一人称が「おじさん」のホシノの先輩 アゲイン   作:惡喰

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私には、わからない

上へ、上へ駆けていく。

 

何時まで経っても生徒会室に現れない先輩や、こんな一大事に限って連絡が付かないもう一人の先輩に対する苛立ちを邪魔をしてくる敵にぶつける。

全く歯ごたえがない。これでは苛立ちのぶつけようがなく、何なら更に増してくるばかりだ。

そういったよくないものを振り払うように、ただ只管に走り続ける。

そうして最上階に着き、いかにも偉い人が居そうな扉を見つける。

警備の兵士が二人居たがそんなことはお構いなく、諸共に扉をぶち破る。

 

「どけっ!!」

 

「なっ……!」

 

「なんだコイツ!?」

 

そうして、部屋に入れば大人が二人と探し人の姿が一つ。

案の定、碌でもないことに巻き込まれていた。

 

「ほ、ホシノちゃん……!?」

 

「探しましたよ、先輩!こんな忙しい時にいなくならないでください!早く帰って瀬戸先輩も探さないといけないんですから!」

 

「な、何しやがんだテメェ!」

 

「おい、さっさと連絡しろ!ったく、あいつら寝てんじゃねえよなあ!?」

 

「応援なら誰も来ない。下に居た奴らなら全員倒したから」

 

「何だと!?」

 

「あ、あれだけの人数をたった一人で……!?」

 

事実を告げる。

それだけで奴らは信じられないようなものを見たような声色を上げて動揺する。

何とも危機感のない。そして実に好都合だ。元より例外は無く全員倒してユメ先輩を連れて帰るというのが今回の目標なのだから、それを為せばいいだけ。

隙だらけの姿を晒す敵に容赦なくトリガーを引き、あっけなく事は終わった。

 

 

 

 

 

「ひ、ひぃぃいん……怖かったよぉ、ホシノちゃん……」

 

「また変な大人に騙されて、いい加減学習してくださいよ……」

 

「でもぉ……」

 

帰路の最中。

怖かった、なんて口にしておきながらユメ先輩は日常茶飯事の如くこういった厄介事や悪い大人が仕掛けた罠に嵌ってしまう。

その度、私や今回は居ない瀬戸先輩が助ける。というのがお決まりのパターンになってしまっていた。

流石にこう何度も面倒事を持ち込まれてはこちらの身も、何よりユメ先輩の身も持たないだろうと思い釘を刺す。

 

「どんどん人が減って、不良ばかりのスラムになって……今のアビドスは無法地帯なんですよ。知らない人は、全員悪い奴だと思ってください」

 

「……でも、もし本当に困ってる人だったらどうするの?」

 

「そんな人はいません!誰もかれも、みんな悪党です!」

 

性善説を唱えるのは結構だが、世の中はそんなに甘くない。

誰もかれも、己の利益の事を考えて生きている。それが普通で、それが当たり前。

特に、このアビドスという土地においてはそれが顕著だ。

だから、いつまでもそんなありもしない夢に浸っていないで、ちゃんと現実を見てもらわないと。

 

「そう、なのかな……?」

 

「手を差し伸べたって、すぐに裏切られるんです!そんなんじゃ学校を守れません!先輩、今からでも……」

 

「ホシノちゃん」

 

私がそう言いかけた途端。

いつになく真剣な表情をしたユメ先輩がゆっくりと私に近づきながら諭すように語り掛ける。

 

「……?」

 

「違うよ、ホシノちゃん。それは違う」

 

「ゆ、ユメ先輩……?」

 

「大事な話だから、よく聞いて」

 

「あの……ちょっと、近いんじゃ……」

 

そうして、追い詰められ逃げ場が無くなった私はユメ先輩を直視せざるを得ない状況になってしまった。

 

「疑念、不信、暴力、嘘……そういうものを当たり前だと思うようになったら、私たちもいつか、自分を見失っちゃうよ」

 

「……」

 

「そうやってアビドスを取り戻しても、それは私たちが思い描いたアビドスにはならない。もし、アビドスに人が帰ってきてくれたとして……そんな街になっちゃってたら……私は悲しいよ。だからね、ホシノちゃん。困ってる人がいたら、手を差し伸べるの。お腹を空かせたり、寒さに凍えていたり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が居たら助けてあげるの」

 

「……」

 

何だろうか。

前の二つの例も確かにありえなくはない、例え話としてはありきたりのものなんだけど。

最後の一つは、例え話にしてはやけに実感が籠っていたような気がする。

 

