魔法科高校のドッペルゲンガー   作:西の家

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何とか書き上げました。
最近、原作登場人物達の口調に悩むようになってきました。変に思う会話の部分があるかもしれませんが、ご了承下さい。
では、どうぞ!


入学編 11話「生徒会だよ全員集合‼︎」

東棟校舎1階を歩いていると女子4人組の言い争いの現場を目撃する。

会話の内容から上級生それも2年生の文化部と判断。

今のワタシは渡辺摩利。すなわち、風紀委員長(偽)だ。立場的に見て見ぬふりはできん!

彼女達の方へ颯爽と歩いて行く。

 

「あっ!渡辺先輩」

 

真っ先にワタシの接近に気が付いた女子の顎に手を添えて、軽く顎を上げる。

 

「悲しいなぁ。喧嘩しちゃうなんて。鎖に繋いで摘発しちゃおうか、ね」

 

摩利先輩の声でなまめかしく囁く。

間近で呟かれた女子は頬を赤く染めて口は鯉の様にぱくぱくと開閉を繰り返して声が出せない。

傍で見守る連れの女子たちは興奮の余り黄色い歓声を上げる。

 

「是非摘発して下さい!いえ、して‼︎」

 

「私も‼︎」

 

「私を先に‼︎」

 

摘発希望者が続出。

摩利先輩が男装BARでバイトしたら、人気No.1になれるぞ。

暫く適当に女子達を遇うと「仲良く勧誘に励むように」と一言添えて別れを告げる。

名残惜しそうな彼女達の視線を背中に浴びながら、そのまま当初の目的地 生徒会室のある4階に向かう。

 

「真由美 私だ。開けてくれ」

 

生徒会室に到着。

インターホン越しに呼び掛けると、目的の人物ーー真由美先輩は間を開けることなく、すぐに応答した。

 

『あら、摩利どうしたの?入りたいなら、入室キーを持ってるでしょう』

 

「あー、それなんだが・・・本部に置き忘れてきた。今は手元にない」

 

真由美先輩の問いかけに、いかにも申し訳気味に後髪を掻きながら返答すると、マイクから『はぁ』と呆れにも似た短いため息が。

 

『そんな事だろうと思ったわ。これでもう5回目よ。ずぼらなのは昔からだけど、いい加減にしないと後輩に示しが付かないわよ』

 

「すまない。善良する」

 

摩利先輩は5回も同じことがあったのか。ずぼら過ぎでしょう。

ワタシも内心呆れる。

 

『ちょっと待って。今開けるから』

 

暫く扉前で待っているとカチャと扉からシンプルな開錠音が響く。

生徒会室までご案内、なんちゃってね♪

 

「いらっしゃい。とりあえず座って」

 

生徒会メンバーが同じテーブルを囲みながら、お茶で一服している。

ホスト席に真由美先輩、その隣、深雪ちゃんの前にワタシが、その隣から凛子先輩、あずさ先輩の順番で席に着く。

傍から見たら、昨日の生徒会室での対面時と違って摩利先輩と凛子先輩は席が逆だ。

 

「それで、摩利 貴女まだ巡視中でしょう。もしかして・・・風紀員長が生徒会室にサボリに来たとか言わないわよね?」

 

「生徒会室も立派な巡視経路に含まれている。巡視のついでに寄っただけさ」

 

「そういうのを方便と言うのよ。まぁ、いいわ。貴女も一緒に何か飲まない?今丁度一区切りつけて、休憩中だったの」

 

真由美先輩は椅子から立ち上がると、生徒会室備え付けの給湯器へ。

それを見た鈴音先輩が「会長、私が」と変わろうとしたが、真由美先輩が引き止める。

 

「紅茶とコーヒーどっちにする?」

 

「紅茶を貰おう」

 

給湯器にカップをセットしようした真由美先輩の手が止まる。

 

「珍しいわね。貴女が自分から紅茶を飲むなんて」

 

「別に変なことはないのでは。この間生徒会室でお会いした時は紅茶を召し上がってましたけど」

 

深雪ちゃんが真由美先輩に意見を述べる。

司波兄弟の付き添いで生徒会室を訪れた時は、摩利先輩は紅茶を飲んでいた。

不自然な事ではない。

 

「そう思うでしょう?この子 本当はコーヒーが好きなくせに、後輩の前だからって見栄張って紅茶を飲んだのよ。初めて紅茶を飲んだ時、何て言ったと思う?こんなの色の付いたお湯だ、って言ったくらいよ」

 

全国の紅茶愛好家を敵に回す恐ろしい発言。

まさか摩利先輩が紅茶にそんな偏見を抱いていたなんて初耳だ。

そうとは知らずに自然に紅茶を頼んでしまった。

 

「シュウが最近紅茶にハマっていてな。私もすっかり影響されて飲み出したんだ。これが意外と美味い。考えを改めないとな」

 

即興で言い訳を述べる。

彼氏の影響は尤もらしい理由になるはず。

流石に今すぐ直接電話で確認する真似はしないだろう。

 

「修次さんがね。あの人もコーヒー派の筈だけど、何かきっかけでもあったのかしら。はい、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

暖かい紅茶の入ったカップを受け取る。

とりあえずは騙し通した。やったぜ。

一口飲もうと、右手でカップを持ち上げた時だった。

 

「・・・痛ッ⁉︎」

 

手に重い激痛が走る。我慢できず、手に取ったカップを思わず床に落とす。

床に落ちたカップは足の近くで小さく音を立てて割れると、中身を床に撒き散らかす。

その拍子にワタシのブーツとスカートの裾に紅茶の飛沫が掛かる。

白生地のスカートが赤い水色のシミで汚れてしまった。

 

「ちょっ!摩利大丈夫火傷とかしてない?」

 

真由美先輩が慌てて椅子から立ち上がり、ワタシの足元にしゃがむとハンカチを取り出して、裾に掛かった紅茶を拭う。

 

「大丈夫だ。すまん。せっかく淹れてもらったのに落として割ってしまったな」

 

「いいわよ。よかった火傷はしてないわ」

 

ある程度拭ってもらうと、割れたカップと汚した床を片付ける為、今度はワタシが椅子から立ち上がる。

ここで雫ちゃんに強く握られた右手が痛み出すとは想定外だ。

おのれ雫の罠か!

