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そして投稿が遅くなってすみません。
何とか今回も書き上げました。
権三郎side
足を滑らせないよう注意を払いながら校舎西棟の屋根を移動する。
このまま順調に行けば、西棟から降りて人気のない場所で摩利先輩からゴンちゃんに変装し直せばいいだけだ。
ゴンちゃんに戻ったら、雫ちゃんとほのかちゃんの二人組と合流して改めて部活見学でもしようかな。
今日は生徒会で十分遊べたし。
そんな計画を立てながら、屋根の軒先に差し掛かろうとした時だった。
「待ってたわよ」
こ、この勝気な声は。声の主に凄く見覚えがある。
剣道部又は剣術部から拝借してきたのか、ワタシの行手を阻むようにエリカちゃんが竹刀片手に立ち塞がっていた。
な、なぜキサマがここに!なんてね♪いや、本当に何で?
***
達也side
(どうやら間に合ったようだな)
達也は『精霊の眼』を通して西棟の屋根の上で対峙する2人ーーエリカと摩利の偽物を捉えた。
鉢合わせになるように事前に達也がエリカへ偽物の逃走経路を電話で伝えたのだ。
最初は偽物と"遭遇したら連絡する"ように要望した服部を当てることも視野に入れたが、もう既に彼は生徒会で偽物と遭遇した。連絡する必要はもうないと判断。
一応、後輩としての義理は果たした筈だ。
「エリカは間に合いましたか?」
「簡潔に伝えただけで、こちらの意図を汲み取ってくれたよ。たった今西棟の真上でヤツの逃走を食い止めている」
今回エリカを選出したのには理由がある。
対人戦における戦闘能力は極めて高く、学生としては一線を画す。
そんな彼女を相手に変装を纏ったまま戦闘を行うのは難しい。対人接近に持ち込まれて戦闘が長引けは変装を維持できずに正体を露わにすると予想。
(エリカを囮にするようで''少し"気が引けるが、向こうもノリ気だったし、問題はないはずだ。この戦いがヤツの正体に迫る突破口になればいいが)
偽物の正体を暴きたい達也と偽物と一戦交えたいエリカ。多少の差異はあるが、両者利害は一致している。
「見えるか深雪」
「はい お兄様」
達也と深雪は東棟の4階の窓から西棟の屋台の上で対峙するエリカと偽物の姿を視界に捉えた。
「私たちもエリカに加勢しますか?或いは応援を要請するべきでしょうか」
「いや、このまま決闘に持ち込んでもらう。エリカを通してヤツの手の内を探るにはいい機会だ。深雪もヤツの動きに注意を払って見てくれ」
「見るだけで手を貸さなかったら、後でエリカに怒られるかもしれませんね」
「下手に加勢すれば逆にエリカから恨まれるさ」
助太刀無用と言って、切られるかもしない。
親しげにエリカの口にする達也に深雪が反応する。
「そういえば、お兄様は随分エリカと親しげですね。部活見学も一緒になさったとか。これが終わったら、エリカと一緒に見学をしていた件で少々お話が」
身体の芯が冷えるような声色。
深雪は目元だけは無表情で兄に勧誘見学について問いただす。
どこでそれを知った。
達也は隣に立つ妹に顔を向けることができず、横目で様子を伺うことしかできない。
***
権三郎side
「屋根に人がいないと思った?残念だったわね」
「どうして私がここを通ると分かった?まさか、司波からの入れ知恵か」
「お得意の変装で調べてみたら?もっとも、変装ごっこも今日で終わりだけどね」
わざとしらばくれて言う。
絶対に達也君がチクったな。『精霊の眼』があるとはいえど、瞬時にワタシの逃走経路を予測して、エリカちゃんを配置するとは意地悪い。
「七草会長に化けるくらいだから、他のヤツにも化けるとは薄々思ってたけど、まさかあの女に化けるなんてね。似ていて腹立つわ」
憎々しげに喋りながら、嫌悪感に満ちた表情を隠そうともしない。
えぇー摩利先輩嫌われ過ぎでしょう。
「そんなに嫌うことはないだろう。義妹にそこまで言われて悲しいぞ」
「うわっマジでやめて。口調まで似せられると益々イライラするし。アタシとあの女の関係は下調べ済みってわけ」
不愉快に言葉を吐き捨てる。
摩利先輩も苦労人だな。将来千葉家の一員になったら、こうも露骨に自分を嫌ってくるエリカちゃんは立派な身内家族になるわけだが、関係を良好に気付いていくのは一苦労だぞ。
「OK分かった。君が私を、この顔を嫌うのは充分に理解した」
「あっそ。じゃあさ、それ脱いでくれる?他人の顔を模して被ってるなら、その下にアンタの素顔があるんでしょう。観念して本当の顔を見せなさい」
「イヤだね。どうしても私の顔が見たいなら力ずくで暴いてごらん。もっとも・・・できたらの話だが」
ワタシ、ボクでも分かる。
場の雰囲気的に話せば解るは通じない。
ましてや、相手はバリバリの武闘派エリカちゃん。
こんな荒事も対処してこそ立派な変装者ですよね黄◯先輩!
ワタシの言葉に犬歯を覗かせた獰猛な笑みを浮かべる。
「上等。話が早くて助かるわ」
会話はここまで。
両者武器を構える。
ワタシは左腕を下に伸ばして袖口から伸縮警棒を出すと空いた右手は腰に左手の警棒は中段半身に構える。
エリカちゃんは竹刀を両手でしっかり握ると王道の中段 青眼の構え。
屋根の上であっても、一切ブレの無い研鑽された剣士の立ち姿。
暫く出方を伺う静観が続くが、先制を仕掛けたのはエリカちゃん。
臆することもなく、ワタシに真正面から突進。
ナメすぎでしょう。ギリギリまで引きつけて小回りの効く警棒で仕留めてやる。
エリカちゃんがワタシの間合いに入ろうとした瞬間、彼女の姿が視界から消える。
「⁉︎」
思わず彼女が消えた場所に目が釘付けになるが、自分の右側から接近する気配が。
首を振った先に、エリカちゃんの上段切り下ろしがくる。
瞬間移動と見間違うほどの高速移動。
それを足場の悪い屋根の上であの速度域でバランスを失わず、肉体と得物を正確にコンロールできるのは、素直に脱帽だ。
彼女の切り下ろしを受けようとするが、護身用警棒しかも片手では部が悪いと即座に判断。
踵を後方に引いて、回避に専念。
「ヤアッ‼︎」
回避されるのを読んでいたのか。
切り下ろしの勢いを利用した流れる切り替え動作で距離を詰めるに加えて、左横一閃。
躱せない!
