魔法科高校のドッペルゲンガー   作:西の家

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もうすぐだ・・・もう少しで入学編が終わる。
それまで持ち堪えて下さいよ。私の胃よ!

それではどうぞ!


入学編 16話「真実はいつも一つならぬ達也の妹はいつも一人!」

 

「ヤバいよ。マジでドッペルゲンガーと遭遇しちゃった。どっちかは本物の司波さんで、もう一方がドッペルゲンガーで合ってるよね!」

 

エイミィがキョロキョロと忙しなく、興奮した様子でボクと深雪ちゃんの顔を交互に見比べる。

いくらでも見て構わないよー。深雪ちゃんへの変装は自信があるかさ。

 

「友達の窮地を救ってくれたことには感謝しますが、何故アナタがここに、私の姿で、いるんですか?」

 

地面に倒れている男たちの身なりから、少女探偵団が危険な状況に巻き込まれたのを判断したようだ。

一応礼を述べたが、後半から一言一句区切りながら強調して喋る。

自分の容姿を勝手に使われたのが、ご立腹なようだ。おおー、怖っ。いつかの講堂みたいに寒くなってきたぜ。

 

「偶然、彼女たちを見かけたのよ。そしたら、人気のない路地裏に入って行くものだから心配になって後を付けたら、暴漢に襲われている現場に遭遇したから助けに入ったのよ」

 

「取って付けような言い訳を・・・私も彼女たちの姿が見えたからここに来たのよ」

 

「後からやって来た貴女は説得力が低いのでは?彼女たちの後を追う私が見えたから、変装して今まさに駆けつけたように装ってるだけでしょう」

 

「それを言うなら、アナタの方はどうなんです?私に成りすました上で予め用意した暴漢に彼女たちを襲わせて助けたように装う。自作自演なのでは?」

 

相手を疑い合う正反対の探偵の対決みたいで、メチャ面白い。このまま続けよう。

話が平行線に突入しかけた所で、

 

「ふたりともそこまでだよ!同じ顔と声でごちゃごちゃになる。本物か偽物でも私たちを助けてくれたことに変わりはないんだし、別にいいじゃない?」

 

ほのかちゃんがボクを擁護してくれた。

普通は知人に化けた正体不明の存在が現れたら拒絶を示すはずなのに。

ほのかちゃんの行動が理解できなかった。

何か企んでいるのか・・・そうか!擁護するふりをして、油断したボクがボロを出すのを期待しているんだな。そうはいくか。

 

「よくありません。今この場でハッキリさせるべきです。どっちが偽物なのかを、これは譲れません」

 

深雪ちゃんがキッパリと言う。

敬愛する兄の妹は自分ひとりだと言いだげな発言だね。

 

「深雪、一旦落ち着きなよ。そりゃ、自分と似た人間がもうひとり現れたら落ち着いていられないのは分かるけど・・・」

 

ほのかちゃんがまあまあ、落ち着いてと言いだげな雰囲気で仲介に入ろうとする。

偶然なのか、本物の深雪ちゃんの方を向いて。

混乱させてやろう。

 

「そっちは偽物で私が本物よ。間違えないで」

 

「何を言ってるの。私の方が本物よ。この偽物」

 

「私の声を真似しないで、自分の本当の声で喋りなさい」

 

「本当の声も何も私の声ですが。そう言うアナタは自分の素顔を見せなさい」

 

「ストップ!またごちゃごちゃになるから一旦やめなよ」

 

今度は雫ちゃんが危険を顧みず、間に入って仲裁する。

何と危険な。今の彼女は氷の女王様なのだ。機嫌を損ねたら氷像されるぞ。

 

「どっちが本当かハッキリさせたいのなら、いくつか質問するから答えてみて。本物の深雪なら答えられるはず」

 

「ハイ!ハイ!私が質問する。途中で保留になっちゃったけど、会いたかったドッペルゲンガーが目の前にいるんだし、こんな機会逃す手はないわ!」

 

