キーンコーンカーン。
騒つく霊界学校の教室で、ひとりコエンマが生徒たちの前に立っている。彼は霊界の長である閻魔大王の息子にして、霊界探偵浦飯幽助の上司。尚も止まぬ生徒の雑談に、これ見よがしに問題用紙をトントンと揃えながら、声を張り上げている。おしゃぶりしておりいかにも赤ん坊だが、これでも1000歳以上。立派な大人だ。
今日は期末テストの日。生徒たちが勉強してきてくれたことを密かに期待していた彼だが、ずらっと並ぶ面はどれも勉強などそっちのけと言わんばかり。期待は脆くも崩れ去る。
「ええいお前たち静かにせんかい!倫理のテスト始めるぞ」
「おええ〜」
全員から大ブーイングの嵐を受けるが、コエンマは負けない。
「何が『おええ』だ、たわけ!先週やると言ったじゃないか。大体お前たちがやりたい放題喧嘩しまくっとるからこういうことになるんだ。ワシはいやいやオヤジの指示に従ってるだけだぞ!いいか、そもそも喧嘩にはルールというものがだな──」
「そんなもの知ってどうする」
ガヤガヤが続く中、徐に生徒席から声が上がった。不気味な笑みを浮かべる小柄な男──戸愚呂兄だ。蒼白い顔に、ウェーブのかかった灰色の長髪。全身から言い知れぬ威圧感と禍々しさを醸し出している。普通にしていればまあイケメンだが、この上ない凶相で台無しだ。ド級の巨体且つマッチョマン、戸愚呂弟の背中に鎮座している。
一方の弟は真っ黒なブロッコリーを思わせるツーブロックで、黒のサングラスをかけておりイマイチ表情はわからない。だが巨体に見合わないおこちゃま椅子に座り、極小の机には杵のようにぶっとい腕を置くスペースもなく、気の毒ですらある。椅子は彼のただならぬ重さでギシギシ悲鳴を上げている。それを気にしてか、この大男は足に力を入れて必死に身体を浮かせようとしている。無表情ながら足をプルプル震わせている様は、さながら水面下で足をもがいているのがバレバレの白鳥のようで、後ろの席の桑原はその意外かつ絶望的なまでの繊細さがどツボにハマったらしく、必死に笑いを堪えている。息を止めているせいか顔が真っ赤になっていて、そのうち酸欠で昇天するかも知れない。
「俺たちにルールなど必要ない。ルールは破るためにあるようなものだ。なぁ、弟よ?目的のためなら手段を選ばずだ」
「だねェ」
戸愚呂兄が凶悪な笑みを浮かべ、見せつけるように長く鋭い爪の拳を握ると、弟も仏頂面でそれに同調する。
「あのなぁー」
コエンマは呆れて反論する気も起きないが、取り敢えずは餅みたいにくっついてるこの兄弟を何とかせねば。
「いつまで弟に張りついとるんだ戸愚呂兄。テストの時くらい一人で座らんかい」
「フッ、我ら兄弟ふたりでひとつ。向かうところ敵はない。テストでも何でもまとめて片付けてやるぞ、ぼ・う・や」
「ワシは坊やじゃない!こう見えても貴様の五十倍は長く生きとるのだ。口のきき方に注意しろ」
「バブゥ」
「くーッ!!もう知らん!どうせお前たち脳筋兄弟にロクな点など取れんわ!」
「ほう。なら満点取った暁には報酬として貴様の命をもらうぞ。いいな?」
「望むところだ!ワシの命をお前の100点に賭けてやる(どうせ無理だし)」
「………腕が鳴るねェ」 ボソ
こうして物騒なテスト時間が始まったのだった。
チッチッチッ
静かだ。
時計の針が動く音だけが聞こえる。そして、戸愚呂兄弟は石のように微動だにしない。兄者はうすら笑いを浮かべたまま、死ね死ねビーム視線をコエンマに送っているが、本人はこたえていないらしい。ガン無視で頬杖をついている。
「はぁ…(´ε` )」
コエンマは眠たくなってきた。怠い、つまらん、やってられん。思わず呼び出しベルを鳴らす。
3分後、ジョルジュ早乙女がやってきた。
「なんか用ですかぁ〜コエンマ様ぁ〜(• ̥̆ •)」
「ジョルジュ、お前ちょっと試験監代われ」
「はぁ?༼☉ɷ⊙༽ 」
「こいつらがテスト中変な真似しないか見てろ。ワシはイカ焼きを食べに行く」
「そんなぁ〜ジョルジュこんな役目無理ですぅ〜すぐ戻ってきてくださいよぉ〜」
「ああーわかった、すぐ戻る(多分2時間後)」
コエンマは鼻歌を歌いながら意気揚々と出て行った。
後に残されたジョルジュ早乙女。
5分もしないうちにブツブツ言い出す。
「あぁ〜なんか寂しいなぁ〜ジョルジュ切な〜い。コエンマ様毎日色んなもん食べられていいなぁ〜ズルイズルーイ」
うーん
うーーん
うーーーん
……………
ん?
