帝国の鬼狩り   作:ひがしち

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三話連続投稿ですので、ご注意ください


第二十話 最終決戦 参

場所は無限城。

 

鬼の群れの中で、真っ黒な刀が振るわれる。そうすれば、ボトリボトリと、面白いように鬼の首が落ちた。

 

(橘さん……橘さんはやっぱり仲間だった!)

 

炭治郎は流れるように刀を振るい、その顔に笑みを浮かべた。

憧れの人物は、鬼殺隊を追われながらも、自分たちの戦いに加担してくれた。やはり、味方だったのだ。

 

だが笑みを浮かべている場合ではない。鴉たちの情報では、鬼舞辻は繭のように変化し、体力の回復を行っているのではと推測された。

 

もっと速く現場に急行し、鬼舞辻無惨にトドメを刺し、この戦いに終止符を打たなければならない。

 

家族の無念を晴らし、妹を人間に戻す。そして恩人たちに恩を返すのだ。

 

だから、

 

「こんなところで負けていられない!!」

 

炭治郎は声高らかに叫んで、思い切り地面を蹴ると、周りの鬼の首を両断する。

 

その時だった。

 

突如、微かに血に濡れた鉄の匂いを炭治郎は感じ取り、それが異様に近いことに気がつく。

 

──刀が、自分に向けて振るわれている。

 

炭治郎は咄嗟に刀を振り上げ、何者かが振るった刀を弾くと、そのまま猫のように転がり、体勢を整える。

 

顔を上げると、鬼殺隊の制服ではない、なにかの外套を護った男たちが自分に向けて刀を抜いて飛びかかっているのが見えた。

 

炭治郎は水の呼吸の技を利用し、それらを防いで、何とか距離をとる。

しかし何処かで僅かに斬られたようで、目の下辺りからトロリと黒い血が垂れた。

 

「……遅いな」

 

「子供だからでありますか?」

 

「油断するな。奴は『日の呼吸』の適性者……奴に斬られれば、身体の再生が著しく妨害される」

 

「ですが結局は斬られなければどうということはないのでしょう?」

 

「驚異的だが……機関銃に比べれば稚児のようなもの」

 

男たちは刀に着いた血を拭き取り、再び刀を構えた。

 

「なんだお前たち!」

 

なんだ、と言うが、おおよその検討は着いていた。

外套から除くのは、鬼殺隊とはまた違う制服。

 

「なんだ……か。分からんだろうが教えてやろう。己達は大日本帝国陸軍第一近衛師団、畑中小隊所属第三分隊・通称有馬班……己は班長有馬寛文曹長。我が主君護衛のため、貴様を誅伐する!」

 

 

 

☆★☆

 

 

 

鬼の屍が灰となって消える中を、二つの人影が進んでいく。

一人は悲鳴嶼で、もう一人は無一郎。二人は鬼舞辻に斬りかかった時に近くにいたため、共に行動していた。

 

「凄い量の鬼ですね」

 

悲鳴嶼の背中を追いながら、無一郎が呟く。

 

「下弦程度の力を()()()()()()()ようだ。これで私達を消耗させるつもりなのだろう……」

 

「……御館様は?」

 

無一郎の問に、悲鳴嶼は淡々と答える。

 

「御館様は橘が保護する手筈になっているが……どうなったかは、陸軍次第だ」

 

静かに紡がれた言葉に、無一郎はホッと胸を撫で下ろす。

無一郎は千尋と、その指揮下の陸軍を信頼しており、それなら御館様も無事だと確信したのだ。

 

「……御館様は僕の二人目の父親のように暖かく接してくれた。勉学の場も用意して……御館様には感謝してもしきれない」

 

そしてまた、無一郎は御館様こと産屋敷を敬愛し、尊敬している。

そんな相手を傷つけようとする者がいるのであれば、無一郎は容赦なく刀を振るう。

 

「鬼舞辻無惨は僕の兄だけではなく父親も奪おうとした……僕は無惨を許さない。橘さんやみんなが味わった苦しみを、無惨にも味あわせてやる……!」

 

無一郎は静かに怒り、千尋のように目の奥を轟々と燃やした。

 

