一部ホシノの言動がおかしい箇所がありますが、熱に浮かされたと思ってください。
"紹介するね、この子はホシノちゃん!私の事を助けてくれたすっごく強くてちょっぴりイジワルだけど、とっても優しい子!"
"…………どうも"
あの人の顔を初めて見た時に、言いようのない感情に包まれた。
ぐるぐると、胸の中で芽生えて、巣食い、渦巻くよくない
"────────────ああ、よろしく"
私が記憶している限り、唯一の
色々な感情がごちゃ混ぜになったような、それでいてずっと探していたものが見つかった時のような。
そんな、形容し難い顔をしていた。
あれは一体、なんだったんだろうか────────
「見て見て、リョウくん!ホシノちゃん!」
いつものように、生徒会室に慌ただしく入室してきたユメ先輩は、一枚の紙きれを持ちながら心底楽しそうな声色で私たちに声をかける。
「昔の生徒会が、アビドスの『大オアシス』にすっごいものを埋めたらしいの!!」
「すごいもの、ですか?」
「そう!花火なんだけど、希少鉱物が入った花火らしくてこれに刺激を与えると、プラズマになった火花が発生して空を彩る──っていう技術が使われてるんだって。こ~んな形の花火もあるんだよっ!かわいいよね~!」
「へぇ、そりゃまた珍しいというか初めて聞いたなそんな花火」
「元々はお祭りの時に使う予定だったらしいんだけど、なぜかうまく動かなくて余ったのを湖に捨てたんだって」
「……なるほど」
私としてもそんな花火があるということは初めて知ったのだが、まさかユメ先輩はそんなものを探しに行こうとか言うんじゃないだろうか。
そんな時間も余裕も私たちにはないのだから、ここは後輩として一度ガツンと言ってやらねば。
まぁ、でも。それは最後まで話を聞いてからでも遅くはないか。
「すごいよね、100gで100万円以上もする鉱物が入ったものを捨てちゃうんだよ?さすがはアビドス生徒会……羽毛の体操マットを使う方々なだけあるよね……その100分の1でもいいから私たちに残してくれても良かったのに……ひぃん」
「……でも、そのオアシスはとっくの昔に干からびたじゃないですか」
「うん、そうなんだよね」
「今はただの砂原で、そんなのどこにもなかったはず」
「ふっふっふ……ホシノちゃんはまだまだだね!これは湖があった頃の話だから、かなり昔のことでしょ?」
「つまり……?」
「つまり、その花火は……干からびたオアシス──あの下に存在するってこと」
「おーなんか徳川の埋蔵金みたいな話になってきたな」
そう、ユメ先輩は勝ち誇ったような顔をしながら私に向かって告げる。
本当に、なんて。なんて────────夢物語。
「大オアシスの下に希少鉱物が埋まっている、ってことですか?」
「そっ!」
そんなの。
「……ユメ先輩は、自分がいま何を言っているのか分かっていますか?」
「そうそう。そう言う話は自分たちに回ってきた時点で既に誰かの手によって暴かれた後って相場が決まってるんだよ」
「えっ……?その……」
そんなの────────
「こうしてる場合じゃないですよ!今すぐ探しに行きますよ!!」
「ちょっと???小鳥遊???小鳥遊さん??????」
うまくいけば、そんなものが本当にあれば学校の借金は大きく減る。そして何よりそんなお宝が砂漠に眠っているだなんて────
────そんな胸が躍る夢物語、食らいつかない訳がない!