雫ちゃんの提案にエイミィが気乗りして賛成する。

エイミィは一度「ゴホン」と軽く咳払いをしてから、息を整える。

 

「それじゃ質問!司波さんのお兄さんの名前は?」

 

「「司波達也」」

 

「ぐふっ!やっぱり、簡単過ぎたかー」

 

初心者レベルの質問を投げ掛けたエイミィが撃沈した。ド直球過ぎな質問が飛んできて、逆に思わず意表を突かれそうになったよ。

 

「それなら!スリーサイズは⁉︎これはどうよ」

 

「明智さん、貴女そもそも答えを知っているの?」

 

「知ってたら、逆に引くんですけど・・・」

 

「エイミィ、流石にそれはセクハラだと思うよ」

 

「うん。親父臭い」

 

ほのかちゃんと雫ちゃん両名から注意された。

深雪ちゃんは答える必要がなくなって、正直ホッとしているのが分かる。

ボクは深雪ちゃんの外見的特徴からスリーサイズはある程度まで把握済みだが、赤裸々に答えたら彼女の兄である魔王様から分解されるので、答えないでおく。

 

「ぐぬぬぬ、なら、どうすればいいのよ。噂には聞いてたけど、まさかここまでそっくりに化けられるとは思ってなかったし。見れば見るほどそっくりね。こうしてふたり並ぶとクローン人間みたい」

 

「どっちが本物か判別するなんて簡単だよ」

 

「そんな方法があるの?」

 

頭を抱えて悪戦苦闘するエイミィに雫ちゃんが突然判別方法を上げる。

ほのかちゃんも気になる様子。ボクも非常に気になる。聞かせて貰おうか、その判別方法とやらを!

雫ちゃんが一呼吸置いてから口を開く。

 

「ふたり纏めてボコボコすればいいんだよ。本物か偽物かはその後でゆっくり調べればいい」

 

「雫・・・冗談よね?」

 

雫ちゃんの口から出た過激な発言に深雪ちゃんとボクは真っ青になる。

いつからそんな子になったのさ?中学時代に何かあったの?

 

「うん、冗談だよ。偽物ならビビって逃げ出すか、態度に出すんじゃないかと思って言ってみただけ」

 

その言葉に態度には出さないが、内心ホッとする。

暴力で物事を解決するような子じゃないって、ボクは信じていたよ!ほ、本当だよ・・・。

それよりも、雫ちゃんから見て、ボクもといドッペルゲンガーはビビり君だったのか。

 

「うーん、ダメだぁ‼︎いくら見ても分かんないよ」

 

エイミィが改めてボクと深雪を見比べるが、お手上げ状態。

深雪ちゃんは「私が本物よ。騙されないで」と訴えるが、それに合わせてボクも「私こそが本当よ。偽物の口車に乗ってはいけません」と言う。

そうすると深雪ちゃんはボクを睨み付けるが、そんな事をしても本物の証明にはならない。

このまま隙を見て逃げてやるぜ!

 

「ねぇ、深雪」

 

ほのかちゃんが不意に呼ぶ。

 

「何、ほのか?」

 

「何、光井さん?」

 

深雪ちゃんに合わせたつもりだったが、エイミィを除く全員が一斉にワタシの方を向く。

あれ?ワタシ何かやらかしちゃいましたか?

ほのかちゃんがすーっと、ゆっくりと利き腕を上げる

 

「・・・アナタは深雪じゃない」

 

「何を言ってるの、光井さん。私は深雪よ」

 

「違う。それは前までの呼び方。深雪はね、私をほのかって呼ぶの。深雪だって、自分を名前で呼んでいいって言ってくれたもん。だから・・・アナタは深雪じゃない‼︎」

 

今度はハッキリと指差す。探偵に名指しされる犯人の気分だ。

くぅ〜‼︎正体を看破されたのに胸の奥から湧いてくるこの気持ちは何なんだ⁉︎メチャゾクゾクする。

何処かの売れないマジシャンみたいに「お前のやった事はお見通しだッ!だッ!だッ!決まった」ってドヤ顔で言ってくれないかな。

 