力負け覚悟で鍔迫り合いに持ち込む。
警棒と竹刀が激しい音を立ててかち合う。
両者共に間近で睨み合う。
「これが千葉家本家本元 免許皆伝の剣か。想像を遥かに超える。速さも申し分なしだ」
「ご丁寧にどうも。アンタの猿真似とは格も年季も違うのよ」
互いに体重を掛けて、押し込み合う。
読み通りこちらは片手、完全に分が悪い。その証拠にエリカちゃんに徐々に押され始める。
このままでは力負けして屋根から弾き出される。
摩利先輩、女性に成り切りたかったが、変装者の矜持を少しだけ曲げて、男子の力で戦おう。
「これならどうだ!」
男子としての筋力を振り絞って、エリカちゃんを僅かに後ろに押しのける。そのまま距離を詰めて彼女の顎目掛けて左前蹴りを放つ。
「な・・・ッ」
蹴りが決まるかと思いきや当たらず、虚しく空を切る。
エリカちゃんはワタシの蹴りよりも高く跳躍。そのままワタシの膝を踏みつけ土台にすると脳天目掛け、真っ直ぐ上から下の切落とし。
ちょっ⁉︎君は軽技師か!
腰を据えることで剣戟のタイミングを僅かに遅らせた。
その僅かな攻撃の遅れを利用して警棒で彼女の剣戟を防ぐ。
「これにも反応するとか・・・戦い慣れし過ぎだろうが!」
反り腰から上体起こしの要領で体を前に振り上げる。同時に腕を振り抜いてエリカちゃんを後方の空中に弾き飛ばす。
魔法なしで足場のない空中はキツい筈だ。と思ったが、ワタシの予想に反して彼女は慌てた様子もなく空中で身を翻すと後方宙返りで屋根に着地。
100点君は体操選手になれるよ。
「おい。またか・・・ッ」
内心軽口を叩く暇もない。
彼女が屋根に着地した瞬間、再び姿が消えた。
今度はワタシの背後に回り込むと右肩から左脇腹への逆袈裟。
今更だが、竹刀とは思えない鋭い太刀筋だ。
しかし、当たらなければ意味はない。お返しだ。
今度はワタシがエリカちゃんの背後を取る。ガラ空きの背中目掛け警棒を振り上げた時、彼女の姿が再び視界から消えた。
違う。消えたんじゃない。
ワタシを錯乱させようと周囲を高速で旋回している。
3度旋回したところで、右から首を狙って横に横一線。
上体を晒して躱わす。
剣撃に私怨が篭っているのは気のせいだろうか。
「よく躊躇なく攻撃できるな。ワタシは君の未来の義姉だぞ!」
「本物じゃないくせに義姉って言うな!大体アタシは認めてないし、加えてその顔は一番ブチのめし易いのよ‼︎」
「いくら私がシュウに庇われるからって、八つ当たりは関心しないぞ」
「いつもシュウ兄に引っ付いて腹立つのよ!これを気にボコボコにしてやるわ!覚悟しなさい」
個人的な恨みたっぷりじゃん。ワタシを本物又はサンドバッグと勘違いしてないか?
流石、深雪ちゃんに次ぐ隠れブラコン娘。
鬱憤晴らしを込めた剣戟がくる。
左から右へ、ワタシの肩から脇腹に向けて斜めに切り下ろす。
その場で屋根を蹴り上げて、背中を反るように後ろにバク転。回避するに当たり曲げた膝を伸ばして蹴りを一発お見舞いしておく。
顔に傷が付くかもしれないけど許せ。
タイミングは完璧。このまま蹴りがエリカちゃんの顎を打ち抜くと思いきや。
エリカちゃんは竹刀の柄尻で蹴りを防ぐ。
これも防ぐか⁉︎
蹴りを防がれてバランスを崩しかけるが、堪えて柄尻を踏み台に蹴って後ろに飛ぶ。
十分な間合いを取って屋根に着地する。
相手の出方を伺うように無言で睨み合う。
「ダメね」
先に静観を破ったのはエリカちゃんの方だった。
「何がだ?」
「姿形はあの女そっくりだけど、それ以外の動き体捌きは全然ダメね。一応、千葉流の基礎はできちゃいるけど、指導分類は初伝。授与は剪紙止まり。あの女に迫るほどじゃない」
千葉家の門戸は幅広く開いている。
警察及び陸軍の歩兵部隊に所属する魔法師の約半数が、直接又間接に千葉家の教えを受けている。
警察官である父さん経由で千葉流の対人魔法戦法を入手したが、父さんが非魔法師なのか基礎しか入手できなかった。
摩利先輩の日常動作は完璧に習得したが、千葉流を用いた戦闘の仕上がりは実戦投入できるレベルには達していない。
魔法師で元警察の母さんに頼めば現役時代のコネを利用し、基礎以外の資料を入手することも可能だったろう。しかし、現役を引退して専業主婦一筋の母さんに頼るのは気が引けたのでやめた。
「あと、千葉以外の動きもチラホラ混じってる。他所のいい所取りして付け足したつもりでしょうけど、アンタの剣はチャンポン剣法なのよ」
仕上がり不足を他流派の武術で誤魔化しているのを見透かされていたか。
現役バリバリの家元剣士の目を欺くのはやはり無理か。
「チャンポン剣法ね・・・言ってくれるじゃないか。君と渡り合えるなら、別にそれでもいいさ」
「そのセリフは攻撃をしっかり躱わしてから言いなさい」
そう言って彼女の視線がワタシの左頬に集中する。
視線を追うようにワタシは空いている右手で自分の左頬に触れた。
ゲェ、これは。
マスクの左頬ーー摩利先輩の顔の下から褐色肌が覗いてる。切り下げの際に掠っていたか。幸いにも褐色肌の皮までは切れていない。
「あーあ、マスクが切れちゃったよ」
「その顔は一体・・・本当に何なのよアンタ」
このまま戦闘続行してもいいが、破れた皮を纏った状態で戦うのはイヤだ。皮はワタシ自身とも言える存在。
「分かった。この際だ。私の正体を見せてやろう」
嘘だけどね。
マスクの首元に指を入れて摩利先輩のガワを脱いでみせると、エリカちゃんの反応が面白い。
「え!その顔は・・・アタシ⁉︎」
摩利先輩の顔の下から褐色肌以外は自分そっくりの顔が現れたことに驚きを隠せない。