「うまく伝えられてる自信はないけど……ホシノちゃんなら私が何が言いたいのか、分かってくれるよね?」

 

意識を戻せば抱きしめられそうになったので、脇を抜けて回避する。いけない、またいつもの調子で丸め込まれるところだった。

 

「……それで裏切られたら、どうするんですか?今日みたいに、また危険な目に遭ったら?」

 

「……その時は、ホシノちゃんやリョウくんが助けてくれるでしょ?」

 

「…………まあ、行きますけど」

 

「ふふっ」

 

「な、何を笑ってるんですか!」

 

ああ、全くもう。

いつも、これだ。

この表情(えがお)を見せられたら、なんだか言いたいことも失せてしまう。さっきまで憤っていた自分が馬鹿らしく思えてしまうほどには。

 

「あ」

 

「ホシノちゃん……?」

 

一つ、忘れていた。

ユメ先輩にあてられて頭から抜け落ちそうになっていたのだが。

もう一人の馬鹿(瀬戸先輩)の事だ。結局最後まで連絡が付かず、ユメ先輩を助けにも来なかった。

ユメ先輩は瀬戸先輩の事を信頼しているみたいだけど、付き合いが浅いからか私はまだ信用できずにいた。

何より、返せない恩とやらがあるのなら自分の都合よりも優先してユメ先輩の事を助けるべきなんじゃないだろうか。

そう考えたら、失せていた憤りがまたふつふつと湧き上ってしまった。

 

「瀬戸先輩の事ですよ!あの人は結局助けに来なかったじゃないですか!結局、ユメ先輩が手を差し伸べたあの人も来なかった!これが裏切りじゃなくて何だって言うんですか!?」

 

ああ。いつも瀬戸先輩の事となると、どうかしてしまう。そういうの、頭の中ではよくないって理解しているのに。

こんなの、全然論理的じゃないのに。いつも、ユメ先輩に何かあった時は二人で助けに行っていたのに。

今回だけだ。ただ今回だけいなかっただけなのに。嫌いなりにも、いや嫌いだからこそ瀬戸先輩の事は理解しているつもりではいる。

そういう人ではないと頭の中では理解している。でも、心では納得してくれない。

あの人の事を考えると、腹立たしくて腹立たしくて仕方が無くなってしまう。

だから、せめて。私だけでもユメ先輩を────────

 

 

 

「ホシノちゃん」

 

「なんですか───」

 

瞬間、私の視界は物理的に闇に覆われた。

いや、正確に言えば。ユメ先輩に抱きしめられていた。

 

「ちょ、ユメ先輩……苦し、というか、暑い……!」

 

「落ち着いた?」

 

「は、離し……」

 

「ホシノちゃんが落ち着くまで離してあげないよ」

 

「お、落ち着きました。落ち着きましたから───!」

 

「ん、よろしい」

 

抱擁から解放され、大気を肺に送り込む。まったく、ユメ先輩が時折見せるこの頑固さは一体何なんだろうか。

ユメ先輩からはいつもいい匂いがするのだがそこはそれだ。流石に空気を織り込めない状況になれば四の五の言っていられない。

 

「ね、ホシノちゃん」

 

「……なんですか?」

 

「今日は生徒会の業務はお休みにして、少し寄り道して帰ろっか」

 

「は、はい!?私たちにそんな余裕はないですよね!?」

 

「それじゃあ、先輩の相談に付き合ってほしいな」

 

「相談……」

 

こうなったユメ先輩は梃子でも動かない。

私や瀬戸先輩が何を言っても、結局はユメ先輩に流されてしまうのがいつものオチだった。

 

「……その相談って何のことですか?」

 

おおよそ話の流れから検討はついている。それでもやはり確認をしてしまうのが人間というヤツだろう。

 

「……うん、本人には口止めされてるからあまり詳しくは言えないんだけどね。それでもやっぱりホシノちゃんにはリョウくんの事少しでも知っておいて欲しいの」

 

────────やっぱり。

 

 

 

 

 

「そういえばね。リョウくんってあれでも結構泣き虫なんだよ」

 

「……はい?」

 

ユメ先輩に連れられて、人気のない公園までやってきた私たち。

そして開口一番、そんな訳の分からないことを告げられて思わず面食らってしまった。

あの瀬戸先輩が泣き虫だなんて、ちょっと、いや大分想像がつかない。

 

「実際に私も泣いているところを見たことは無いんだけどね。でもリョウくんはずっと泣きそうな顔してるの」

 

「はあ」

 

