帝国の鬼狩り   作:ひがしち

44 / 45
第二十話 最終決戦 肆

「……大人しく佐藤班に殺されていれば良かったものを」

 

「部下を残して一人で地獄に行けるか。来い有馬班。存分に相手になってやる」

 

千尋が一歩踏み出すのに反応し、有馬は腰のホルダーから拳銃を抜き、千尋に向けた。

 

千尋はそれを外套を翻すことで身体の輪郭を隠し、銃弾を外させ、素早い足さばきで班に接近する。

 

「ぬぅう!」

 

花の呼吸 肆ノ型 紅花衣

 

有馬の足元に花が咲き、巻き上がったと思ったら、近くにいた三人の首が飛んだ。直前に反応されたため、有馬の首に刃は届かなかった。

 

「貴様らが鬼になったのは全て私の責任だ。鬼を見くびっていた私の……」

 

刀についた血を振り払い、生き残った班員に向き合う。

 

「だからせめてもの手向けに、この手で貴様に引導を渡す……総員整列。地獄への順番を待て」

 

「お言葉ですが大佐。我々は人間ではなくあの方の鬼。よって指揮権はあの方や畑中少尉にあります」

 

有馬は一度千尋から距離を取り、班員に向き合った。

 

「例え相手が英雄の大佐であろうとも、我が帝国陸軍は一歩も引かん!!」

 

千尋は一度刀を鞘に収め、その様子をじっと見ている。

 

「我が有馬班は銃剣道最強!!着けェーー剣!!」

 

有馬の一声で、班員らは三八式歩兵銃に銃剣を着剣。

銃剣による刺突攻撃を木銃で再現した武道、銃剣道。その突きの威力と言えば、有馬のソレは、人間の頃のものでもまともに受ければ心臓を穿かれるのではと錯覚するくらいだ。

 

きっと鬼になってからは、筋力が増えて威力も増しているだろう。

 

「大佐、手合わせ願います。安藤、貴様の三八式を渡せ」

 

「っは。どうぞ大佐」

 

「応」

 

千尋は敵であるはずの有馬班から銃剣を受け取り、型通りに構えをとる。

だがこれは武道ではない。紛れもない実戦。命の取り合いなのだ。

 

千尋と残っている有馬班六人は間合いを取り合い、喉が痛くなるような殺気を充満させる。

口出しできない……炭治郎がそう思ったとき、傷口から血が滴り、一滴の血が床に垂れる──

 

「──ちえええええいい!!」

 

有馬の床を踏み抜きそうな踏み込みと裂帛の叫びと同時に、銃剣付三八式小銃が千尋の喉に伸びる。

 

だが千尋はそれを冷静に捌き、逆に有馬の心臓に向け突きを繰り出す。

 

わざわざ銃剣道という武道を挑んだだけあって、有馬班は有馬と千尋との一対一を見守っているが、隙あらばと銃剣付の小銃を降ろさない。

 

「有馬、貴様は小隊の中でもとりわけ心身ともに強かったはずだ……今己が生き恥を晒していることが分からんか!!どうして将校らを拷問して殺した!!」

 

千尋は鍔迫り合いの最中、有馬に向かってそう怒鳴った。

 

「大佐、お尋ねの件、お答え致します」

 

すると有馬は、ニヤリと薄気味悪い笑いを浮かべて嗤った。

 

「知るかよバァーカ」

 

その言葉と表情を見ても、千尋は激怒するでもなく、静かに怒りの炎を轟々と燃やした。

 

「貴様らは優秀な近衛兵だった……鬼舞辻はお前をそこまで落としたのだな……!!」

 

水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き

 

千尋は有馬の胴を蹴り飛ばすと、銃剣付三八式小銃で水の呼吸で最も高い威力を持つ刺突技を繰り出した。

着剣されている銃剣は普通の銃剣なので、鬼となった有馬を殺すことはできない。だが、千尋は有馬を三八式小銃ごと穿き、その威力のままに有馬を無限城の向こうまで突き飛ばした。

 

「か、かかれ!!」

 

班長付の一声で、残っていた有馬班の班員が千尋に一斉にかかる。

だが千尋は刀を抜き、改めて肺いっぱいに空気をとりこんだ。

 

花の呼吸 弐ノ型 御影梅

 

芸術的なまでの足運びと刀の軌道。千尋はもはや班員たちの顔を一切見ることなく、襲いかかってきた班員の半数の首を斬った。

 

「て、撤退!!撤退だ!!有馬班長を回収するぞ!!」

 

班付はたまらず撤退を指示。班員たちは指示に従い、蜘蛛の子を散らすように散開し、無限城のどこかに散った。

 

それを見届け、千尋が炭治郎の方を振り返ったとき、これまでの疲労が一気に押し寄せたのだろう。徐々に傾いて行くと思ったら、そのまま床に倒れ、気を失って、死んだように眠ってしまった。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