顔が強張るほどの驚愕っぷり。
その表情頂きました!脳内フォルダに保存しておく。
「そう、アタシだよ。アタシはアンタが諦めた全てよ」
しっかりと声色はエリカちゃんに似せておく。
セリフに決まった意味はない。メッチャ適当だ。
「ンなわけないでしょうが。あの女の次はアタシの猿真似ってわけ。つくづく人の顔でふざけたヤツ。てゆーか、その肌の色は何よ。アタシはそんな黒くないし、あと身長高っ!」
細く指摘してくる。
そこはツッコまないでよ。肌色は深夜テンションで作製した皮を纏っているだけで、身長は摩利先輩に変装した際に靴に仕込んだインソールの影響だ。
インソールは脱いでもいいが、そんな隙をエリカちゃんが与えてくれるとは思えない。
「言ったでしょう。アタシは諦めたアンタよ。身長がもう少しあればいいなって本当は思ってるんでしょう」
「ハァ?別に思ってないし」
「ウソよ。だって・・・シュウ兄は身長が高くてスレンダーな女性が好みだから!あの女を選んだのが確たる証拠。シュウ兄に構ってほしくて、家の門下生たちにバレないように陰で身長伸ばす努力してみたり、髪の長さも伸びるのが早いからって適当な理由付けて、あの女と同じ長さに合わせてるをこっちは知ってるんだから!シュウ兄は、お兄ちゃんはアタシのものなんだからね‼︎」
ヤベッ。今朝エリカちゃんに変装した際にノリで口にしたセリフを夢中になり過ぎて長々と最後まで喋っちゃった。
視線を前に戻すと、エリカちゃんは一度俯くが、直ぐに顔を上げると、額にハッキリと青筋を浮かび上がらせる。
やらかした。煽り過ぎちゃったー。メチャキレる、どうしよう・・・。
「どれくらい人を揶揄えば気が済むのかしらね・・上等よ!そのふざけたツラボコボコにして引っ剥がしてやるから覚悟しないさい。いや、しろ‼︎」
怪我をしている分に向こうが有利。精神的にはこちらが有利。
怒りに任せてた剣戟とはいえど、流石免許皆伝。
大きい動きを捌きつつ、胸にカウンターの突きを放つが弾かれて対応されてしまう。
得物の打ち合いが一合二合三合と続き、十合目で再び鍔迫り合いに持ち込まれる。
「どうしちゃったのかしら?さっきまでに比べて動きが単調になってる気がしますけど。猪突猛進ってやつ?」
「アタシが猪ならアンタは人の真似してばっかりの猿真似野郎よ。鏡で自分の顔を見てみなさい」
「口が悪過ぎるとシュウ兄から怒られるわよ」
「あの女にかまけ過ぎて剣を疎かにする奴に怒られる謂われはないわよ」
「世間ではその態度をツンデレと言うのよ。素直になりなさいよ。お兄ちゃん大好・・・うわっ!」
「アタシの顔で変なこと言うなっての!」
一喝と共に後方に弾かれた。
エリカちゃんは少し息を整えると喋り出す。
「さっきから同じ顔と声でおまけに未熟な動きを見せられてこっちはイライラすんのよ!アタシに化けるなら、ウチの、千葉流をしっかり体得してからにしなさい」
千葉の剣、ね・・・いいだろう。
ワタシは警棒の持ち手を痛みを我慢して右手に変えて構える。
「いいわ。そんなに言うなら、摩利先輩から変わってここから先は・・・千葉エリカでお相手するわ」
「何度猿真似したってアタシには・・・⁉︎」
エリカちゃんが言い切る前、瞬で距離を詰めて警棒を振り抜く。
そのまま竹刀を弾こうとするが、寸前で一歩後ろに引いたエリカちゃんに躱される。
エリカちゃんはここで初めて明確な動揺を示す。
「アンタその動きは・・・」
「言ったでしょ。ここからは千葉エリカでお相手するって」
痛みを堪えて、不適な笑みを浮かべておく。
エリカちゃんが驚くのも無理はない。
今しがたやってみせた技は校門前での諍いで森崎君のCADを弾き飛ばしてみせた技なのだ。
あわよくば、竹刀を弾き飛ばしてやりたかったが、そう上手くはいかないか。
ワタシから追撃されないよう更に後方に身を引いているし。
「(見せかけじゃない。今のは間違いなく千葉の、アタシの技だった)」
とか、考えてるのが手に取るように分かる。
驚いてくれて嬉しいよ。
「ぷぷぷ、クケケケ。どう?驚いたでしょう。アタシの変装は、今見せたとおり。一度見た人間の動きは100%習得できる。この意味はわかるでしょう?」
嘘である。
エリカちゃんへの変装ーー戦闘動作の仕上がりは60%程度だ。観察及び体得できていない剣術の動きもいっぱいあるが、今はこれで十分だ。
その証拠にさっきまでの猛攻は鳴りを潜めて、自分と寸分変わらない技を使うワタシを警戒して躊躇している。
「一度見ただけで使えるなら大したものね。で?それがどうしたっての?泥棒猫が一端の剣士気取りとかシャレにもならないわ。構えなさい」
竹刀を構え直す。
エリカちゃんから躊躇が消えた。
技を盗み切られる前に仕留める腹づもりってわけか。
ワタシも見習って、構え直す。
戦闘が長引けば、誤魔化せない粗が目立ってくる。
自慢じゃないけど、そこを突かれた呆気なくやられるだろう。おまけに無茶したせいで右手がさらに痛み出す。
ここで戦闘をやめて逃走したいが、その為にはエリカちゃんを突破しないことには逃げられない。
どうするか迷っている時だった。
「「・・・ッ⁉︎」」
ワタシとエリカちゃんの間に一条の稲妻が炸裂する。
突然のことに、ワタシとエリカちゃんも揃って身構えるが、ワタシはこの現象に見覚えがあった。
確かこれは実技棟を見学した際に三年生が披露していた魔法だ。確か名前は・・・
『スパーク』
物質中から電子を強制的に抽出し、放電現象起す放出系の基礎魔法。
えっ?誰が撃ったのさ!