ワタシが床の破片を拾おうと左手を伸ばすと、

 

「そのままだと手を切りますよ。私が片付けます」

 

そう言って、深雪ちゃんが上着のポケットからCADを取り出し操作する。

ものの数秒といわず、一瞬で床に散らばったカップの破片と紅茶を別々にして集めてしまう。

 

「すまんな 司波」

 

「お気になさらず。これくらい大したことありません」

 

「時間が空く時でいいから、この調子で風紀委員本部の掃除も頼めるか」

 

「こら。司波さんを掃除機代わりにするんじゃありません。司波さんも本気にしないでね。それと悪いんだけど、摩利のスカートのシミも何とかしてもらえる?」

 

真由美先輩からのお願いに深雪ちゃんは「勿論です」と快く引き受ける。

再びCADを操作、スカートのシミを綺麗に落とす。

◯立、◯ナソニック、◯芝の洗濯メーカーさん泣かせの仕事ぶり。

見たところシミは完全に落ちてる。

 

「見事だな。一年とは思えない魔法制御だ」

 

初めて目にした彼女の魔法操作に目を奪われる。

無駄のない鮮麗された魔法だ。

深雪ちゃんに変装するなら、ワタシもこれくらいの魔法操作はできるようにならなければ。うーむ、勉強になりますな。

感心を示していると、何がおかしいのか、隣の真由美先輩がクスッと笑う。

 

「思えないって、もう摩利たら忘れちゃったの?2日前のあの騒動を最終的に収めてくれたのは、司波さんじゃない。その際に彼女の魔法を目の当たりしたでしょう」

 

真由美先輩の言葉に心臓が鼓動が高鳴る。

えっそうなの?

2日前、校門前での諍いを最後まで見届けなかったのが、仇になったか。

 

「そうだったな。この前の偽物騒ぎの印象が強すぎて、すっかり忘れていた。おっと、破片は私が片付けよう」

 

話しながら集めた破片を処分して、席に戻ると鈴音先輩が「渡辺風紀委員長」とワタシに声を掛けた。

 

「なんだ?」

 

「もしかして、右手を怪我されてますか?もしそうなら、今すぐ保健室に行くべきです」

 

凛子先輩が進言する。

やっぱり、誤魔化されてはくれないか。

 

「ああ、ここに来る前に違反者の摘発で軽く捻ってな。なあに、大したことはない」

 

「ダメですよ!そうやって捻挫を軽くみていると、後々ひどくなるんですから。もっと自分の体を気遣って下さい」

 

何でもないかのように手をヒラヒラと振って見せると、見兼ねたあずさ先輩が今にも泣きそうな顔で注意を促す。

 

「分かったから、そんな顔をするな。後で行くから」

 

「約束ですよ。あと、泣いてません」

 

他人の怪我でも自分ごとのように感じてしまうのは、彼女の性格ゆえか。感受性が高い。

涙目でメチャ可愛い。

あずさ先輩に変装してみたいが、身長差があり過ぎる。代わりに、

 

「あ、あの渡辺委員長。突然何を、あわわわ」

 

「気遣いのできる可愛いヤツだな。こいつめ〜」

 

生徒会室での初会合。ゴンちゃんの姿ではできなかった。あずさ先輩の頭を傷んでいない左手で撫で回す。

わしゃわしゃと少し乱暴気味にふわふわの髪を撫でる。あずさ先輩は無理に振り解くことができず、目を回すばかり。

 

「本当にもうやめてくださいよー髪が乱れちゃいます」

 

「固いこと言うな。ほら、もっと撫でてやる」

 

「や、やめてー」

 

あずさ先輩の抗議を無視して頭撫で撫でを続行。

触り心地がいい。ウィッグでは再現できない天然物。変装の関係上、ワタシは万年ウィッグだから、偶に他人の頭を撫でたくなるのだ。

 

「渡辺先輩もうその辺で」

 

見かねた深雪ちゃんに手を掴まれてしまう。

力を込めて掴んでいないが、代わりにひんやりとした冷たい手の感触が、皮の下に隠れたワタシの素肌にまで伝わってくる。

低体温症なのでは?と心配になるほどの冷たさだ。もしかして、魔法を使ってる?

 

「本気にするな司波。だだのスキンシップだ」

 

「都合のいい時に限ってスキンシップを使わないで下さい」

 

「うぅ〜ありがとうございます 司波さん」

 

あずさ先輩は乱れた髪を手櫛で整えながら深雪ちゃんに感謝を述べる。

そんなやり取りをしていると、突然ピピピと電子音が部屋に鳴り響く。

音源は真由美先輩の方。彼女の個人端末の着信音だ。全員の意識がそちらに向く。

 

「ちょっとごめんなさい」

 

真由美先輩は一言断りを入れて席を立つ。

端末片手に生徒会長の仕事机まで移動してから着信に出ると、電話の相手と楽しげに一言二言やり取りを交わす。

声色の感じからして親しい間柄と推測できる。相手は彼氏さんか?なんてね♪

 

「リンちゃん、あーちゃん。そして、司波さん。3人で至急第1小体育館付近に向かってもらえる。トラブル発生よ」

 

「ふぇ⁉︎私たちがですか?」

 

トラブル対処に駆り出さられるとは思いもしなかったのか、あずさ先輩が驚きを露わにする。

助けを求めるようにワタシに不安げな瞳を向けてくる。

 

「不安な目で見るな。私も一緒に現場に向かう」

 

「うぅ〜絶対に来てくださいよ。ただでさえ、争いごとはイヤなんですか」

 

「リンちゃん 多分司波さんはまだ不慣れだろうから、一緒に着いてもらえるかしら」

 

「構いません。2人とも向かいましょう」

 

「はい お願いします」

 

3人は椅子を引いて、凛子先輩を先導に生徒会室から退室した。

部屋には私と真由美先輩だけが残る。

 

「さて、私も現場に向かわないとな。生徒会よりも遅れて到着したと知れたら何と言われるか」

 

「やっぱりサボってる自覚があるじゃない」

 

生徒会室を後にしようと扉に近づくが、施錠されて開く様子がない。

どういうことだ?

