魔法科高校のドッペルゲンガー   作:西の家

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目指せリーナとの会合と自分に言い聞かせている西の家です。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
土日を利用して少しだけ早く書けたので投稿しました。



入学編 13話「美少女探偵団(+a)結成」

 

入学6日目の薄暗さが残る早朝。

ボクは深雪ちゃんに変装後、黒を基調としたレディースのスポーツインナーに着替える。

黒をここまで着こなせるのは、深雪ちゃんしかいないね。

 

「よし、やるか。いや、ゴホンッ、アッアッ、やりましょう」

 

声色を深雪ちゃんすると、まだ寝静まっている両親を起こさないようそーっと、静かに家を出た。

早朝から何をするかって?

それは走り込みだ。ただ走るのではなく、逃走の特訓だ。

 

まずは街の地図を用意する。

任意の地点から出鱈目に直線を引く。その直線通りに街を走り抜ける。

障害があれば、これを飛び越え道なき道を切り開く。如何なる境遇に遭ってもひたすらに真っ直ぐ走り抜ける。

これにより、走る・跳ぶ・登るなどの逃走術を鍛える。この際、魔法は一切使用しない(変装には使うけど)。

部活勧誘で逃走する際、エリカちゃんと服部先輩に先回りされた。その翌日、ボクは自分に足りなかったものを実感した。それが逃走術だ。

 

「ハア、ハア、ハア」

 

髪(ウィッグ)を靡かせながら息を切らす。

幅の狭い塀は踏み外さないように走り、垂直の壁は僅かなすり傷、凹みを利用して登り切る。屋根の上には窓の庇に足を掛けて一気に登って次の屋根へ跳ぶ。

この特訓方法はK20こと遠藤◯吉さんの泥棒修行を参考にさせてもらった。

魔法を使用しない純粋な逃走術。これで達也君のふざけた『精霊の眼』も欺けるはずだ!

日が上り切る前に直線の最終地点に到達して家に戻るぞ。

 

登校時間まであと二時間前を切った頃。

 

「権三郎、お前一体どうした・・・‼︎」

 

「・・・父さん、警察が高所作業やレスキューで使う丈夫なロープとか手に入らない?」

 

帰宅すると玄関先で出勤途中の父さんと遭遇。やっぱり一発で変装を見破られた。

父さんが声を張り上げて驚くのも無理はない。

インナーはボロボロに破れて、変装マスクも僅かに歪んでいるのだ。

深雪ちゃんの端正なお顔が台無しだ。

今のボクを見れば、達也君は何って顔するかな。って、そうじゃなく。

結論。

着地点を確認せずに膝から着地、俗に言うヒーロー着地はするものではない。そもそもボクはヒーローになりたいのでなく、変装の達人になりたいのだ。

調子に乗ってヒーロー着地するんじゃなかった。結局ゴール地点の名前は忘れたが、九なんとか寺に到達できないまま終わった。

 

***

 

「突然なんだけど、今日の放課後私たちでドッペルゲンガーを捕まえない?」

 

「「「ドッペルゲンガー?」」」

 

学校の昼休み。

ワタシは雫ちゃんとほのかちゃんの3人と食堂で昼食を済ませた。

その後は特にやる事が無いので雑談しながら教室に帰ってくるとワタシたちが戻ってくるタイミングを見計らったように先客が待っていた。

明智英美。

赤い髪が特徴的な日英のクォーターで、正式はアメリア=英美=明智=ゴールディ。

 

クラスは違うが、同じ新入生の一科生である。

彼女とは雫ちゃんとほのかちゃんが部活勧誘の際に知り合って、ワタシも2人の紹介ですぐに仲良くなった。

明るくフレンドリーで誰とも仲良くなれる性格で、部活勧誘以降時間の合間に自分からワタシ達の教室まで遊びにくるようになったのだ。

初対面時にワタシの性別を知ると「ヤバッマジもんの男の娘ってやつだ」と鼻息荒く興奮した様子で触ろうとしたけど、雫ちゃんに止められて今では落ち着いたものだ。

それにしても名字が明智か。メチャカッコいい。

◯十面相と対決してくれないかな。

 