「ほのか・・・」

 

深雪ちゃんは自分が本物だと見抜いてくれた友人を嬉しそうに眺める。

対して、正体を看破された変装者たるボクが次に取る行動は何か?それは・・・。

 

「ふ、ふふふ、ふっはっはっはっはっは‼︎」

 

天を仰ぐように高笑いである。

摩利先輩でもやったが、深雪ちゃんの容姿でやると違った味わいがあるな。

 

「ぷぷぷ、クケケケ。そっかー、もう名前で呼び合うくらい親しくなってたのね。あー、失敗失敗。こんな些細なことでバレっちゃうなんて、確かに思い返してみれば、みんな深雪って名前で呼んでたっけ。見逃すなんて私もまだまだね。これじゃ、お兄様の妹になれないわ」

 

妹になれない。

その言葉に深雪ちゃんが眉を吊り上げて険しい顔を露わにする。

 

「こっちが本物のドッペルゲンガー⁉︎ヤバっ、全然分かんなかった」

 

エイミィが素直な感想を述べる。彼女には悪いが、完全にヘッポコ探偵に見えてきた。

あと、本物って呼ぶのは変な感じだが、今は気分がいいので敢えて流しておく。

 

「どうして私を騙ったの?」

 

深雪ちゃんが淑女らしい敬語を使わずに訊ねる。

ボクも彼女を見習って、少女探偵団が見分けやすいように、声色は深雪ちゃんのまま噛み砕いた口調で喋る。

 

「いやね、君と同じで偶然彼女たちがここに入っていくのが見えたから、気になって後を付けたら、もう大変ピンチじゃないか。あの状況で彼女たちを助けても不自然じゃない人間は君しかいないと思って変装してみた。これは本当、嘘じゃないよ」

 

「それを信じろと?彼女たちを危険な目に遭わせたのは本当はアナタじゃないんですか?」

 

「そう言われても、信じてもらうしかないよ」

 

「他人の姿を騙る人間が言っても説得力がないわ」

 

「確かに。ぷぷぷ、クケケケ。けど、ワタシは彼女たちを嵌めるようなマネはしてない。これは信じてほしい」

 

「とても信じられないわね」

 

「しかし、事実だ。何だったら、そこで転がってる連中を適当に起こして尋問してみるといい。無関係だとすぐに判明するさ」

 

「指示役は別にいて、アナタの事を認知していていない可能性もあります。仮にアナタが指示役だったとしても、アナタが頻繁に別人に化けるものだから、中々認知してもらえないのでは?」

 

このまま水掛け論に突入するかと思いきや深雪ちゃんが自身のタブレット型CADを構えた。

 

「話しの続きはゆっくり聞かせて貰うわ。大丈夫、殺しはしないから」

 

「撃ってるかな?この位置で」

 

ワタシの背後には雫ちゃんたちが控えている。

攻撃を行えば、彼女たちも巻き添えだ。

彼女たちを人質にするようで、気が引けるがやむ得ない。

 

「心配しないで。確実にアナタだけを仕留める」

 

口ではそう言うが、今の深雪ちゃんは明らかに冷静じゃない。

悪名高い四葉の姫君でも、所詮はまだまだ自制心の低い未成年。魔法制御に粗がある。その証拠に度々感情的になって魔法を暴走させ、達也君から止められているのをボクは知っている。

 

深雪ちゃんは同じA組のクラスメイト。必然的に彼女の魔法実技を間近で観察する機会は沢山あった。

変装の仕上がりは100%と自負してる(実技とは関係ないプライベートなどはまだ不明な部分があるが誤差の範囲)。

彼女を相手に魔法戦闘で勝利できる確率は五分五分。

路地裏とはいえ街中で本気の魔法を撃ってくるとは思えない。ましてや、ここに少女探偵団までいる。

今のコンディションで魔法を発動すれば、巻き込み危険があると内心思っているはずだ。

そこに上手く付け入れば、圧勝とはいかなくて逃げる隙くらいはある。

 

ボクは腹を括って、一戦交えようとタブレット型CADをポケットから取り出そうとした時。

背後に控えるほのかちゃんから、突然右手を摘まれた。

ちょっ⁉︎そっちの手は・・・!

