勇者の剣   作:属物

2 / 4
中話

「てやー!」

 

 ビシュン! 

 

「セイヤァッ!」

 

 ザンッ! 

 

「ギィ……!?」

 

 どさり

 

 六花弁の魔法陣から閃光が放たれ、大百足の身体が殴られたかのように跳ね飛ぶ。

 そこに剣を振り上げた影が飛びかかり、大百足が二つに分断された。

 

「いやー、マットも強くなりましたね。私の方が強いですが」

「そうだね。一般なのに攻撃魔法って強いんだね」

「そこは私の凄さを褒めるべきです! 心の広い私でも激おこですよ!」

「ごめんなさい」

 

 もう勝ったと気を抜く二人に村長のカミナリが落ちる。

 

「慣れたからと気を抜くと死にますよ。それとも私の手でそうなりますか?」

「「ごめんなさい」」

 

 いまさらながら残心してあたりの警戒を始める二人。それを目の端に置いて、村長は警戒を続ける。その目には疑念があった。

 

 ……剣の里は雪山に位置する寒村だ。冬は長く他の季節は短い。だから魔物も毛皮を有するものが殆どだ。だが子供たちが仕留めたのはこの地ではほぼ見ることがない蟲の魔物である。

 

(それに魔物の動きがおかしい。勇者の剣に怯えるのはわかる。だがそれを探っているように見える。これはヌシが命じて……ッ!?」

 

 疑問を解く村長の表情が凍る。

 

 それは戦場で見覚えのある光だった。

 それは『人殺し』を名に持つ光だった。

 それは『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』の光だった。

 

 ビシュン! 

 

「ひゃぁ!?」

「ッ!?」

「フッ!」

 

 バチィ! 

 

 驚くしか出来ないアイ。

 その前に剣を盾に飛び出すマット。

 そのさらに前に現れ防御魔法で受け止める村長。

 

 薄青く輝く六角壁に、『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』の光が弾けて消える。それが目眩しになった。

 

「これは……!」

 

 薙刀じみた杖を持つ村長の腕に、鞭が蛇のように絡みついている。

 魔物は道具を使わない。『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』を使わない。

 ならば襲撃の主は何者か。鞭を操り魔法を放った下手人に目を向ける。

 

「その不快な剣を渡せ。渡すならこのオイボレを殺さないでいてやる」

 

 それはレイヨウのツノを持つ魔族……魔物使いのパイツェだ。鞭を持たない手に六芒星の魔法陣が浮かび上がる。更に十重二十重と無数の魔物が三人を取り囲んだ。

 

「……今すぐこの鞭を外しなさい。外すなら楽に殺してあげましょう」

「オイボレらしく耄碌してるようだな。手足を失えば多少は頭が回るか?」

 

 だが村長に怯えも竦みもない。脅威でも恐怖でもなく、ただの害獣を見る目をしている。

 その恐ろしさをよーく知っている二人にも怖れの色はなかった。

 

「あの魔族苦しんで殺されそう」

「それも泣き叫んで、ですね」

 

 むしろ憐れみがあった。子供らからの哀れみなどつゆ知らず、六芒星の魔法陣が光を帯びる。

 

「『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』」

 

 向けた手から人殺しの光が放たれる……より早く紫電が走った。

 

「『稲妻を帯びる魔法(ゲラーデン)』」

 

 バヂッッ! 

 

「グゥッ!?」

 

 腕に絡む鞭を経路に、帯びた稲妻がパイツェを襲う。魔族は人を真似た魔物であり、身体構造もそれに似る。故に神経に加わる高圧電気はパイツェの身体を一瞬、麻痺させた。

 

 その一瞬で十分だった。

 

 ザンッ! 

 

 薙刀で鞭を切り落とし、子供ら周りの魔物を一掃し、パイツェに切り付ける。

 

「ハァッ!」

「ヌゥ!?」

 

 ギィンッ! 

 

 帯びた稲妻が可能にした雷鳴の如き早業である。これは痺れる腕のまま鞭の柄で受け止めたパイツェを褒めるべきだろう。

 

「グゥッ!」

「フッ!」

 

 薙刀と鞭がギリギリと音を立てる。鍔迫り合いを不利と見たパイツェは村長を蹴り飛ばし、魔族相手の力比べに利はないと判断した村長が飛び退った。

 

「これでも魔王時代を戦った身。オイボレを見たら生き残りと思いなさい。尤もその経験を活かす機会はないでしょうが」

「短い老い先をもっと短くしたいか……『獣を統べる魔法(オースビルディム)』、貪られて死ね」

 