そんな彼女から奇妙なお誘いを受ける。

 

「3人とも知らないの?今この学校を騒がせてる存在よ。親しい友人から恋人、頼もしい先輩にまで様々な人間に化ける千差万別、神出鬼没で誰もその素顔を知らない正体不明の存在。学年問わずその話題で持ちきりよ」

 

「へ、へぇ〜そうなんだ。初耳だよ 雫は知ってた?」

 

「ううん、私も初耳。ゴンちゃんの方は?」

 

「ワタシもふたりと同じだよ」

 

嘘である。

ドッペルゲンガーが誰を指しているのかすぐにエイミィ以外は悟る。

これはワタシに限った事ではなく、雫ちゃんとほのかちゃんを含めて、校門前の諍いの時にワタシ(真由美先輩に変装していた)と接触した生徒には生徒会から箝口令が敷かれたのだ。理由は余計な混乱を避けるため。

しかし、人の口に戸は立てられぬが世の常。

学校という限定された環境下では生徒間で簡単に噂として広まる。思春期真っ盛りの高校生の口を塞ぐなど不可能に近い。

現にあの現場にいなかったエイミィにも噂が広まっている。加えて部活勧誘でのあの騒ぎもあれば無理もない。

それにしても、ドッペルゲンガーか。

ワタシは変装の達人を目指しているのに、怪異になりたいわけじゃないぞ。

 

「ドッペルゲンガーを見たって言う人もいれば、直接接触した人も大勢いるのよ」

 

「へぇー例えばどんな人がそのドッペルゲンガーと会ったの?」

 

ワタシは心当たりが多すぎて、誰か分からないのでエイミィに尋ねてみる。

 

「私が聞く限りでは2年生に熱愛カップルで有名な先輩方がいるんだけど、何とびっくり!ドッペルゲンガーはその熱愛カップルの彼女さんに化けてたのよ」

 

ほほう、熱愛カップルとな・・・。

エイミィの言葉で過去を振り返ってみる。

確かあれはこの日と同じような昼休憩の時だった。

 

『ケィ〜これ食べてみて新作のお弁当なの』

 

『ありがとう花音 それじゃさっそく頂くよ』

 

恋人の彼女さんに変装したワタシの弁当を何の疑いもなく、彼氏さんはパックリと一口で食べた瞬間、

 

『からぁぁぁぁいいぃぃぃッッッ‼︎‼︎』

 

口から火が出る勢いで辛いと大声で叫んだ。

弁当の具材に激辛ソースを仕込んでおいた。

口を押さえて悶絶する彼氏さんにワタシは、

 

『ごめんなさい!調味料を間違えちゃったみたい。早くこれを飲んで』

 

と言って、渡したお茶にも激辛ソースを混ぜておいたので飲んだ先輩がどうなったかは言わずかな。

懐かしいなー。

ワタシが追憶していると、ほのかちゃんがその後が気になったのかエイミィに訊ねる。

 

「それで先輩2人はどうなったの?もしかして、それが原因で別れちゃったとか。」

 

「ううん。そこまでは行ってないみたい。カップルとは言ったけど、家と本人同士が望んだ許嫁だから簡単には別れないよ。ただ、騙された彼氏さんもそうだけど、一番ショックが大きかったのは彼女さんの方で彼氏を寝取られたって泣きながら風紀委員会に訴えたらしいよ」

 

悪気があった訳じゃない。ワタシは熱愛先輩カップルと聞いて2人の絆を試したかったのだ。

恋人に化けた変装者を愛と絆の力で見破る。

そんな場面を期待したが、結果は残念な形で終わった。

 

終始黙ってエイミィの話を聞いていると、

 

「・・・」

 

「(ジーッ)」

 

ワタシの傍で無言のまま控える雫ちゃんとほのかちゃんの視線が妙に刺さる。

な、なんだよ。その、ワタシを非難するような目で何を訴えたいんだ?