時を同じにして、分断されるも再会を果たした伊黒と甘露寺は、数分前に合流を果たした第一歩兵聯隊改め、八咫烏第三分隊と行動を共にしていた。

 

すると、無限城のぽつんと空いた空間の中央。一際高い塔の上に、琵琶を構える女が正座をしているのを甘露寺が発見した。単眼の瞳に書かれるのは、参の文字。上弦の参の鳴女である。

 

「上弦の参……時透が討ったはず。もう補充されたか」

 

「ですがこちらに気づいている素振りはありません。好機だ。キャリバーを組み立てろ」

 

そう分隊長が指示すると、隊員たちは背負っていた雑嚢から何かの部品を取りだし、整頓したと思ったら、それを素早い手つきで組み立て始めた。

 

「おい、何をしている」

 

「っは。これは橘大佐のご友人であるアメリカ人、ジョン・ブローニング氏から贈られた、キャリバー50という重機関銃を結合しているところであります。50口径の弾丸は、このくらいの障壁なら向こう側まで完徹致します」

 

キャリバー50──正式名称をブローニング重機関銃。アメリカの天才重機設計者、ジョン・ブローニングによって開発された重機関銃である。

 

高威力高耐久高連射という、重機関銃として満点の銃だが、歩兵の装備として携帯することは想定されておらず、重量は60kg近い。

そのため、千尋はキャリバーを特殊分解させ、場面になったら結合して使うように命たのだ。即応性には少々欠けるものの、機動力と天秤にかけた時に、機動力をとった結果なのだ。

 

「激発よし、動作点検よし。結合完了」

 

「装填しろ」

 

「っは」

 

なんと分隊員たちは一分足らずで重機関銃の結合を終え、12.7mmの弾丸を装填した。

伊黒の手のひらほどの大きさの弾丸にギョッとしながら、鬼殺隊の二人も準備をする。

 

「伊黒殿甘露寺殿、援護します」

 

「足を引っ張るなよ」

 

「ご心配なく、我々は精鋭ですので」

 

甘露寺との共闘に伊黒は苛立っていたが、今ではそんなことを言っている状況ではない。

 

「装填よし、突撃支援射撃準備よし」

 

「了解……伊黒殿、甘露寺殿、準備は?」

 

「愚問だな。お前たちと違って、俺たちは長々と準備をしない」

 

「万端よ!」

 

「よし……突撃支援射撃開始!!撃て!!」

 

小隊長の怒鳴り声を聞いて、射手は押し金を押し、12.7mmの弾丸を射出した。

それは凄まじい音で、小刻みな爆発が起きるので、伊黒は一瞬、宇隨がいるのではと錯覚したくらいだ。

 

そんな騒音がなるので、当然鳴女も反応するが、それは既に弾丸が鳴女の身体を貫いた後だった。

 

「今だ!!」

 

蛇の呼吸 弐ノ型 狭頭の毒牙

 

恋の呼吸 壱ノ型 初恋のわななき

 

風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ

 

伊黒と小隊長の刃が鳴女の首に届く──直前

 

──べべん

 

気味が悪い琵琶の音が響いたと思うと、伊黒と分隊長は向かい合っており、もう少し気が付くのが遅れたらお互いの首を撥ねる所だった。

 

三人は急いで進路を変え、近場の柱に捕まった。突撃支援射撃は、三人の参接近に合わせ止まっている。

 

(なんだ……何が起きた……私も伊黒殿も、あのようなミスを犯すはずがない)

 

分隊長は柱に掴まり、作戦を考える。

 

(琵琶の音……無限列車の戦いでは、琵琶の音がなった時にどこからともなく鬼が大量に出たと……やはり琵琶か)

 

琵琶の音、確かに刀を振るう直前、琵琶の音が微かに聞こえた。

さらに鳴女が持っているのも琵琶……間違いない、琵琶だ。

 

「射手!琵琶を狙え!そうすれば奴の動きは止まる!!」

 

その言葉通り、ブローニング重機関銃の射手は琵琶を狙って射撃を開始した。

しかしブローニング重機関銃は重量60kgなだけあって、反動が大きく、精密射撃には向いていない。

かといって小銃に持ち替えると、貫徹力が落ちて、琵琶を壊す所の話ではなくなる。

 

「伊黒殿!同時ではダメだ!同士討ちさせられる!各個に動くしかない!」

 

「分かりきったことをごちゃごちゃ叫ぶな……俺から行くぞ」

 

伊黒は山羊のように絶壁の塔を登り、また鳴女に向けて刀を振るう──が、

 

「──!?」

 

下から急激に伸びてきた塔に面で叩かれ、そのまま伸びる塔によって天井と潰されそうになる。

 

風の呼吸 伍ノ型 木枯らし颪

 

何とか間一髪刃が間に合い、塔を細切れにすることで伊黒を回避させることができた。

 