 

「真由美 扉を開けてくれないか」

 

「開けてあげるわよ。アナタが本物の摩利ならね。そろそろ正体を表したらどうなの。摩利の偽物さん」

 

彼女の言葉にワタシは背筋に電流が走る感覚に襲われる。

正体を表せ、だと。その言葉は変装者なら誰でも一度は聞かれたいやつだ!

その場でクルッと回って真由美先輩の方に向き直す。

 

「突然失敬だな。偽物騒動で疑心暗鬼にでもなったか。証拠でもあるのか?」

 

「アナタ 手の傷はどうしたの?」

 

「気づかなかった。知らずにカップの破片で切ったかな。絆創膏は」

 

「惚けないで。弁当作りの際についた切り傷をどうやって消したのかしら」

 

真由美先輩の追求に言葉が出なかった。

うっかり摩利先輩の手にある切傷を偽造するのを忘れていた。

彼氏さんの為に慣れない手作り弁当を作る際にできた傷。

こりゃ誤魔化せそうにないや。

 

「切傷ね。はいはい。これでいいか」

 

降参と上げた両手をブラザーのポケットを突っ込む。

次にポケットから手を出すと、絆創膏を貼り付けた両手を見せびらかす。

◯ッド様ならこれくらいの手品はしてみせる。

そして、最後に仕上げに掛かる。

 

「ふっ、ふふふ、ふっはっはっはっはっは‼︎」

 

前髪(ウィッグ)を左手で軽く掻き上げて、摩利先輩の声のまま高笑いを上げる。

変装者としてやりたい事のひとつ。

正体を看破された際、意味も無く笑い声を上げる。

俗に怪盗と呼ばれる変装者のお決まりの行動。

生徒会で披露できるとはワタシは幸せ者だ。

ワタシの様子を眺める彼女の顔に動揺の色をない。

黙って最後まで笑わせてくれた。

遊びに付き合ってくれてありがとうございます。

 

「ぷぷぷ、クケケケ。あー、バレっちゃたか。ここを出るまでの間は摩利先輩でいたかったのに。とんだ名探偵が居たものだ。ぷぷぷ、クケケケ」

 

「その笑い方 できることなら、摩利の声ではやめてほしいのだけど。親友の顔と声には不釣り合い過ぎるわ」

 

「すまん。これが私の素の、癖のような笑い方だ。寛容してくれたら助かる。真由美生徒会長殿」

 

「まあ、いいわ・・・さて、ようやくまた会えたわね。アナタとお話しがしたかったのよ」

 

真由美先輩の言葉に思わず、ぽかーんと、口を開けて固まる。

 

「突然惚けちゃってどうしたの。私が変な事でも言ったように見えた?」

 

「いや、てっきり本物の摩利をどうしたんだと聞いてくると思ったんだが。もしかして、仲悪いのか?」

 

ここは本物の誰々をどうしたと尋ねるお約束の場面でしょうが!

期待を膨らませすぎたか。

 

「本物の摩利が不覚を取るとは考え難い。アナタ 人を驚かせるのが好きみたいだし、手荒な真似はしないでしょう」

 

変装対象を気絶させる。

摩利先輩の首筋に恐ろしく速い手刀を叩き込むのは至難の業。

彼氏の修次さんに変装すれば可能性はあるかも。

男に化けるのは面白みがないし。いや、待て。摩利先輩にワタシをシュウと呼ばせるものありか?

 

「彼氏に変装して不意を突いた、と言ったら?」

 

「摩利の人間関係は下調べしてるのね。あの子なら、その前に偽物と必ず気付くわ。そしたら、今頃アナタはここに現れてない」

 

「そこまで信頼を寄せられると、なんだかむず痒いな」

 

照れ臭く顔を赤く染めてみる。

 

「ふふ、アナタは摩利じゃないでしょう」

 

「それもそうだ。ワタシは渡辺摩利じゃない」

 

そう言って、不敵に笑ってみせる。

ここで席に座る前に聞いておきたいことがあるので尋ねてみる。

 

「重ね重ね聞くが、私と一対一で話し合う為だけに他の生徒会メンバーを部屋から追い出したのか?」

 

突然掛かってきたあの電話は芝居か。

 

「こうでもしないとアナタ この間みたいにまた逃げるし、話しに付き合ってくれないでしょう。リンちゃん達の前だと意地でも摩利だと言い張って、正体を明かしてくれないだろうし」

 

真由美先輩は話を一旦区切ると、席から立ち上がり給湯器に足を運ぶ。

2人分の紅茶を淹れると、ひとつをワタシに手渡す。

それが終わると、自分の分の紅茶を手に席に戻る。

 

「またお茶でも飲みながら、ゆっくりお話しましょう。アナタのこと知りたいし」

 

自分の分の紅茶を一口啜ると「どうぞ」と手を差し出す。

罠か?いや、罠だとしても、迷いなく変装者なら飛び込め!