 

「そ、それでエイミィはどうしてドッペルゲンガーを捕まえたいの?もしかして、エイミィも騙されたクチ?」

 

ワタシのその言葉を待っていたか、エイミィはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに目を輝かせる。

 

「騙されたとかじゃないわ。ただ・・・3人は気にならない?誰もその素顔を知らない謎の存在。これはもう気にするなって言うのが無理な話。私たちで捕まえて、その素顔を見せてもらうのよ」

 

「私たちで捕まえるって・・・うん?私たち⁉︎」

 

ほのかちゃんの疑問にエイミィが「そう!」と指し示す。

 

「ほのかと雫と権三郎、私で少女探偵団始動よ!」

 

探偵団結成を宣言。

エイミが鹿撃ち帽とインバネスを纏った某探偵の印象が強い着姿、背後にビック・ベンが見えるのは幻かな。

 

「だって、こんなのほっとけないじゃん」

 

「うーん、どうすればいいかな。雫はどうする?」

 

「この問題はそっとしておけば、いいと思う」

 

雫ちゃんとほのかちゃんは意外と乗り気ではない。てっきり加わると思ったのに。

 

「そんなこと言わず、一緒に探ってみようよ」

 

「えっ?権三郎くんは本当にいいの?」

 

ほのかちゃんがワタシに了承を求めた。

本当にいいって何だよ?

だって、面白いじゃないか。

探偵団に紛れた変装者。どれだけ探しても見つかるわけがない。味方だと思っていたヤツの中にソイツはいたんだから。ってシチュエーションは最高に面白いと言わずにはいられない。

 

「ゴンちゃんがいいなら私も加わろうかな」

 

「うーん、雫と権三郎くんが加わるなら私も」

 

「やったー!こういったのは沢山の方が楽しいからね」

 

2人の加入が決定したことでエイミィは嬉しがる。

嬉しがるのはいいが、その前にハッキリさせておくことがある。

 

「明智先生、ひとつよろしいですか?」

 

「許す佐々木少年。言ってみたまえ」

 

この子本当ノリがいいな。

 

「少女探偵の最後に(+a)を付けるべきかと。だって、ワタシはおと・・・」

 

「何か卑猥だからダメ」

 

「余計なものぽいから同じく」

 

「却下でーす。権三郎君は可愛いから女の子でいいの。これは譲りません」

 

三対一でワタシの意見は棄却された。

 

「3人揃って何を話しているの?」

 

「あっ司波さん」

 

深雪ちゃんがワタシたちの傍にやって来た。

ワタシの席で集まって話しているのだ。その後ろが深雪ちゃんの席だから彼女が来るのは不自然ではない。

 

「実は今日の放課後さ・・・」

 

「あー!ダメダメ。権三郎君、言っちゃダメ」

 

放課後の予定を、良ければ深雪ちゃんも誘おうとしたワタシの口をエイミィが塞ごうとした。

ヤベッ!できるだけ自然な動作で彼女の手を躱わした。すると、何故かその様子に危機一髪とばかりに雫ちゃんとほのかちゃんが揃って肩を強張せた。本当に何故?