帰って来ない。
もう30分。
やだぁ〜
何してんのかしらぁ〜コエンマ様。嫌いだなぁ〜
生徒たちから白い視線を浴びながら辺りをキョロキョロ。
騙されて雑務を押し付けられたのでは、との疑念が濃くなっていき、またやられた〜と頭を抱える。
無責任!いい加減!いっっつもそうなんだから〜ッ!
が!
……( ☉.̫☉)
ジョルジュの目にあるものが留まった。
視聴覚機器の棚のマ・イ・ク
(✧◡✧)キラン
どひゃ〜!思ってもみなかった運命の出会い!ずっと使ってみたかったマイク!ムクムクもたげる自己顕示欲!
よし!歌おう。(何故そうなる)
「アッアッア〜ただいまマイクのテスト中〜。アッアッア〜。バスガス爆発!バスガス爆発!バスガス爆発。ではぁッ歌を一曲!まんげーつのよるぅ〜まんげーつのよるぅ〜なまーめくぅ〜かおぉぉるるりぃにぃぃ〜」
「うるせー!!」(桑原)
「何なんだあいつは」(ドン引きする飛影)
せっかく静かだった教室がまた騒ついてしまった。
さて、ここぞとばかりに動き出したのが戸愚呂の兄者。
「見ろ弟よ、茶番が始まったぞククク。とんだ醜態だな。テストの進捗はどうだ」
「まだ一問も」
「だろうと思った。今がチャンスだぞ」
「チャンスとは?」
「決まってるだろう。カンニングだ」(堂々言うやつ)
「俺は、、品性まで捨てた覚えはないけどねェ」ボソ
「いいから!俺が武態で盗み見してくるから、お前はその答えを書くんだ。わかったな」
「……」
「まず手始めにっと…」
兄者はバレにくいように自らを鉛筆状に変化させた。しかし、鉛筆が不慣れだったせいか凶相顔がそのまま残ってしまい、おまけに芯の麓からラーメン状の髪の毛がはみ出す様となった。(変身した意味あるのかねェ ボソ)
彼は悪目立ちする己に気づかぬまま、教室をざっと見回し狙いを定める。後ろ斜めの雪菜──気弱だがしっかりしているし、真面目そうだから答案用紙もそれなりに埋まっているはず。だが隣の
「ゆ、雪菜さあんッ。今度の土日、俺とッ…ディ、ディズニーランドでもッ…!ウハウハハ」
「まぁ、和真さん♡」
お惚気ムードが最高潮に達したところで、桑原は後ろからツンツンされる。振り返ると至近距離で鉛筆姿の兄者。桑原は邪魔されて腹立つも、彼の謎過ぎる姿にギョッとする。
「な…何だオメェ。キンモ」
「テスト中にナンパとは感心せんな。お前、何しに学校来てる」(どの口が言う天然)
「そーゆうオメェこそ何してんだ、ンな格好で 遊んでる場合かよ」
「これは遊びじゃない」
兄者は仰け反るまでに胸を張り、こう言った。
「カンニングだ」
「自信を持って言うセリフかっつの!」
「それよりお前、さっき弟のこと笑ってたな」
「知らねぇよ!」
「嘘つけ、フフフ聞こえてたぞ。さて、そんな素敵なお前に弟からささやかなプレゼントがあります。さぁ弟よ!」
兄者がくいっと身体を捻り弟に合図すると、弟は前を向いたまま右手だけを桑原に向けた。
「Hasta la vista, baby」
「༼☉ɷ⊙༽ ?」
ボォォン
「うギャアアア〜ウオォ〜◎×△⭐︎♡$%¥!!」
ピュウウウルルルルル〜〜
戸愚呂弟の手から放たれた指弾が桑原に当たり、桑原は教室の壁を突き抜けて遥か彼方へ吹き飛ばされてしまった。
「和真さああん!大変!和真さんがああ涙涙」
パニクる雪菜。しかし誰も反応せず(皆つめてー)オロオロしている間に兄者が詰め寄ってくる。
「さあ、邪魔者が居なくなったところでお前の答案用紙を見せてもらおうか〜」
「駄目です!カンニングはルール違反!先生に言いつけてやるワ(´༎ຶོρ༎ຶོ`)」
「やってみろ〜ただしそのセンコーとやらは今イカ焼き中だ」
兄者は高らかに笑い、ピロっと優樹菜の答案用紙を摘み上げた。
「どれどれ、hmm…弟よ、問2の答えはbだ」