攻撃の主は、西棟の外壁を駆け上がるように跳躍し、エリカちゃんの背後、屋根の軒先を飛び越えると屋根の上に姿を現した。
「みぃつぅけぇたぁぁぁ‼︎‼︎」
屋根を強く踏み締めて姿を現したのは服部先輩だった。
真由美先輩に変装して揶揄った時とは表情が違う。
眉は吊り上がり、顔は鋭く尖っている。
メチャ怒ってらっしゃる。
怒りの度合いはエリカちゃんの比じゃない。
服部先輩の怒りにワタシは心当たりがあった。
ヤベッ、絶対に真由美先輩に変装して揶揄った件だ。
「逃さんぞ!このパチモンがぁぁぁッッ‼︎」
少しの間だけどワタシとエリカちゃんを交互に見てワタシを偽物と判断。
問答無用とばかりに『ドライ・ブリザード』『スパーク』と矢継ぎに魔法を放つ。
全て珍しくない魔法だが、魔法の基礎がしっかりしている。
達也君のせいで陰に隠れがちだが、服部先輩も立派な強者の部類だ。
思わぬ乱入者の気迫にエリカちゃんは介入できずにいる。
身を捻らせながら、軽快なステップで魔法を紙一重で躱していく。
インソールで足を挫くヘマはしない。
逃げ回って分かったが、服部先輩は闇雲に攻撃をしていない。
ワタシが屋根の軒先まで来るとドライ・ブリザードで隅棟に押し戻し、スパークをお見舞いしようとする。
しかし、理想通りにはいかない。
「オイッ!邪魔をするな、コイツは俺の獲物だ。一年の、二科生はひっこんでろ!」
「それはこっちのセリフよ。後から来ておいて、それはないんじゃないですか?コイツはアタシが片付けるんで外野はすっこんでもらえます?」
スパークを発生させようとしたタイミングでエリカちゃんが横槍を入れてくる。
服部先輩としては纏めて攻撃したいのだろう。
しかし、それはできない。
無関係?の一年生を巻き添えにしたら、副会長の立場がないからね。
先輩と後輩が目線で火花を散らす。
両者一歩も引く様子はない。
このまま三つ巴の戦いに持ち込むのもいいが、そうも言ってられないね。
チラッと眼下に視線を移す。
西棟の周囲にはいつの間にか野次馬が集まり出し、誰も彼も西棟の屋根で繰り広げられる攻防に魅入っている。
よく見れば、野次馬が西棟に入らない様に風紀員と部活連盟が壁になって阻んでいるし。
派手に騒げばイヤでも注目を集めるか、ここが潮時かな。
幸いなことに服部先輩とエリカちゃんは言い争いに夢中。うまく軒先まで後退すれば逃げられる。
気づかれないようにそーっと、一歩後ろに下がったつもりだったが、服部先輩に気づかれた。
この先輩怒りで能力値が無駄に上がってない?
「貴様逃げる気か⁉︎」
「心配しなくてもまた遊んであげますよ。今度は別の顔でね♪」
無視して飛び降りようとするが、服部先輩が気流操作で上昇気流を屋根の周囲に発生させるので逃げられない。
おまけにドライ・ブリザードの副次効果で辺りに霧雨が発生し、視界が悪くなる。
これはチャンスだ。
視界不良を利用して、制服に仕込んだガワを被って背を向ける。
このガワは服部先輩にも馴染み深い。
霧雨の中で変装を終えて、服部先輩の方に振り返ってにこやかに微笑む。
「半蔵くん、待機」
真由美先輩に変装した。声もバッチリだ。
これで攻撃の手が緩み隙ができる・・・と思われた。
「フッざけんなああああッ‼︎」
怒涛の一喝と共にドライアイスの弾丸が音速でワタシの顔面に飛んできた。
ちょっ⁉︎待っ!