ここは相手の誘いに乗る。

ゲスト席に真由美先輩、その正面向かい、出入口扉に近い下座にワタシは腰を下ろす。

 

「いくら何でも肝が座りすぎてないか。見た目に反して、結構お転婆な娘だな」

 

「褒め言葉と捉えておくわ。私に成り済ませるから、ある程度人物像は把握してると思ったけど、そうではないのね」

 

言外に変装の不備を指摘された。

カッチーン。

ちょっとイラッときたぞ。

 

「言ってくれるじゃないか。それは言外に私の変装が不出来だと解釈してもいいのかな」

 

「アナタの言うお転婆娘に正体を見破られたのは誰かしら?」

 

真面目な会長の顔でそう返答してくる。

摩利先輩の手傷については完全に自分の落ち度だ。

痛い所を突かれて、ワタシは思わず「ククク」と喉の奥から笑いが漏れる。

 

「確かに。後学までに手とは別、何か他に不審に思ったことは?」

 

真由美先輩に思い切って尋ねてみる。

変装の達人になる為にも客観的な意見・視点は大いに役立つ。自分では気付かない点もあるからね。

真由美先輩は少し間沈思すると語り出す。

 

「そうね・・・他に不審な点と言えば、修次さんを愛称で呼んだわね」

 

「ああ、親しみを込めてシュウと呼んだ。それのどこが変なんだ?愛称は合ってる筈だが」

 

「摩利は私以外の前では修次さんを愛称では呼ばないのよ。偶にうっかり、口走ることはあっても、すぐに名前呼びに直そうとする。けど、貴女にはそんな素振りはなく、スラスラと愛称を口にした」

 

この間の生徒会室での摩利先輩との会話を思い出す。

確かに言い直してたな。

 

「それに加えて私と司波さん以外を、リンちゃんとあーちゃんを一度も名前で呼ばなかったでしょう。本物の摩利が普段どんな風に彼女達を呼んでいるか分からないから、呼ばなかった。いいえ、この場合は呼べなかったが正しいかしら。下手に違う呼称だと不審に思われるから」

 

「ふむふむ、他には?」

 

「入室前でのやり取りも変だった」

 

「入室キーを持っていないから、忘れたと偽って君に入れてもらった。人間物を忘れることくらいはある。別に変ではないだろう」

 

「その時私が何って言ったか覚えてる?」

 

「「これで5回目よ」だろう。当たっているか」

 

冒頭だけ声色を真由美先輩に切り替える。

 

「わざわざ私の声でありがとう。けど、それは間違いよ」

 

「どういう事だ?会話の内容は間違いないはずだ」

 

「摩利が入室キーを忘れたのは過去1回だけよ」

 

なん・・・だと・・・?

 

「いくら摩利でも5回も忘れる事は無いわ。ましてや、彼女は風紀委員長。学校の風紀を取り締まる立場。失敗を反省して、同じ失敗を繰り返さないように務める責任感の強い子。平気で何度も忘れ物をする人には務まらない」

 

最初の入室時点で鎌を掛けられていたのか。

 

「あの時点で怪しいと感じたわ。私が5回と言ったら、アナタそのまま肯定したんだもの。本物の摩利ならそんなに忘れてないぞって、必ず訂正するのにね」

 

「ならどうして私を部屋に招いた?適当な理由を言って、入室させないようにもできたのに」

 

「一度部屋に招いてしまえば、安心して逃げる真似はしないと思ってね。部屋に入った瞬間、アナタは内心ほくそ笑む。まんまと騙されたなって」

 

全くその通りでごさいます。

 

「私が部屋に足を踏み入れた瞬間に生徒会メンバー総出で取り押さえなかったのは?」

 

「アナタは他人に成り済ます関係上、人の感情を読む事に長けている。入室した瞬間、こっちが敵意を向けたら踵を返して逃げると思って、リンちゃん達には敢えて伝えなかったの。以上が不審に感じたことよ。ご満足いただけた?」

 

「いやいや、大変結構!」

 

見事な推理にパチパチと称賛の拍手を送る。

探偵は生徒会に居た。探偵の推理劇に立ち合った変装者の気分を味わえた。

偉大な先人たち特に怪盗と呼ばれる方々も同じ気持ちだったのかな。

1人感傷に浸っていると真由美先輩が再び喋り出す。

 

「以前は私に、今日は摩利。一体どんな魔法を使ってるの?マナー違反なのは重々承知だけど、そんなに他人そっくりになれる魔法なんて聞いたことがないわ」

 

他人の魔法を詮索するのは、魔法師の界隈ではマナー違反扱いされる。

 

「ああ、これか。半分は魔法のようなものだ」

 

自分の顔を指差す。

「半分?」とワタシの返答に疑問を浮かべる真由美先輩。

そんな彼女の目前で自分の左頬を引っ張ってみせると面白い。

摩利先輩の顔の皮があり得ないほど伸縮。

その様子を眺めていた真由美先輩の顔が予想だにしない驚愕一色に染まる。

その顔頂きました!

 

「アナタ・・・その顔は作り物なのね」

 

「そうだ。よくできてるだろう。この顔も自信作の一つなんだ」

 

みょ〜んと頬を引き伸ばして、マスクの機能性を披露。

 

「アナタは一体何者なの?」

 

「怪人◯十面相、◯パンという単語に聞き覚えはあるか」

 

「ええ、小説に出てくる怪盗でしょう。神出鬼没、正体不明の恐るべし変装の・・・まさか、アナタも同じだと言うの?」

 

「流石は生徒会長。理解が早くて助かる」

 

全校生徒のトップを張るだけはある。

学習・理解力、頭の回転が早いから、説明の手間が省ける。

首の付け根。マスクに指を潜り込ませ、下に重ね着の褐色肌の皮を覗かせるように軽く捲り上げる。

褐色肌が素顔だと誤認する筈。

二重変装がこんな形で役に立つとは思わなかったぜ。

 

「その顔の下にアナタの素顔があるのね。正体を看破した報酬に見せてもらうことはできる?」

 

「は?イヤだね。見せるわけないだろう」

 

摩利先輩の声から地声の中性的な声に戻して、強い口調で拒否の姿勢を示す。

残念ながら、この程度で素顔を見せるつもりはない。自惚れるな小娘‼︎なんちゃって♪

 

「どうして見せたくないの?」

 

真由美先輩が食い下がってくる。

しつこいな。素顔を見せたくないだけでは理由として弱いな。そうだ!

 

「人間誰にも見られたくない、踏み込んでほしくない領域はある。私の場合は顔だ。生まれつきのね」

 

さりげなく頬に触れる。何気ない動作が演技に味を出すからね。

さーて、盛り上がってきました!

自分の素顔を嫌悪し、変装で隠す設定が使用できるのは嬉しい。

作った設定は使わないと死蔵してしまうからね!