 

「どうしたのさ」

 

「えーっと、司波さんはほら、あの、生徒会が忙しいんじゃないかなーって」

 

そういう事か。

ワタシはエイミィの辿々しい態度に合点がいった。

ドッペルゲンガー捜索を生徒会役員の深雪ちゃんが聞けば、危険だと言われて止められると判断したのだろう。

 

「私がどうかしたの?」

 

深雪ちゃんが追求しようとしたタイミングで、チャイムが鳴る。

 

「もうお昼休み終わりか。あっそういえば、そっちは次の授業何だっけ」

 

「えーっとね、うちのクラスは体育だよ」

 

ワタシが答えた瞬間、エイミィを除いた女子たちの顔が強張る。

彼女たちだけじゃない。教室にいる男子たちの顔まで揃って強張ってる。

その様子の変化にエイミィは理解が追いつかず、順に顔を見回すと最後にワタシを見て「あーそういうこと」と声を漏らす。

 

「権三郎君って、体育の時、どっちで着替えるの?意外と女子の方だったりして」

 

「男子の方に決まってるじゃん」

 

前にも説明したが、学校には男で届出している。

更衣室は勿論、トイレだって男子用を使用しているのだ。

ワタシ、ボクは変装の達人を目指しているのであって、決して覗き魔ではない。というかなるつもりもないぞ。

深雪ちゃんが頭痛を抑えるように額に手を当てて喋り出す。

 

「貴方は・・・もう忘れたんですか?初の体育で男子生徒たちがどうなったのかを」

 

「あれはヤバかった」

 

「うん。男子全員パニックになったんだよね。最悪、体育が中止になりかけたし」

 

深雪ちゃん、雫ちゃん、ほのかちゃんの順で各々体育の授業を振り返る。

入学して初の体育の授業。

あの日は妙に教室がソワソワし、男子と女子関係なく全員が落ち着きがなかった。

そのまま始まる体育。

更衣室に移動して着替えようとした時、男子の殆どはワタシから目を逸らしていたが、勇気を出してガン見していた男子数名は鼻を押さえて退室した。

理由はワタシが女子用下着を着用していたからだ。

思春期の男子には刺激が強すぎたかなー。特に黒。

 

「あの後生徒会に苦情が殺到したんですよ。権三郎君を別室にしてくれと。それと制服だけじゃなく、どうして下着まで女子用なんですか?」

 

「いやー、あの日は思い切ってお気に入りのショーツを履いてたんだよね」

 

「下着の好みを聞いてるのではありません。ちょっと待ってください、まさか貴方、今日も」

 

「お察しの通りだよ♪」

 

周りで聞き耳を立てていた男子たちの身体が硬直する。

 

「制服まではいいとして、せめて下着くらい男性用にしたらどうですか」

 

「えー、いいじゃない別に〜。どっちを履こうとワタシの自由でしょう」

 

「そこが問題なんです!平気で女性下着を履いてくる貴方の感性が・・・!」

 

「司波さん!司波さん!もうその辺にしよう。色々と連呼し過ぎだからさ」

 

ヒートアップした深雪ちゃんを見かねたエイミィがストップを掛ける。

それにより、深雪ちゃんは自分が下着というワードを連呼していたことに気付き、羞恥心で顔を真っ赤になる。

 

「えーっと、それじゃわたし次の授業の準備があるからこのへんで!あっ、3人とも放課後に迎えに行くから」

 

場の空気に耐えられなくなったエイミィが逃げるように教室から去っていく。

 

「ワタシは更衣室に行こうっと。それじゃ、3人とも男女別々になるけど体育の授業を楽しもう♪」

 

女子三人組と一旦別れる。ちなみに今日の体育は男子はバスケ、女子はバレーボール。

さーて、今日は何人ほど鼻血ブーさせてやろうかな。

そんな悪戯を画策しながら体操着片手に教室を出ようとすると、

 

「佐々木ぃ‼︎」

 

出入口の前に森崎君が立ち塞がった。

彼の死に物狂いの迫力に圧倒されて、ワタシは立ち止まる。

 

「森崎君、どうしたの?」

 

「後世の頼みだ!トイレまでは許す。だから、更衣室は別の場所か、僕たちの後に使ってくれ!この通りだぁ‼︎」

 

そう言って森崎君が取った行動はまさかの土下座。

床に額を擦り付けるほどの見事なまでの土下座だ。

そこまでする?

