帝国の鬼狩り   作:ひがしち

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第十一話 無限列車 参

目を開ければ、そこは汽車の中だった。

 

千尋は頬を伝う涙を拭いながら刀を握って拳銃を抜いた。それで真っ先に目に入ったのは一人だけ立ち上がっている杏寿郎の姿だ。

 

「煉獄!?」

 

だが、杏寿郎は起きてはいないようで、どういうわけか少女の首を掴んだまま眠りに落ちている。

寝相が悪い──そんな冗談を言っている場合ではなかった。

 

「起きろ煉獄!緊急事態だぞ!おい!」

 

どちらかといえば杏寿郎は寝起きは良い方だった。だが杏寿郎は目覚めない。千尋が声を上げても、鞘で小突いてもうんともすんとも言わなかった。

 

「クソ!誰でも良い!誰か起きている者はいないか!」

 

千尋は杏寿郎を諦め、他の隊士、もっといえば列車内の誰かが起きていないか叫ぶが、誰一人として起きていない。深夜に走る列車だとしても不自然で、千尋はこれを血鬼術だと断定した。

 

だが断定したところで対処法がない。

 

どうすべきかとため息をついた千尋だったが、隊服の裾を引っ張られ、そちらに顔を向けると、何かねだるような顔の禰豆子がこちらを伺っていた。

 

「禰豆子……そうか、お前は切符を買ってなかったのか」

 

どうやら切符を買ってきた我妻が禰豆子の分を買い忘れ、禰豆子は血気術を回避したようだった。これは好都合。

 

「禰豆子、お前の力を借りたい。竈門の報告を聞くとお前は鬼のみを燃やす炎を扱うようだな。頼む、この縄と切符を燃やしてくれ」

 

千尋は拳銃を納め予備の短刀を抜き、禰豆子に渡した。それを見た禰豆子は何をすべきかを理解し、鍔元を強く握り血を流す。

 

「やれ!」

 

千尋の合図で禰豆子は血鬼術を発動。炎はすぐに列車内に広まり、煉獄をはじめとする隊士たちの縄と切符に燃え移った。

すると、

 

「あああああ!!!」

 

「ウラアアア!」

 

すぐに炭治郎と嘴平が叫び声をあげながら飛び起きた。尋常でない様子に禰豆子は驚き千尋の後ろに隠れ、千尋二人に声をかける。

 

「目が覚めたか竈門、嘴平」

 

「た、橘さん……」

 

目が覚めたら炭治郎はかなり顔色が悪く、首を抑えてひっきりなしに周囲を見渡していた。千尋の顔を見て幾分か顔色が良くなった炭治郎は、ハッとして千尋に問いかける。

 

「禰豆子は!?禰豆子はどこですか!?禰豆子の血の匂いがしたんです!」

 

「落ち着け、禰豆子はここにいる。血の匂いは、血鬼術を使わせたからだ、すまん」

 

千尋は背中に隠れる禰豆子を押し出し、それを見て炭治郎の顔色は元に戻った。よほど心配だったらしい。

 

「二人も夢の中で自分の首を斬ったんですか?」

 

「首を?いいや」

 

「お前何言ってんだ?」

 

「え、違うんですか!?」

 

話を聞くと、どうやら炭治郎は夢の中で自分の首を斬り、そうして強制的に覚醒したらしい。だが千尋と嘴平にはそんな覚えはなかった。二人とも急速に目が覚めて、気がついたら汽車の天井を見上げていた。

 

因みにだが、本当は炭治郎の強制覚醒が正しい手順であり、千尋と嘴平は切符を切られてないので普通に覚醒したのだつまり、あの車掌がしっかり鋏痕を付けていれば、二人も自害するか、禰豆子が縄を燃やすしかなかったのだ。

 

「まぁいい。どのみち縄は切れたんだ。煉獄も我妻もそのうち起き──避けろッ!」

 

