帝国の鬼狩り   作:ひがしち

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第十九話 最終決戦へ

花柱橘千尋の逃亡は、瞬く間に鬼殺隊全隊士に広まった。

 

ある者は鴉伝に、ある者はその場にいた隊士から、ある者は風の噂で。その噂が鬼殺隊全体に広がるまで、そう時間はかからなかった。そしてなにより、何故逃げたのか、という話も同じように広まった。

 

千尋の逃亡前に始まった柱稽古の最中でも、隊士の間ではその噂で持ちきりであり、憶測が憶測を呼び続けた。

 

「なんでも、鬼だって話だぜ」

 

「鬼ィ?」

 

噂の情報を聞いた隊士が、素っ頓狂な声を上げる。

 

「鬼って、俺たちが斬ってきた鬼?」

 

「ああ、花柱を捕らえようとした現場に、俺の兄弟子がいて聞いたんだ。店に突入する前、風柱は『アイツの事を思うなら、今ここで殺してやれ。アイツは鬼殺隊の裏切り者だ』って」

 

「鬼なんて、一言も言ってねぇじゃん」

 

「バッカお前、花柱が上半身吹っ飛ばされても再生するところを、何百羽って数の鴉が見てんだ。アイツらは嘘をつかねぇ」

 

「まぁそうだけど……」

 

場面変わって甘露寺邸。ここでも同じような話がされていた。

 

「あの人が鬼だからってなんなんだよ。鬼殺隊になら、もう禰豆子や珠世さん、愈史郎だっているじゃねぇか。一回同じ任務についたけど、別に怪しい動きはなかったぜ?」

 

「あの人は陸軍の情報将校だぞ?俺たちに気づかれないよう、鬼側に情報を流すことなんて朝飯前だろ」

 

「でも、花柱さんが鬼だったってことは、今まで柱たちはそのことに気付いてたんじゃないのか?」

 

「柱でも気づかないくらい、精巧に擬態してたってことだろ?」

 

「花柱様は呼吸をお使いになるだろう?鬼に呼吸なんて使えのか?」

 

「使えるんだよ。今から数百年前、鬼になった柱がいて、御館様の頸を土産に鬼舞辻に寝返ったって記録があるんだ。その寝返った隊士が使ってたのが、全集中の呼吸だよ」

 

「なんだよそれ、何百年も前の話じゃねぇか」

 

「でも辻褄は合うんだよ。その鬼が今も生きているとすれば、きっと上弦の壱くらいにはなってる。上弦の壱って言えば、もう生物じゃねぇ、神の領域だ。お前も知ってるだろ?花柱の強さは」

 

「知ってるけどよ……別に、あの人は人間の領域を出ない人だったぜ?」

 

「そんなもん手加減してんだよ。強すぎたらバレるだろ?」

 

時透邸。

 

「待てよそもそもおかしいだろ。もし本当に橘さんが鬼だったとして、なんであの人は人と同じものを食えるんだよ。鬼って人間しか食わねぇんだろ?俺、あの人が普通に飯食ってるところ見たぞ」

 

「馬鹿お前、珠世のこと知らないのかよ。あの人、紅茶くらいなら飲めるんだぞ。それ以上に人間も食生活に慣れている鬼がいる可能性だって十分あるさ」

 

「そんなの無茶苦茶だよ!そんなこと言ったら僕らだって鬼って言われて否定できないじゃないか!」

 

「俺たちは怪我すれば治るのに時間がかかるだろ?あの人は上半身吹っ飛ばされても再生して生きてんだよ。それに過去の記録じゃ、腹を貫かれても二週間くらいで完治して目覚めてる」

 

「それは……」

 

「それにあの人が禰豆子や珠世さんたちを鬼殺隊に引き入れたってのも不自然だ。普通柱がそんなことするか?禰豆子や珠世さんは、注目を逸らすための依代だったんだよ」

 

「なんで依代にするのに、自分が引き入れたって言っちゃうのよ。注目逸らせてないじゃない」

 

さらには宇髄邸。

 

「あの人は鬼殺隊のために死ぬ気で働いたんだぞ?鬼なわけないだろ」

 

「それも含めて作戦なんだよ。自分だけで鬼殺隊なんて滅ぼせるって、鬼舞辻に進言したんだ」

 