 

「森崎・・・お前、よく言ってくれた・・・!」

 

「オレたちの救世主よ!」

 

「これで安心して体育に臨める!」

 

男子たちが口々に賛辞を送る。

このまま素直に応じるのも面白くないな・・・そうだ!

 

「うーん、いいよ。た・だ・し・その代わり〜」

 

森崎君に手を貸して立ち上がらせる。

そのまま彼の二の腕に引っ付いて耳元で囁く。

 

「今度一緒にデートしよう♪」

 

特大の爆弾発言を投下してやった。

ワタシの言葉に森崎君は顔を真っ青に、口をみっともなく開けたまま動かなくなる。

そうだよ、その顔だよ。その顔が見てやりたかったのさ!なんてね♪

 

「森崎・・・お前の犠牲は忘れないぞ!」

 

「オレたちの救世主は星になった・・・」

 

「少しだけ羨ましいかも・・・」

 

本当は言いたくない。しかし、健全な心で体育に励む為だと観念して「わ、わかっ・・・」と森崎君がデートの約束を取り付けようとした時だった。

 

「イタダダダッッ⁉︎ちょっ、雫ちゃん‼︎痛い痛い耳が千切れる千切れちゃう‼︎」

 

ワタシは突然寄って来た雫ちゃんから右耳を思い切り引っ張られる。

顔、正確には頬に触れようとしなかったから、反応できなかった。

頬を抓られるよりマシか。いや、それよりも彼女の目はじとっと据わってメチャ怖い。

 

「はいはい。バカなこと言ってないで、多目的トイレで着替えようか。森崎くん、ゴンちゃんの言ったこと気にしないでいいよ。ただの悪ふざけだから」

 

「北山・・・本当にありがとう!恩に着るぞ!」

 

森崎君は澄み切った瞳で雫ちゃんに感謝を述べる。

それに釣られたのか、周りの男子たちは畏敬の態度を示す。

 

「北山さんこそがオレたちの救世主だったのか」

 

「佐々木を手懐けるのはあの人以外にない」

 

「命拾いしたな森崎」

 

男子たちは各々感謝の言葉を述べながら、教室から去っていく。

男子たちが全員退室後、雫ちゃんはワタシの耳に手を掛けたまま最後に深雪ちゃんを向く。

 

「司波さん。またゴンちゃんが何かやるようだったら、遠慮なく私に知らせて。黙らせるから」

 

「ありがとう北山さん。権三郎君をよろしくお願いしますね。それと光井さんもお願いね」

 

「は、はい!任せて下さい」

 

深雪ちゃんは面倒を肩代わりしてくれたと言わんばかりに雫ちゃんへお礼を述べる。最後にほのかちゃんまで加えて。

こうして雫ちゃんから多目的トイレに連行されたワタシはひとり寂しく、トイレで体操着に着替えるのであった。

 

 

***

 

 

放課後。

約束通りエイミィに誘われて、ワタシたちはドッペルゲンガー捜索を開始。

ドッペルゲンガーはワタシなんだけどね♪

教室を出てすぐに廊下の窓から外を眺める。

昇降口前には勧誘生が新入生は逃さんぞ、とばかりに待ち構えている。

これでは下校どころか探偵ごっこもできない。

外の様子を見る傍ら、ほのかちゃんの表情がいつもより明るいことに気付く。

一応、探偵団の一員として確かめずにはいられない。

 

「どうしたの?何かいい事でもあった?」

 

「いや!べ、別に何でもないよ。あははは」

 

ワタシの問いに、彼女は乾いた笑いで誤魔化す。

わかりやすっ。絶対にいい事あったでしょう。

 

「ほのか〜、権三郎君。何してんの、早く行こう」

 

エイミィから急かされて追求するのは一旦保留にしておく。

昇降口の窓口で預けていたCADを回収(ワタシは未申告品が沢山あるけど)後、本格的に捜索を開始しようとしたが、勧誘生がそれを阻む。

 

「雫とほのかも隠密系の術式は持ってないの?」

 

「オンミツ?何それ」

 

「陰陽道系?」

 

「やだなぁ、ふたりとも。隠密は隠密だよ。ねぇ、エイミィ」

 

「その口振りからして権三郎君は知っているんだ。隠密ってのはね・・・」

 

エイミィは隠密について説明を始める。

隠密=忍術。忍者と呼ばれる変装者についてワタシはちゃんと知ってますとも!