「そう!!私もそれを言いたかったの!……お宝探し、スタートっ!」
「うへへ、行きましょうユメ先輩!!」
「うん!これで私たちも大富豪だよ、ホシノちゃん!」
「クソッ!まともなのは俺だけか!?」
二人して生徒会室を飛び出そうと走り出す。
だが、そんな
「おいおい、誰か一人忘れちゃいませんかってんだ」
「嫌なら、瀬戸先輩はここで一人寂しくお留守番をしていて構いませんよ。少なくとも私とユメ先輩はどうあっても行きますので」
「というか、リョウくんももちろん来てくれるよね?」
「誰が行かないって言ったよ。お前らに言いたいことはただ一つ」
そう言って瀬戸先輩は自分の身体の後ろに手を回して、
「────道具は、必要だろ?」
何時用意したのか、何処から取り出したのかもわからないが、両手にはそれぞれ鶴嘴とシャベルが握られていた。
「さっすがリョウくん!」
「かの海賊王は言った。『探せ、この世の全てをそこに置いてきた』ってな」
「誰ですかその海賊王って」
そしてまた、いつの間に用意されたのかもわからないが人数分の鶴嘴とシャベルが私たちに渡される。
「みんな、道具は持ったね!!行くよ!!」
「ウオオオオオオオ!!人の夢は!!!終わらねぇ!!!!」
そんな二人の姿を見て、再認識する。
やっぱりこの二人バカだ、と。
そんなこんなで。
「リョウくん……ホシノちゃん……あのね……」
「それ以上言わないでください!私も薄々感じてるんですから!」
私たちはアビドス大オアシスにやってきて、ただ只管に掘って、掘って、掘っていた。
────────なぜか、水着を着て。
「そうだよね?私だけじゃないよね……?そろそろ止めるべき?」
「も、もうちょっと頑張ってから……!」
「自ら夢から醒めるほど虚しいものはないってな……ほら、余計なこと言ってる暇があるなら手を動かせ手を」
「……でも、流石にこれは詰んじゃってるよー」
「く、くぅっ……!」
「うーん、
終わりの見えない苦行、果てのない砂漠、照り続ける日光。
それら全てが頭を蕩かし、着実に体力と気力を奪っていく。
くるくる。くるくる。
果てのない。終わりのない負のスパイラル。
それらを止めたければ、冷めるより他はない。
「ねぇ、リョウくん、ホシノちゃん……私たち、どこから間違えたんだろ……」
「ユメ先輩が変な計画を持ち込んだ時から、じゃないですかね」
「小鳥遊も割と乗り気だったろうが……」
「……そ、それは私だって理解してますから!改めて言わないでください……よっ!」
ぶん、と力任せに最後の一振りをして脱力させる。
完全に夢と言う一時の熱が冷めてしまった。
というか───────
「というか!なんで!瀬戸先輩は!水着じゃないんですか!!!」
先程から思っていた疑問と不満を全て乗せて口から吐き出す。
だって仕方がないだろう。
私とユメ先輩は水着になっているのに瀬戸先輩はいつも通り制服のままで。
というか、なんでこんな暑いアビドスの中でもさらにクソ暑い砂漠でも
「なんだ、おじさんの裸に興味が?」
「全然!全く!微塵も!ありませんよそんなもの!!!」
怒りのままに、地面に突き刺した鶴嘴を引き抜いて瀬戸先輩へと投擲する。
それを、大げさにも見える動作で回避されてしまった。
「ふむ、そうか。ピンクはなんとか、というのが通説だったんだが。いや、でもお前は何となくそれっぽい気がするんだよなぁ」
「野郎ォーー!」
なんとか、の部分は正直よく解らなかったがきっとロクでもない字が割り当てられていることは確かだ。
これ以上コイツに喋らせてはいけないと思い、飛びかかろうとするが後ろからユメ先輩に拘束されてしまう。
「ちょ、ホシノちゃん!?ストップ!ストップ!落ち着いて!」
「ユメ先輩離してください!コイツ殺せない!」
「おいおい、今時暴力系ヒロインは流行らんぞ?」
砂漠の暑さでどうかしてしまっている。既に頭がやられてしまっているから、いつもと違う言動を取っても仕方ないと思ってほしい。
というか私がヒロインだなんて、それこそ土台あり得ない話だ。私のような人間を好きになる物好きなんて居る筈が無いのだし。もし仮にそんな人がいるのだとしたらそれは極度の変わり者ということになる。
「大体、それを言うなら瀬戸先輩だって────」
少し、時間が巻き戻る。
大オアシスに着いた後、ユメ先輩に流されるまま水着に着替えて瀬戸先輩と合流した時。
"────────────────"
"リョウくん?"
"イ、イヤ、ナンデモナイヨ?"
