煌めくネオンが室内を極彩色に染めあげる。テーブルの上に広げられたのは……トランプ。
机の中央には表向きのカードが五枚。卓に着いていた黒いロングコートの女は笑みを深め……宣告する。
「悪いねぇ……オール・イン!」
テキサス・ホールデムのポーカー。つまりここはカジノで、女はギャンブラーだった。
「……豪気な嬢ちゃんだ。俺もオール・イン……勝負と行こう」
同じように卓につき、機械の人差し指をコンコン、と卓に叩いたオートマタはそういうなり手元の二枚のカードを開いた。
「……ストレートだ」
オートマタの手はハートの7、クラブのジャック。場に見えているスペードの8、9にダイヤの10と合わせれば見事なストレートだった。
だがしかし、彼女はにこやかに笑って席を立ちつつ、手元をディーラーの方に投げやった。
「御無礼、フラッシュだ。ワタシの勝ちということで、貰っていくよ」
女の手は、スペードのエース、スペードのキング。場のスペードの8,9に、さらに見えているスペードの3をコンコンと叩いたディーラーは、彼女へポッドの掛け金となっていたコインを全て手渡した。
「はっ、これで勝てねぇかよ……持ってけ」
「言われずとも」
オートマタが酷く残念そうにそういうのを女は笑って受け、コインを入口の換金機に叩き込むべく動き出した。
それから少しもしないうち。
「いやー、勝ーった勝った! 快勝! 勝ち勝ち……んふふふ、勝ち勝ち山ーっ!」
楽しげに言葉を漏らす女がジュラルミンケースを引っ提げて店から出ていく。大金を財布にしまい込み、女は街を行く。その背を追うものがあることを知りながらにして。
暗い、暗い路地裏。ワタシはそれに声をかけた。
「いつまで追いかけてくるつもりかな、不良クン?」
瞬間、発砲音。ゴミ箱に咄嗟に身を寄せて初弾を回避。
ワタシ……
まったく、ワタシは弱いんだから勘弁して欲しい。たかだかうん百万じゃないか。見逃してくれないだろうか……まあ無理だろうな。うん。自分で言ってて思うが、うん百万は大したことないと言うには無理がある。過去の最多の勝ちは4億円だし、それは手付かずで放置してあるんだが、それはまた別の話だ。
「金を置いていけ……!」
「悪いがワタシにとって金は命、金は武器でね。申し訳ないが諦めてもらいたい!」
「できるわきゃねぇだろうが!!」
うーん、それはそう。ということで、ワタシの隠し技のお時間だ。
対価は……そうだね、彼女くらいなら10万円もあればいいだろう。
「『
そうワタシが呟くと、空中に裂け目が開く。ロングコートの内側に眠った封筒を投げ入れた瞬間、身体の感覚が途端に切り替わるように良くなった。
「行くかぁ……」
とんっ、と一歩を踏み出す。ゴミ箱を飛び越え、壁を蹴り、彼女の正面に飛び出し、さらに壁を蹴る。高さを稼ぎながら飛び……
「速ッ……!?」
「咄嗟に銃口を向けるのは良い。だがまだまだだ」
彼女の銃口がこちらを向いているのを目視。高度を上に、太もものガンベルトから引き抜いた拳銃で銃口は下に弾く。
「動かないでね……私の勝ちだから」
稼ぎ出した時間は数秒、しかしそれだけの猶予があれば私の『強化された』身体能力なら回り込んで銃を突き付ける余裕がある。
「……あー、速すぎだろ……腕には自信あったんだけどな」
「じゃなきゃこんな仕事してないよねぇ。ま、今回はツキがなかったと思って諦めてくれるかい?」
「諦めれば見逃してくれんのかよ?」
「いいや、そうは言ってない」
ずだんっと響く二度の銃声。ヘイローを消した彼女の身体を優しく受け止めて、路地裏のゴミ箱の中に放り込むとワタシはジュラルミンケースを拾い上げて家に帰ることにした。
「まあ、今日は多く勝ててよかったということにしようかな」
そんな独り言を漏らしながら、ワタシは今日も帰路を行く。
ある意味、いつもの日々だった。
ワタシには神から受け取った物がいくつもある。ひとつはこの恵まれた容姿。長身、程よく肉の乗った身体。男相手にこの身を賭ければ金がなかろうと勝負ができるほどのモノだ。
そして、次にはギャンブルへの天賦の才。こればっかりは欲しくても手に入らない者ばかりだから感謝に絶えない。これがあるからワタシはまだ誰にも神から貰った体を譲らずに済んでいるのだから。
最後に、『取引』という異能。
対価として何かを捧げ、それを現在の価値で円に換金した額に質と量を比例させる、肉体の強化。なお、金銭そのものを捧げた場合は円のレートに一度両替される。
分かりにくいかもしれないが、ようは『自分のモノあるいは金を捧げれば捧げるほど強く、長くドーピングができる』という代物。
この力があるから、ワタシは今まで勝ち続けてこれたのだ。……賭けに、ではないよ。その後の本番……『回収業者』相手の戦いにだ。
「……ぅぇぇえ……」
まったく、神は二物を与えずなどとは雑な嘘もあったものでは無いだろうか。ワタシはすでに三物……生まれとかまで含めれば四物か五物は貰って居そうなものなのだが……
「ふぇぇ……えーん!」
おや? 子供が泣いている……はあ、放っておけない。私の性分はどうも損回りが多くて嫌になる。神が寄越した幾つもの恩恵の分だけ、デメリットがあるとすればひとつは間違いなくこれだろう。
「……キミ、大丈夫か? 泣くものじゃない、話をお姉さんが聞いてやろう」
「ふーせん、あんなとこに引っかかっちゃったの……わたしじゃ無理だし……えっぐ、取れないしぃ……ひぐっ」
「泣くな泣くな。良いか、女の涙はタダでくれてやるもんじゃあないんだ。何よりも強い、最高の武器なんだからな。笑ってみせな……それが無理なら、私がキミを笑わせてやる」
……そうだな、5万円くらいか?