千尋は突如として殺意を感じ取り、炭治郎と嘴平を庇うように振り返り、手に錐を持ったさっきまで杏寿郎に首を絞められていた少女の手を掴んだ。だが狭い車内で思うように動けず、千尋は女に押し倒され抑えられてしまう。

 

流石の千尋も、錐を喉に突きつけられた状態で同じ体格の女を押し返せるほど、近接格闘に秀でていなかった。

 

さらに錐を持っているのは女だけではない。他にも二人が炭治郎と嘴平に向かって席を乗り越えて錐を振りかぶり、これには二人とも辛うじて反応できた。

 

「何だ貴様ァ!」

 

「邪魔すんじゃないわよ!アンタたちのせいで夢を見せてもらえないじゃない!」

 

その言葉を聞いて、千尋の握力が強まった。異音が鳴り、ついには骨が砕けるような感覚が千尋に伝わった。

鬼に操られているのではない、この者たちは、自らの意思で自分たちを害しようとしているのだ。

 

「禰豆子!煉獄を殴って叩き起こせ!」

 

「ムー!──ムー!!」

 

「痛い!」

 

禰豆子は杏寿郎の頭に自分の頭を強くぶつけ、杏寿郎の目を醒させた。杏寿郎の頭には冗談のような大きさのたん瘤ができ、大きな声で痛いと叫んだ。

 

「煉獄!竈門と嘴平の奴をどうにかしろ!」

 

「む!任された!」

 

杏寿郎は目にも留まらぬ速さで炭治郎と嘴平を殺そうとしていた男女を失神させ、それに驚いた女も一瞬力を抜いてしまい、千尋に逆転された。

 

「がっ!」

 

「動くな!目的を言え!」

 

「い、言うわけないでしょ……私は、彼と会うのよ!」

 

「浅はか!」

 

千尋は強く握った拳を女の顔に目掛けて振り下ろした。グシャっと聞くに耐えない音と感覚が拳を伝わり、女を失神させた。その時だった。

 

不意に右の腰が軽くなるのを感じた。背筋を氷柱が通うような感覚が走る。今まで何度も経験し、ある種慣れ親しんだとも言える感覚──だがその感覚は、戦場でしか味わえない感覚だ。

 

「橘さん!」

 

その様子を見た炭治郎が叫んだ。振り返ると、千尋の夢に入った少女が千尋から拳銃を盗み、銃口を千尋に向けていた。指はもちろん引き金にかかっている。

銃の重みか、はたまた恐怖か。とにかく銃口がぶれていたが、この距離で撃たれれば、確実に千尋に当たる。

 

──死ぬ

 

その瞬間、全てがゆっくりに見えた。少女の指が徐々に引き金を引くために力んでいる様子も、炭治郎が少女を取り押さえようと狭い座席で動いているのも。だが自分だけは素早く動けていた。

 

刀に指をかける──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え、」

 

 

 

 

 

 

「うわっ!?」

 

ダァンという発砲音と共に、炭治郎の顔に赤い塗料のようなものが吹きかかった。

 

「……はぁ……はぁ」

 

「大丈夫か橘!どこを撃たれた!」

 

千尋は息絶え絶えに呼吸をしている。すぐに杏寿郎が駆け寄り、青い顔をした彼を支えた。

彼は真っ赤に染まった自分の隊服を見て呟く。

 

「違う。煉獄、違うんだ……」

 

杏寿郎は千尋が何を言っているのか分からなかった。てっきり死に際の譫言かと思ったが、それにしては随分とはっきり話すと思った。。それと千尋の隊服に広がった血が一向に広がらないことに気がついた。

 

撃たれたのであれば、その銃傷から止めどなく血が流れ、どんどん赤いシミが広がるはずだ。赤いシミが広がっていないということは、千尋は撃たれていないということだ。

 

「これは……私の血じゃない」

 

千尋の刀は、血に濡れていた。

 

「──っが」

 