「bねェ」_φ カキカキ
「それから……てお前ッ、一問しか解いてないじゃないか」
「だって、和真さんが〜」
「お黙り小娘ッ! あんなに時間があったのにこれっぽっちとは!勉強をナメてんじゃあねェッ!」(自分めっちゃ棚上げ)
「うわああん、ひどい〜(´༎ຶོρ༎ຶོ`)」
雪菜は顔を手で覆って泣き出してしまった。
すると…
──ガタ。
「おい」
離れたところで椅子から立ち上がる音が聞こえ、小柄な影が近づいてきた。大きな三白眼が兄者を睨みつけている。
「雪菜を傷つけるとは貴様、いい度胸だな」
邪眼師飛影。彼は雪菜の実の兄だが、その事実は伏せている。普段は憎まれ口ばかり叩いているが、雪菜のためなら何かとすっ飛んでくる妹想いのツンデレだ。右腕に巻いた忌呪帯法を解き、封印していた黒龍を放とうとしている。
「炭屑にしてやる」
暗黒の炎を燃え上がらせ、並々ならぬ殺意を兄者に向けた。
「ほう、おもしれェ。やってみろォォォ!」
「フッ、もう後戻りはできんぞ、巻き方を忘れちまったからな。喰らえっ!邪王炎殺…こ…こくッ…」
飛影、炎殺拳の奥義黒龍波を繰り出す時点でまさかのダウン。右腕が疼き、その場に座り込んでしまう。技が完成していないのだ。
「右手が…んううッ」
「おやおや〜どうした。今日は不調か?お気の毒に。答案用紙も真っ白じゃないか。お前は真っ黒だと言うのに、とんだコントラストだなヒョヒョヒョヒョヒョー」
「クッソォォォ」
そこへ戸愚呂弟が徐に口を挟んだ。
「兄者」
「何だ、弟よ」
「あすこに浦飯が座っている。アイツにふっかけるのがいいんじゃないかねェ。主人公だしカッコよく決めてくるはずだ。俺がサシでやりたいところだが…」
「?どうした?」
「便所に行きたい」
「はああ?」
ズッコケる兄者。
「ったく!!トイレくらい試験前に済ませとけよ」
「すまん。ほぼ空気椅子だったから催してきた」
弁明しながら戸愚呂弟は椅子から立ち上がり、早々と教室を出て行った。相当我慢していたのだろう。ちなみにおこちゃま椅子はほぼ力尽きたかのようにペシャンコになっている。
兄者はやれやれと首を振った後、勘づかれぬよう床を這うように浦飯幽助のもとへと近づいた。
浦飯はもはや机上の問題用紙にも答案用紙にも興味がなく、口をとんがらせてボーッとしている。鼻の下と上唇の間に鉛筆を挟み、溜息つきながら「早くおわんねぇかなぁ」、「腹減ったぁ」、「暇で暇で、どうすることもできやしねぇわ〜」などとぼやいている。
「随分と余裕じゃないか、主人公」
机の下からヌゥッと顔を出す兄者。
「おお?戸愚呂か。またけったいなカッコして」
「テストはどうした」
「とっくに終わったさ」
浦飯は面倒くさそうに答える。
「なに!もう終わったのか」
「ああ。ンなもんテキトーにやりゃあいいんだよ。ほれ」
浦飯は頼んでもいないのに自ら答案用紙を押し付けてきた。悔しいがなかなかの気前の良さ。これぞ主人公ならではの余裕、器のでかさなのか。兄者は半ば感心しつつ、答案用紙を見た。
…のだが。
ずらーーーっとa。全部a。他の答えなし。
「何じゃこりゃ」
「テストなんぞやってられっかっての。大体ほとんどマーク式じゃん。全部aにしときゃ、ぜってーどこかで当たるし!」
浦飯は銃を形どった右手を兄者に向けた。
「下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってな!俺!天才!」
爽やかな笑顔でウィンクして見せる。
ズザーズザザザザ。
兄者はひっくり返ってしまった。
だーめだ。こりゃ。
その頃。
「んぬぅ〜ッ。う〜ッ」
