一人称が「おじさん」のホシノの先輩 アゲイン   作:惡喰

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たのしかった思い出

「今日は生徒会の業務も午前中に終わったし、みんなで水族館に行きます!」

 

「はい?」

 

「へぇ?」

 

生徒会の業務が午前中で片付いた時、唐突にユメ先輩がそんなことを言った。

 

「いや、何を言ってるんですかユメ先輩。遊んでいる暇があるんだったら借金返済のためにアルバイトなどをするべきです」

 

「もーホシノちゃん!せっかくのお休みなんだから学生らしく遊ぶんだよ!ねっ!リョウくん?」

 

「ん?ああそうだな。今月の借金もこのままいけばノルマを達成できるのは目に見えてるし一日ぐらい遊んでも罰(バチ)は当たらんだろうさ」

 

相変わらず暢気な先輩達だ。月々のノルマを返済し続けたところで利子が膨れ上がって借金が増えるのは目に見えているというのに。

でも、言わんとしていることは分かる。だからと言って、私たちには休んでいられるほどの余裕が無いというのもまた事実。

 

「先輩方は暢気すぎます。この学校の借金は日々増え続けているんですよ?だったらそれを少しでも減らすためにも遊んでいる時間なんて無いじゃないですか!」

 

「相変わらずお堅いなぁ小鳥遊は。良いか?おじさん達は学生で、学生の本分は勉強、スポーツ、遊び、恋愛とかだ。間違ってもそこに借金返済なんてもんは含まれてないんだよ。そもそもこの借金だっておじさんたちが原因というわけではなく、顔も知らないような前の世代の先輩方が拵えた借金だ。それが回りまわっておじさんたちの代まで続いているってだけの話。とはいえ、毎月のノルマという最低限をこなさなきゃアビドスそのものがなくなる。ユメは何れ借金完済を目標にしちゃあいるが、それは別にここを卒業してからでもできることだ。長すぎる目標を見据えたところでやる気がなくなっていくだけだ。なら近い目標に向けて頑張る方が少なくともやる気は維持される。わかるか?」

 

「そんな日和見だから一向に借金は減らないんです!もし今日ヘルメット団や暴徒が来て返済用のお金を取られたらどうするんですか!?先の事なんて誰にもわからないんです!だったら今やれることをやっておくのは当然の事でしょう!?」

 

私が怒気を孕ませた声で瀬戸先輩に言うと、瀬戸先輩はやれやれといった表情で首を横に振りつつ、

 

「まったく。良いか小鳥遊?お前の言っていることは確かに正しい。先の事なんて誰にも予測できないし見えやしない。わからないってのは恐怖を生み出すしそれに対する備えをするのも自然だ。そうだな……俺達は借金返済という名のフルマラソンを走っているランナーと考えろ。42.195kmという果てしない長距離を水分補給なしで完走できるか?もっと身近な例で言うと俺達が日々使っている銃器。お前が言っていることはそれらをメンテナンスなしで使い続けるようなもんだ。当然手入れをしていない道具はそれに比例して壊れるのが早くなる。だから、ガス抜き、補給は適度に必要なんだよ」

 

「でも!そうだとしても!」

 

それはその通りだろう。

私たちは機械ではなく人間で。いや、たとえ機械だとしても定期的なメンテナンス、ガス抜きは必要なのも少し考えればわかることだ。

でも、目標に向けて少しでも走り続けていないと、本当にそこに向かっているのか分からなくなって、どうしようもない不安や苛立ちに包まれてしまう。

だから、こうして分別のつかない子供の様に駄々を捏ねてしまう。

 

「ああもう!先がわからないからこそ今を楽しむんだよ!それが日々を生き抜くために役立つからな!そうじゃないと人間生きていけないんだよ!いい加減理解しろこのバカ!」

 

「なっ、誰がバカですか!?それを言うなら瀬戸先輩の方がよっぽどバカじゃないですか!?」

 

「男なんてみんなバカだからいいんですよーだ!それよりもお前は看過できないレベルでバカだから言ってんだよバーカバーカバーカ!」

 

「なにを────!?」

 

「────────リョウくん?ホシノちゃん?」

 

くだらない言い争いでヒートアップしていたところにユメ先輩の嗜めの言葉という名の冷水が掛けられる。

ユメ先輩に叱られたせいか瀬戸先輩も少しバツが悪そうな顔をしている。

 

「…………まあともかく。日々を頑張っている。いや、頑張りすぎているお前をユメは見かねてこうして遊びに誘ってるんだ。好きなんだろ?魚。ならガキらしく四の五の言ってないで頭を縦に振ってりゃあいいんだよ。ホント、楽しめるのはガキである今だけなんだから」

