。
もうどうしようもないためそのままハジメたちは後をついて行った。
そうして進んでいると、前からなにか音がする。
グルルル・・・
なにか動物が唸るような声がし、慌てて雫たちは錬成した壁に身を隠す。
そこにいたのは2本の尾を持った狼と異常に脚が発達している兎だった。
自分たちが見つかったわけではないとホッとするが、その後起きた光景で一気に緊張が高まる。
襲いかかった狼の頭部がなくなっていたのだ。
そのままゆっくりと地面に倒れる。
その場からゆっくりと離れようとするが、背後や横を確認していなかったのが悪かったのだろう。光輝の鎧が壁にぶつかり、
ガチャン
と音を立てる。その瞬間、兎はこっちに振り向く。逃げられないと判断したのか、光輝や龍太郎は武器を構える。
だが、絶望はここからだった。
光輝が構えた聖剣。目を離した一瞬で途中から折れていた。
「は・・・?な、なんで聖剣がおれt「天之河くん!」
その声はハジメだった。光輝は軽い衝撃と重い衝撃を連続でくらってよろける。
軽い衝撃はハジメが光輝を突き飛ばしたもの。重い衝撃はハジメが兎に吹き飛ばされ、光輝に飛んでいった衝撃。
ハジメは戦闘職でもないただの錬成士。なんとか左腕でかばってダメージを減らすことはできたが左腕はひどく破壊され、あらゆる方向に折れ曲がっていた。
「ハジメくん!!」
香織がその腕に回復魔法をかけようとするがまた兎が飛びかかってくる。
「おらあああ!!」
だが今度は龍太郎が防いでくれた。聖剣を失ったことで混乱している光輝は何もできていない。かばうことも、守ることも。
そんな勇者は関係ないと言わんばかりに襲いかかろうとする兎。だが急に動きが止まる。
気のせいかガタガタ震えているようにも見える。
なにかに怯えているように。
事実、兎は怯えていた。
もう片方の通路から現れた、白い毛皮の熊のような魔物に睨まれて。
2メートルほどの体躯、長い爪を持つ腕。
「グルルルル・・」
唸り声を聴いた瞬間、兎は脱兎のごとく逃げ出した。
それはもう普通なら絶対に逃げられるスピード。
しかし、熊の魔物はその巨体に似合わないスピードで兎の魔物に接近した。
長い腕と爪が兎に振るわれる。
兎の魔物は、その一撃をギリギリ躱したかに思えた。
しかし、結果は兎の身体が斜めに切断された。
それは、熊の魔物の固有魔法。
爪の先から更に風の刃を発生させる魔法。
爪は届かなくとも、風の刃で兎の魔物は切り裂かれたのだ。
熊は兎の死骸に歩み寄ると、鋭い爪でウサギの死骸を突き刺し、口に運ぶ。
グチャグチャと生々しく響く咀嚼音が、6人の恐怖を更に掻き立てている。
恐怖で身体が動かない。
兎を食い終わったとき、次はお前たちだとでも言うように振り向いた。
「う、うわぁああああああああっ!!?」
誰よりも先に逃げ出したのは光輝だった。
戦争参加の表明。それをした人間はまさかとは思うが自分が死ぬかもしれないということを一切考えていなかったらしい。濃密な殺気を感じた途端、勇者はその場から逃げ出してしまった。
「光輝!?」
だが、逃げる食料を捕食者が逃がすマネはしない。
『そ、そうだこれはただの悪い夢で、俺はおきたら城で――』
こんなときでも自分に都合のいいように考え続ける。でも内心は現実だとわかっているのだろう。夢だと思っているなら自分に都合のいいことが起きるはずなのだから。
そして最期まで自分に都合のいいように考えられなかった勇者は飛んできた風の刃に首を切断され、その生涯を終えたのだった。
誰もが絶望している最中、ハジメだけは違った。
「錬成!!」
近くにあった壁を錬成し、逃げるための障害物にしたのだ。
「逃げるよ、皆!」
その言葉に鈴、雫、龍太郎は動き出す。だが、香織は固まったままだった。
「白崎さん!!」
ハジメがとっさに腕をつかみ、引っ張って逃げる。
次の瞬間、壁が壊される。
熊は誰がこの壁を作ったのか理解していた。
食料たちが逃げる理由となった人間に殺気を抱く。
ハジメたちが逃げているとき、不意にハジメの左側面を衝撃が走る。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
衝撃に吹き飛ばされる。
2人は先を走っていた3人のところまでまで飛ばされた。
すると、少し遠くに見える熊は『何か』を爪で刺し、持ち上げ咀嚼し始めた。
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「嘘・・・・・・・・・?」
それは人の腕。一瞬見えた手の形からして、左腕だ。
その『何か』はハジメの左腕だった。
「あっ……!?がぁああああああああああああああああっ!?」
ハジメはその事実に絶叫する。
自分の左腕の肘から先が消えていた。
先程の衝撃は風の刃で切り裂かれた衝撃だったのだ。
「いやぁああああああああああっ!?!?」
続けて香織が悲鳴を上げる。
「ハジメ君!? ハジメ君!!」
香織はその左腕を治癒しようとした。
だが、
「れ、錬成ぇぇぇっ!!」
ハジメが後ろの壁に手をつけて錬成を発動させる。
小さな穴が開く。大きさは50cmほどだ。
「錬成、錬成、錬成ぇええっ!!」
何度も壁を錬成し、穴を奥に広くする。
できた穴に4人全員を押し込み、自分も入る。最後の残った魔力で穴を塞ぎ、そのまま気を失った。
なお、このとき光輝の死体は跡形も残らずに熊の胃に消えたことをここに記す。
「ハジメくん・・・大丈夫・・・?」
あの後、香織が治癒魔法をかけ続け、なんとか出血を止めることはできた。だが、気を失ったままのハジメから返事はない。
「光輝も死んで、私達もここで・・・?」
雫は穴の中で悪いことばかり考えてしまう。
「俺達も光輝みたいに・・・?」
「鈴、こんなところで死にたくないよ・・・」
龍太郎と鈴は悲観している。そのとき。
――ピチョン
水滴の音がした。その音を聞いて喉の乾きを覚えた香織は水を探す。
水滴は天井から落ちていた。手のひらに水滴を貯め、口に含む。
そして、違和感を覚える。ハジメを癒やすために使った魔力が全回復したのだ。
気のせいか体力も回復したように感じる。
香織はハジメが目覚めるのを願って水を口に運ぶ。
奇跡の水はハジメの体力と魔力を回復し、更には失った血も復活させた。
左腕を除き元の体調になったハジメは目を覚ます。
目覚めたハジメは様々なことを思い出す。
5人が落ちる原因となったクラスメイト。腕を奪った魔物。こんな世界に呼んだ神。
少年は様々なものに憎悪を抱く。
憎悪の矛先はまず近くの魔物へと向かうのだった。
今回の話こんな終わり方でいいのかなーって思ってるんですよね。何かこうしたほうが良かったんじゃないかって意見があったらぜひコメントに書いてください。