「建物自体を手足のように動かせるとは……」

 

これは長丁場になる──そう思った時だった。

 

──パァン……

 

そんな乾いた音がなったと思ったら、すぐに空気を切り裂く音が聞こえ、空気を切り裂くそれが鳴女の眼球に命中した。

 

 

 

☆★☆

 

 

無一郎が身体に叩き付けられた障子を壊し、降りた先。

そこには、袴を身に纏い、刀を携えた六つ眼の鬼がいた。その瞳には『上弦・壱』の文字が刻まれている。

 

上弦の壱──黒死牟。今まで相対した他の上弦とは比べものにならない。重厚な様。威厳すら伺われる。

 

何より歪ではあるが刀を、日輪刀と思われる刀を持っている。

たしか記録では、数百年前の柱が当時の産屋敷家当主を裏切り殺し、鬼舞辻無惨に寝返ったという。察するに、この上弦の壱が、その裏切り者の柱なのだろう。

 

「お前……名はなんという」

 

「……時透無一郎。お前、どうして御館様を裏切ったりしたんだ」

 

「……些事なことだ……しかしなるほど……継国の名は絶えたのだな」

 

継国……やはりそうだ。あの裏切り者の柱だ。

 

「些事だと……?僕はお前のことを知っているぞ継国巌勝、数百年前の柱……僕の御先祖だ」

 

「……知っていたか」

 

「先祖の罪は僕が拭う。それが僕が力を持った理由……使命だ。御館様の無念、ここで晴らす!」

 

霞の呼吸 弐ノ型 八重霞

 

無一郎は刀を構えると、黒死牟相手に遺憾無く実力を発揮する。

独特の緩急と足運び、それでいて高速の剣術は、真正面から戦えば千尋や実弥すらも苦戦するほどの見事な殺人剣だが……

 

「霞か……なかなかに良き技だ」

 

黒死牟は一歩も動かず、最小限の動きだけで避けて見せた。

だが無一郎の乱撃は止まらない。

 

霞の呼吸 伍ノ型 霞雲の海

 

先程の足運びと速度に加え、体の捻りによる低さからの斬撃の技。

だが継国巌勝は文字通り目にも止まらぬ速さでそれを避けると、いつの間にか無一郎の後方に立っており、汗ひとつかかない澄ました顔をしていた。

 

「無一郎……歳の頃は十四程か。その若さでそこまで練り上げられた剣技。私に怯まず斬りかかってくる胆力」

 

黒死牟の不気味な六つの目は、全て無一郎を捉えていて、なるほどそれで自分の動きを追えていたのかと無一郎は納得した。

 

「流石は我が末裔。血は随分薄くなっているようだが瑣末なこと……例え名は途切れようとも……私の細胞は増え残っていたか……」

 

数百年前の鬼のくせに細胞という概念を知っているとは驚きだが、それ以上に無一郎の心から怒りが湧いてくる。

そんなに血が大事か。この男は、自分の名誉しか考えていない。

 

「戦国の鬼なだけあって呆けてるね。確かに僕はお前の末裔だけど、数百年も経ってるんだから、僕の身体にお前の細胞なんて一欠片も残ってないよ」

 

霞の呼吸 漆ノ型 朧

 

朧は無一郎が独自に編み出した霞の呼吸の奥義。現れる際は亀のように遅く、消える際は瞬きする一瞬の間にと、緩急自在の足運びで、あまりの緩急に相手は霞に巻かれているかのような錯覚を覚える。

柱間での手合わせで、千尋相手に何度も一本を取ったこの技で、無一郎は黒死牟の首を狙う。

 

だが黒死牟はそれを容易に避けて見せると、小さく俯いて呟く。

 

「こちらも……抜かねば無作法というもの……」

 

黒死牟が抜刀し、刀を振った。

だが鞘から察するに、この距離なら当たらない──そう思ったとき、奇妙なことに、刀身が伸び、不味い、と思った時にはもう遅い。

 

パキィンと甲高い金属音が響いたと思ったら、無一郎の手にかかる重量が軽くなった。

 

無一郎の刀は、見るも無惨に、根元から割られていた。

 

──だったらなんだというのか。

 

無一郎は折れた刃を素手で拾い上げると、万力のような力で刃を握りしめ、再度黒死牟にくってかかった。

恩人の橘千尋は、心臓が止まりそうになっても諦めなかった。刀が折れたくらい、どうということはない。

 

「素晴らしい。刀を折られてもすぐに拾い上げ、さらに攻撃しようとする気概……」

 

霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り

 

先程の霞雲の海よりも低い、足元からの攻撃。

首なんか取らなくたっていい。せめて足一本だけでも──

 

「流石は我が末裔よ」

 

無一郎は気がつけば、折れた刀を盗られ、柱に串刺しにされていた。

 

「お前はあの方に、鬼として使っていただこう」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。