痛めている手を力強く掴まれて思わず飛び上がる。

完全に不覚を取った。

 

「ほのか⁉︎ダメよ離れなさい‼︎」

 

「ほのか!」

 

「危ないって、ほのか!」

 

ほのかちゃんの思いがけない行動に深雪ちゃんを始め雫ちゃんとエイミィも思わず声を上げる。

 

「・・・ッ⁉︎痛い!離して・・・‼︎」

 

「いや!絶対に離さないんだから・・・‼︎」

 

乱暴にほのかちゃんの腕を振り払おうとするが、必死に食らいつくように手を離さない。

行動からして、ボクが深雪ちゃんに変装したことに怒ってるぽい。騙したのは悪かったから、マジで痛いからはーなーしーて。

痛む手を我慢してほのかちゃんを振り払った。

あっ力加え過ぎちゃった。

 

「きゃっ・・・‼︎」

 

「ほのか・・・!大丈夫?」

 

地面に尻餅をついたほのかちゃんに雫ちゃんが駆け寄る。

親友が乱暴にされて怒ったのだろう。間髪入れずに雫ちゃんの鋭い視線がボクに刺さる。

 

「あっ、違う。違うよこれは・・・」

 

ボクは雫ちゃんの迫力に負けてその場で言い淀む。

ぐぁぁぁ⁉︎これじゃ完全に悪役じゃないか‼︎

数多の変装者の中でも、ボクが嫌悪する存在がいる。

その名は◯ブル。

少女探偵団の仲間に危害を加えたとあっては、奴と同じになってしまう。

どうする⁉︎雫ちゃんに不可抗力ですと謝るか?いや、この場合はほのかちゃんに謝るのが筋か?

 

「ご、ごめん、許して・・・許して、許して」

 

動揺で上手く口が回らない。

変装者が動揺を態度に出してどうする!

しかし、禍を転じて福と成す。

ボクの動揺する姿を見て、深雪ちゃん、雫ちゃんたちが様子を伺うように動きを止める。

チャンスだ!

ボクはブレザーの懐からグラップネイルガンのようなガジェットを取り出すと、左手に装着。

そのまま路地裏のビルの屋上に標準を合わせて、ガジェットからワイヤーを発射。

屋上の淵、先端を保護するパラペットにワイヤーの先にあるトリプルフックを引っ掛けた。

ガジェット機能でワイヤーを一気に巻き上げる。それと同時に自身も引っ張られるようにしてビルの屋上へ移動。

我ながらすっげぇぇぇ‼︎‼︎

父さん経由で入手した警察が実際に使用する特殊ワイヤー。

逃走術の特訓で失敗した際、それを教訓に高所を素早く且つ安全に上り下りできるように開発したのがこのガジェット。

変装と一緒にワイヤーアクションも大好きなんだよね。

屋上に移動したボクはビル真下の深雪ちゃん及び少女探偵団を見下ろす。

目の前で披露されたワイヤーアクションに言葉が出ない様子。特にエイミィは目が飛び出さん勢いでこちらをガン見してる。

変装者としてやりたい事のひとつ。

追跡者を見下ろしながら逃走。

アクシデントは発生したが、やりたい事のひとつができたから、今日はこれくらいで退散してやろう。

朝練で鍛えた逃走術の成果を見せる時だ!

ボクが逃げようとした瞬間、

 

「また逃げるの?」

 

ビルの真下から雫ちゃんの決して大声で発したわけじゃない言葉が鮮明に聞き取れた。

急に何だ?