 爆ぜる雷の音、空を打つ鞭の音。

 開戦の号砲があたりに響いた。

 

 ……

 

 濁流。

 

 蟲が、獣が、鳥が、蜥蜴が、蛇が、幾種幾万の魔物が高波となって押し寄せる。その全てが目に魔法の輝きを宿していた。

 

獣を統べる魔法(オースビルディム)

 

 雑多な魔物の群れを統率し、一つの軍勢に変える。この魔法はパイツェを魔王軍の将に押し上げ、『魔物使い』の二つ名を与えた。

 だがその魔王すら人間の勇者ヒンメルが打ち倒した。人は魔より強い。目の前の光景はそれを証明しているかのようだ。

 

稲妻を帯びる魔法(ゲラーデン)

 

 濁流を稲光が焼き切る。魔物で塗り潰された空間を人型の雷撃が抉り取る。まるで空間に消しゴムをかけたかのように焼き消されていく。

 空けられた空漠は即座に魔の群れで上書きするが雷の焼却速度に追いつけない。徐々にその数を減らしていく。

 

「チッ」

 

 パイツェの顔が不快げに歪み、思案に眉根が寄り、ひらめきに口角が上がる。魔族が思いついたことだ、ろくでもないに違いない。

 

「雷気を纏う魔法か。見覚えがあるな。あの人間の縁者か?」

「…………おとうさんの、魔法?」

 

稲妻を帯びる魔法(ゲラーデン)』は剣の里に伝わる魔法の一つだ。村長の孫であるアイの父もそれを得意としていた。

 彼は剣の里の役目として魔族との戦いに身を投じ、幾多の戦場を駆け抜け、そして帰ってこなかった。

 村外れの墓地には空っぽの棺だけが埋められている。

 

「聞く必要はありません! 魔族は嘘を吐く魔物! 無視しなさい!」

 

 村長の言う通りそれは嘘である。パイツェが村長の魔法を見たのは初めてで、その孫を知る由もない。だが人間は親子を持ち出されると耳を傾けることを知っている。

 

「ああ、アレは小娘の父だったか。死に様は傑作だったぞ? 

 魔物にハラワタを貪られて、ばね仕掛けみたいに跳ねてたな」

「ッッッ!」

 

 そして死に様を嗤われると途端に思考が鈍ると知っている。

 亡き愛孫を嘲笑された憤怒、心乱されただろう曾孫への心配、挑発に無理矢理冷静を保とうとする集中。それらが僅かの間、村長の視野を狭め、纏う雷気を弱めた。

 

 ざくり

 

「ッ!?」

「おばあちゃん!」

 

 狭めた視野を掻い潜り、迷彩蛇が牙を突き立てる。圧を強めた雷に一瞬で黒焦げとなるが、毒が流し込まれたことに違いはない。村長の顔に苦い自嘲が浮かぶ。

 

(私も老いたものだ。魔族の言葉に振り回され、警戒を怠るとは)

 

 次いで浮かぶのは決意と殺意。纏う稲妻が火花を増す。

 

(毒を打たれた以上長くは持たない。速攻で決める!)

 

 限界を超えて込めた魔力に、雷が周囲へと溢れ出す。最大加圧した魔法はもはや『稲妻を帯びる』ではなく『稲妻と成る』と呼ぶべきだろう。

 人型の雷電が薙刀を構える。魔物たちが雷目掛けて跳びかかる。着地より早く、その全てが塵に帰った。

 

「イィィヤァァァッッッ!!」

 

 バヂヂヂィィィッッッ!! 

 

 雷鳴にも負けない絶叫を迸らせ、村長は一直線に迅る。狙うは一つ、パイツェの首のみ。

 人喰い大亀、二足甲虫、硬鱗蛇龍、岩石巨人、鉄人形等々、防御に秀でた数々の魔物がパイツェの盾になる。だがその全てが薄紙ほどの抵抗にもならない。大穴を空けて悉く塵と成り果てた。

 それは雷神の弩から放たれた雷霆の太矢か。だが迫る裁きの雷を前にパイツェは冷静だった。

 

「フン」

 

 冷静に、冷徹に、『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』を放った。

 ()()()()()()()()()()()人を殺す魔法(ゾルトラーク)』を放った。

 

 ビシュン! 

 

「ッ!!!」

「フンヌゥッ!」

 

 ザンッ! 

 

 マットが持つのは勇者の剣だ。『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』の閃光を一刀で切り払う。

 

 それはわかっていた。

 マットは『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』を防げると、アイを守れるとわかっていた。その筈だった。

 だが村長は咄嗟に二人の方へ向かおうとしてしまった。二人を守らねばと動いてしまった。

 

 ビュオン! 