 

瀬戸先輩の言葉には棘があるが確かに私を気遣っているのが伝わってくる。バカだけど人の機微には聡い人だ。それに、きっと先日聞いた理由も含まれているのだろうとは、思う。とはいえさっきのやり取りをした後なので感謝などしてやらないが。

それにしても、今の言葉は何というか妙に実感が籠っているような気がした。

 

「……そうなんですか。ユメ先輩?」

 

「うん。ホシノちゃんは後輩なのにいつも頑張ってくれているし私たちのことを助けてくれるから、そのお礼にでもとね?それで、一緒に水族館行ってくれるかな?」

 

ユメ先輩の頼みを断るのは忍びない。瀬戸先輩が言っていることも分からなくはない。ここは一度冷静になるべきだろう。

────うん、偶には自分に対してご褒美を与えるのも悪くはないんじゃないか。

 

「……いいですよ、折れました。行きます。水族館」

 

私の返事を聞いたユメ先輩は、ぱあぁという音が聞こえてきそうな満面の笑みを浮かべた。

 

「本当!?ありがとうホシノちゃん!じゃあ、今すぐ行こうか!ほら、リョウくんも!」

 

私達の腕を掴みユメ先輩は駆けだす。

 

「ちょ、ユメ先輩!廊下を走らないでください!」

 

「待て待て待て!おじさんはお前たちと違って肉体が貧弱なんだから────────って聞いてねぇな畜生!」

 

ユメ先輩は私達と遊べるのが本当に楽しみといった表情で駆けていく。

────────私も少し、楽しみになってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユメ先輩に連れられ、電車を乗り継ぎ数十分。やってきたのはそこそこの大きさの海浜水族館だった。

こうして目の前にまでやってくると、結構胸が躍っているのを自覚して少々恥ずかしい。

 

「という訳でとうちゃーく!」

 

「はい」

 

「おー」

 

「チケットを買ってくるからリョウくんとホシノちゃんはちょっとまっててね!」

 

私達に声を掛けユメ先輩はチケットを買いに走り出す。相変わらず忙しない人だと思ったが、それこそがユメ先輩の良いところなのだろうと納得する。

それはそれとして、先ほどの口論があった所為か瀬戸先輩との間には気まずい空気が流れている。

 

「さっきは悪かったな小鳥遊」

 

「……なんですか藪から棒に」

 

気まずい空気を見かねたのか、お互い目を合わせない状態ながらも瀬戸先輩から謝罪の言葉が出される。

 

「さっき俺はお前を怒鳴ってしまった。言ったことに関しては間違ったことを言ったとは思っていないが、怒鳴るのは余計だった。先輩である俺は努めて冷静にお前を諭さなきゃあならんかったというのに」

 

「……なんで瀬戸先輩が謝るんですか。悪いのは私なのに」

 

「そうだとしてもだ。先達としてはやっちゃあならんことだった。だからこうして謝っている」

 

「…………」

 

「それにさ、お前の意見もまあ正しいんだよ。お前は息抜きをしなくても日々を生きることが出来るかもしれない。だがなそれは人間の、ましてや子供の生き方じゃないんだ。何度も言うようだが楽しめるうちに楽しんでおけ。楽しめないときが来た時の為にもな。きっと、お前を支えてくれる何かになるさ」

 

そう言って瀬戸先輩は私の頭を少し乱暴にそれでいて大切なものを慈しむかのように撫でる。

その顔には覚えがある。宝探しの帰りに見たあの表情(かお)だ。

男の人に、ましてやあの瀬戸先輩にこんなことをされているのに、不思議と悪い気はしなかった。

間違っていることがあれば厳しく、けれど優しく教え導く。そう、まるで■■■■のような──────

 

「……瀬戸先輩、その、ごめんなさ────」

 

「おっと、それ以上は言わなくていい。余計なことは考えず純粋にお前やユメが今日楽しんでくれることが何よりなんだからな」

 

「……はい」

 

ズルい人だ。自分だけは謝罪を口にしておいて私には謝罪させてくれないなんて。

だから、きらいなんです。

 

「さて、辛気臭い話もここまでだ。丁度ユメもチケット買い終わってこっちに来てるしな」

 

「……そうですね」

 

前を見れば遠くから腕を振りながらこちらに向かってくるユメ先輩の姿。本当に忙しない人だ。

 

「お待たせリョウくん、ホシノちゃん!あのね、もうすぐイルカショーやるんだって!早く行こう!」

 