我流で忍術を習得する為、試行錯誤だってした。

服◯先生(服部先輩じゃない)、◯来也先生、◯カシ先生。忍者マスターと呼ばれる偉大な先達者を参考にね。

 

「ああ、古式魔法の『忍術』のこと?」

 

「忍術だけじゃないんだけどなぁ」

 

ほのかちゃんの解釈にエイミィは、ぶー、と不満一杯に口を尖られせる。

彼女の説明を黙って聞いていたワタシは思わず声が漏れそうになった。

ぐふっ⁉︎自分が思ってるのと殆ど違った。

 

「とにかく、意識を逸らしたり姿を隠したりする術式だよ」

 

「私は使えないよ」

 

「ワタシも使えないかなー。あっ、でもさ、ほのかちゃんは得意だったよね」

 

中学時代の彼女がこっそり魔法を使っていたのを思い出す。

 

「えっ?う、うん。得意だけど、魔法を勝手に使うのはルール違反だよ」

 

「今からだよ。いつもなら守らなくちゃダメだけど、今は魔法が飛び交ってるじゃん。校内限定だけど」

 

エイミィの言葉にワタシ以外が「あっ」と口を揃える。ワタシは変装で使ってるからイマイチピンとこないんだよなー。

 

「迷惑行為を避ける為なら大目に見て貰えるって」

 

「うーん、でもこの前ちょっと・・・」

 

「一理ある。今回は攻撃じゃないからセーフ」

 

「わかったよ。それじゃ皆んな一緒にね」

 

ワタシたちの説得により、ほのかちゃんは観念した様子で魔法使用を決意する。

 

***

 

ほのかちゃんの光学魔法を利用して昇降口から外へ出た。

念の為に昇降口から校門までの一本道の植え込みの陰に隠れるように移動する。

これだけで結構気付かれない。勧誘生からは植木の奥で作業している風に見えるのだ。

昇降口前の勧誘生をやり過ごすと、不意にほのかちゃんが立ち止まった。

急に立ち止まるので彼女の後ろを歩いていたエイミィが背中に顔を軽くぶつける。

 

「どうしたのさ?」

 

ワタシはほのかちゃんの背中越しに様子を確かめた。

 

「風紀委員?」

 

「達也君じゃん」

 

「そこのふたり。掴んでいる手を離してください」

 

揉めている勧誘生同士の取っ組み合いを達也君が鎮圧している現場に遭遇。

ほのかちゃんが見入るのも無理ないぜ。

勧誘生はふたりとも一科生だが、達也君の敵じゃない。掴み合う手を簡単に振りほどかれて、そのまま仲良く鎮圧されようとした時、

 

「あっ!」

 

雫ちゃんが声を上げた。

彼女の視線の先、達也君の背後に向かって圧縮空気の塊『空気弾』が迫る。

直撃かと思いきや達也君は後ろを見ないまま回避してみせた。そのまま勧誘生を鎮圧し、それぞれの言い分に耳を傾けながら仲介に入る。

 

「うわっアレを躱わすんだ」

 

彼の芸当にエイミィの称賛の声。

 

「雫、今のって・・・!」

 

「うん。わざとだね」

 

ほのかちゃんが憤りを露わにする。

彼女の想い人を狙うとは命知らずな。おー、怖っ。

普段怒らない人ほど怖いって知らないのかな。

 

「今のは偶然じゃない。どう見てもわざとだよ!」

 

「うん。ワタシにもそう見えたよ」

 

ほのかちゃんに乗っかっておく。

 

「ふーん、彼、二科生なんだ」

 

達也君のブレザーの胸を見たエイミィがそんな言葉を漏らす。その言葉にほのかちゃんは僅かにムッ、と顔を顰める。やめてー彼女を怒らせるな。

 

「でもさ、キリっとしてカッコいい感じ。知り合い?」

 

エイミィの褒め言葉にほのかちゃんの機嫌が治る。よかったー、ほのかちゃんがキレるのを防げた。

よくやったよ名探偵!