 

 その隙を見逃すパイツェではない。生き汚さこそ魔族の特性だ。即座に羽龍に乗って空高く逃れた。

 瞬く間に羽龍は『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』でも打ち抜けぬ高度にいたる。桁外れの魔法の才があれば可能性はあっただろうが、村長ですらそれを持ち合わせてはいない。

 

「クッ……」

 

 毒を打たれ、標的は遥か上空に逃れ、周囲は無数の魔物に囲まれている。詰将棋のように逃れようのない王手がかけられた。

 それでもとパイツェ目掛け魔法を撃とうとするが、毒が村長の集中を奪い血を吐かせる。更にダメ押しと魔物が一気に覆い被さった。魔物は瞬く間に塵となるが、同時に纏う電力も消費され尽くされる。

 

 残ったのは魔力をほぼ使い果たした死にかけの老女と、それを押さえ込む魔物の生き残り。

 

 勝敗は決した。魔の勝利であった。

 

 

 ……

 

 

人を殺す魔法(ゾルトラーク)』の魔法陣を展開しつつ、パイツェは再び地上に降り立つ。安全を確保できた為かその顔には明確な余裕が見える。

 

「繰り返そう。小僧、その不快な剣を渡せ。渡すならこの老耄を殺さないでいてやる」

 

 対するマットの表情には余裕なんぞ一切ない。構えた刀身に写るのは恐怖と焦燥と緊張でいっぱいいっぱいの顔だ。

 

(ぼくがやらなきゃ、ぼくしかいないんだ、ぼくがやらなきゃやらなきゃやらな……)

 

 そしてガタガタ震える剣にもう一つの人影が写っている。同じく震えてへっぴり腰で、でも同じく武器を構えて立っている、幼馴染の姿が写っている。

 

『ワタシはマットの背中を覚えてますよ』

『マットはマットを馬鹿にしすぎです!』

 

 長い息を吐いた。震えが収まる。ゆっくりとパイツェへ向かって歩き出す。

 

「マット!」

 

 アイの声に後ろ手で親指を立てて応える。安心しろ、心配ないと告げるように。

 

「そこで止まれ。そのまま置いて離れろ」

 

 剣を地面に横たえて、ゆっくりと後ずさる。決して一歩では届かない距離、剣を掴んだとしても確実に2手は遅れるだけの距離が開いた。

 

「いいぞ、そのままだ……よし、死ね」

 

 魔族は嘘を吐く魔物だ。躊躇いなく約束を破る。『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』の閃光が村長目掛けて走った。

 

「セィッ!」

 

 ザンッ! 

 

「なっ!?」

 

 そして走り切る前に切り捨てられた。射線に飛び込んだマットが閃光を切り払ったのだ。その手の中には、届くはずのない勇者の剣が握りしめられている。

 更に切り払った勢いのまま剣を手放し、パイツェへと投げ飛ばす。想定外の驚きがパイツェの反応を鈍らせた。

 

 ヒュン! 

 

「ッ!!」

 

 それでも歴戦の経験値ゆえか、パイツェはギリギリで剣を回避してみせる。刃は僅かに頬を掠めただけで終わった。

 そう、掠めただけだった。

 

 ぴしり

 

 掠めただけなのに、顔半分をひび割れが覆った。そして亀裂はパイツェの精神にも走った。

 

「……ろせ、その小僧を殺せェェェッ!!」

 

 魔族は嘘を吐く魔物。目を血走らせて歯を剥くその顔は、確かに怯え竦む魔物のそれだった。

 

 

 ……

 

 

「その小僧を殺せェェェッ!!」

「「「ギァァァァッッ!!」」」

 

 恐怖に狂ったように命ずるパイツェに、恐怖に狂ったように襲いかかる魔物の群れ。村長を取り押さえていた魔物すらマットへ差し向ける狂気の沙汰だ。

 それに立ち向かうマットもまた紙一重。村長とアイの盾になるべく、魔群の狂奔に剣一つで立ちはだかる。

 

「村長を逃して! ……セイヤァッ!」

「で、でも」

 

 一太刀ごとに真っ白な灰が舞う。次々と追加される灰の雨は瞬く間にマットを白く染めていく。

 

「急いで! ヌグゥッ!?」

「……わかりました、マットも直ぐに!」

 

 村長に肩を貸したアイは自身の無力を噛み締めながらその場を離れる。背中にぶつかる戦闘音が弱さを攻め立てるようだ。

 

「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」

 

 それでも必死に足を動かし距離を取り、見つけた岩陰に村長を横たえる。

 

「グアウッ!」

 

 ザクッ! 