寸前で顔を横にずらすが、ドライアイスが右頬を掠めて真由美先輩のガワが破れた。
「あれ?もしかして、私のこと嫌いなの?半蔵くん」
「貴様がやったことは火に油を注いだだけだ」
「乙女の顔を撃つなんて酷いわ。半蔵くん」
「もう喋らなくていいぞ。偽物とわかっていれば攻撃できるからな。エセ役者」
意思表示のように胸先で腕輪型のCADを締め直す。
「チェ、この皮、真由美先輩は造形がいいから、深雪ちゃんに次いで作るの大変だったのに〜」
ベリベリと破れたガワを脱いで、褐色肌エリカちゃんに戻る。
脱いだガワはポケットに仕舞う。ポイ捨て厳禁。
ここで服部先輩の後ろに控えるエリカちゃんの様子が気になった。
真由美先輩の顔の下から自分の顔が現れて、どんな反応をしてるのかなー。
エリカちゃんに視線を向けると、彼女の身体が僅かにブルッと震えた。
もしかして、寒いの?まだ、4月真っ只中なのに。
少しの間を置いて、ボクは気付く。
常時、ボクは皮を纏っているから断熱状態に近い。他の人間よりも周囲の気温変化に疎いのだ。
服部先輩と視線が合う。
まさか、彼がドライ・ブリザードを撃ち続けてきたのは。
「巻き添えを食いたくなければ、そこでじっとしてろよ一年!」
エリカちゃんに警告からのドライアイス掃射。
ドライ・ブリザードでドライアイスが生成され、それが気化することで周囲の温度が下がり、二酸化炭素が溶け込んだ導電率の高い霧が生じる。
マ、マズイ‼︎
ボクは霧から抜け出そうとしたが、
「気付くのが遅かったな‼︎」
服部先輩がトドメだ、と言わんばかりに屋根に振動魔法を作用させて微弱な摩擦電流を発生させる。地面の電気的性質を放出系魔法で改変し、摩擦電流を増量させ地表に放出するとどうなるか。
炭酸ガスが溶け込んだ霧や水滴が導線となって電撃を浴びる。
コンビネーション魔法『這い寄る雷蛇(スリザリン・サンダース)』
複数の魔法がそれぞれに生み出す現象を組み合わせて、個々の魔法の総和よりも大きな効果を生み出す魔法技術。
鼓膜が張り裂けるような爆音と爆風が屋根の上で炸裂。
骨の芯まで伝わる衝撃がボクを襲う。
「〜〜〜〜〜っっ‼︎⁉︎」
悲鳴を上げそうになるが、電撃で口が硬直して開けられない。
常人なら感電死するかもしれないが、ボクは変装の達人を目指しているのだ。
スパイと呼ばれる変装者たちに倣って、電気に耐性を付ける特訓はしてある。両親に隠れて自分に電気を浴びたりしてね。
しかし、自分でやるのと、他人からされるのとでは威力が違い過ぎた。
純情を弄んだのは悪かったけどさ、これはやり過ぎでしょう。
後輩としてがっつんと言ってやらないと。
電撃で発生した黒煙が晴れる頃に身体の硬直が解け始めた。
追撃に備えて立ち上がるが、ここである違和感が襲う。
やけに頬がスー、スー、するし、おまけにピリピリと肌を刺激する。
えっ?まさか、まさか、まさか、ウソでしょう。
違和感の正体は頬に触れて、すぐに判明した。
褐色肌エリカちゃんの皮が電撃で真っ黒に焦げて、ワタシの、ボクの真っ白な素肌が外気に晒されていたのだ。
「アタシの顔の下にまだ別の顔を被ってたの。アンタ一体いくつの顔を持ってるのよ」
晴れた霧の向こう側。
エリカちゃんと服部先輩が揃ってマジマジと奇異の目でボクの素肌を見つめる。
いや、これは正真正銘ボクの素肌だよ。
一部とはいえど、素顔を晒してしまった。ヤバイ、◯パン師匠に顔向けできない。いや、完全に素顔を晒したわけじゃないから、ギリギリセーフか。
だけど、素顔の一部なので、ボクはまだ僅かに痺れる手を使って覆い隠す。
***
別side
「死んで・・・ないわよね?」
魔法が直撃し黒煙が立ち込もる屋根。
その黒煙の中にいるであろう偽物をエリカが心配した赴きで敬語を忘れて服部に訊ねる。
明らかにオーバーキルだ。
偽物だと分かっていても、自分と同じ顔が電撃に呑まれる光景は見ていて気分のいいものじゃない。
「油断できない未知の相手だ。これで仕留めたとは思えない」
くっきりと深いシワを眉間に刻み、強い視線で黒煙を真っ直ぐ見詰める。
視界にエリカは入っていないし、タメ口を叩いたのも気に留めてもいない。
黒煙が晴れた頃に偽物がゆっくりと立ち上がった。
直撃を避けられず、ダメージが及んでいるのか足取りはおぼつかない。
服部が追撃を加えようとCADに手を伸ばすが、その手が止まる。
何故止めたとエリカは疑問に思うが、その理由はすぐに彼女にも理解できた。
偽物の黒焦げた顔、正確にはエリカを模したマスクの右頬がボロボロと剥がれ落ちる。
剥がれた部分から日の光を知らないような真っ白な肌が顔を覗かせた。
黒焦げたマスクと相まって、一際目立つ。
「アタシの顔の下に別の顔を被ってたわけ。アンタ一体いくつの顔を持ってるのよ」
「・・・」
偽物に反応はない。
軽口の一つでも返してくると思っていたが、無言のまま剥がれた部分を右手で隠すだけだ。
今までの様に損傷したマスクを脱ぐ様子は見られない。その態度を見たことでエリカの頭にある可能性が浮かぶ。
「まさか、それがアンタの素顔だったりする?」
指摘すると偽物の肩が僅かに揺れた。
その僅かな変化を服部とエリカは見逃がさなかった。どうやら相手の図星を突いたらしい。
「・・・な」
偽物がボソッと何を呟いた。
「・・・るな。見るな。見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!」
同じ言葉の悲痛な叫び。
偽物が初めて感情的な動揺を見せた。
こんなに取り乱すとは、エリカと服部も予想外だ。
これほどまでに公にしたくない素顔。
そりゃ他人を騙りたくなる、模したくなる、化けたくなる、嘘を付きたくなる、隠したくなる。
しかし、だからいって見逃すつもりはない。
2人が追撃に移ろうとすると、偽物の手で覆っていない左頬が新たに剥がれた。