 

「深雪ちゃんのお兄さんだよー」

 

「えっ司波さんの⁉︎カッコいいのも納得だわ。3年生?」

 

「1年生」

 

「あれで同い年。ただものじゃないわね。なるほど、だったら、厄介ごとかも」

 

探偵のように顎に手を添えて語り出す。

この子、本当に明智探偵の系譜だったりしないかな。

 

「カッコいいお兄さんに嫉妬して一年生のくせに生意気だ、ってところじゃない?ありがちだよね」

 

「嫉妬で闇討ちなんて許せない!」

 

「理解不能」

 

「こんな理不尽はあってはならないよ!」

 

ワタシも憤りを露わにした演技で賛同しておく。

仲間と志しを同じくする。うーむ、いいシチュエーションだ。

 

「それで具体的にはどうするの?ほのかちゃん」

 

「生徒会に届け出る、とか?」

 

「絶対にやめた方がいい。下手すれば学校が氷付けになって、明日から皆んな防寒着を着て登校することになる」

 

ワタシは断固反対。届け出した未来図を想像する。

荒ぶる氷の女王の暴挙で学校が廃校になる光景が見える。

 

「しまったー、そうだよ。こんなこと知られたら、何人の犠牲が出るか・・・」

 

ほのかちゃんもワタシと同じ光景を想像したのか、頭を抱えて疼くまる。

やっぱり深雪ちゃんは氷の女王、恐怖の象徴が似合っているよ。でも、これ達也君に言ったら半殺しにされるから口が裂けても言えないけどね♪

 

「仮に生徒会に届け出しても証拠がないと動いてくれないし、そうだ!私たちで証拠を押さえない?」

 

エイミィが提案する。

 

「えー、ドッペルゲンガーの捜索はどうなるのさ?まだ、始まったばかりだよ」

 

「そんなの後回し!それよりもお兄さんと学校の安全が優先だよ。権三郎くんだって氷付けになりたくないでしょう?」

 

た、確かに言われてみれば。

達也君襲撃事件が深雪ちゃんの耳に入れば、明日はない。学校の安全はワタシたち少女探偵団(+a)の手に委ねられたも同然。

 

「そ、そうだ。うん、そうに決まってる!深雪ちゃんを氷の女王にさせるわけにはいかない」

 

「さりげなく酷いこと言ってる。達也さんに知られても、知らないよ」

 

「雫はどうする?」

 

「この問題は放っておけない。けど・・・」

 

「「「けど?」」」

 

雫ちゃんが「んっ」と短く指差す先。

激しく足音を立てながら勧誘生たちが迫ってくるじゃないか。

その迫力にワタシたちは揃って「ぎゃあああああ」と悲鳴を上げる。

 

「ほのかちゃん、迷彩は⁉︎」

 

「あー!切れてるの忘れてた!」

 

達也君に見入って魔法を継続させるのをすっかり忘れていた様子。

一本道のど真ん中に立ち止まっていれば、そりゃ見つかる。

 

「クラフト・ボール部です!」

 

「射撃やってみない?スカッとするよ!」

 

「「「「ま、間に合ってまーす‼︎」」」」

 

脱兎の如く駆け出す。

少女探偵団始動一日目は散々なものだった。

 

 

 

 




気づいた方もいるでしょうが、権三郎は色々とミスを犯してます。
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