 

「アナタが他人に成り済ます・・・」

 

「おっと。できれば変装と呼んでくれ。成り済ますという響きは苦手だ。文字数が多いだろう」

 

成り済ます。

この言葉だけは滑舌が難しくて、ボクは苦手だ。

逆に変装という言葉は発音し易くて好きだ。

何だったら、一日一万回言える。

 

「ごめんなさい。変装する理由は自分の素顔を見られたくないから。だから、他人の顔で隠そうとするのね。変装対象者の基準はあるのかしら」

 

「そうだ。どうせ変装するなら綺麗で可愛い人間がいい。そうすれば、みんなが好いてくれる。変装対象の印象が良いなら尚更ね」

 

チヤホヤされるのは気分がいい。

特に愛でた相手が男と明らかになった時の男子の反応は最高だ。

自己陶酔に浸っていると真由美先輩が言葉を発する。

 

「どんなに顔を変えて他人に成りすましても、それで得られる評価はアナタのものではないわ。それは変わることのない事実よ」

 

真っ向からワタシの存在を否定。

変装者としてされたい事の一つ。

正体を見破れて且つ変装行為を否定される。

くぅぅぅ‼︎辛口コメントありがとうございます。

生徒会長から言われると違った味わいがある。

歓喜の感情を抑えるため下唇を噛む。

押し黙っていると、真由美先輩がまた喋り出す。

 

「初会で達也くんに呼び名を聞かれた時、アナタは偽物でもいいと答えた。自分が偽物の自覚はあるんでしょう」

 

呼び名に関しては適当だ。

偉大な変装の達人たちの名を騙るのは畏れ多い。

しかし、偽物でいいと思う反面、何か別の呼び名が欲しいと思う気持ちも無くはない。

どうせならカッコいい名前がいいな。

真由美先輩の言葉を他所に、視線は下、押し黙って呼び名を考える。

 

「顔や姿は似せてもその人に成り変わることは決してできないわ。それはアナタも本当は分かっているのでしょう?」

 

真由美先輩の言葉に我に変えて、肩が僅かに跳ね上がった。

いかん、名前を考えるのに集中し過ぎてしまった。

話の内容が殆ど頭に入ってない。どうしよう・・・。

 

「これは私の憶測だけど、アナタは人から好かれたい。他人から自分の存在を認知してほしいのでしょう。その方法が変装して他人を演じること。けど、それじゃ誰も本当のアナタを見てくれないわ」

 

真由美先輩だけ長々と喋らせるのも後輩として悪いし、何か別の接し方を、・・・そうだ!

ワタシ、ボクはある特技を披露する。

 

「みんな「綺麗で可愛い」「ちゃんとした顔」「が」「あって」「ズる」「い」「じゃない」」

 

老若男女の別人の声色で喋ってみる。

秘技七変化。

ボクは一度に七人分の声色を発することができるのだ。

考案した当初の設定に沿って、自分の素顔を嫌悪し過ぎるあまり、他人に化ける変装者らしく振る舞えているんじゃないだろうか。

その証拠に目の前の真由美先輩は驚いている。

うーむ、我ながら惚れ惚れする演技力だ。もう少しだけコレでいこう。

 

「ワタシ「ボク」「オレ」「アタシ」に顔くらい貸してくれたっていいじゃない」

 

「勝手に自分の顔を使われた人の気持ちを考えたことはある?騙された人の気持ちを汲み取ったことは?服部くんをいいように弄んだ事を忘れたとは言わせないわよ」

 

むふぅ!お説教ありがとうございます。変装者への道は孤独なのだ。真由美先輩のおっしゃる通り勝手に変装されて喜ぶ人間はいない。

しかし、ボクは人から嫌われても、世界を敵に回しても変装の達人への道を諦めるつもりはない!

決意を露わに、ぐっとテーブルの上に乗せた右拳を握りしめる。

やっぱりメチャいたーい‼︎

 

***

 

 

真由美side

 

真由美は十師族の立場柄、社交の場に顔を出すことも多い。その関係で他者交流において人柄を読むことに長けている。

そんな彼女でも眼前。親友の姿を騙る相手との対話は初体験。

正直得体の知れない存在だ。

相手に臆する様子を悟られぬように悠然たる態度で対話に挑む。

一挙手一投足の会話で相手の素性が少しでも得られるように。

 

会話の後半、偽物が顔を捲るーー摩利の顔の下から別の顔を見せる異様な光景に思わず声を出しかけたが、堪えて平常を装う。

意趣晴らしに相手にダメ元で最も気になることを訊ねる。

 

「その下にアナタの素顔があるのね。正体を看破した褒賞に見せもらうことはできる?」

 

「は?イヤだね。見せるわけないだろう」

 

飄々とした態度から一転。

相手の声が突然、聴き慣れた親友の声から男女両方にも聞き取れる中性的な声に変わる。

真由美は目を見開き驚くが、相手の発した言葉の語気は強く怒気を含んでいることに気付く。

 

「どうして見せたくないの?」

 

怖けずに核心に迫る質問を投げかける。

上手くいけば、さらに相手の正体に迫れると信じて。

 

「人間誰にも見られたくない、踏み込んでほしくない領域はある。私の場合は顔だ。生まれつきのね」

 

自分の声色が変わっている事に気付いていないのだろうか、そのまま自分の頬を撫でて語る。

その特有な性質から真由美は推測する。

 

「アナタが他人に成り済ます・・・」

 

「おっと。できれば変装と呼んでくれ。成り済ますという響きは苦手だ。文字数が多いだろう」

 

他人に成り済す行為が褒められた事ではない自覚はあるようだ。

変装と自分に言い聞かせて誤魔化している疑いがあるが、真由美は敢えて相手に合わせる。

 

「ごめんなさい。変装する理由は自分の素顔を見られたくないから。だから、他人の顔で隠そうとするのね」

 

「そうだ。どうせ変装するなら綺麗で可愛い人間がいい。そうすれば、みんなが好いてくれる。変装対象の印象が良いなら尚更ね」

 

校門前での初会。

達也に正体を見破れた際に語った動機。

 

