「やっぱ、怖えよ」
赤髪の青年……シュタルクは不意に溢した。月影に隠れた表情は様として知れない。
「僕もです」
マットも同じ気持ちだ。気づけば何度も何度も深呼吸を繰り返してる。恐怖と不安と高揚感が腹の底で渦巻いている。
何せ龍退治である。魔物の中の魔物と名高い龍を相手取る大一番。英雄譚の代名詞を
今、このリーゲル峡谷で紅鏡龍と戦えるのは、マットとシュタルクの二人しかいないのだから。
……紅鏡龍がリーゲル峡谷に腰を据えてから三年になる。その間、幾人もの冒険者が峡谷から道を変えたが、村のために龍へ立ち向かう愚か者は一人もいなかった。戦士も、僧侶も、魔法使いも、割に合わないと断った。
三年前、村を襲う龍に立ちはだかったシュタルクただ一人を除いて。
そして一年前、マットという例外が増えた。マットはシュタルクに師事し、鍛え上げられ、遜色のない実力を得た。
龍の気まぐれで得た三年の平和はいつ失われてもおかしくない。だから明日、二人は紅鏡龍に挑む。
「実を言えば、怖いのは龍だけじゃないんだ」
「負けることですか?」
「それもある」
不意に雲が月を覆った。消えかけた焚き火の灯りでは、夜闇を追い払うに足りない。
「……村の人が怖い」
「え」
「期待が怖いんだ」
真っ暗な夜空を見上げる。雲が星も月も隠している。
「三年前、龍が村を襲った時、俺はとにかくビビってた。
龍に立ち向かったはいいけど、チビりそうなくらい竦み上がってさ。一歩も動けなかった。龍が気まぐれで帰っていくまで、何もできなかったんだ」
空を仰いだままシュタルクは傷痕を手のひらで覆う。額の半分を覆う大きな痕は、師匠の戦士アイゼンにつけられたものだ。
「そんな俺を村の英雄だって、本当の戦士だって、村の連中は持ち上げてくれた。
違うんだ。なのに違うって言えなかった。本当のことを伝えて、嫌われる勇気すら無かったんだ」
魔物が怖い、戦うのが恐いと、言い訳してぶん殴られた。それをトドメに師匠と喧嘩別れしてしまった。失望させたからだ。シュタルクはそう思ってる。
「俺は……臆病者なんだ」
マットは静かに剣を抜いた。刀身に燻る熾火が写る。勇者の剣には曇りも刃こぼれもない。
「僕がもっと小さかった頃、故郷の村に魔物が襲って来たんです。
僕はベソかいて、鼻水垂らして、震えてました。
何にもできなかった。それしか覚えてませんでした」
突き立てた剣を杖に立ち上がる。焚き火越しにシュタルクの影法師をまっすぐに見つめた。
「でも幼馴染に言われました。『震えてビビって泣きじゃくって、でもへっぴり腰で棒っ切れを構えてた。あの背中を覚えてる』って」
雲が切れる。月明かりが差し込む。月光を浴びて、刃がシュタルクの姿をくっきりと写し出す。
「村の人たちはみんな覚えてます。龍に立ち向かう貴方の背中を」
「ビビり上がってた俺の背中を?」
「ええ。怯えて、竦んで、でも逃げなかった。龍を相手に一歩も引かない、本当の戦士の背中です」
何も言わずにシュタルクは愛用の戦斧を手に取った。傷にまみれ、擦れて曇り、見窄らしくすらある。
だがそれは、峡谷をもう一つ増やすほどに使い込んでも、その切れ味を失うことはなかった。決して折れることのない本物の武器だった。師匠から託されたものだった。
「だからシュタルクさん、村のみんなが信じる『戦士シュタルク』を馬鹿にしないでください」
僕も怒りますよ? とマットは付け加える。気の抜けた苦笑がシュタルクの顔に浮かんだ。
「怒られるのは嫌だな」
「じゃあ褒められるよう、明日は頑張りましょう」
……
御伽話の龍は大抵が眠りこける姿で描かれる。それは魔法生態学から見ても正しい。桁外れの剛力と巨体を持つ龍は、それを維持するために大半の時間を寝て過ごす。
例外は腹を空かして餌を求める時か、巣材を狙う盗賊を潰す時か、己を脅かす敵と戦う時だけだ。
「震えが止まりませんね……!」
「俺もだよ……!」
そして目覚めた紅鏡龍は牙を剥く。目の前には小さな二本足が二匹だけ。だがそのどちらも自らを殺し得る強大な敵だ。
三年前から縄張りに居座る赤毛の峡谷掘りに、一年前から増えた黒毛の悍ましい刃持ち。
二匹に挑まれた紅鏡龍に択は二つ。逃走か、闘争か。紅鏡龍が選んだのは……後者だった。
最強の魔物としての自負が、紅鏡龍に戦いを選ばせたのだ。
「カアッ!!」
「ヒィッ」
「ウワッ」
バゴッ!