そんな馬鹿な、というのが最初に出た感想だった。

あの腹立たしくも思える能天気な顔が泣きそうな顔だなんて。何かの見間違いなんじゃないだろうか。

 

「まず前提として、リョウくんはずっと一人ぼっちで。何もかも全部一人で抱え込んで全部一人で解決しようとしちゃう困ったところがあるんだ」

 

「……」

 

「私に頼るって約束はしてくれたけど、隠し事だってするし、嘘だって吐くってはっきりと言われちゃった」

 

「それは……不誠実じゃないんですか?」

 

そうだ、そんなのあまりにも不誠実が過ぎる。

ユメ先輩が真摯に瀬戸先輩に向き合っているのに対して、瀬戸先輩は嘘や隠し事で応えるだなんて。

 

「ううん。きっとそれがリョウくんにとっての誠実さなんだよ。だって、隠し事や嘘を吐くときってわざわざ相手に言わないでしょ?」

 

「それは……そう、ですけど」

 

「今日みたいに、リョウくんは度々一人でどこかに行ってる。その度泣きそうな顔して帰ってくるし、時々大怪我をして帰ってくることもあったんだ。でも、私が何があったか聞いても誤魔化したような笑顔をするの。多分、私を心配させないためなんだろうけど、とても見ていられないの」

 

「……」

 

「リョウくんは言ってた。自分が居るときっといつかアビドスや私に危害を加えてしまうって」

 

「それは……」

 

それは、どういう事だろうか。

私には、よく分からない。

いや、きっと瀬戸先輩にしかわからない事なんだろう。

 

でも、その言葉が本当なら。

はっきりと瀬戸先輩自身の口で告げているじゃないか。

 

 

 

─────────自分はアビドスに害成す敵だと。

 

 

 

「じゃあ、なんで瀬戸先輩は今もアビドスに残っているんですか?少なくとも、私の知っている瀬戸先輩なら、ユメ先輩が話した瀬戸先輩ならここを去ろうとする筈」

 

「うん、リョウくんも当初はここを去ろうとしていたみたい」

 

「なら、なんで────!」

 

「それは────私がワガママを言ってリョウくんを引き留めたから」

 

「それって、どういう……」

 

「ホシノちゃんと同じように、リョウくんにも本当の意味で笑っていて欲しいから」

 

「─────────」

 

瀬戸先輩の話をしていたのに、唐突に流れ弾が来てしまい思わず言葉に詰まってしまう。

ちょっとそれは反則じゃないだろうか。

 

「リョウくんが私の事をとても大事に想ってくれてることは知ってる。でも、それと同じように私もリョウくんの事がとても大事。そうやってお互いがお互いの事を大事に想い合える関係はとても素敵なことのはずなのに、すれ違ってばかり。そのせいで私たちは一歩を踏み出せずここまで来ちゃったの」

 

なるほど。

ユメ先輩は自分よりも他者を優先してしまう人物で、ユメ先輩が語る瀬戸先輩もまた自分よりも他者を優先してしまう人物らしい。

まるで同じ極の磁石のよう。ある一定の距離までは近づけるのに、それ以上となるとお互いの性質で離れてしまう。

 

「きっと、私一人じゃリョウくんを助けるには力不足なんだと思う。でもね、そんなときにホシノちゃんが生徒会に来てくれたの」

 

「私……?」

 

「リョウくんとしても、ホシノちゃんに何か思うところがあるみたい。だから急にあんな風に今までとは違う自分を演じるようになっちゃったの」

 

「……」

 

ああ、だからあの時。あんな顔をしていたのか。

でも、その表情の真意までは読み取れない。私は、瀬戸先輩ではないから。瀬戸先輩が思っていることは、瀬戸先輩にしか分からないから。

ただ事実として、私の知っている瀬戸先輩は本来の姿ではなく演じた姿であり、しかもそれが私に原因があるらしいとのこと。

 

 

 

────本当に、よく分からない。

 

 

 

「……何故、瀬戸先輩はそんなことを?」

 

「……怒らないで欲しいんだけどね?リョウくんはホシノちゃんの事が気に入らないって言ってた」

 

「…………はい?」

 

唐突なカミングアウト。

どうやら瀬戸先輩は私の事が気に入らない、らしい。

でも、気に入らないのならなんだってあんな風な態度なんだろうか。少なくとも私ならばもっと刺々しい態度になる筈だし、事実瀬戸先輩にはそういった態度で接している。

 