「ハイハイ」

 

「……はい!」

 

来る時と同じようにユメ先輩は私たちの手を取り走り出す。その最中に私はさっき瀬戸先輩に言われた言葉を思い出す。

 

────────────うん。きっと今日はたのしい思い出になる筈だ。

 

 

 

 

 

それからは、ユメ先輩に連れられるまま真っ先にイルカショーを見に行った。

平日の昼間という事もあってか客数もまばらであったため、開始数分前に来たが良い席に座ることが出来た。

相変わらず一番楽しんでいたのはユメ先輩だったのだが、私も結構楽しめた。

やはりイルカはいい。何よりかわいいし愛らしい。

言葉を交わせない種族の異なる間柄でもああやってコミュニケーションを取り一つの芸を磨き上げて披露するというのは、なんとなく素敵なことだと思えた。

 

イルカショーが終わってからは館内をぶらつくことになった。

展示の数も思っていた以上あり、各気候や特有の環境ごとに区画分けがされ図鑑越しでしか見たことがない生き物がいっぱい居た。

他にはペンギンが館内を散歩しているのは驚いた。可愛さの不意打ちをされた気分だった。

 

そして、この水族館一番の目玉である大水槽にやってきた。

そこに展示されているのは私達とは比べるまでもない程大きい生き物。小さいながらも群れを成して生きる生き物。なんだかおかしな見た目をした生き物。

そう、そこには一つの自然といっても差し支えの無い光景が広がっていた。

人によって作られた場所のはずなのに自然の持つ雄大さ、力強さ、美しさ。そして、恐ろしさがそこに住まう生き物たちによって形成されている。

そんな圧倒的な力を見せつけられた私はしばらくその場から動けなかった。

それはユメ先輩、瀬戸先輩も同じらしく三人して暫くの間何も言わずただ見入っていた。

それから十分ほど経った頃だろうか、ユメ先輩の"そろそろ次に行こっか?"の声に現実に引き戻された。

 

「あれ?リョウくん?」

 

ユメ先輩が不思議そうな声を瀬戸先輩にかけているのを見て私も瀬戸先輩の方を見る。

どうもユメ先輩の声が届いていないらしく、未だ水槽を見ているままだった。

 

「瀬戸先輩?────瀬戸先輩!」

 

私が少し大きな声を上げても気づく気配がない。

視線の先に何かあるのかと思い、私も瀬戸先輩が見ている方向に顔を向けてみても何も変わったものは無い。

いや、強いて言うならば。何もない(・・・・)。魚の一匹もおらず、ただゆらゆらと揺らめく水面が映っているだけだった。

それが何でか、無性に不安に思えてしまって。無意識に瀬戸先輩の手を掴んでいた。

 

「ん?ああ、どうした小鳥遊?」

 

良かった。どうやら今度こそ気が付いてくれたようだ。

 

「いえ、さっきから私やユメ先輩が声をかけても気づかなかったので」

 

「え?そうだったのか?いやぁ、そりゃ悪かったな」

 

気恥ずかしさからか申し訳なさか、目をそらして頭を掻く瀬戸先輩。

 

「……何を考えていたんですか?」

 

「え?ああ、飯の事だよ。あの魚は焼いたら旨いだろうなーとか、あの魚は刺身にしたら旨いだろうなーとか、あの魚はどんな味なんだろうなーとかそんなんだよ。」

 

「水族館に、それもこんなに素晴らしい展示を見ても相変わらずそれですか。最低ですね、瀬戸先輩は」

 

「ぐっ、こればかりは流石に言い返せん……」

 

ユメ先輩の言っていた通り、これも嘘。というより流石に分かり易すぎる。

瀬戸先輩。あなたは何を隠しているんですか?何を抱えているんですか?どうして嘘を吐くんですか?

それに、入り口で喋っていた時に瀬戸先輩は私やユメ先輩が楽しんでくれることが何よりと言っていましたが、そこに瀬戸先輩自身は含まれているんですか?

私たちは同じアビドスの生徒会の仲間じゃないですか。なぜそうやって一人で抱え込んじゃうんですか?ユメ先輩や私はそんなにも頼りないですか?