そこから真っ白な肌が日光に触れる。その瞬間、赤く腫れ出す。
「おごォォぉオオオお‼︎」
偽物は悶えて苦しみ出す。
苦痛で呻く声はエリカとは似ても似つかぬ。
声真似する余裕もないようだ。
「まさかアイツ日光に弱い?だから、あんなマスク被ってたの。変装の為だけじゃなかったんだ」
「光線過敏症 紫外線アレルギーか。あれほど重度なものは初めて見た」
日光に触れた部分は今や火傷のように酷い有様だ。
偽物は必死に素肌を手で隠して、日光を防ごうとするが、完全には防げず、歯を食いしばって痛みに耐える。
暫く耐えていたが、日差しを浴びれば浴びるほど苦しみは増し、身を捻るように暴れ出す。
「今なら捕まえられるじゃない?」
「一撃で失神させる」
凄惨な光景だが、エリカは捕縛のチャンスと捉える。服部も同意して捕縛に移ろうとした時、
「待って・・・!そっちじゃない、そっちに行くなバカ!」
目も日光に弱いのか、偽物は両目を塞いだ状態でヨロヨロと弱々しい足取りで後退していく。
後退方向は屋根の軒先。足を踏み外せば、下まで真っ逆さまだ。
危険を察知した服部が押し止めようとするが、遅かった。
「あう・・・ッ!」
案の定、偽物は足を踏み外して、短い悲鳴を上げると屋根から落ちた。
その様子を下から見ていた野次馬たちが悲鳴を上げる。
服部は咄嗟にベクトル操作を発動しようとするが、間に合わなかった。
***
権三郎side
変装者としてやりたい事のひとつ。
高い所から飛び降りる、を悠長にやってる場合ではなかった。
日光に当たった素肌がメチャ痛い‼︎
自分の顔を鏡で見れば、酷い有様だろう。
父さんと母さんが素顔で外に出る際は日焼け止めを必ず塗りなさいと揃って口酸っぱく、言っていた理由がようやく分かった。
「痛いのもそうだけど、この状況はマズイな」
落下しながら状況を把握する。
両目を塞いだ状態で落下したものだから、落下地点を確認しなかった。
今まさにボクが落下しようとする場所は、西棟での騒ぎを聞きつけて集まった群衆の真っ只中。
このままだと群衆の中に飛び込んでしまう。
幾人かは落下してくるボクを回避しようするが、人混みの中での移動など高が知れている。思うように動けずにいる。中には立ち止まって事の成り行きを見守る者までいるし。
そんな群衆を掻き分けながら、風紀員と部活連盟がボクを捕縛しようと落下地点に急行。
落下の勢いで黒焦げのエリカちゃんマスクがボロボロと剥がれ出す。
まずいぞ、このままでは大衆の面前で素顔を晒らしてしまう。それだけは絶対に避けなければならない。◯パン師匠に本当に顔向けできない!
群衆までの距離が目前に迫った。
顔の痛みを堪えながら、制服に仕込んだCADを操作。閃光魔法を発動させた。
眩い光が群衆の目を射して、視界を奪う。
重量軽減魔法で落下速度を減速させることも忘れない。群衆への激突を避けて地面に着地した。
全員の目が眩んでいる内に黒焦げのマスクを剥いで、制服に仕込んだ新しいガワに被り直す。
鈴音先輩に変装。
顔はこれで大丈夫だが、制服が所々黒焦げてしまっている。
これでは関係者だとすぐに疑われる。生憎と制服の予備はない。完全にボクの準備不足、落ち度だ。
これは戦略的撤退しかない。
群衆の間隙を縫うように進む。目指すは校外だ。
進み出すと同時に群衆の視覚が回復し始め、閃光と共に消えたボクを探して、殆どの人間が辺りを見渡す。
群衆に混じる風紀委員と部活連盟に注意しながら進んで行く。
そして、捕まらずに群衆から抜け出す事に成功し、校門から堂々と校外へ脱出。
監視カメラに姿が映っているが、変装してあるので問題なし。
ゴンちゃんに戻って、雫ちゃんたちと改めて部活勧誘見学してもよかったが、流石にもう疲れてボロボロだ。なので、早退させてもらいます!
校外に出てすぐ、校舎の方で放送チャイムが鳴った気がするが、無視して家路へと急ぐ。
日光で腫れた顔を冷やして安静にしたい!
***
『迫力あるパフォーマンスは如何でしたか。熱演を披露してくれた3人に大きな拍手を』
校庭に設置しているスピーカーから放送が流れる。
聞き取りやすい声でアナウンスするのは生徒会長の真由美だ。
今回の騒動は隠蔽できないと判断し、部活勧誘のパフォーマンスだと偽ったのだ。
生徒会からの説明放送により、群衆はパフォーマンスだと納得して目立った混乱は起きなかった。
「七草会長のおかげで大きな混乱は避けられたな」
鎮静化された群衆を司波兄妹が東棟の窓から覗く。
パフォーマンスが終了したと判断した群衆は風紀委員と部活連盟の誘導の元、各々解散していく。
その中に偶然、雫とほのかの姿が達也の視界に入った。兄が何を見ているのか気になった深雪は釣られる様に窓の外を眺める。
「あれは・・・北山さんと光井さん 彼女達も騒動を聞いて集まっていたのですね。彼女達がどうかしたんですか?」
「権三郎の姿が見えないのが妙に気になってな。アイツの事だから、こういった騒動には嬉々として駆けつけると思っていたんだが」
達也が今日会った時、理由は不明だが、雫とほのかは揃って権三郎が逃走しない様に手を繋ぐなど徹底していた。
ほのかはどうか知らないが、雫が途中で別行動を許すとは思えない。
雫が権三郎の逃走を阻止していたのを生徒会室前で遭遇した深雪も把握していた。
「部活勧誘期間中は大変混み合うそうですし、何処かで逸れたのでは?」
「・・・それなら、別にいいんだがな」
達也は学校の敷地内を『精霊の眼』で見渡す。
敷地内に権三郎らしき人物は何処にもいなかった。
***
閉門時間間際の部活連本部。
達也は偽物騒動で報告が遅れてしまった、自身が目撃し体験した第二小体育館での事件の一部始終、壬生沙耶香と桐原武明の口論から二人の私闘を経て、自身が剣術部を相手取った乱闘未遂の経緯を語り終えた。
取調から解放されて退室するとエリカが待っていた。