ボクは妙に気になって、一旦逃げるのをやめて立ち止まる。

 

「またそうやって逃げて、別人になって何もなかったことにするの?それまでの出会いや思い出も失敗も全部?もう他人を騙って逃げ続けるのはやめなよッ‼︎」

 

雫ちゃんが精一杯の大声で締める。

逃げるのはやめろ=変装をやめろ。

そ、それは変装者に対して禁句だぞ。

声の張りからして、メチャクチャキレてる。絶対に目の前で大親友のほのかちゃんに乱暴しちゃったせいだ。

雫ちゃんはボクに、私の親友に危害を加えたのだから、ケジメとして変装をやめろと訴えているんだ。

 

「そんなのできるわけないじゃないか‼︎誰も彼もこの顔の下にある素顔を見たら、化け物、出来損ないと好き勝手言っては拒絶し、去っていくんだ。なら、ワタシもボクも皆拒んでやる。拒んで逃げる。逃げ続けてやるさ!世を忍ぶ仮の姿でね‼︎」

 

ボクはそう言うと身を翻し、雫ちゃんの視界から消える。

自身の素顔を嫌悪する設定を持ち出した。これで同情を誘って、雫ちゃんの怒りを緩和できたと思う。

逃げれば勝ちと言う言葉ある。

変装を得意とする◯んこ泥棒を家臣にした逃げ上手の◯君なら、逃げる事に賛成してくれるはずだ。

ほのかちゃんを乱暴に振り払ったのは本当にごめんなさい!お詫びは日を改めて必ずやるから、今は見逃して!

ボクはビルの屋上伝いに逃げた。

 

 

**×

 

別side

 

権三郎が去った後。

路地裏に残された少女たちの内、雫とほのかは権三郎が登って逃げたビルを見上げていた。

 

「雫・・・やっぱりドッペルゲンガーの正体は」

 

「うん。間違いないよ」

 

そう言って、偽物が去っていたビルの屋上を悲しそうに見上げる雫にほのかはどんな言葉を掛けていいのか分からなかった。

 

「司波さん、私たちってお邪魔かな?」

 

ふたりの間に入り難い気持ちでいっぱいのエイミィが深雪に助けを求めた。

深雪は失礼を承知で、彼女たちに横入りした。

 

「雫、ほのか・・・もしかして、貴女たち偽物の正体に心当たりがあるんじゃないの?差し支えなかったら、教えてもらえないかしら」

 

深雪は雫とほのかの様子から偽物の正体を知っていると踏んだ。

もしそうなら、今すぐ教えてほしい。

深雪は切に願ったが、

 

「ごめん深雪、まだ言えない」

 

雫からの一言。

深雪の願いは叶えられなかった。

言わないではなく、言えない。それはいずれ時が来たら話す意味。

しかし、深雪は悠長に待ってはいられなかった。

 

「どうして?まさか、庇ってるわけじゃないわよね?どういう事か分かってる?放っておいたら、また誰かに成りすまして何をするか」

 

「深雪、押し付けるようで悪いんだけど、この人たちをお願い。行こう、ほのか、エイミィ」

 

「ちょっと、雫⁈ごめん、司波さんそう言うことで!待ってよ」

 

雫は一方的に話を切り上げると、ほのかとエイミィを伴って、路地裏から去って行くが、ほのかだけは留まった。

 

「ほのか、貴女も雫と同じで言えないの?」

 

「ごめんなさい!深雪は不安なんだよね。自分の容姿を勝手に使われて、影でどんな事をされるのか。私も事情を知らなかったら、同じ気持ちになるよ。けど・・・彼は悪い人間じゃない。それだけは信じて」

 

そう言って、最後に頭を下げると親友たちを追って去って行く。

路地裏には深雪だけが残された。

 

「(雫とほのかの態度からして明らかに知っている素ぶりだった。偽物の正体は過去に彼女たちと交流があった人間の可能性高いわね。ほのかは偽物を彼と呼んだ。性別は男?ふたりがどうして庇ってるのかは不明だけど・・・)」

 

深雪は雫とほのかが偽物を庇ってる理由を考えるが、明確な答えが出ない。

一旦、保留。別の、偽物とのやり取りに観点を向ける。

 

