ヤンデレ曇らせ短編集   作:書鳳庵カルディ

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トンビが育てた鷹の巣作り 中編

 俺の心配とは裏腹に、玲香は難なく入所オーディションに合格した。

 結論から言ってしまうと、彼女には演技の才能があったのだ。

 彼女のシチュエーションに沿った表情、声の抑揚、身体のこなしは全てが完璧で、まったくもって違和感がない。

 

 それでいて、玲香は現実に忠実な演技と大げさに"魅せる"演技の使い分けを理解していた。

 だから、典型的なラブコメのヒロインからサスペンスに登場する狂人まで、幅広い役柄をこなすことができる。

 彼女の「私ならもっと上手くやれると思った」という言葉には、嘘も誇張もなかったわけだ。

 

 そんな玲香は、レッスンでその才能を見いだされると、早々にとあるCMの主役に抜擢され、世間のささやかな話題となった。

 つまりどういうことかというと、彼女は芸能界で最低限食っていけるだけの能力と知名度を、あっという間に手に入れてしまったわけだ。

 

「ねぇお兄さん。私って結構すごい?」

「凄いな。正直ちょっと信じられないぐらいだ」

「ふふ、これでお金の心配もなくなったでしょ」

「何言ってんだ、お前はそういう心配はしなくてもいいんだよ」

 

 俺に褒められてご満悦そうな玲香のことを小突きながら、俺は笑ってそう言った。

 実際問題、俺一人で子育てと仕事をする我が家の家計事情は厳しかったが、悲観するほどではない。

 それに、いざとなれば俺の生活から何かを削ればいいだけの話だ。

 

 俺には重すぎたがゆえ、手放してしまった"夢"を抱えて進む玲香の姿は、実に眩しく誇らしいものだった。

 だから、俺のような抜け殻が足を引っ張ってはいけないと、より強く思うのだ。

 

 ……時が経つにつれて、芸能界における玲香の存在感は大きくなっていった。

 CMに映画にドラマにと、着実に出番を増やしていき、十八歳の今ではすっかり一流の芸能人といった様相だ。

 そんな玲香は、稼いだお金の一部を「家計の足しにして」と言って渡してくるのだが、毎月十万円近く渡してくるのでビックリする。

 おかげさまで、やや不安定だった生活はすっかり安定したと言っていい。

 

 ところが、そんな順風満帆な生活の中で、俺にとって大きな問題が発生していた。

 

「玲香、お前のマネージャーから話を聞いたんだが……また出張があるからって仕事を断ったのか? それも、かなりの好条件だったみたいじゃないか」

「だって、お兄さんと離れることになるでしょ? 私の帰る家は、お兄さんのいる場所だけだから。むしろ、お兄さんが仕事を辞めてついてきてよ。私が養うから」

「そういうわけにはいかない。お前も、俺に関するよくない噂は聞いてるだろ?」

「……ああ、お兄さんの悪評を流して、私のスキャンダルにしようとしてるクズ共のこと?」

「まぁ、そうだな」

 

 成長してより美しくなった玲香が、その端麗な顔を歪めて吐き捨てた言葉に、俺はそう返事をした。

 

 俺の悪評というのは、俺が玲香の実の父親ではないことに起因する根も葉もない噂たちのことだ。

 結婚せずに子供だけ奪い取っただとか、玲香が稼いだ金を勝手に使い込んでるだとか、そういう俺に関するロクでもない噂を流している奴がいる。

 大方、彼女に関するゴシップを報道したい連中が、頑張って記事をでっちあげようとしているのだろう。

 

「こんな状況で俺が仕事を辞めたら、噂を流した連中の恰好の的だ。とはいえ、何も対策しないわけにもいかないから、一つ提案がある」

「何?」

「お前が高校を卒業したら、一旦離れて暮らすことにしよう」

「は? なんで?」

「親離れにもちょうどいい機会かと思ってな。しばらく離れて暮らせば、俺のことを利用したがる連中も減るだろう」

「でも……お兄さんは何も悪いことしてないじゃん!」

「玲香、良い悪いの問題じゃない。イメージの問題だ。事実がどうであれ、男手一つで子育てっていうのはイメージが良くない。俺は気にしてないが、血の繋がりの問題もある。こういうのは、芸能界にいるお前の方がよく分かってるだろ? 俺がお前の足を引っ張るような事態にはしたくないんだ」

 

 俺がそう言うと、玲香は悲しげな表情を浮かべて何か言おうとして、そのまま押し黙る。

 そして、しばらくしてから口を開いた。

 

「分かった。でも、毎日電話して。年に二度はお兄さんの家に帰らせて」

「ああ、それぐらいなら構わない」

 

 そんなわけで、玲香は高校を卒業してから、我が家を出て一人暮らしを始めた。

 家事ができるかどうかは多少心配だが、金は十分すぎるほど稼いでいるはずなので、なんとかしてくれると信じたいところだ。

 

 だがまぁ、なんとかならなかったら俺を頼ってくれればいい。

 玲香がどう思っているかは知らないが、俺はいつまでも父親として、彼女に無償の愛を捧げ続けるつもりなのだから。

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