(他人の顔を借りてまで隠したいほどの顔なのね。少し同情の余地はある。けれども)

 

「アナタがどんなに顔を変えて他人に成りすましても、それで得られる評価はアナタのものではないわ。それは変わることのない事実よ」

 

どんな理由があれど、他人に成り済ますのはダメだ。

真由美は自分の考えを迷わず伝える。すると偽物は核心を突かれて内心不快に感じたのか、感情を抑えるように下唇を噛んで黙り込む。

真由美は構わず、畳み掛けるように言葉を続ける。

 

「初会で達也くんに呼び名を聞かれた時、確か偽物でもいいと申し出たわね。偽物の自覚はあるんでしょう」

 

言葉が出ないのか偽物は俯き黙り込む。

 

「顔や姿は似せてもその人に成り変わることは決してできないわ。それはアナタも本当は分かっているのでしょう?」

 

その言葉にビックと偽者の肩が僅かに跳ね上がる。明らかな動揺が見て取れる。

気丈なのは見た目だけ。

真由美には当初正体不明の存在と捉えていた相手が他人のガワを纏って自分を必死に隠そうとする弱々しい存在に思えてきた。

 

「アナタは人から好かれたい。本当は他人から自分の存在を認知してほしいのでしょう。その方法が変装して他人を演じること。けど、それじゃ誰も本当のアナタを見てくれないわ」

 

承認欲求を満たす為に他人を演じる。

自分を認知・肯定してほしい感情とは矛盾する行為だが、そうすることでしか日の当たる場所、社会の中で生きることができなかった。他者と関わり合いを持たなかったのだろう。

 

強い哀れみを抱き始めた真由美に偽物は、

 

「みんな「綺麗で可愛い」「ちゃんとした顔」「が」「あって」「ズる」「い」「じゃない」」

 

中性的な声から一転。老若男女別々のゴチャ混ぜにした声色で吐き捨てる。

相手の逆鱗に触れたようだ。

言葉の一つ一つに嫉妬、羨望、悲観が籠った感情的な心境の訴え。

また自分の声が変わってる事に気づいていないようだ。

 

「ワタシ「ボク」「オレ」「アタシ」に顔くらい貸してくれたっていいじゃない」

 

「勝手に自分の顔を使われた人の気持ちを考えたことはある?騙された人の気持ちを汲み取ったことは?服部くんをいいように弄んだのを忘れたとは言わせないわよ」

 

相手は過去の出来事を後悔しているのか、痛めている右手を握り締めてみせる。

摩利の顔でも一人称がメチャクチャだ。

ここまでのやり取りで、真由美の中で疑問が生まれる。

これほどに動揺を露わにする程に隠したい素顔。それを一部首筋だけとはいえど、他人の目に晒す真似をするだろうか?

 

(私に見せたあの褐色肌の顔もまた変装、二重の変装を施していると思って間違いないわね。万が一、変装を見破れた際の保険といったところかしら。摩利の顔の下に誰の顔を被っているのかも気になる)

 

相手の会話の中で生じた疑問が確信に変わる。

そんな中で真由美との会話にこれ以上耐えられなくなったのか、

 

「長々と話し込んでしまったな。私はそろそろ御暇しよう」

 

突然そんなことを言って偽物が会話を中断し、逃げようとした。

逃がさないわよ!

真由美は偽物の逃走を阻止する手筈を整えていた。

 

 

***

 

権三郎side

 

 

「長々と話し込んでしまったな。私はそろそろ御暇しよう」

 

痛めた右手が疼くので退散しよう。

椅子から腰を上げようとした時だった。

後ろの扉越しに複数人の気配を感じる。

1人2人じゃない。

その中でも異彩を放つ気配の持ち主が。

この独特の巌を彷彿とさせる威圧。十師族が一角、十文字家次期当主十文字克人か。

いい助っ人を呼んだな。

真由美先輩に視線を向けると、うまくやりおおせた悪戯な笑みを浮かべていた。

 

「ワザと話を長引かせて、応援が来るまでの時間を稼いだのか。呼んできたのは、大方凛子か。あっ呼称は合っているか」

 

敢えて生徒会メンバーに正体を伝えなかったという言葉は嘘だな。

 

「さあ、本人に直接尋ねてみたら?もうすぐ会いにきてくれるわ。頼もしい同輩を沢山連れてね」

 

テーブルの下から携帯端末を取り出して、此れ見よがしに画面をこちらに向ける。

画面は通話中を表示。電話の相手は摩利先輩だ。

最初の通話の時から会話の内容は相手に筒抜けか。

 

「最初からあの3人もグルだったのか」

 

「えぇ、そうよ。あっでも、あーちゃんだけは別よ。あの子にはアナタが摩利に変装した偽物だとは敢えて伝えなかったの。だって、あの子ウソを付くのが苦手だし、耐えられなくて泣いてしまいそうだから。他の2人は上手く演技してくれたけどね」

 

3人が誰なのか、生徒会メンバーを表しているのを真由美先輩は察してくれる。

ワタシの入室前の時点であずさ先輩を除いた面子で口裏を合わせていたわけか。

あずさ先輩が素の対応するから、警戒できていなかった。敵を騙すなら味方からってやつだね!