「じっくり縛られた顔してるわね」
「そうでもないさ。それよりも巻き込んで悪かったな。そっちも色々と聞かれたんだろう」
達也の前にエリカも取調べを受けた。
独断で応援要請した件は伝えてもいいと達也は言ったが、エリカは敢えて伏せた。
「どうって事ないわ。適当に聞き流して最後に偽物にいいように振り回されてみっともないって、あの女に言ってやったわ」
エリカの言うあの女とは誰のことを指しているのか達也にはすぐに見当が付いた。
渡辺先輩か。自分が入室した時点で何処か居心地の悪そうにしていたのはそのせいか。
「ところでさ。その顔はどうしたの?少し赤く腫れてるけど」
間近で見れば、達也の両頬が僅かに赤く腫れているのをエリカが気付く。
「これは気にするな」
顔を隠す様に伏せるが、身長差の影響で隠しきれない。
「それよりも」と誤魔化すような前振りを置いて達也が本題に入る。
「早速で悪いが、ヤツと対峙して気づいたことはないか?」
達也にとっては一番重要なことだ。
エリカは対峙した状況を思い出すように少し考える。
「殆どアタシの剣士としての経験則からの語り口になるけど、それでも構わない?」
「それでも構わない。エリカの素直な感想を聞かせてくれ」
「何度かアイツと打ち合って分かった。上手く化けちゃいたけど、アイツ男よ」
男。
その言葉は達也の意表を突いた。
「剣術やってるとさ、技は勿論、ソイツの身体の方にも目がいくのよね。あっ変な意味じゃないわよ。肉付きや立ち振舞いで大体のソイツの人柄とかも解る。アイツの正体は男。これは断言してもいい」
はっきり言って男と女は別の生き物だ。
骨格の構造から筋肉の付き方まで違う。
骨格は服装、筋肉は徹底したシェイプアップでどうにかなるが、エリカの剣士の経験と感覚までは誤魔化せなかったようだ。
達也が頭の中で情報を纏めているとエリカが続ける。
「前に校門で一科と揉めた時、アタシが一科のデバイスを弾いたのを覚えてる?」
「ああ、それがどうしたんだ」
「アイツも使ってきたのよ。全く同じのをね。認めたくないけど、技の切れはアタシと同等だった」
千葉家の剣士それも免許皆伝者のエリカにそこまで言わせる偽物の実力に達也は素直に驚愕を隠せなかった。
白兵戦闘技術を模倣できるなら魔法戦闘技術も模倣できるとみて間違いない。
この調子だと深雪や七草会長の魔法技能も模倣されている可能性が高い。悪用される前に捕縛しなければ。
「直接対峙したエリカがそこまで評価するとはな」
「けど、それ以外の技は大したことなかった。ウチの道場の門下生に例えるなら、良くて入門して数年の中伝がいい所よ」
「エリカの技を完全に模倣できるわけではないのか。いや、その技しか完全に模倣できなかったと言うべきか」
達也の言葉にエリカは頭を傾げる。
「エリカ その技を校門前の諍い以外で人の目に触れさせることはあったか?」
「道場で使うことはあるけど、まさかウチの道場の人間を疑ってる?偽物が潜んでるとか言わないでよ」
「その可能性はない。仮に門下生に化けて技を盗み見していたのであれば、エリカとの戦闘でもっと高度な技を使ってきた筈だ。ヤツは戦闘での敗北よりも、自分の素顔がバレることを何よりも恐れる。素顔がバレる危機的状況で出し惜しみする必要性がない」
エリカの門下生に偽物が紛れ込んでいる可能性を真っ向から否定する。
「ふーん、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
否定を示す達也にエリカは関心を寄せる。
実家の道場に偽物はいないと言ってくれた事が素直に嬉しいのだ。
「エリカ よく思い出してくれ。最近、道場以外でその技を使ったことはあるか?」
「あるとしたら入学初日に一科と揉めた時以外にないわ。まさか、アイツはその時にアタシの剣技を盗み見したって言うの?言っとくけど、一瞬だけよ」
「エリカの技が盗まれた可能性があるとすれば、あの時以外にない」
「それじゃもしかして・・・」
「ああ、偽物はあの時、あの場にいた人間の中にいる」
***
達也とエリカが部活連本部前で対話している頃。
部活連本部では取調を終えた真由美と摩利、部活連会頭の克人がまだ残っていた。
副会長の服部がいないのは、過剰な魔法攻撃で厳重注意を受けて同席できなかったからだ。
「まったく無茶し過ぎだ。電話で偽物と一緒にいると聞かされた時は思わず冷っとしたぞ」
「渡辺の言う通りだ。今回は大事に至らなかったが、次はそうとは限らない」
親友2人組から揃ってお叱りの言葉を貰う。
「ごめんなさい。情報を引き出す為にどうしても直接対話したかったの。でも、無理をした甲斐はあったわ」
真由美は生徒会室でのやり取りを2人に説明する。
説明の途中、真由美が思い出したように「あっ」と声を漏らす。
「余りにも自然体だったから、あの時は不審に思わなかったけど、彼或いは彼女、摩利を先輩って呼んでたわ」
「如何にも自分は後輩の中に潜んでますと言わんばかりの見え透いたブラフだろう」
「その可能性が高いな。我々の捜査対象を下級生に向ける為の偽造工作と見ていい」
「うーん、そんな感じではない気がするのよね。なんと言えばいいのかしら・・・そう、本当に思わず自然と口から出たみたいな」
真由美の要領を得ない発言。
「仮に捜査対象を下級生に向けるとしても人員は限られているぞ」
「捜査員の中に紛れ込む可能性だってある」
「その点は心配するな、十文字。少なくとも私の部下たちの中にヤツは紛れていない」
騒動の後、身元を明らかにする為に摩利が直々に風紀委員全員の顔を思い切り抓った。半分は自分を偽物扱いした部下への仕置きも兼ねて。
その中には何故か達也も含まれていた。完全な巻き添えだ。
摩利の力技な判別方法を聞いた克人は頭を抱える。