3階男子トイレから戸愚呂の唸り声と何かが軋む音が聞こえてくる。そう、戸愚呂弟が個室に入ろうとしているのだ。だが極狭の個室のドアに広い肩幅が引っかかってしまい、力づくで入ろうとしてもうまくいかぬ。足したい用は戸愚呂なだけに大であり、もう「やつ」は顔を出しているというのに、なんという災難だろう。
戸愚呂のイライラは95パーセントに達しつつあった。地響きするような、重々しく、しかし精一杯怒りを抑え込もうとする声で彼は問うた。
「3分でこの便所を平らにしてやろうか」(誰に向かって言う天然)
辺りはしいんとしている。もちろん人っ子1人いないこの便所で答えるものはなく。
ついに戸愚呂の堪忍袋の緒が切れ、拳がゴキっと鳴った。
「よろしい。もうお前に用はない」
青筋を立てたまま、にっと笑い白い歯を見せるや否や「ぬぅおおお〜ッ。うおッ、うおおお〜るあああ!!!」と叫びまくり、筋肉を増強させていく。いよいよフルパワー100パーセントに達した彼は、便所の端から端まで猛ダッシュしつつ、壁という壁を拳で振り抜き破壊していく。
そして3分後。
3階男子便所は見事に瓦礫まみれとなり、ひとつの開けた空間に変わっていた。陽光が差し込み、各々の個室を隔てる壁は取り払われ、便所全体を一望しながら開放感と共に用を足せる仕様に。もしかすると隣同士で談笑もでき、楽しい便活になるかもしれない。これぞ匠の技。感動の大改造ビフォーアンドアフター。
「ふう」
一汗かいた戸愚呂は自分の完璧なまでのリフォームに大満足していた。
「これで、悠々用が足せるねェ」
だが、ズボンを下ろしたところで彼は残酷な事実を突きつけられることとなる。先ほどのひと暴れで身体が力んでしまい、ずっと我慢していた「チョコレートプリン」が出てしまっていたのだ…。拭き取ろうと思い備え付けのトイレットペーパーホルダーを見ると、紙を切らしている。どこを見回してもペーパーというものがない。この学校には「補充」という概念すらないのか。
まもなく男子便所から3階全体に男の慟哭が響き渡った。
「んんんNooooooooo!!!!! 汚い、汚いねェ!!!」
昼下がり。無駄なことにエネルギーを費やす戸愚呂100パーセントであった。
「くぅぅぅ〜ッ、あいつはなにしてる!この兄が体を張ってる時に!便所から全然帰ってきやしねぇ!糞詰まりか!キ〜ッ!」
騒々しい教室でなおも鉛筆姿の兄者は、弟が今悲惨な目に遭っていることも露知らず1人でいきり立っていた。試験時間はあと40分しかない。一刻も早く正解を勝ち取らねば!
苛立ちに頭をぶん回していたところ、ある赤毛の男子が目に入る。女性のように綺麗な顔立ちで長髪、もう試験を終えたのか窓の外を眺めている。横顔がまた美しく輝いている。がやつく教室のなかで、彼のまわりの空間だけが何故か静けさに満ちている気がした。
「おや!あやつは蔵馬だな。学年きっての秀才!こりゃ運がいい!」
兄者は早速床に伏せ、こっそりと身を隠しながら蔵馬の背後に回った。ヌゥ〜ッと頭を出し、血走った瞳で秀才の回答を盗み見ようとするも…
プス
何か針のようなものに当たった感触が…よく見ると、知らぬうちに前を向いたままの蔵馬の右手人差し指から薔薇の茎が出ており、自分の額を刺していた。
「おのれこのガキャアアア!!!何しやがる!!」
「カンニングはルール違反ですよ」
蔵馬が涼しげな、しかし不敵な笑みを浮かべた。
「この武道に身を捧げた俺をナメくさりやがってェェッ!!許さんぞォォ」
「はぁ…」
蔵馬は溜息をつき、ポソっと呟きながら首を振る。
「やれやれ、ほんとに学習しない人だ」
呆れ果てているのか、兄者から売られた喧嘩を買う気配がない。
「よし!今こそチャンス!こいつを倒して答案用紙を掻っ払う!そんで名前だけ戸愚呂にして提出!そうすりゃコエンマの命も頂戴よ!」
兄者は蔵馬に無数の触手を浴びせた。
ヒョオオオオオ!!!!!