二人の前にいた少女が喉から大量に血を流し横に倒れ、数度の痙攣の後、二度と動かなくなった。首を斬られたことによる失血死であった。

誰にやられたかは、一目瞭然である。

 

少女の死と友人の殺しを見た杏寿郎は少し考えるような様子を見せ、それからすぐに目を開いていつもの調子に戻る。

 

「立てるか、橘」

 

「……ああ。大丈夫だ」

 

杏寿郎は床に座る千尋の起立に手を貸し、少女が持っていたコルト拳銃を拾い上げた。少女のものだろう、血がベッタリと付いている。

 

「気にすることはない!死なせてしまったのは残念だが、橘に非はない!斬らねばこちらが危なかった!」

 

「……煉獄」

 

「そもそもの話、この少女が橘の拳銃を奪わなければよかった話だ!正当防衛というや」

 

「煉獄!」

 

千尋の大声に、杏寿郎は黙った。彼が自分に向けて大声を上げたのはいつぶりだろうか。いや、そもそも前例があっただろうか。

 

「……大丈夫だ。私は欧州で四百の敵兵を殺した。今更一人増えたところで如何とも思わんさ」

 

大丈夫、大丈夫、と呟く。だがそれは杏寿郎にではなく自分に言い聞かせているようだった。

 

「大丈夫か、竈門。血が目に入ったか?」

 

「はい……目が痛いです……」

 

「外で洗い直してこい。ほら、この水やるから。嘴平、ついて行ってやれ」

 

「お、おう……」

 

嘴平は水筒を受け取り炭治郎と共に汽車の連結部へ移動した。千尋の心臓は未だに大きく鼓動している。

 

「煉獄、私は先頭車両で鬼を探す。お前は後方車両に行ってくれ」

 

「うむ!だがこの黄色い少年はどうする!」

 

「我妻は寝ていた方が強い。そのままにしておけ。いざとなれば禰豆子がいるさ」

 

「わかった!では早急に!」

 

「ああ、気をつけろよ」

 

「あ、煉獄さん、橘さん!」

 

二人が前後方に別れようとしたところで、車列の扉を開けて顔を洗っている炭治郎が声を上げた。何か鬼の痕跡を発見したようだ。

 

「列車の先頭から鬼の匂いが流れてきます!多分……鬼は列車の上にいると思います!」

 

「そうか……煉獄、ここは譲ってくれるか?」

 

「ああ!では俺は後方車両から乗客を守ろう!」

 

「ありがとう。竈門、ついてきてくれ」

 

「はい!」

 

千尋は顔を洗った炭治郎を引き連れて列車の屋根へと飛び移る。確かに、息苦しく不快な空気が列車の先頭から流れて行きている。蒸気機関車の排煙ではないことだけは、千尋にもわかる。

 

「足元に気をつけろ。ここから落ちたら、列車の下に巻き込まれて自分だけでなく他の乗客も巻き込む大事故になるぞ」

 

「は、はい……」

 

屋根の上で走りながら、眠った後の経緯を聞いていると先頭車両に人影が見えた。それは、一見すると洋装の優しげな青年だった。しかし、その目には『下壱』と刻まれていた。

 

「あれえ、起きたの。おはよう。まだ寝ててよかったのに」

 

千尋は鬼の起床も想定内という態度が気に食わず頭に血管を浮かべ、炭治郎も怒りの表情を見せた。炭治郎が刀を手に持ち構える姿が目の端に映る。

 

「せっかくいい夢を見せてやっていたでしょう。お前達の家族や友人が惨殺される夢を見せることもできたんだよ?」

 

「人の心の中に土足で踏み込むな!俺はお前を許さな──」

 

しかし、同時に鬼もまた左手を伸ばす。何かの血鬼術を仕掛けるようだ。

 

だが、動き出しは千尋の方が早かった。

 

全集中・花の呼吸 肆ノ型 紅花衣

 

花の呼吸の中で、千尋が最も得意とする技が炸裂。距離を詰めると一瞬で魘夢の頭と胴体が二つに分かれた。しかし、どういうわけか転がった首が表情を変える。

 