「さあ、見ていてくれ……『
また研ぎ澄まされる感覚。飛び出す。先程よりも速度は出ない、出す必要も無い。強化の感覚はずっと前から掴んでいる。身体中を巡る強化の残滓をかき集めて足に集中……飛ぶ!
「……えーっ!?」
「よっ……とっ!!」
高い高い屋根のツッパリに引っかかった風船を一息に飛び上がって手に入れ、ヒーロー着地で着地……うう、膝が痛む。これ身体への負荷がヤバい。
とにかく、今は先にこれを渡さなくてはね。
「はい、風船。次は手放すなよ?」
「……お姉ちゃん、ありがとう!」
眩い笑顔。そうさ、それでいい。
「ほら、笑ってくれたな。そうやってずっと笑っていてくれ」
「うん、もう泣かない!」
「その意気だ。気をつけて帰りなよ」
「ありがとー、お姉ちゃん!」
その背中を見送ってから家に戻る。D.U.の郊外寄りにある小さなアパートだ。元々は百鬼夜行の実家に居たんだが、どうも合わなくて飛び出してからはここを借りてそれっきり戻っていない。
「ん……?」
扉を開いて、まず最初に靴を脱ぐために視線を下に向けた途端目に飛び込んでくる、青と白の封筒。裏向きのそれを拾い上げて、宛名を確認する。
ワタシ宛……送り人は誰なのだろうと気にかかり見ると、そこにはこう記されていた。
「オデュッセイア海洋学園クルーズ船『ゴールデンフリース』……か。オデュッセイアが私に手紙とは、いったいどんな風の吹き回しなのやら」
軽口を誰も聞いていないというのに叩く。すっかり一人暮らしが板に着くと、独り言は癖になってしまって、止めようとして止められるものでは無い。
多少苦戦したが中から手紙を取り出し読んでいく。
『拝啓 敬愛なる西園寺様』
『この度、私共オデュッセイア海洋学園クルーズ船「ゴールデンフリース」は貴女様に乗船の資格があると認定致しました。ゴールデンフリースは船内でギャンブルを行えるギャンブルクルーズ船でございます』
『キヴォトスに名を馳せるギャンブラーとしての西園寺様にとっての運試しとして、是非ご乗船いただきたいと思い、同封で招待券を送らせていただきました』
『ご不要の場合、招待券は同封の小封筒に入れてご返送いただきたく思います。もしご乗船いただける場合、招待券指定の日時、場所にお越しください。船長下一同、お待ちしております。敬具』
面白い。率直にそう思う。ゴールデンフリース号。今思い出したが、船でもって海を行き、その間ギャンブルに興じ続ける狂気の船。そこからの招待……いや、敢えて言う。これは『挑戦状』だと。
「ワタシに挑戦するか……いいだろう。そういうとこがあってもいいと思い始めていたんだ」
不敵に笑みを浮かべ、ワタシは中の招待券に目を通し……
「……ひとまず、カジュアルフォーマルな服を買わなくてはならないかもな……」
ドレスコードの欄でつまづいた。
とにかく、こうしてワタシはゴールデンフリース号に乗り込むことになったのであった。
評価、感想をモチベに書いていきます。
息抜きなのであんま長くは書かない……つもりではいますがどうなるかは分からないです。
よろしくお願いします。