まずは火球を撃ち放つ。龍の吐息は上級攻撃魔法に匹敵する。牽制の一射でも岩の地面が爆ぜる。だが駆け出した二匹には当たらない。
「ガァァッッ!!」
ズガガッ!
続けて自慢の爪で地面ごと薙ぎ払う。魔力のない二本足は空を飛べない。紅鏡龍は経験からそれを知っている。
だが引き下がることも立ち竦むこともなく、振るわれる腕を潜り抜ける二本足は初めて見た。それも二匹も。
「グガァッ!」
ガガガガッ!
それでも体勢は崩れた。二本足は二本の足で立って歩く。四つん這いになれば動きが鈍る。
そこに狙い澄まして尾を振るう。太い尾は先の爪よりも広い面積を隙間なく擦り削る。逃げる術はない。
しかし、それは紅鏡龍も同じだ。
「セイッ!」
「ッ!」
黒毛の悍ましい刃が迫る尾を目掛けて振るわれる。あの刃はマズい! 存在を否定する刃に、魔物の本能が警鐘を掻き鳴らす。
「グォッ!」
バァンッ!
反射的に尾を叩きつけて軌道を無理矢理変える。その下を赤毛が走り抜け、さらにそのまま崖に向かって走る。
「!?」
紅鏡龍は新しい知見を得た。二本足は地面だけではなく、崖も走れるのだ。速度を落とすことなく赤毛は崖を駆け上がる。
飛びかかるつもりか。赤毛の頭を抑えるように爪を振り下ろす。応じて長い得物を振り下す赤毛。
「イリャァッ!」
「グァァァッッッ!?」
パァン!
本日三度目の驚愕が紅鏡龍を襲った。
そして本日初の激痛が紅鏡龍を襲った。
ただ一振りで爪ごと片手が弾け飛んだ。
「イヤァッ!」
更にその反動で赤毛が紅鏡龍に飛び付く。つまり一撃で片腕を炸裂させる腕力の持ち主が、自分の身体にしがみついてるのだ。
「ヒァァァッ!」
紅鏡龍は恐怖に駆られるまま飛び上がる。離せ離せと急降下に急上昇を繰り返し、崖にぶつけて擦り落とそうとする。
だが落ちない。寄生生物のように鱗に食らいついて放さない。しかもそいつは寄生虫が撒き散らす死病よりも確実な死因を持ち合わせている。
しかし死病より確実な死因の持ち主はもう一匹いた。
黒毛のそいつは、『死』そのものを、悍ましい刃を思い切り投げつける。
「セイヤァァァッッッ!!」
「ヒィィィッッッ!?」
鱗にしがみつく死因を忘れるほどの恐怖が迫る。投げつけられた刃を避けようと遠ざかる方へと飛び退る。誘導された通りに崖へと飛んでしまう。
意識から外れた一瞬。
十分に近づいた足場。
必要な条件は整った。
ドォンッ!
崖へと跳んで、崖から跳んだ。崖を反射台に赤毛が、斧を振りかざすシュタルクが飛び掛かる。
「イィィィリャァァァッッッ!!」
迫る絶対の死因を前に紅鏡龍は後悔した。
何故赤毛から意識を離したのか、何故黒毛の刃を注意しなかったのか、何故二匹から逃げなかったのか、何故、なぜ、な……
パァンッッッ!!