魘夢の首は全てを嘲笑うような笑みを浮かべていた。

 

「……怖い怖い。随分せっかちなんだね。でも残念。俺は本体じゃないよ」

 

確かに魘夢の言う通り、千尋は首を切ったにもかかわらずまったく手応えを感じられずにいた。

仮にも十二鬼月だと言うのに体が柔過ぎる。

 

まるで、最初から斬られる前提のデコイのよう。

 

「この実力、柱だね……しかもそこのガキは耳飾りのガキじゃないか。ようやく俺にも運が回ってきたってことだ」

 

振り返り、千尋は思わず気持ち悪と呟いた。斬ったはずの鬼の頸から太い肉の柱のようなものが生え、頭を持ち上げていたのだ。見方を変えればろくろっ首のようなものだが、とてもそうとは思えないくらい気持ち悪い。

 

「っな、なんで死んでないんだ!?」

 

「本体が別にいるというだけだろう。気色悪い。もうちょっと見てくれはどうにかならなかったのか?」

 

「その通りさ。君たちがすやすや眠っている間に、俺はこの汽車と“融合”した!」

 

千尋は思わず呻きそうになった。物体と融合する鬼は少ないが、決してない話ではない。千尋の経験でいえば四年ほど前に遭遇した蚕鬼がそうだ。あの鬼は人間の死体に融合し、着ぐるみとして太陽の元も動いていた。

 

だがそういう鬼にも頸に相当する場所はある。この眠り鬼が巨大な列車と融合したとしても弱点はあるのだ。

 

だが厄介なことは──

 

「この列車の全てが俺の血であり肉であり骨となった。この汽車の乗客二百人あまりが俺の身体を強化するための餌。そして人質」

 

乗り物と融合したということは、必然的に乗客たちはすでに鬼の体内にいるということになる。融合した鬼が食べ物をどうやって消化するかは知らないが、時間の問題ということは確実であった。

 

「守りきれるかな?君達だけで」

 

冷ややかな声で囁くと、ドプンと汽車に沈むように、魘夢の姿がその場から消える。千尋はそれを確かめ叫んだ。

 

「行くぞ竈門!列車の中を探すぞ!」

 

「はい!」

 

二人列車の中に降り、鬼と融合した列車内を走る。千尋は列車に逆らうように信濃が飛んで行くのを見て、頼んだぞと呟いた。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

二人が列車の中に戻ると、座席や壁が肉のように膨らみ人々を侵食しようとしていた。脈打つ肉塊を迷いなく刀で斬り込む。

だがその千尋の表情は苦虫を噛んだかのように、眉間に皺がよっている。なぜなら……

 

「気持ち悪い!」

 

肉を斬る感覚が非常に気持ち悪い。見てくれも気持ち悪いし、感触も気持ち悪い。いいとこなしの肉。それが千尋の一番の感想だった。

 

「竈門!あったか!」

 

「こっちにはありません!」

 

「よく探すんだ!攻撃すると防御の肉塊が出てくるところが急所だ!」

 

拳銃と日輪刀を手に乗客を守りながら頸を探すのは、炭治郎と千尋を持ってしても困難であった。そもそも二人は頸が列車の前方にあると予想しているが、頸がどこなのかは不明のままだ。

 

「権八浪!鉄砲野郎!どこ行った!」

 

すると頭上から嘴平の怒号が聞こえてきた。なぜ列車の上にいるかは不明だが、とにかく無事なようだ。

 

「どうした嘴平!」

 

「全力の漆の型で見つけた!この(列車)の急所は前の方だ!」

 

「よしでかした!」

 

千尋は拳銃で肉塊を撃ち抜くと後方車両に向けて怒鳴る。聞こえているかどうかは分からないが、とにかく伝えなくてはならない

 

「煉獄!嘴平が頸の位置を見つけた!前方の……どこだ!」

 