「(ほのかに掴まれた時の痛がりようは普通じゃなかった。ほのかの言葉を信じるのなら、男性が華奢なほのかに掴まれたくらいで、あそこまで痛がるには何らかなの理由が・・・そう、手を痛めているとか)」

 

深雪は次々と自身が気づいた事を頭の中に上げていく。

ほのかと言えば、もうひとつ思い出した。

 

「(ほのかを突き飛ばして雫に睨まれた時の反応。あれは明らかに怯えていた。雫に強い恐怖、トラウマを抱いていた?偽物は特に彼女と面識がある。それに偽物が漏らしたあの独特の笑い声何処かで聞いた覚えが・・・)」

 

深雪は自身の記憶を遡ろうとするが、その前にやる事を思い出す。

未だに地面に倒れているフルフェイスの暴漢たちの処理をどうするか。

 

深雪は監視システムと盗聴を警戒してCADから『サイオンシールド』と『音波遮断』を選択して順に発動展開する。

 

「これでよし・・・と」

 

準備が終わるとある人物に電話を掛ける。

電話の相手はワンコールで出てくれた。

 

『はい』

 

「もしもし、司波深雪です。八雲先生ですか?」

 

『深雪くんが電話をくれるなんて珍しいね。どうしたんだい?』

 

相手の名は九重八雲。

九重寺の和尚にして忍術使い。達也と深雪の体術の師匠であり、古式魔法を現代に伝える忍びでもある。

 

「誠に不躾かと存じますが、先生にご助力いただきたい件がございまして」

 

『いいよ。僕にできることなら』

 

「ありがとうございます」

 

電話の向こうの八雲に深雪は律儀に頭を下げた。

 

「実は先ほど学校の近くでクラスメイトが暴漢に襲われまして」

 

『一高の近くでかい?それはまた大胆だね』

 

深雪は暴漢がアンティナイトを所持していた事、倒れた暴漢を放置したままである事など、順を追って説明した。

 

『つまり僕が警察よりも先にその暴漢の身柄を確保すればいいんだね』

 

「先生は何かもお見通しなんですね」

 

深雪は師匠の慧眼に脱帽する。

 

『それにしても流石深雪くんだね。アンティナイトのキャスト・ジャミングをものともしないとは』

 

「いえ・・・暴漢を退けたのは私ではありません」

 

『どういうことだい?』

 

八雲は深雪の口振りから、てっきり彼女が暴漢を撃退し、クラスメイトを救ったとばかりに思っていた。

 

「八雲先生は一高を騒がせているドッペルゲンガーという存在をご存知ですか?」

 

『術者自身の姿を写した化成体のことを指しているわけじゃなさそうだね。詳しく聞かせてもらえるかな』

 

深雪は八雲にドッペルゲンガーもとい偽物と遭遇してから今日に至る経緯を説明した。

 

『他人を模した皮を纏う謎の存在か。僕が子供の頃にテレビで見た怪盗宛らだね。なるほど、あの妙な気配にも合点がいく』

 

「何か心当たりがお有りで?」

 

『深雪くん、付かぬ事を聞くけど、一昨日の早朝達也くんよりも一足先に僕の所に来たかい?』

 

「いいえ。いつもの時間帯にお兄様と一緒に伺いました。まさか・・・」

 

『やはりそうか。実は僕の寺の近くで深雪くんと非常に似た気配を感じてね。達也くんと一緒じゃないから変だとは思ったんだが、すぐに何処かへ引き返したよ』

 

偽物が八雲の所まで来ていた。

下手すれば兄や自分と鉢合わせになっていた可能性もあった。

師匠が偽物如きに遅れを取るとは思えないが、気配まで誤認させた事実は驚愕に値する。

 

『本人の容姿だけでなく気配まで模倣するとは末恐ろしいね。深雪くんに化けて現れたら、僕でも見破れるかどうか』

 

「ご謙遜を。先生に限ってそんな事はありません」

 