「待て待て、そもそも橘様が鬼だって決まったわけじゃない。再生したって、鴉の見間違いかもしれないだろ?」

 

「だったらなんで逃げたりなんかしたんだよ。しかも陸軍大臣との会食中に窓からだぞ?自分の身の潔白を証明したいなら、正面きって証明するだろうさ」

 

噂はどれも千尋は鬼舞辻の一派であると決めつけているものばかり。

そして、悲鳴嶼邸。

 

「……例え橘さんが鬼だったとしても、俺は橘さんを信じる。橘さんに着いていく!」

 

「っな!お前正気か!?花柱についていくってことは、鬼の味方をするってことだぞ!?」

 

「鬼の味方じゃない!橘さんの味方だ!」

 

「どっちも一緒だよ!結局花柱は鬼だったって、柱たちが今頃結論付けてるんだ!」

 

「そんなの知るか!俺は欧州戦線で橘さんに助けてもらったんだ……あの人を信じなくて誰を信じろっていうんだ」

 

「落ち着けって!お前が花柱を信じる気持ちは分かるが、何ができるって言うんだよ」

 

「……連判状だ」

 

「……は?」

 

「連判状だよ!あの人に恩がある人は鬼殺隊や軍に沢山いる!その人たちに連判状を書いてもらって、橘さんへの不当な拘束を目的とした追跡を辞めるよう進言するんだ!」

 

「やめとけって!そんなことしたら、風柱に殺されるぞ!」

 

「殺せるものなら殺してみろ!俺はこれでも甲、最終決戦に向けて必要な戦力だぞ!ここで反対する連中全員を殺すって言うなら、それこそ鬼殺隊に対する裏切りだ!」

 

だが千尋の味方も少なくなかった

 

憶測が憶測を呼び、噂に尾鰭がついて、もはや根も葉もない噂まで出始め、事態を重く受け止めた産屋敷は柱たちを緊急招集。一月ぶりの柱合会議が開かれた……が、

 

「どういうつもりだ不死川テメェ!」

 

柱たちの中でも意見は分かれていた。

 

「どういうつもりだと?何度も言ってるはずだ、鬼を滅してこその鬼殺隊だとな」

 

「テメェが追跡してんのは()()だ!同士討ちでもするつもりか!」

 

「仲間?いつから鬼殺隊は人殺しの鬼を仲間とみなすようになったんだ?それとも俺が知らねぇだけか?」

 

しのぶと冨岡が到着した頃には、実弥と宇髄が一触即発の雰囲気で口論をしており、二人の間で甘露寺がオロオロとしていた。

立ち位置から見るに、実弥と悲鳴嶼が追跡続行派、宇髄と無一郎が追跡中止派、甘露寺と伊黒がそれを仲裁していると言った形であった。

 

このままでは会議ではなく殴り合いに発展しかねない。しのぶは一度両陣営の仲裁をとりもつとそれと同時に、産屋敷耀哉代理の産屋敷あまねが入室し、柱たちの喧騒はピタリと止んだ。

 

「大変お待たせいたしました。本日の柱合会議、産屋敷耀哉の代理を産屋敷あまねが務めさせていただきます。そして、当主の耀哉が病状の悪化により皆様の前に出ることが不可能となった旨、心よりお詫び申し上げます」

 

あまねの言葉に、柱たちは喧騒を忘れ、

 

「承知。御館様が一日でも長くその命の灯を燃やして下さることを祈り申し上げる…あまね様もお心を強く持たれますよう……」

 

代表するように一番前にいた悲鳴嶼が祈りを上げ、それに倣って後ろにいる七人も同意するように頷く。

そんな悲鳴嶼の気遣いに、あまねはまた感謝の意を述べて議題の本題に入った。

 

「既にお聞きおよびだとは思いますが、花柱・橘千尋様のことでお集まりいただきました。橘様は上弦の弐討伐作戦の後、陸軍大臣との夕食会談中に行方を晦まし、現在行方不明となっています」

 

あまねが最後まで要件を述べたことを確認し、しのぶがあまねに問う。

 

「あまね様、まず前提を確認させて頂きたいので、鴉の証言をお聞かせください。」

 