「とにかく先頭の方だ!」

 

「おそらく火室か運転室だ!私たちがそこに向かう!他の車列を守ってくれ!煉獄!」

 

すると煉獄の声が風に乗って「わかった!」と聞こえてきた。流石の声量だ。

 

「行くぞ竈門!」

 

「はい!」

 

二人は周囲の肉塊にできる限り細かい傷をつけながら走る。先頭の運転車両に到着すると千尋は拳銃を片手に扉を蹴破り、炭治郎と共に乗り込む。そこにいた運転手が真っ青な顔で叫んだ。

 

「なんだ、お前らは!出てい──ッがは!」

 

先ほど女に抑え込まれて鬱憤が溜まっていたのであろう。千尋は運転手の腕を絡め取り、そのまま背負い投げで運転手を床に叩きつけた。それと同時に四方八方から手の形をした肉塊が襲ってくるが、反応した炭治郎よりも早く千尋の刀が抜かれ、瞬きをするよりも早く肉塊を切り刻む。

 

「防御に出るってことはここで間違いないな!竈門!運転手を後ろに運べ!」

 

「はい!真下です、そこの床が一番鬼の匂いが強い!」

 

「よしわかった!」

 

列車の床は普通は金属でできていて、千尋とて斬鉄は不可能に近い。だが今この列車は鬼だ。金属でできている部分も、鬼の身体の一部ほどの硬さに落ちている。

どういう原理で融合したのかは分からないが、少なくとも嘴平は運転室の天井を斬って入ってきたので、それほどの硬さということだろう。ならば、千尋の専門分野だ。床ごと鬼の頸を刎ねてやる。

 

千尋は一度刀を構え直し、再度呼吸をし直し、一気に刀を振るう。

 

だが

 

「風の呼吸 弐ノ型 爪々強制昏倒睡眠・眼

 

刀を構え振り下ろす瞬間、不意に肉塊から眼が現れた。中心には『夢』と刻まれている。

 

血鬼術だと理解した瞬間にはもう遅く、千尋は一瞬で夢に落とされたが、先ほど炭治郎が言っていたことを思い出し、すぐに拳銃自殺。一秒にも満たない時間で再覚醒した。

 

「っ、竈門!」

 

炭治郎も意識を消失したが、夢の中で自分の頚を斬り覚醒したらしい。しかし、覚醒する度に鬼の眼と視線が合ってしまい、消失と覚醒を繰り返している。

 

だが嘴平は猪の被り物をしているため、鬼は嘴平の視線が分からず血鬼術をかけられない状況だった。

 

「竈門お前はいい!私と嘴平で鬼の首を斬るからお前は退がれ!──って馬鹿野郎!」

 

と、言った瞬間、夢と現実が混乱したらしい炭治郎が自分の頚に刀をかけた。ギョッとした千尋が慌てて炭治郎の横っ腹を蹴り飛ばし、刀から離す。

 

「た、橘さん!?」

 

「夢と現実の区別をつけろ!嘴平!やるぞ!」

 

「おう!」

 

獣の呼吸 肆ノ牙 切細裂き

 

風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風

 

事はあっという間だった。まず嘴平の切細裂きが肉塊と床の天板を斬り裂き骨を露出。それを守るために数十の手型の肉塊が出現するが、爪々・科戸風がそれらを抉り取り、頸の骨に刃が到達する。

 

だが最適性ではない呼吸では下弦の壱の頸を最後まで斬れなかった。そこで千尋は嘴平に叫んで刀を蹴らせ、さらなる動力を得ることに成功。凄まじい推進力を得た刀は下弦の壱の頸を刎ねた。

 

直後に終末の音のような断末魔が轟然と鳴り、列車全体が跳ね、後方車列から肉の壁が飛び出ているのが見えた。頸を斬られてのたうち回る、鬼の最後の抵抗であった。

 

千尋は炭治郎と嘴平を両手に守るように抱きかかえた。

 

──列車が横転する

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