 

「痛ゥッ! ……セイヤァ!」

 

 ザンッ! 

 

「ギャンッ!?」

 

 背後を振り返れば、魔物の津波の中でもがくように剣を振るうマットが見える。返り血じみた灰の白と吹き出る血の赤で、斑の薄紅に染まってる。援護しなければとアイは震える手で杖を構えた。

 

(でも、どうやって?)

 

 アイの手持ち魔法で実用水準に達しているのは『魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)』のみだ。魔物相手には火力も範囲も足りない。獲物を増やしてマットの献身を無駄にするのが関の山だ。

 加えて他は民間魔法が多少使える程度で、剣の里秘伝の『稲妻を帯びる魔法(ゲラーデン)』に至っては静電気を下回る有り様である。

 

 つまり何もできない。

 マットはたった一人で血みどろになって、自分たちを守ろうと戦っている。

 ワタシは何もできない。

 

 絶望感がアイの膝を折る。

 

「ッッッ!」

 

 だがアイは歯を食いしばり、前を向いた。

 

 援護が出来ないことはわかった。自分では他に出来そうなことがないこともわかってる。

 でもそれは諦めていい理由にはならない。何故ならマットは一歩も引かず戦っている。だから私も諦めと闘わなければならない。

 

 覚悟を決めたアイは知恵熱が吹き出そうな程に思考を回す。

 その横顔を村長は見ていた。出征の朝に見た最後の表情。孫の……アイの父のそれと重なる。

 

(命を削っても魔法は二回が限度。それで倒すには……)

 

「貴女に、やってほしい、ことがあります」

「おばあちゃん! まだ喋っちゃ……!」

「聞き、なさい」

 

 村長は荒い呼吸と共に言葉を一つ一つ搾り出していく。そして言葉が重なるにつれ、アイの表情が強張っていく。

 村長から告げられた策は、今のアイには荷が勝つものであった。覚悟を決めてても失敗が脳裏を過ぎる。自分のミスがマットの、そして二人の死に直結するのだ。

 

「貴女なら、出来ます」

「ワタシなら……?」

 

 揺れるアイを止めるように村長は肩を抱く。息も手も震えているが、その眼差しにブレはない。真っ直ぐにアイを見つめている。

 

「貴女の、努力を、私は、見ていました。貴女に、託します」

「……やってみます」

 

 杖を握りしめ、村長が指差す通りに石突きを滑らせる。花弁の紋様が一つ、二つ、三つと並んでいく。

 

 それは葬送の花を描いていた。

 

 

 ……

 

 

 剣一つで傷ひとつなく万軍を撃つ。それは御伽話の勇者か、勇者ヒンメルの偉業だ。そしてマットはそのどちらでもなかった。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

 己の血溜まりに膝をつく。剣を杖にしても体を支えるのがやっとだ。

 辺り一面は雪景色と誤るほどの白一色に染まっている。傷に塗れたマットだけが鮮やかに赤く色づく。

 

「…………」

 

 灰と血の二色刷りを上空から観察するパイツェ。勝利は確定したようなものだが、その表情に先のような安堵はない。

 頬に触れれば指先が白く汚れた。ひび割れは少しずつ広がっている。

 

「…………ッ!」

 

 怒りか、怯えか、その両方か。

 歯が鳴り唇が震える。

 

「小僧を殺せ! 剣を壊せ!」

 

 パァン! 

 

 鞭が空を撃ち鳴らし、『魔物を統べる魔法(オースビルディム)』が辺りに響く。

 

 バヂヂッッ! 

 

「!?」

 

 それをかき消すように人型の雷鳴が走る。毒でもはや動けぬとパイツェは結論づけていたが、人間には魔族には理解できない底力があるのだ。

 

「逃すか!」

 

 剣と小僧を雷速で逃すつもりだろう。そう推察したパイツェが魔物をけしかける。

 例え命を捨てても長くは持たない。剣の小僧は出血多量で、雷のオイボレは毒に侵されてる。時間はパイツェの味方だ。稼げばそれだけで勝てる。

 

「剣ごと食い殺せェ!」

 

 それはわかっていた。だがパイツェは魔物で押し潰す方を選んだ。勝利よりも感情を選んだ。その感情は報復心か、恐怖心か。

 

 それを自覚するより早く状況は動く。

 動いたのは戦場から離れた岩の影。

 

『それは火にあらず』

 

 地面に刻んだ魔法陣の中心で、アイは詠うように呪文を唱える。

 

『それは水にあらず』

 

 土に描いた足元の花弁へと、杖で指すように触れていく。

 

『それは風にあらず』

 

 幾多の同族殺しの果てに人類が成した、必殺の魔法の()()、その一つ。

 

『それは土にあらず』

 

 魔法の開発者たる腐敗の賢老がこれを見れば失笑を禁じ得ないだろう。

 

『それは(いずれ)にもあらずして』

 

 多重魔法陣と補助詠唱、その時間と労力はこの魔法の強みを大きく損なっている。

 

『ただ敵を殺す魔法(もの)

 

 だが代わりに得た射程と弾速こそが、今ここで必要なのだ。

 

魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)!』

 

 ビシュゥゥゥンッッッ!! 