音より速い戦斧は長い後悔を許さなかった。片腕と同じように紅鏡龍の頭蓋は粉微塵に砕けて散った。
あたりに飛び散った元紅鏡龍が黒い塵となって消えていく。それを確かめてシュタルクは長い息を吐いた。
「勝ったのか?」
「はい、勝ちました」
「勝ったのか……」
実感のない勝利を噛み締めるように、何度も手を握っては開く。
不意に拳を握りしめる。手の中に勝利があると言うように。
「勝ったんだな……!」
「ええ、勝ちました!」
そして手の中の勝利を女神に突きつけるように、シュタルクは拳を突き上げた。つられてマットも拳を上げる。
「「勝ったぞーっ!」」
……
「強き戦士達に!!」
「「「強き戦士達に!!」」
ガキンと音を立てて樽型のジョッキがぶつかり合う。一体何度目の乾杯なのか、誰も彼も顔が真っ赤だ。そして誰も彼も顔が綻んでいる。
無理もない、三年も峡谷に居座った恐ろしい龍が退治されたのだから。これで滞っていた流通は戻り、人通りも帰り、仕事と金が再び回り出す。
とは言え平穏は帰らない。帰る必要などない。何せ三年間、平穏は失われることがなかったのだから。龍退治を成した村の英雄シュタルクは村の平和も守り切ったのだ。
「村の英雄達に!!」
「「「村の英雄達に!!」」
というわけで戦士達へ捧げるという名目の献杯が追加され、村人たちの顔が更に赤く染まる。
楽しげな光景を横目に見ながら、長く伸ばした紫髪の少女……フェルンは肉串に齧り付いた。食いでがあるサイズと程よく乗った脂。味付けは肉汁を使った赤ワインのソースか。これで五本目だがまだ飽きがこない。この屋台はいい仕事をしている。
「はぁ〜」
「ため息を吐くと幸せが逃げますよ、フリーレン様」
六本目に手を伸ばしながらフェルンは、簡易テーブルに突っ伏した師匠……フリーレンを嗜める。
弟子より頭ひとつ小さいフリーレンの姿は、幼なげな二つ結びにした銀髪と合わさって、フェルンの妹か何かにしか見えない。しかし年齢差は姉妹どころか曽祖母と曾孫ですら足りない。
フリーレンの尖った耳は、彼女が永遠を生きるエルフであることを示している。そしてエルフは永い生に倦んで、変な趣味に没頭することがままあるものだ。
「でも欲しかったんだよ、あの魔道書……紅鏡龍が居座ってるなら巣作りに魔導書を持ち込むと思ってたんだ」
「実際、狙い通りではありましたね」
「そう、しかも他じゃ手に入らない珍しい民間魔法のやつだった。それがもう龍退治されて売りに出されたってぇ〜……急げばよかったぁ〜」
フリーレンの趣味は魔法蒐集、それもくだらない民間魔法を集めるのが大好きだ。ブドウを酸っぱくする魔法やカキ氷だけを出す魔法などなど、役割も目的も不明な魔法を好き好んで集めてる。
「因みにどんな魔法だったんですか?」
「痕跡からすると『服が透けて見える魔法』だね」
「そんなくだらないもの手に入れなくて良かったですね」
「辛辣ぅ……」
違法扱いされるから早々手に入らないとボヤく師匠を、そんなものを探し求めるなと冷め切った目で見つめる愛弟子。
「手に入らなかったものは仕方ありませんよ。それよりも目的の人を探さないと」
「そうだね、人生は永いんだ。いつかまた『服だけを吹き飛ばす魔法』とか見つかるかもしれないし」
もし見つかったらその場で焼き捨てよう。フェルンはそう決意した。
「さぁ行きますよ、フリーレン様」
「ちょっと待ってぇ」
肉串七本の勘定を済ませるとフリーレンの首根っこを掴みフェルンは立ち上がる。どちらが師匠かわかったものではない。これがかつて魔王を倒した勇者ヒンメルらの魔法使いだというのだから世も末だ。
「ええっと、アイゼン様のお弟子のシュタルク様でしたか」
「そう。で、龍退治したのもシュタルクだから……多分、一番人が集まってるとこでしょ」
同じく勇者ヒンメルと共に旅をした戦士アイゼン、その愛弟子のシュタルクが二人の探し人である。