 

────でも、それを口にすることもできない私も。結局は同じ穴の狢だ。

 

それがなんだか無性に悔しくて────────

 

「────馬鹿」

 

誰に聞かれるわけでもなく、誰に向けたものかも解らず、ひとりでに口から言葉が漏れ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから夕方になり、私たちは水族館近くの浜辺を歩いていた。

水族館は結果としては大変満足いくものだった。

 

「う~ん!潮風が心地いいね~!夕方の浜辺をこうして並んで歩くなんてまさに青春って感じがしない?」

 

「ははは、いやまったく。おじさんとしては眩し過ぎるくらいだがね」

 

ユメ先輩と瀬戸先輩が他愛のない会話を繰り広げる。思えば二人共三年生であと一年もしないうちにアビドスを去ってしまうのだった。

そう考えると本当に、楽しめるのは今だけなんだという事を改めて実感する。

 

「ホシノちゃん。なんだか無理やり連れてきちゃった感じになっちゃったけど、ホシノちゃんは今日一日楽しかった?」

 

「はい。とっても楽しかったです。ありがとうございます、ユメ先輩」

 

「うん!それならとっても良かった!」

 

いつかの日と同じように夕日をバックにユメ先輩の花のような笑顔が向けられる。

 

「なら、こいつは無駄にならなくて済みそうだな。ユメ、小鳥遊ちょっとこっちに来い」

 

瀬戸先輩に呼ばれるがまま私たちは近くに寄る。瀬戸先輩の手にはいつからか握られていたビニール袋があり、そこに手を入れていた。

 

「えぇ~とユメの分は……と、あったあった。ほい、ユメにはコレ。マナティーのキーホルダー」

 

「わぁ、かわいい!ありがとうリョウくん!大事にするね!」

 

「で、小鳥遊にはコレ。クジラのキーホルダー」

 

「……ありがとうございます?」

 

瀬戸先輩から私たちに渡されたのは海に住む生物のキーホルダー。

しかし、なぜこんなものを渡すのか意図がわからない。

 

「なんでこんなものをって顔してるな。思い出ってのは頭の中に残るが、物と同じように摩耗していくんだ。あとは嫌な記憶とかで塗り潰されたりもする。そうならないようにも楽しかった思い出を想起させるためにこういった形あるものを思い出と結びつけるんだよ。そうすりゃ、このキーホルダーを見るだけで今日の事を思い出せるって寸法だ」

 

水族館に入る前の会話を思い出す。

 

"何度も言うようだが楽しめるうちに楽しんでおけ。楽しめないときが来た時の為にもな。きっと、お前を支えてくれる何かになるさ────────"

 

これはきっと楽しめないときが来た時の支えになってくれるものとして、より分かりやすく形にしてくれたものなのだろう。

それは私の為でもあり、ユメ先輩の為でもあり、そしてきっと瀬戸先輩自身の為でもある。

 

「……そうなんですね。ありがとうございます」

 

「ところで、リョウくんは何のキーホルダーを買ったの?」

 

「おじさんはコレ、アオミノウミウシ」

 

「それ、毒がある生き物ですよ」

 

「いいだろ……?ブルードラゴンだぜ?」

 

こうやっていつものようにバカな態度を私たちに向ける瀬戸先輩。

しかしそんな態度も偽っているものだとユメ先輩は言う。でも、元の瀬戸先輩がどんな人なのかはハッキリと知らないし断片的でしか知らないけど、何から何までもが嘘というわけではないと思う。というよりは、そう願いたい。

────ところで瀬戸先輩。アオミノウミウシっていつも逆さまで泳いでいる生き物なんですよ。

 

「なら、私からもみんなにプレゼントをしなきゃね!という訳で、いつものように写真を撮ります!」

 

「え゛、おじさん写真はちょっと苦手かなぁって」

 

「だ~め!いつも言ってるでしょ?嬉しいことや楽しいこと、そういったお祝いのときには記念に写真を撮るものだから!ほら、ホシノちゃんも並んで並んで!」

 

「はい」

 

そういってユメ先輩は写真の映りが良い位置に移動して撮影の準備をする。

ユメ先輩のこの強引な写真撮影にも最早慣れたものだ。というより瀬戸先輩の方が私より長くユメ先輩と一緒に居るのに慣れていないのはどうなんだろうか。

 

「いくよー!」

 

そう言ってセルフタイマーを起動したユメ先輩はすさまじい勢いでこちらに戻ってくる。

その様子に若干苦笑いをしつつ、私の右側にユメ先輩が、左側に瀬戸先輩が立つ形になる。

ああ、たまにはこんな穏やか日も悪くない。そう、心の底から思った時、シャッターが切られる音がした。

 

「……いい!すごくいい!とってもかわいいよホシノちゃん!」

 

撮られた写真を見たユメ先輩は私を持ち上げくるくるとその場で回り始めた。

 