 

 閃光が空を貫く。

 遠く、高く、パイツェの高度まで光が疾る。

 アイの実力では到底不可能な飛距離と速度はパイツェの意表を突いた。

 

「ギャァッ!?」

「なぁっ!?」

 

 足元の羽龍に風穴が空いた。乗騎が瞬く間に塵に帰る。幸い魔族には飛行魔法がある。高度は落ちるが滞空は可能だ。

 落下を食い止めたパイツェは射点を探った。予想より遥かに遠い。次弾の前に仕留められるか。反射的に魔法陣を展開し魔力を込める。

 

 不意に気づいた。

 

(剣は何処に?)

 

 己の存在を否定するかのようなあの不快感。顔に亀裂を刻んだ悍ましい剣がすぐ側にある。

 アレを討たねばならない。アレを存在させてはならない。顔中を覆いつつある罅が生存本能に訴える。

 

 剣は何処だ? 

 剣は何処だ!? 

 剣は何処だ!! 

 

 影一つも見逃すまいと目を皿にして天空中に視線を走らせる。あった。

 

「え?」

 

 視線の先でぐるぐると回ってる勇者の剣。

 放物線を描いて明後日の方へ飛んでった。

 

 ようやく気づいた。

 

(小僧は何処に!?)

 

 魔物は勇者の剣を恐れる。嘘を吐く魔物である魔族もまた同じだ。

 そして恐怖を刻まれたパイツェは真っ先に剣を探した。()()()()()()()()()()()探してしまった。

 

 バヂヂヂィィィッッッ!! 

 

 その合間にマットと村長は準備を果たした。

 

「フゥゥゥ……!!」

 

 穴という穴から血を噴きながらも、稲妻を纏った薙刀を投石機の如く振りかぶる。村長がカタパルトなら、砲弾は先端に乗ったマットだ。

 呼び戻した剣を構えて、発射の瞬間を待ちわびている。

 

「イィィィヤァァァッッッ!!」

 

 バギュンッ! 

 

 残る魔力と命を振り絞り、村長は薙刀を振るった。上空の魔族目掛けて雷速で人影が撃ち上げられた。

 

「し、死ねェェェッッッ!!」

 

 恐怖のままに『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』を撃ち下ろすパイツェ。

 お願いだから死んでくれ。乞い願うように魔法が疾る。

 

「セヤァァァッッッ!!」

 

 恐れる事なく『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』を突っ切るマット。

 お前は必ず殺してやる。吠えるように剣が閃く。

 

「うぁぁぁっっっ!」

 

 逃れようのない滅びがパイツェに迫る。恐怖に駆られるままに身を捩り空をもがく。だが何処へ逃げようと言うのか。逃げるにはもう遅過ぎる。

 

「ヒィィィッッッ!?」

 

 刃が貫く。

 

「イ"ァ"ァ"ァ"ッッッ!!」

 

 剣が滅ぼす。

 

「あっ……」

 

 灰が舞う。

 

 パイツェだった真っ白な灰を突っ切る。

 緋色がマットの視界いっぱいに広がる。

 

 終わりを告げるように鮮やかな夕日が空を赤く染め上げていた。




 改変者「以上がゾルトラーク性能向上の為の補助詠唱と強化魔法陣になります」
 腐敗の賢老「私がゾルトラークの開発者ですが、発表内容について質問があります。よろしいでしょうか?」
 改変者「み"」(心停止)
 
 改変目的はゾルトラークしか使えない即成の兵隊魔導士が火力射程を要する場合の選択肢。改変者からすれば歩兵にライフルグレネードを一つ二つ持たせるようなもの。グレネードランチャー(上級攻撃魔法)を持たせる方がいいが、そこまでの余裕はない。
 クヴァール的には安くて量産性の高い自動小銃を配備したらフルカスタムして狙撃仕様にされたようなもの。狙撃したいなら狙撃銃用意しろよ。

 詠唱は『属性のない、殺人用魔法です』ぐらいの意味
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。