「分かりました。こちらは監視に赴いた百羽の鴉の調書です。一部抜粋して音読致します……『花柱・橘千尋、上弦の弐童磨と自爆。大爆発で上半身が吹っ飛ぶも再生。後に弐の首落とす』と。百羽全てが同趣旨の報告をあげています」

 

「……ありがとうございました」

 

あまねの証言に、追跡中止派は苦い表情を浮かべていた。

 

彼らも鴉が任務では嘘をつかないと知っており、また産屋敷家を疑うことを知らない彼らは鴉とあまねの言葉を真実とし、それからどうやって千尋を擁護するか考えているのだ。

 

「橘の裏切りは明白。橘千尋を鬼殺隊から追放し、彼奴を抹殺する」

 

「ダメだ。橘が鬼殺隊にした貢献は千人の隊士の働きよりも大きい。アイツを抹殺することは、軍部との繋がりを消すことになるのだぞ」

 

「そうだよ!橘さんが仮に鬼だとしても、もう鬼殺隊には禰豆子や珠世さんの鬼の協力者がいるんだ!橘さんだけダメなんて理屈が通らないよ!」

 

実弥の言葉に宇髄と無一郎が反論するが、当の本人はそれを鼻で笑う。

 

「そもそも俺は鬼の娘も女も認めちゃいねぇが、仮にそうだとしても、その連中と橘はハッキリとした違いがあんだろ」

 

「ち、違い……?」

 

「人を殺してんだろぉ」

 

「「!」」

 

産屋敷の会議室の空気が、ドッと重くなる。

 

千尋が軍部との協力を取り付けるため、欧州大戦に従軍したのは鬼殺隊内でも有名な話で、欧米列強の数々の大国から幾つもの軍事勲章を受賞している。彼の愛車も、その証なのだ。

 

その勲章や車はつまり、血に濡れた勲章であり、彼がどれだけ人を殺したかを表したものだのだ。

 

「そ、それは……」

 

さらに柱たちは珠世が人を食ったことがあることを知らない。

それは珠世にそのような過去があっては柱たちの猛反発に遭うと判断した千尋が、珠世について厳しい情報規制を敷き、彼女の過去を無かったことにしたのだ。

 

それのおかげで、柱たちは珠世たちと千尋との間に大きな壁を感じ、実弥の言葉に信憑性を増させる結果となった。

 

「それは日本軍人として当然の行動だ。むしろその結果で鬼殺隊に空前の戦力をもたらした。橘にしかできない仕事だ」

 

「日本人を殺す鬼と、外国人を殺す鬼に、一体どれほどの違いがある。同じ人殺しだ。鬼の娘どもは人を殺していないことを前提に、そして人を殺さないことを条件に鬼殺隊に身を置くことが決まった。なら橘はその条件に当てはまらねぇ」

 

人殺しの有無、それは鬼殺隊の組織哲学にとって最も重要なことであった。

 

「あ、あの〜……」

 

会議室の空気が酷く刺々しくなったところで、甘露寺が手を上げた。

まるで、竈門兄妹を裁判にかけた時のようだ。

 

「一つ質問なんですけど、まだ橘さんが鬼であることは確定してないんじゃ……晴れの日も普通に活動してましたし。噂になってる、再生したっていうのも、ただ鬼と見間違えだだけかも……」

 

そう、千尋は普通に日中も出歩き、日光を浴びてもなんら一切影響を受けていなかった。

 

日光は鬼にとっての絶対的な弱点であり、日光に照らされた鬼の身体は瞬時に灰化して崩れ去る。それは十二鬼月であっても、おそらく鬼舞辻無惨であっても、例外なき弱点である……はずだった。

 

「竈門禰豆子が太陽を克服した以上、日光は鬼にとっての『絶対』ではなくなった。何万分のイチの存在だとしても、存在が確認されてしまっては……否定はできない。それに百羽の鴉が見間違いなど……」

 

「そんな……」

 

言うまでもなく、竈門禰豆子の太陽克服を炭治郎以外で心から望んでいたのは、他でもない千尋であった。

それは竈門禰豆子を人間に戻してやりたいという願望からくるものであり、鬼を人間に戻す薬の研究を指導し、第一人者である珠世を鬼殺隊に引き入れた。

 