未だ魔王軍の残党が暴れ回る北側諸国の旅には危険が多い。前衛が出来る戦士が居ればそれだけ安全が確保できる。
「そう言えば龍退治はシュタルク様お一人で果たしたのではないようですね」
「だと面倒だね。他の人のところに集まってるとそっちに行っちゃうかも」
乾杯の口上を聞くに龍退治は複数人でやったらしい。シュタルク以外の名前は知らないが、そちらにも人が集まってると探すのに時間がかかりそうだ。
「我らが戦士に!」
「もう飲めないって!」
「我らが英雄に!」
「いやもう食えないですから!」
幸いさほど歩くこともなく人だかりはすぐに見つかった。
並々とビールが注がれたジョッキを押し付けられてる赤髪の青年に、脂の滴る肉串を押し付けられてる黒髪の少年だ。さてどちらがシュタルクか。
「すみません、シュタルク様はどちらですか?」
「あ、俺です! ほら人が呼んでるから! 人が呼んでるから!」
「じゃあそっちは」
「僕はマットです! ほらシュタルクさんが呼んでますから! シュタルクさんが呼んでますから!」
名残惜しそうな村人を置いて四人はその場を離れる。赤毛のシュタルクの顔色は赤と青を行ったり来たり。黒毛のマットは込み上げるものを抑えてるのかずっと口を押さえてる。
「ウプッ、助かったよ……喜んでくれたのは良かったけど、ウッ、飲み食いには限度ってものが、ウゥッ……」
「すみません……若いから食えって、ウッ、でも若いからって食えないって、オッ……」
「少し休んだほうがよさそうですね……どうしました?」
「あ、いや、多分レプリカだろうし……」
フェルンに呼びかけられてフリーレンはすぐに目を逸らす。数秒前に戻せば視線はマットが穿いた長剣に向けられていた。
フリーレンには酷く見覚えがある長剣だった。同じデザインのレプリカを勇者ヒンメルが振るっていた。それのオリジナルを見たこともあった。
「レプリカ? 何の話ですか、フリーレン様?」
「フリーレン……フリーレンさんですか? 勇者ヒンメルの、魔法使いフリーレン!?」
今、マットが持つ剣はオリジナルと同じ魔力を発していた。だがそんな筈はない。ヒンメルですらオリジナルの、本物の勇者の剣を抜けなかったのだ。
「え、マジか!? 師匠から聞いてたけど、朝がめちゃくちゃ弱いとか、変な魔法ばっかり集めてるとか、マジだったの?」
「マジですね」
「マジかぁ」
それと余計なことも思い出した。オリジナルを管理する剣の里とした五十年ごとの契約だ。確かあれから……五十年、今年で五十年だ。その筈だ。何の問題もない。
だが剣を見せつけるマットは大問題だと告げている。
「フリーレンさん、この剣をご存知ですね」
「ヨクデキタレプリカダネ」
「ええ、何せ本家本元の勇者の剣ですから」
「ユウシャノケンハヒンメルトイッショダヨ」
「ええ、でも剣の里と五十年毎の契約をされてますね?」
「ソウダネ、コトシデゴジュウネンダネ」
「ええ、契約から今年でだいたい八十年になります…………里に来てもらえますね?」
「…………………………はい、わかりました」
ガックリと項垂れたフリーレンを見て、マットは魔物避けの魔法もお願いしますと付け加えた。情けは人のためならずとは言うが、善行の龍退治が旅の目的を果たしてくれたわけだ。
「シュタルクさん、僕はフリーレンさん達と出ることになります。今までお世話になりました」
旅の目的であるフリーレンへの依頼を終えて、深々と頭を下げ一年間の師匠に礼を返す。だがシュタルクはそれを遮った。
「俺は…………いや、俺も行かせてもらえないか?」
「シュタルク様もご一緒していただけるなら、こちらとしては願ったり叶ったりですが……宜しいのですか?」
フェルン達は元々、前衛を求めてシュタルクを探していたのだ。ましてや紅鏡龍に打ち勝った実績持ちである。それが二人も増えるならありがたいことにこの上ない。