してやられたのに、なぜか無性に嬉しい。

 

「人が良さそうな顔して、何が一対一で話したいだ。この嘘付きめ」

 

「あら、アナタも人のことは言えないと思うのだけど。人の皮を纏う偽物さん」

 

両者顔に微笑みを浮かべて嫌味を言い合う。

 

「捕まるのはいやだな」と椅子から腰を浮かした瞬間、ヒュッとワタシの右こめかみを高速で何か通り過ぎる。

その際に生じた風圧で髪(ウィッグ)の毛が舞う。

通り過ぎた物が背後の壁に当たり、音を立てて砕ける。

ドライアイス。

魔法名『ドライ・ブリザード』

空気中の二酸化炭素を集めドライアイスを作り、高速で射出する魔法。

えっ?メチャ怖っ。

 

「よく躊躇なく、親友の顔目掛けて撃てるな。偽物と分かっても撃てないぞ普通」

 

「お生憎様。見た目がそっくりでも手を緩めるつもりはないわよ。それに、本物の摩利なら躊躇いなく撃てと言ってくれるわ」

 

「そんなバトル漫画的なセリフは勘弁してほしいな」

 

十八番のマルチスコープも展開している筈だ。

実体物を様々な方向で知覚する視覚レーダーの魔法。仕留めようと思えば、四方八方からドライアイスの弾丸を浴びせることもできたろうに。

放った初弾は警告。

下手な真似、動きを見せれば次は当てると。

 

「アナタにはさらに詳しく話を聞かせてもらいます。今度こそ取調室でね」

 

「親友からの誘いは断れないなー。さて、どうするか」

 

改めて椅子に深く腰掛けようとした時、背後の扉が開く。

扉から風紀員達を筆頭に続けて部活連所属の体育会系の男達が一気に雪崩れ込む。

入室早々、男達はワタシを視界に捉えると「確保‼︎」の掛け声と共に全員がワタシ目掛けて一斉に覆い被さる。

乱暴に椅子から組み落とされ、そのまま強引に床に這い蹲るように取り押さえられる。

機動隊員に上から覆い被される◯ッド様に成った気分だ。しかし、ガッツリ鍛えられた体育会系の男達に伸し掛かられると重くて堪らない。

 

「お前たち絶対に離すなよ!」

 

「そのまま取り押さえていろ。決して油断はするな。身体に何かを仕込んでるやもしれん」

 

後から入室してきた摩利先輩と十文字先輩が男達に指示を飛ばす。

ワタシが抵抗をした場合、即座に鎮圧できるよう当2人ともCADは起動式展開済み。

十文字先輩の口振から、校門前で使用した逃走用具は生徒会メンバーから報告に上がっているようだ。

 

「顔を拝ませろ」

 

摩利先輩が前に歩み出る。ワタシの顔が気になるようだ。そういう事なら見せてあげるよん♪

自分の上に伸し掛かる男達の体の隙間から上手く顔を出すと、摩利先輩と顔が合った。

同じ顔と顔が鏡合わせのように面と向かい合う。

 

「また会ったな。真由美だけじゃなく、今度は私に成り済まして単身生徒会に乗り込むとはいい度胸だ。風紀員ごっこは楽しかったか?」

 

口端をヒクヒク痙攣させて他にもまだ何か訴えたい様子・・・心当たりが多すぎる。

おまけに目を凝らせば、摩利先輩の制服には所々土埃が目立つ。伸し掛かっている部下の風紀員達も同じく制服が汚れている。

 

「真由美にシュウとの人間関係について相談に乗ってもらって、有意義な時間だったぞ」

 

「キサマッ・・・私の顔でいらん事をしてくれたな。そのふざけたマスクを引っ剥がして、素顔を拝んでやる!」

 

摩利先輩の手がワタシの顔へと伸びる。

そりゃないぜ、とっつぁん・・・なんちゃってね♪

顔を掴むと思い切り引っ剥がそうとするが、その際にマスクがグニャと歪む。

自分に似た顔が歪む目の前の異様な光景に普段貴公子然とした摩利先輩も「うおっ⁉︎」と思わず声を上げて驚きを露わ手を離す。

その光景に彼女だけでなく、後ろに控える十文字先輩すらも「ムッ⁉︎」と短く声を漏らす。

その中でも一番の驚愕を受けたのは、目と鼻の先ワタシを取り押さえる男達だ。

驚きのあまりワタシを取り押さえる拘束の手が僅かに緩む。チャンスだ。

この隙を見逃すワタシではない。

肩から指先に掛けて関節を外すと、するりと男達の身体の隙間を縫うように拘束から脱出。

そのまま天井目掛けて跳躍。

 

「しまった・・・⁉︎」

 

「アッハッハッハッハッ‼︎」

 

高笑いしながら天井の四隅を飛び回るワタシを、全員が忙しなく目で追う。

一通り動き回ると窓に近い天井の角で全員を見下ろす形で一旦動きを止める。

軽く見渡すだけでも錚々たる顔ぶれ。

真由美先輩を筆頭に生徒会メンバー。摩利先輩以下風紀委員会。十文字克人率いる部活連盟。

オールスターが勢揃いだ。

森崎君と服部先輩発見。2人とも降りてこいと言いたげな顔してる。

彼らの少し後ろ離れた所、出入り口の傍に立つ深雪ちゃんを警護するように、一歩左後ろに控える達也君の姿も確認できた。

群衆の中でも妹警護のポジションを確保するとは流石シスコン魔王。

ある程度顔ぶれを把握すると群衆の中にいる真由美先輩に語りかける。

 

「真由美。今日はこれくらいで引き上げてやる。だがな、覚えておけ。必ずお前の信頼を地に落としてやる。それまで名探偵を気取ってるがいいさ。ぷぷぷ、クケケケ、クケケケ」

 

信頼を落とすつもりは全くないけどね。

ワタシは天井を蹴ると背面から窓を突き破って外に躍り出る。

変装者としてやりたい事の一つ。

窓を突き破って逃走。ガラス代は匿名で弁償しよう。

窓ガラスのキラキラした破片を纏いながら落下。

このままだと下に真っ逆さま。

制服に仕込んだCADを2台複数同時起動。パラレル・キャストで魔法式を展開する。

摩利先輩に変装するならこれくらいの芸当はできないとね。

まずは光学魔法で自身の姿を透明化。

最後に跳躍魔法で空中を蹴って、そのまま東棟の屋上に設けられた落下防止フェンスを飛び越えて屋上広場に着地。

さーて、どうなったかな。

顔を出し過ぎないように生徒会室の様子を屋上から軽く覗き込む。

 

「オイッ⁉︎ここ4階だぞ‼︎」

 

服部先輩が慌てて、割れた窓に駆け寄ると窓下を眺める。それに釣られて、他の人間も下に目を向けるがワタシの姿は何処にもなく、代わりに割れた窓ガラスだけが地面に散乱しているだけ。

全員見事に騙されているな。あっ達也君だけは別かも。

このまま屋上から華麗にハングライダーで飛び立ち退散するのが理想だが、生憎とそこまで準備はしていない。殆ど行き当たりばったりだからね!