竈門兄妹の鬼殺隊引き入れ、軍部との関係を結びつけるための従軍、竈門禰豆子の太陽克服。

 

全て千尋が、自分を犠牲にしてでも鬼殺隊のためにと招いた良い変化だ。だがその全てが千尋を悪と決めつける材料に裏返る。ここにきて、全てが悪い方向へと進み始めた。

 

「……いつからだ」

 

「あ?」

 

「いつから橘に目をつけていた。百の鴉を動かすなんて、柱でも難しい。念入りな裏工作が必要だ。いつからだ、いつから、何を見て行動した」

 

状況に半ば絶望した宇髄が、実弥にそう問うた。

 

追跡中止の有無に直接の関係はないが、工作に気が付かなかった己の不甲斐なさに苛立ち、さらには実弥の行動の意義を確かめなくては気が済まなかったのだ。

 

そして実弥は、宇髄の問いに答えるようにポツポツと語り始めた。

 

「……奴が上弦の弐と戦った後、奴の見舞いに行った時だ。あん時は俺も橘を仲間だと思ってたからなぁ、何度も見舞いに行ったんだが、奴が目を覚ますことはなかった。だがある日、昨日今日で腕の切り傷がなくなっていることに気がついた。瘡蓋が貼られ、未だ膿が出てくるような傷だぁ。そんな傷が、そう簡単に治らねぇ」

 

それから怪しいと思った実弥は、蝶屋敷の面々に内緒で腕や脚の包帯を解き見たのは──

 

「奴の腹に空いた穴が、文字通り目に見えた治ってた」

 

「馬鹿な!」

 

今度はしのぶが叫んだ。

 

言うまでもなく、超常的な再生能力は鬼の特筆すべき特徴だ。

 

彼の傷の治りが妙に早いのは知っていたが、文字通り目に見えて、つまり治っていく様子が肉眼でもわかると言うことは通常あり得ない。

それにしのぶたちは一日に一回は包帯を取り替えている。そんな超常現象は確認されなかった。

 

「何かの見間違いじゃねぇのか」

 

「俺だって最初はそう思った……再生している時としていない時があったからな。何かの見間違い、実際、再生が見えたのは任務の後だったから、疲れがたまって錯覚が見えたと思った……だが違った……奴は、俺の血に反応していたんだよ」

 

実弥の血は稀血と呼ばれ、血の栄養価が極めて高く、さらに実弥の血は希少性が高い稀血であり、実弥だけで五十~百人分の人間を食べるのと同じだけの栄養を得られる。

 

「絶好の獲物の俺を逃さんと再生を早めたんだろうなぁ。結果、奴の身体は尋常じゃないくらい早く治った。腹に大穴空いて三ヶ月寝たきりだったてのに、目を覚ました途端蝶屋敷の中を歩いたそうじゃねぇか。誰か不思議に思わなかったぁ?」

 

悔しいが、実弥の言う通りだった。

 

上弦の弐との戦いで千尋は、脇腹に穴が開き、尾骨の粉砕骨折、肝臓は半分が破裂していた。そんな容体だった彼が、たった三ヶ月余りで立って歩けるようになるわけがない。

あの時は彼が目覚めた喜びで忘れていたが、冷静に考えればその通りだった。

 

「待て不死川。お前、蝶屋敷でそれほどの現象を確認しておきながら、なぜその場でトドメを刺さなかった。それはお前の怠慢だろう」

 

「ソイツはこの間まで日光の下でも何食わぬ顔顔で活動してたんだ。俺はまず自分の目を疑って、お前らと同じように橘の回復を喜んでたんだ……だが日を重ねるごとに奴への疑いは重くなった……それで、今回の監視行動に出たってわけだぁ」

 

実弥とて、ただ千尋を憎む心ばかりだったわけではない。彼を仲間と思っていた。立派な同志だと、鬼殺隊史に残る功績を遺した自慢の同期だと思っていた。

 

だが彼は鬼だった。彼が軍人として動くのであれば、こちらは風柱として鬼を滅さねばならない。

 

どれだけの功績を遺していても、鬼として人を殺しているのなら、それは討伐対象なのだ。

 

「……今現在、橘と八咫烏は捜索中だ。橘に処罰を決めるなら、彼を交えて話すのが筋というもの。捜索は続け、そして見つけてからまた会議を──」

 