そもそも、私の事が気に入らないのなら。

なんで、あの時私を助けてくれたんだろうか。戦闘に関しては、私一人で事足りると何度も言っているのに。

なんで、あの時あんな顔を私に向けたんだろうか。少なくとも、気に入らない相手に対する表情では決してないのに。

なんで、わざわざ本来の自分とは異なる自分を演じるのだろうか。そんなの疲れるだけだろうに。

 

わからない(なんで)わからない(なんで)わからない(なんで)

 

「でもその後、リョウくんに力を貸してほしいって言われたの」

 

「……?」

 

「────ホシノちゃんを笑顔にするために、力を貸してほしいって」

 

「─────────は?」

 

────ちょっと、待ってほしい。

ユメ先輩は一体何を言っているんだ?いや、正確にはユメ先輩が語る過去の瀬戸先輩は一体全体何を言っているんだ?

そんなの、私の知る瀬戸先輩ではない。でも、私の知る瀬戸先輩は全て演じられた偽りの顔だという。

そうだとしても、気に入らない相手を笑顔にしたいって、どういう理屈か。

もう、本当に瀬戸先輩という人物がわからない。

疑問が次々に頭に湧いてきて気持ちが悪い。黒々としたものがぐるぐると頭の中で渦巻き、大きくなってくる。

 

「……でも、それって私と初めて出会った日の事ですよね?なのに、なんで。そんなこと…………?」

 

「……理由は私も分からないけど。少なくともリョウくんにとってホシノちゃんは特別みたい」

 

特別。

その単語を聞いて、少しだけあの時の表情がそれに依ったものだったのだろうかと思案する。

それでも、答えは見えてこない。

 

「私としても凄く嬉しかった。リョウくんの方からそんな提案をされて、リョウくんに頼ってもらえて……まぁ、その結果があれなのは、ちょっとどうかと思うけどね。だからね、ホシノちゃん。私はホシノちゃんとリョウくん、二人には仲良くしてほしいし、それに一緒に笑ってほしいと思ってるの」

 

「でも、私は……」

 

「ホシノちゃんは、リョウくんの事嫌い?」

 

「…………確かに嫌いではあります。でも、その……今のユメ先輩の話を聞いたら、よく分からないんです」

 

瀬戸先輩にとって私は気に入らない存在で。でも、特別な存在でもあるから私を笑顔にしたくて。

けれど、それは私の知っている瀬戸先輩とはあまりにも違いすぎて。

私は一体、どう瀬戸先輩に接したらいいのだろうか。

 

ああ、まただ。また得体のしれないものがぐるぐると渦を巻いている。

頭が痛い。胸が苦しい。それに、息もし辛い。

この感情の正体は、一体なんなんだろうか。

 

わからない。わからない。

 

こんなもの、いらないのに。

こんなもの、きもちわるいのに。

でも、解消する方法が分からなくてもどかしい。

 

ああ、もう。だから嫌いなんです。

私にこんなものを与えるあなたが。

 

 

 

────────だから、知らなきゃ。

 

 

 

このもやもやを解消するために。

この苛立ちを吐き出すためにも。

 

全く以て不本意ではあるが、瀬戸リョウジという人間についてもっと知らなければならない。

なにより、知らないままというのは結構腹立たしい。だから、知らないと。

 

でも、今はこれだけは言える。

 

「ユメ先輩」

 

「なに?」

 

「その、何というか…………瀬戸先輩ってすっごく面倒くさい人じゃないですか?」

 

「…………やっぱりホシノちゃんもそう思うよね!?」

 

よかった。そこだけはユメ先輩と意見が一致していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、瀬戸先輩から連絡が来て私たちは合流した。

合流した時の瀬戸先輩は、私たち二人にものすごく謝罪の言葉を繰り返していた。

 

それは、

連絡が付かなかった申し訳なさを詫びるものでも、間に合わなかった罪を赦してほしいと願うものにも見えなくて。

 

私たちが許しの言葉を与えても、本人は奥歯を噛み締めたような顔をしていて。

 

 

 

 

 

己を責める行為に見えて、仕方が無かった。

きっと、これが本当の瀬戸先輩の片鱗なんだろう。

 

 

 

 

 

 

────────馬鹿

 

 

 

 

 

 

そんな顔をしたら余計にユメ先輩が悲しむだけだと分からないんだろうか。

そんな顔をしたら余計に私が苛立ってしまうことが分からないんだろうか。

 

 

 

 

 

 

だから、嫌いなんです。




一週間ほど時間が空いてしまい申し訳ありません。仕事がクソ忙しかったもので体力と気力と時間が確保できなかったもので……社会人ってクソだな!





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