ここは地道に東棟の屋上伝いで西棟の屋根を歩いて人目のない所まで移動して、ゴンちゃんに変装し直そう。

ワタシは西棟へ向けて再び跳躍を開始した。

 

 

***

 

達也side

 

偽物が逃走して程なく。

窓が割れて風通しが良くなった生徒会室は忙しなく人の行き来が繰り返されていた。

 

「奴はまだそう遠くへと逃げていない!学校の出入り口を全て閉鎖。1人も校外へ出すな、いいな‼︎」

 

「各位風紀員と連携して対応に当たれ。勧誘の取り締まりに従事している者にも協力を要請しろ。俺の名前を出しても構わん」

 

「混乱が予想されるから最悪、勧誘を一旦中止することも視野に入れて準備を急いで」

 

生徒会長の真由美を筆頭に、摩利と克人の三年生3人組は右往左往する人流を整えて、的確に指揮を取る。

生徒会室にいた殆どの風紀委員及び部活連名の人員が慌しく退室して行く。

 

「司波そこに突っ立てないでお前も他の者と一緒に向かわないか」

 

偽物の動向をこの場にいる誰よりも捕捉し、今も"視ている"達也に摩利は他の風紀員に同行しろと命令を下す。

役職柄達也は彼女の部下。「失礼しました」と表面上は大人しく従う。

生徒会室を退室して、廊下に出ると「お兄様」と一足先に廊下で待っていた深雪が声を掛ける。

生徒会長の真由美に志願し、追跡に参加させてもらったのだ。半分はこれを理由に兄の傍にいたいという私情が含まれているが。

 

「偽物の足取りは追えそうですか」

 

「問題ない。今まだ渡辺先輩に化けているおかげで追跡しやすい」

 

本物の摩利はまだ生徒会室にいる。暫くすれば彼女も追跡に参加するだろうが、本物と偽物の区別はつく。

初会の校門前騒ぎでは不覚を取ったが、同じ轍は踏まない。常時眼を凝らして偽物の動向に注意を払う。

しかし、再び他人に化ける可能性が高い。ましてや部活勧誘期間の真っ只中。群衆に紛れ込まれたら、追跡は困難だろう。

話しながらも足は動かして兄妹は追跡を開始する。

 

「お兄様やはり今回も七草会長の時と同じで・・・」

 

「ああ、また他人の、今回は渡辺先輩の情報体を纏っていた」

 

生徒会室に突入前。扉越しから『精霊の眼』で部屋の内部に覗くと予想通り摩利に化けた偽物が鎮座していた。

真由美に化けた偽物と遭遇した時もそうだったが、他の風紀委員と一緒に真由美からの突入合図を待つ間、部屋の内と外、2人の摩利が、同一の存在がいる状況に達也は手をこまねいていた。

周りに悟られずに固有魔法『分解』で相手の体を穿いたのち身柄を確保することもできたが、摩利と同一存在と認識している以上、本物の摩利にも魔法の影響が及ぶ危険性があった。

なので、あの状況では偶然か。摩利が到着した際に提唱した魔法によらない物理的な身柄拘束という選択に内心賛成した。

 

「まさかあんな方法で他人に成りすましていたなんて信じられません。現実的に可能なのでしょうか?」

 

深雪が言うあんな方法とは偽物を確保した際、摩利が相手の顔を引っ張ったときに見た光景を表しているのを皆まで言わなくても達也には理解できている。自分もその光景を肉眼で見たのだから。

他人を模したマスクを被る。

真由美から摩利への電話越しで会話の内容はある程度把握していたが、実際に見るまでは信じられなかった。

 

「ドラマや映画の中でしか存在しないと思っていたが、本当に実在するとはな。細かい表情や顔色の変化は魔法によるものだ。間近で見てもまず気付くのは難しい」

 

大物取りの最中で視たことでようやく相手の魔法ーー成り済ましのカラクリは解かった。

達也でも単独では辿り着けなかった可能性はある。今回は危険を省みず、手の内を暴いた真由美と摩利に達也は感謝を述べた。

 

「他人の皮を纏って社会に潜む人間、動機はやはり自分の素顔を晒したくないからでしょうか。他人に成らないと生きていけないのは辛いですね」

 

「だからと言って深雪を騙った行為を許すつもりはないがな」

 

顔を隠すのは別にいい。しかし、深雪だけはダメだ。絶対に隠れた素顔を拝んでやる。達也は憤りに駆られる。

兄の言葉を嬉しく思う反面、私以外は別にいいのか?と深雪は思わず疑問を抱く。

 

「深雪、七草会長、そして渡辺先輩。深雪については直接確認できていないが、今判明している時点でヤツが成りすましたのは、誰もがこの学校の生徒であること。あれ程精巧に化けるには対象者の情報をある程度収集する必要がある筈だ」

 

「その為には間近で観察、情報収集できる立場にいる必要がある。まさかお兄様は偽物がこの学校の人間だと。そう考えてるのですか?」

 

「少なくとも無関係ではないだろう。ヤツの存在が確認されたのは今年度に入ってから。無論、他人に化けられる以上、それまで存在を把握できていなかった可能性もあるがな」

 

深雪と会話しながらも、達也は偽物への追跡の眼を緩めてはいなかった。

 

(人目を避けて逃走するつもりか、校舎の屋根伝いを東棟から西棟へ移動しているな)

 

達也は偽物の逃走経路に予測を立てる。

 

「他の人間に化ける前に捕えないとな」

 

「ここから間に合いそうですか?」

 

「いや、今走っても間に合いそうにないな」

 

上着の内ポケットから携帯端末を取り出すとある人物に電話を掛ける。相手は達也から連絡が来るのを待っていたのかワンコールで出た。

 

 

 

 

 

 

 




さて、達也が電話を掛けた 応援を要請した人物は誰なのか。
次回で部活勧誘編を終わらせる予定です。
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