その時。

 

「緊急のため無礼をお許しください!!」

 

隠の一人が会議室に飛び込み、悲鳴嶼の話を遮った。

 

「は、花柱のご自宅にて火災が発生!!現在消防隊が消火活動を行っていますが花柱邸の本邸は全焼とのこと!!」

 

 

 

☆★☆

 

 

鬼殺隊関係者が花柱邸に到着した頃には既に火は収まっていた。

しかしそれは消火されたのではなく、燃えるものが無くなった末の消火だった。即ち全焼である。

 

原因は火のついた紙巻きたばこが付近に投げ捨てられ、そこから木造の塀が燃え、風が強かったこともあり、そこから一気に延焼したのが原因である。

 

幸いなことに花柱邸を警備していた憲兵の一人が直ぐにそれに気が付き、使用人や馬などを避難させたので、人的被害はゼロ。

しかし彼の家財や財産は全焼。火が収まったあと、花柱邸には何も残っていなかった。

 

そうして場所は、日本国内のどこかの山。

 

「大佐、ご命令通りに」

 

「ご苦労。よくやってくれた」

 

千尋と共に消えた八咫烏の一人が、任務完了の報告をしていた。

 

「しかし……よかったのですか?」

 

「……問題はない。妻は鈴木閣下が保護してくれることになっているし、従業員たちの給料は既に振り込んだ。家財は偽物だし、財産も全て銀行に預けてある」

 

言うまでもなく、花柱邸の火災は、八咫烏の工作部隊が千尋の命令を受け起こしたものであった。

 

狙いは極秘情報の消去である。鬼との最終決戦に備え、千尋は日本軍のみならず、民間企業や英軍や仏軍などなどとの契約を結び、おびただしい量の近代兵器を輸入した。

 

産屋敷も知らない、全て千尋の独断による契約である。

 

近衛師団司令部庁舎が襲われた今、いつ千尋の自宅が襲われ、情報が漏洩するか分からない。

ほんとうならもっと早く、それでいて穏便に済ませる予定だったが、鬼殺隊を追われ予定が狂った。だが狙いは果たした。

 

情報やその痕跡は全て消失し、鬼のみならず鬼殺隊ですら、千尋と八咫烏の行動を追うことは出来ない。

 

全ての準備が整った。そう言って千尋は八咫烏達を整列させた。

 

「諸君。これからの一ヶ月は歴史の闇に埋もれることになる。しかし目的の日は歴史に残る貴重な日だ。その日は何世代にも渡って語り継がれる。諸君が歴史を作るんだ」

 

一息吸い、また述べる。

 

「今より千年前、京の都で鬼舞辻無惨が鬼になってから、皇国日本は鬼の脅威に晒され続けた。鬼は教育、文化の概念を持たん。ただ増え生きるだけだ。そんな生物、日本には不要だ。一月以内に、鬼の存在は地上から永遠に姿を消す。我々の手で、歴史を作るんだ」

 

返事はない。しかし気勢は充分。八咫烏たちの目は、静かに轟々と燃えていた。

 

「では各自作戦通りに。一部の異変も見逃すな」

 

そう言って千尋は八咫烏達に合図を出し、作戦を決行した。

約三百人が山に銃と刀を持って音もなく山に散り、その姿と気配を完全に山と同化させる。

 

千尋は振り返り、崖下を見て呟いた。

 

「来い鬼舞辻。貴様の狙いは揃っているぞ」

 

そこには、産屋敷邸が建っていた。




大正コソコソ噂話 八咫烏公式声明

日本兵よ前に進め。鬼を完全に根絶するのだ。我々の敵は国賊の鬼であり鬼舞辻無惨だ。千年以上にわたって受けた屈辱を、奴らに味合わせる時が来た。これは聖戦である。聖戦に勝利し、英霊たちの意志を達成するのだ。

我が大日本帝国から毒を浄化せよ。我々は決して止まらない。あらゆる攻撃を受けたとしても、また我々の意志を継ぐ者が必ず現れる。偉大なる天皇陛下にため、我々は臆することなく進み続ける。

尊厳を取り戻すときだ。この千年戦争で偉大な勝利を手にし、日本を取り戻すのだ。
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