「ユ、ユメ先輩!?お、降ろしてください!その、目が回ります!」

 

「あ、ごめんね……?私また……」

 

「い、いえ……」

 

回転の影響で少し頭がくらくらするのを耐える。

 

「まぁユメの言うとおりだな。俺が記憶している中で一番いい面をしているぞ小鳥遊」

 

ほれ、とユメ先輩のスマホを手渡される。

そこには確かに微笑んでいる私の姿が映されていた。

 

「これが────────私?」

 

これまでの私なら浮かべないような表情をしている画面の向こうの私。

色々と考え事をしながらではあったが、なんだかんだと束の間の休息を満喫出来ていたようだ。

ただ、それはそれとしてなんだか気恥ずかしさを覚えてしまう。

 

「その調子だ。お前はもっと笑え。いつまでもしかめっ面してたら折角の可愛い顔が台無しだからな」

 

「可愛────────ッ!?」

 

唐突に今まで瀬戸先輩から掛けられたことが無かった言葉が掛けられて動揺してしまう。

でも、瀬戸先輩が私を笑顔にしたいと言っていた理由はこれなんだろうか。

そういうの、私には似合わないはずなのに。勘違いしてしまいそうに、なる。

 

「………………」

 

「あらら、少し刺激が強すぎたか」

 

「でも、ホシノちゃんがかわいいのは事実だもんねリョウくん」

 

「ああ、違いない」

 

二人して私の事を可愛いと言ってくる。本当に勘弁してほしい。

ユメ先輩は事あるごとに私に可愛いと言ってはいるがそこに普段は言わないような瀬戸先輩が加わるとなると話は別というものだ。

 

「ところで、ホシノちゃんだけに言うのは少し不公平じゃないかな~?」

 

「お前には何度も言ってるだろ?」

 

「それでも!女の子は褒めてもらえるともっとかわいくなるのです!」

 

「はいはい。もちろんユメもかわいいですよっと」

 

「むぅ。なんだかホシノちゃんの時より扱いが雑な気がする」

 

「気のせいだ。気のせい」

 

私が放心している間に夫婦漫才のようなやり取りをする二人をぼーっと見る。

というか今までもそんなやり取りをしていたのかこの人たちは……

でも、そんな光景が何とも微笑ましく映って見えて、少し微笑んでしまう。

 

「さて、そろそろ帰ろっか!」

 

ユメ先輩の言葉ではっと現実に引き戻される。

そうだ、二人にちゃんとお礼を言わなきゃ。

 

「あ、あの!ユメ先輩!リョウジ(・・・・)先輩!今日は、とても、とても楽しかったです!連れてきてくださってありがとうございます!」

 

私からの感謝の言葉と瀬戸先輩へのささやかな仕返しの言葉を聞いた二人は驚いた顔をした後、顔を数秒見つめ合わせてこちらに振り返り。

 

「「うん!/ああ、こちらこそ」」

 

ユメ先輩は満面の笑みで。リョウジ先輩はいつもの嘘が混ざったものではなく恐らく心の底からの微笑みを浮かべてくれた。

 

帰りの電車でリョウジ先輩はちょっと疲れたと言って眠っていた。

そこでユメ先輩から教えられたことなのだが、今日の提案をしたのはユメ先輩で間違いないのだが、そのために大量にあった業務を終わらせてくれたのは殆どリョウジ先輩だったそうだ。

 

────────本当に、ズルい人。

きっとそうやっていつも、自分のことを後回しにしてきたんですね。

 

「────ありがとうございます」

 

二つ隣で眠りこけている、私のような可愛げのない後輩の為に頑張ってくれた先輩に、心の底から感謝を告げた。

 

 

 

 

 

それから、家に帰ってもしばらく落ち着けなかった。

ふとリョウジ先輩からもらったキーホルダーの事を思い出し手に取ってみる。

 

────────────────うん。これを見れば今日という輝かしい思い出をすぐに思い出すことが出来る。

 

今日はこれを枕元に置いて眠ることにした。

 

────────なんだかとっても穏やかで心地の良い眠りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、二週間ほどが経った頃。

 

相変わらず生徒会室に来るのが遅いユメ先輩と珍しくまだ来ていないリョウジ先輩をただ待っているのもなんだか手持ち無沙汰だったので、暇潰しに屋上に行ってみた。

 

そこには、

 

「────────」

 

私の目でも、明らかに何かあった(泣きそうな)顔と、

最後に会った一昨日の時点では存在しなかった、左手の手のひらに包帯をぐるぐる巻きにしたリョウジ先輩が、そこに居た。




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