"………………"
そう言いながら瀬戸先輩は、口元に手を当てながら視線を逸らす。
明らかに何でもなくはない表情と、仕草だった。
「あの時!絶対私たちの事をその……え、エッチな目で見てましたよね!?」
「え?あ、うん」
「ふぇっ!?」
「~~~~~~っ!?」
件の人物はきっぱりと、切り捨てるようにそう言い切った。
「こ、この変態!恥ずかしくないんですか!?」
「いや、健全な少年少女なら異性の身体に興味を持つことぐらい普通だろ。あ、昨今はそういうのに煩いんだっけか。うんまぁ、他人の身体に興味を持つって言うのはそう不思議なことじゃないだろ。それこそおじさんが見てきた中で芸術と呼べる域のものが目の前にあるんだから拝めるときに拝まないと損ってヤツだ」
「げ、芸術なんて……えへへ……」
「いや、流されちゃダメですよユメ先輩!?」
満更でもなさそうな表情をしながら笑うユメ先輩に釘を刺す。
確かに同性である私の目から見てもユメ先輩の身体は犯罪的だということは認めるが、だからこそそれがそんな目に見られてしまうのは何というか耐えられない。
ここは私がしっかりとしなければ、この悪しき先輩からユメ先輩を護らなくては。
「ともかく!瀬戸先輩はユメ先輩をそういう目で見るのは禁止!どうしてもというのなら、その、とっても不服ですが、私で我慢してください!」
「いや、お前の身体も一種の芸術とは認めているがそれはそれとしてピクリとも食指が動かん。出直して来い」
「────────ッ!」
言葉にならない絶叫。怒りが湧き上がって止まらない。
今すぐにでも飛びかかりそうになるが、ユメ先輩に拘束されたままなのでそれも叶わずじたばたと藻掻く羽目になってしまう。
「離してくださいユメ先輩!コイツは
「ホシノちゃん、ステイ!ステイ!」
「まぁでも安心しろ小鳥遊。おじさんの生まれ育った
「何の気休めにもなりませんし、嬉しくも無いんですよ!!!」
「リョウくんもイジワルはその辺にしておいて!ホシノちゃんの力が凄くて抑えてるのがいっぱいなんだから!」
「へいへいっと。さて、回りくどくはなったが小鳥遊からの質問に答えてやるとするか」
「私の、質問……?」
なんだっけ。先ほどまでのやり取りと、暑さで既に頭の中から蒸発してしまっている。
「ほら、おじさんがなんで水着じゃないのかって話だよ」
「あ……」
そう言えば、そんなことを聞いていたんだっけ。
何というか、妙に律儀というか。何というか。
「理由としては単純明快。おじさんの身体はそう他人に見せられる程ご立派なものでは無いからだ」
「…………はい?」
「────────」
「いやほら、肉体美と言えるような身体をしている訳でもなし。
「え、あ、はい。何というかどうでもいい理由だっていう事はよく理解しました」
「ならよかった。ま、本音を言えばこんな砂漠のど真ん中で水着になるほどアホではないからなんだけどネ!」
「…………
本日何度目かわからない激昂。でも、まぁ。さすがに許してほしい。流石に、誰だってこうなると思うんだ。
「…………そもそも、何だって水着になろうなんて話になったんだ?」
しばらく時間が経って、茹った頭が少し冷めた頃に瀬戸先輩がユメ先輩に質問を投げる。
「え、だってぇ……地面を掘ってたらドカーンって地下水が湧き上がるかも、と思って……」
「そもそもそんな確率存在しました!?」
「それで砂漠化も解決して、めでたしめでたし~って……」
「そんなわけないでしょ!」
「HAHAHA、こいつ最高にアホ」
「ひぃん……」
そんないつものように馬鹿馬鹿しい理由を知って、一時の夢は幕を閉じたのだった。
「んー……反省として今日の出来事を書いておかないと……」
「ちょ、ちょっと先輩、何を書いて……」
ユメ先輩が『たのしいバナナとり』とデザインされた変な、されどユメ先輩は愛用している手帳を取り出す。
曰く、そこには後輩の役に立ってほしいという想いが込められたメモが綴られているらしく、ユメ先輩が卒業した暁にはそれを私に引き継ごうと考えているらしい。いや、絶対に受け取ってはやらないのだが。
仮に受け取るとしてもそのデザインはちょっと、ない。瀬戸先輩もあの手帳を見る度に少し引き攣った顔をしていたのを覚えている。
「こんな失態の記録とかやめてくださいよ!」
「でも、生徒会長としての義務というかさ……後々ホシノちゃんの役に立つと思うし……」
「それ、失敗の記録しかないでしょ!というかそんなボロい手帳誰が貰うかっ!私は新しいヤツ買いますからね!」
「ひぃん……」
帰り道の最中。いつものようにそんなやり取りをする私とユメ先輩。
いつものような、代わり映えのしない光景。
そして、いつもなら口を挟む筈の瀬戸先輩がやけに静かなので後ろを振り返ってみると────
「────────」
「────────」
ひどく、不思議な。初めて見る
とても大切なものを見るような。壊れやすいものを、大切に大切に、扱うような。
────────なんだ、そんな顔も出来るんじゃないですか。
それなら、いつもそういう顔をしていればいいのに。
なんて、熱が冷めない頭でぼんやりと思った。
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