別の場所では。

 

四方を襖や障子、畳などで囲まれ哉部屋で、実弥は一人静かに鎮座していた。

 

(橘……奴が御館様を護った……楠木正成のつもりか……)

 

その顔には表情はなく、ただ思考の海に彼は囚われていた。

しかしそんな彼に、鬼は容赦なく牙と爪を向けた。

 

そんな鬼を実弥は立ち上がることなく、右手一本で振るった刀で細切れにした。

 

だが、それを合図にしたのか四方八方から鬼が次々にわき出し、実弥を取り囲む。

 

「次から次に湧いてでる……考え事もさせねぇってか……いいぜ」

 

実弥はゆらりと立ち上がると、鬼の群れに向かって顔を上げた。

 

「皆殺しにしてやる」

 

考え事は後だ。彼はいつもの修羅になり、刀を振るう。

 

戦場は概ね人間側が優勢であった。首尾よく八咫烏含む帝国陸軍の機関銃が鳴り響くと、その後に鬼の首がポトリと落ちた。

 

鬼殺隊と帝国軍の協力体制は未だに健在なのだと知らしめたのだ。

 

千尋の精神教育を受けた鬼殺隊では、あれほど個人主義が出回っていたにもかかわらず、規律と秩序が守られ、その姿を帝国軍は評価したのだ。

 

彼らの洗練された統制行動や部隊行動は、鬼に対して近代戦とはどういうものかを教えることとはなったが、地理的不利を覆すことは難しく、徐々に進軍しているものの、未だ目立つ戦果は挙がらなかった。

 

「……頃合だろう」

 

そんな戦況を見据え、無限城のどこかで千尋が呟く。

 

「班規模にまで通達しろ。八咫烏の第一から第五歩兵分隊は柱たちと合流。そのまま上弦を討て」

 

第一目標は鬼舞辻以外の鬼勢力の壊滅。

米国から引っ張ってきたM1918が鬼の群れを、一体のとりこぼしもなく蜂の巣にし、歩兵たちは一つ一つ丁寧に首を落として行った。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

炎の呼吸 壱ノ型 不知火

 

一閃。その炎は禍々しく、かつて見た、煉獄杏寿郎の炎とは全く違った。

 

風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ

 

今度は荒々しく、暴力的な暴風が吹く。

 

水の呼吸 肆ノ型 打ち潮

 

次は岩をも砕きそうな水流が打ちつけられる。

 

炭治郎はその一閃一閃を躱し、いなし、弾きながら思う。

 

(こんなの、呼吸じゃない!ただの……ただの暴力だ!!)

 

元近衛兵達が放つ型は、どれも荒々しく、百年以上前から紡がれてきた呼吸にしては、思いやりの形をしていなかった。

 

「逃がさんぞガキ……日の呼吸を使えるのは貴様のみ。貴様を殺せば、あの方の天敵はいなくなる!」

 

「お前たちは元は橘さんの部下じゃないのか!!どうして橘さんを裏切るようなことをするんだ!!」

 

「橘……?あんな半端者の指揮など耳に苔が生えるわ!!死ねぇい!!太陽のガキ!!」

 

炎の呼吸 玖ノ型 煉獄

 

炭治郎がかつて見た、煉獄杏寿郎の煉獄は、この世の罪の全てを祓う聖なる炎に見えたが、有馬が放つ煉獄は、まるでこの世に終焉をもたらす終末の炎のよう。

 

だが炭治郎も負けていない。

 

水の呼吸 壱ノ型 水面斬り

 

斬撃の間を縫い、性格無比な刀捌きで、有馬の首に刀が向かう。

炭治郎は確実に強くなっていた。柱稽古、上弦との戦い、全てが炭治郎を成長させたのだ。

 

──だが

 

(───できない!!)

 

炭治郎の刀が首の直前でピタリと止まり、刃を返して有馬の腕を切った。

 

(やっぱり出来ない!()()()()()知っちゃったら!!)