「まさか、本校の生徒全員に同じ事をして回るのか?全員の顔を抓るわけにもいかんぞ。ヤツが必ずしも変装して学校に来るとは限らん。一旦素顔で学校に入られてしまえばそれまでだからな」
自分の対策案の穴を克人に指摘されて、摩利はグゥの根も出ない。
「それはないわ。十文字くん」
「なぜそう思う?」
「他人の容姿を借りて生きてる人間が人前で素顔を晒すような真似は絶対にしないと思う。それと服部くんのおかげで明らかになったこともあるし」
「そうだったな」
真由美の指摘で克人は思い出す。
素顔の話題に対して動揺を露わにする人間が素顔を晒す真似はしない。
服部の乱入で明らかになったが、偽物は重度の紫外線アレルギーを患っている。尚更、素顔で現れない。
服部の乱入は誰もが予想外だったが、結果としていい方向に転がった。
「ヤツは真由美に自分の素顔を僅かだが見せたのだろう。その時、日の光に晒されなかったのか?」
摩利は直接見たわけではないが、電話を通して生徒会室でのやり取りを把握している。
偽物が挑発気味にマスクを捲ってみせたことも。
「いいえ。結局、それも別の顔、今回は一年E組の千葉エリカさんの顔だったわ」
エリカの名を聞いた途端、摩利が思わず「ムゥッ」と顔を顰める。
「二重に変装を施していたのは素顔が発覚するリスクを減らす目的もあったのだろうけど、それよりも私が気になるのは・・・」
「何故その一年に化けたのか。それが気になるんだな」
真由美が言いたい疑問を克人が代弁する。
それに真由美は縦にうなづいて肯定の意を示す。
「彼女も勿論容姿が優れているし、彼或いは彼女・・・あっもう長いから偽物ね。偽物の変装対象に含まれていると思うけど、それだけじゃない気がするの」
「何故だ?エリカは・・・まぁ、じゃじゃ馬で気難しい性格を除けば容姿端麗な女子だぞ。ヤツが化けたくなる理由は満たしていると思うが」
「七草は容姿端麗以外にも理由があると考えているのか」
「どうして千葉さんに化けたのかしら。変装するには明確な理由があるはず。例えば・・・彼女への当てつけ。感情的な動機があるとか」
エリカの供述では偽物は度々挑発するような言動をしたそうだ。
エリカに何らの恨みがあったのか、だから敢えて挑戦気味に肌色から偽物だとバレる変装をした?
真由美が机の上に乗せた両手の指を組んで思考に耽る。
***
別side
達也とエリカが廊下で話し込んでいる頃。
制服の所々が黒焦げの状態で帰宅した権三郎は母親から「一体どうしたの⁉︎」と激しく問い詰められたが、変装を解いて素顔を見せるとその態度が急変。
日光で酷いアレルギー症状を起こし、赤く腫れた息子の素顔を見て母親は問い詰めのをやめる。慌てて処置に移った。
処置が終わると権三郎はカーテンを閉め切った自室のベッドの上で横になる。
日光で赤く腫れた素顔をキンキンに冷えたアイスノンで冷やす。
「はぁ〜効くぅ。やっぱり火傷の時は冷やすのに限りるね」
中性的で気の抜けた地声が部屋に響く。
皮を脱いで、全身真っ白な全裸のまま顔に当てたアイスノンの冷たさに浸っていると、右手に刺さるような痛みが走る。
痛みで思わず「イタッ」と皮を纏っていない事もあって痛がりを顔に出す。
「今日一日ドタバタ騒ぎだったな。おかげで右手ますます痛くなっちゃったよ。エリカちゃん遠慮なさ過ぎ」
右手を摩りながら、床に脱ぎ捨てた褐色肌のエリカの皮に目を向ける。
中身が無いのでだらんと頭から足の爪先まで萎んでいる光景は見慣れていない人間が目撃すれば卒倒するだろう。おまけに全身が黒焦げていれば尚更だ。
「エリカちゃんもだけど、服部先輩も容赦なさすぎでしょう。褐色肌エリカちゃんをこんな風にするなんて、そりゃボクは純情を弄びましたけどさ、黒焦げにするのは酷くないかなー。もう着れないよ」
黒焦げになった以上、もう破棄するしかない。
このままゴミ袋に入れるわけにはいかないので、明日までに細くカットすることにする。
「あっ!切るといえば、今度から防刃に改造したほうがいいかな。でも、それだと日常で思わず切った時に何で切れてないって、不審に思われるし・・・いや、切れたら変装がバレちゃうしな」
頭から爪先まで被る一体型の皮を重ね着する案もあるが、重ね着した分だけ暑いし、おまけに動きが円滑にならず支障が出る。
顔だけなら問題ないが、首から下となると・・・。
「思い切って◯ルモットさんみたいに血の出る皮にしようかな。皮の超内側に血糊を仕込めば何とかなるかも」
天井を眺めながら新たな皮の製作計画を立てる。
服部の純情を弄んだ件を頭の隅にやると、オレの事を忘れると言わんばかりに腫れた顔が痛み出す。
「うぅ〜、自分の事を把握してなかったのが最大の失敗だった。まさか、お日様に弱いだなんて。生まれてから今までどうしてたんだよって、変装の先達者全員に言われちゃう」
生まれてから今まで殆ど皮を纏って生活していたので、権三郎本人ですら、知らなかったのは無理もない。両親も息子が日光から身を守るように外皮を纏うので安心していた節がある。
余談だが、権三郎は色素の薄い肌に加えて、紫外線アレルギーを患って生まれた。
赤ん坊当時の記憶にはないが、病院スタッフのミスで誤って日光を浴びた際、死にかけてNICU(新生児集中治療室)に搬送。
状態が安定後もGCU(回復治療室)で赤ん坊時代を過ごした。
「明日から学校どうしようかな。完治するまで休んで・・・いや、体調不良を隠してこそ、変装の達人なのではないだろうか!」
素直に休んでいろと言いたくなる。
寧ろ変装のプロなら体調を万全に整えるべきなのでは?
くだらない登校計画を立てている頃、雫からの電話が10件以上掛かっていることに後から気付く。
早退の言い訳を考えるのに苦戦することになる権三郎だった。
魔法科での初の戦闘模写ですが、やはり難しいですね(苦笑)
また、戦闘模写を書く際も頑張ってみます。
次回は少しだけ入学してから時間が経った辺りを書く予定です。