「ああ。俺を探してたってことは師匠が俺を連れてけって言ったんだろ」
しかしシュタルクがフリーレンらの旅に付いてくる理由はない。喧嘩別れして飛び出しただけだ。戦士アイゼンの元に帰ればいい。戦士だけの龍退治なら、喧嘩別れ解消の手土産には十分だろう。
それでもシュタルクは旅を共にすることを選んだ。
「それにさ、俺が師匠に土産話を持って帰ってやりたいんだ。
見たこともないモノを見て、会ったこともない人に会って、くだらない冒険を山ほどやってさ。
師匠がもう長い旅が出来ない分、俺の旅を師匠に話してやるんだ」
シュタルクの言葉にマットも大きく頷く。似たような理由を互いに抱えていたわけだ。
「僕もです。幼馴染に土産話を持って帰って上げないと。忘れたりしたら一生恨まれちゃいます」
「そりゃあ怖い。紅鏡龍より怖いかもな」
「そりゃあもう。紅鏡龍と違って絶対勝てないですから」
軽やかに互いを笑う。二人には旅の終わりにただいまを言える誰かが、お帰りを言ってくれる誰かがいるのだ。
フェルンの口からポツリとこぼれた。
「……いいなぁ」
「大丈夫。オレオールでハイターに好きなだけ話せばいいよ」
フリーレンたちの旅の終着点は、魂の還る地オレオール。そこでヒンメルと話をするのが目的なのだ。ついでにフェルンの育て親へたっぷり土産話を聞かせてやればいい。
「……ですね」
「じゃあ準備できたら村を出ようか」
えっちらおっちらと四人は歩き出した。
……
「また呑まされるとは……」
「食えないって言った筈なのに……」
二日酔いで青ざめたシュタルク、食べ過ぎて吐き気を堪えるマット。先日も見た光景だ。
村を離れる英雄二人の送別会は華々しいものとなった。そして二人は飲まされて飲まされて飲まされて、食わされて食わされて食わされた。
「フェルンさんは何故あれだけ食べて何ともないんですか……?」
「どうしてですかね? 魔法使いだからでしょうか」
同じくらい食わされてた筈なのにと問うが、コレと言って特別なことはしてないと返される。マットは食事にも才能というものがあると初めて知った。
「みんな元気そうで何よりだね」
「これを見てよくそんなセリフが出るな……ウッ」
「歩けて喋れてるじゃん。二日酔いのハイターに比べればマシだよ」
勇者ヒンメルの親友である僧侶ハイターは列聖されるほどの人徳者だった筈だ。マットの中の英雄像が千鳥足のオッサンに置き換わっていく。
「聖者ハイターとは一体……?」
「英雄譚で出来た想像上の人物」
フリーレンはかつての旅の日々を数えるように、指折りながら仲間たちの欠点をあげつらっていく。
「戦士は臆病で、僧侶は大酒飲みで、勇者はカッコつけで……」
「魔法使いは魔法マニアのミミック狂い、ですか」
育ての親であるハイターを揶揄されて不満なのか、膨れっ面のフェルンが毒を吐く。フリーレンは優しげに笑った。
「そ。だけど、だから魔王を倒せた。
くだらない冒険の果てに望みを叶えたんだ」
終わった後にくだらなかったと笑い飛ばせるような楽しい旅がしたい。勇者の願いは確かに叶った。フリーレンはそれを知っている。
「じゃあさ、俺たちもくだらない冒険をしようぜ。勇者ヒンメルみたいにさ」
「いいですね! どんなのしますか?」
「とりあえず、ヒンメル様の逸話に倣って人助けでしょうか」
三人は喧しく楽しげに意見をぶつけ合う。フリーレンは煩そうに楽しそうにそれを聴いている。
勇者ヒンメルの死から28年。勇者が紡いだ冒険の、その続きの始まりだった。
終わり
おまけのネーミング
主人公「マット」 …… mut:勇気
次期村長ちゃん「アイ」 …… Ei:卵
魔獣使い「パイツェ」 …… Peitsche:鞭
『
『
外観描写はしてないがパイツェは鞭使いだからボンテージファッションをしている。