ビンゴォォォォォ!!!!
ブスッ ブスッ
蔵馬の身体中に触手が刺さり、血が迸る。蔵馬は一瞬項垂れた。しかし…何故だか兄者は手応えを感じない。そのうちに蔵馬がユラッと頭をもたげ、信じられない言葉を発した。
「今、俺に何かしたか?」
ヒエエエ 何故死なぬゥゥ〜
うおあああああ ビエエエエ
絶叫しまくる兄者。先ほど薔薇の茎で、知らないうちに邪念樹の種を植え込まれた彼は、目の前の蔵馬が幻と化したのに気がつかない。体には不気味な邪念樹が絡みついている。倒しても倒しても蘇る蔵馬。次第に兄者は恐怖と怒りで錯乱していく。
そんな中。
ガラガラガラ。
教室の扉が開いたかと思うと、巨体がむっくり現れた。
「すまない、兄者。待たせたねェ」
申し訳なさそうに背を屈めて席に戻ろうとした戸愚呂弟だが、椅子はぺちゃんこ、兄者は席におらず蔵馬のそばで絶叫中。奇妙な植物に絡まれて死にそうな顔をしている。
「兄者…」
戸愚呂は兄者に近づき繁々と顔を覗き込んだ。
「楽しそうでなによりだねェ」
「楽しかねぇわボケェェェ」
兄者ブチ切れる。
そのうちにまた教室の扉が開いて、今度は小柄な少年が入ってきた。右手にイカ焼きの串を持ち、口をもぐもぐさせている。
「帰ったぞーお前たち試験は終わったか〜」
ところが。教室は試験どころでないほど騒がしく、試験監督を任せたはずのジョルジュは未だマイク片手に聖飢魔IIを熱唱中。10ラウンドを回ったところか。
「ジョルジュ!!!お前いったい何しとるんじゃ!!」
「ああ、コエンマ様!!遅かったじゃないですかァァァ。退屈だからジョルジュ歌ってましたァァ」
ジョルジュまさかの開き直り。
「ブァッッカモォォォン!!!あれほど見張ってろと言うたはずなのに!!ゆるさんぞー!!」
コエンマがトゲバットをぶん回しジョルジュを追いかけ、教室をぐるぐると走る。
その様子を見ながら、戸愚呂弟は「どうやら、この期末テストは意味を成していないようだねェ」とまるで他人事のように呟くも、そばで喚き散らしている兄者を一瞥し「仕方ないねェ」とすごすご席に戻り、自分たちに配られた答案用紙に鉛筆を走らせ始めた。
「兄者。俺が便所騒ぎで迷惑をかけた上は、俺が責任を持って回答する。それが漢というものだ」
試験はあと20分。周りがうるさい中、戸愚呂弟は黙々と回答し続けた。
その夜。
コエンマは父の閻魔大王に試験監督をサボった罪、ちゃんと生徒を教育しなかった罪で尻叩き10000回のお仕置きを受け、ヒリヒリ痛む尻を摩りながら答案用紙の採点をしていた。どれも壊滅的な出来だ。全部Aの回答、こりゃ幽助か。あいつのやりそうなこっちゃ。真っ白な無回答、桑原と飛影め。ちゃんと勉強したのか全く。一問だけ答えているがペケ、これは雪菜か。隣に桑原がいたからウザ絡みされてたかのう。大目に見てやるか。おやおや満点が一つだけ。蔵馬か。さすがは秀才!ひとりで平均点を上げてくれるようなもんだ。む?これは戸愚呂兄弟か。はてさて、2人の絆とやらはいかがなもんかな…と。
期末試験 7月29日 霊界学校於
名前 戸愚呂
問一 知らないねェ
問ニ 雪菜によればBだねェ
問三 知らないねェ
問四 Aかねェ。でも、Bも捨て難いですなぁ
問五 これは専門家に訊くべきじゃないかねェ
問六 問いの意味がよくわからないねェ
問七 知らないねェ
問八 品性さえあれば何とかなるもんだけどねェ
問九 一番大事なもの?限りなき
問十 知らないねェ
マーク式だっつーの。はい、0点!
筆者、戸愚呂兄に似てると言われたことがあります。何でやねん!解せぬ!