 

あんなこと──とは、最終決戦が始まる一月ほど前、禰豆子に打った鬼を人間に戻す薬に由来する。

 

あの薬ができたとき、たまたま炭治郎は珠世の研究室にいて、その現場に居合わせた。そこには、拳銃事件前ということで、しのぶと千尋が同席しており、研究の成果を喜んでいた。

 

そして千尋は完成を見届けると、強烈な悲しみを放ちながら外に出た。

ただならぬ気配に思わず千尋の匂いを辿ってみると、彼は研究所の人気のない場所で、大粒の涙を流して慟哭をあげていたのだ。

 

その言葉を、炭治郎は今でも一言一句覚えている。

 

『あと!あと一歩早く研究に着手していれば……!あのとき殺さず、生かして捕らえていれば!!私は……私は!!私は己の安全のために!なんてことを!!』

 

彼は後悔していたのだ。もっと早く珠世を鬼殺隊に引き入れ、薬開発の研究に着手していれば。あのとき、部下を斬らず、藤襲山にでも軟禁していれば。

 

そうすれば、部下たちの未来を閉ざす必要はなかった。部下に未来を見せてやれたのだ。

 

そのことを知っている炭治郎は近衛兵を斬れずにいた。

 

「糞ガキが、舐めたことをしよってからに……だが好都合」

 

有馬は腕の出血を再生させ、下がった炭治郎を睨みつける。

 

「恐れることはない!!切りきざんでしまえ!!」

 

有馬の号令に二名の班員が動き出す。

 

風の呼吸

風の呼吸

 

風の匂いを察知し、炭治郎はまず距離を取ろうとするが、いつの間にか背後には壁が──鳴女の血鬼術だ。

 

弐ノ型 爪々・科戸風

肆ノ型 昇上砂塵嵐

 

吹き荒ぶ暴力の風に、炭治郎は為す術なく、どうにか急所だけは避けて、それ以外はかなり深めに斬られてしまった。

 

「がぁ!!」

 

もはや炭治郎には通常の半分以下の実力しか出せないだろうが、それで止まる近衛兵ではない。

 

有馬班は炭治郎の腕を脚で壁に固定し、

 

「やれ!栗田!」

 

水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突・極

 

波紋突が来る──そう思ったら、自然と頭が物理的に動く。

 

炭治郎自慢の頭突きである。

 

「ギャア!!」

 

頭突きを食らった班員は情けない悲鳴と砕けた頭蓋骨をまき散らし、地面に転がった。

 

「この頭突きは脅威だな……だが距離を取ればどうということはない!南!竹内!銃口正面構え銃!」

 

「「銃口正面構え銃!」」

 

「太陽の餓鬼とはいえ銃には勝てん。南!竹内!弾込め!」

 

「「弾込め!!」」

 

班員二人が炭治郎に銃を向ける。ウィンチェスターM1819。この距離で撃たれれば、死なないものなど人間ではないだろう。

 

(死ぬ……のか)

 

炭治郎は朦朧とする意識で考える。

だが考えが纏まる前に、近衛兵たちは弾込めを終え、引き金を絞る──

 

(ごめんな……禰豆子……みんな……あとは頼ん)

 

──花の香り

 

花の呼吸 弐ノ型 御影梅

 

合わせて九つの斬撃が音もなく現れ、銃を構えていた近衛兵二人を斬り刻んだ。

 

斬撃の正体は炭治郎に背を向けていたが、その匂いで、その太刀で、炭治郎は胸がいっぱいになった。

 

「あ、ああ……」

 

有馬は驚愕により声にならない声を出していたが、それを気にすることなく、血を振るい飛ばし、男は有馬と向き合う。

 

「すまなかった竈門。私が情けない所を見せたせいで、刀に迷いが生じさせてしまったな……佐藤班と岩井班は全滅させた。残るは貴様の班だけだ、有馬」

 

「ば、莫迦な……佐藤班と岩井班は精鋭の班なのに……」

 

たじろぐ有馬。その足元では、南と竹内が死んで灰と化していた。

 

「上級部隊指揮官として分隊長の貴様に新たな任務を命ずる……」

 

男は──千尋は、改めて刀を握り、構える。

 

「畑中小隊は即座に地獄へ撤退。爾後、畑中少尉と私が向かう。それまで地獄で待機せよ」

 

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