そうであってほしいと深雪は願う。

兄の眼すらも欺く脅威にこれ以上誰が対抗し得るのか。

 

『暴漢の身柄確保に加えて、そのドッペルゲンガーについて調べてほしいんだね』

 

「はい」

 

『任せて。深雪くんが教えてくれた手がかりを調べていけば、すぐに分かると思うよ』

 

「本当ですか」

 

師匠の情報収集能力の高さは知っているつもりだが、徹底的に自分の存在を隠し通す相手をすぐに見つけてみせると言う。こうもアッサリ言われては拍子抜けだ。

 

『北山雫。北山財閥のご令嬢と過去に交友関係があったと判れば、正体はある程度まで絞れるさ』

 

八雲の頼もしい言葉に深雪は感謝を述べる。

もう一度感謝を述べてから電話を切ろうとした時、

 

『どんなに変装が得意でも完璧に他人に成り済ますことはできない。必ずどこかで無理が生じる』

 

この師匠あって弟子あり。

八雲は達也と同じ事を言う。

 

「・・・無理ですか?」

 

『うん。長い間自分ではない別人を演じ続けると自己喪失に陥る。自分を見失うと言えば分かりやすいかな。自分が本当は誰なのか判らず、自身の経歴すらも疑問を抱くほど重篤化する心理的な危機的状態。アイデンティティクライシスとも呼ばれるね』

 

深雪は背筋がゾッとした。

生きたまま自分が自分でなくなる。想像しただけで恐ろしい。

自己喪失のリスクを負ってまで、他人を演じる偽物の気持ちが理解できなかった。

 

「そんな恐ろしいものと常に背中合わせで、生きていける人間がいるのでしょうか」

 

『現に君が遭遇した存在がその代表例だと言ってもいい。世間一般的な健全な精神状態とは言えないだろうけど』

 

 

***

 

 

深雪が八雲と電話で深刻な会話している頃。

権三郎は街の監視システムに注意を払いながら途中で深雪からゴンちゃんに戻って無事に帰宅。

帰宅して早々に2階の自室で制服からレディースのルームウエアに着替えて反省会を開いた。

ベットの上で胡座を組んで考え込む。

 

「深雪ちゃんに見破れると思ったけど、まさかほのかちゃんに見破れるとは想定外だった。交友関係の進展具合を調べなかったワタシの落ち度だね。深雪ちゃんへの変装具合は100%は自惚れすぎだった。反省反省っと」

 

素直に自分の失敗を認める。

変なところは潔い。

 

「うーん、どこで進展があったんだろう。生徒会に写真を見に行ったとき?でも、その翌日も名前呼びじゃなかったし・・・そうか!体育のときだ。更衣室の着替え中か授業中に親しくなったんだ。男女別々になるから、ワタシが知る由もないかー」

 

当たっている。

妙なところで頭が冴え渡る権三郎。

何故その頭を変装以外で役立てようとしないのか。

 

「雫ちゃんも体育の時に深雪ちゃんと親しくなったぽい。でも、ワタシの記憶違いでなければ、あのふたりは体育以降も名前で呼んでいなかった気がするんだけどなー。授業中に個人ディスプレイのメールで深雪ちゃんとやり取りしてたとか?」

 

単純に雫とほのかが一緒に口裏を合わせていたのだ。権三郎の前では深雪の名前を呼ばないように。

 

「もしかして・・・名前で呼び初めて日が浅いし、お互い照れてただけか。そうか、そうか〜特にほのかちゃん照れ屋だし、それも仕方がないか」

 

違う。

完全な見当違いをしている。

変装に関して言えば、天賦の才を誇るのに何故重要な所で抜けがあるのやら。

余談だが、基本的に権三郎は変装以外に興味がない。勉学や技術習得、魔法も真面目に取り組むが、変装の為のツール、おまけ程度にしか考えていない。

 

「よし!疑問が解消したところで変装だ!」

 

ベットから降りると数多の皮が仕舞われているクローゼットへ。そこから一着の皮を。

カーテンを閉め切った部屋でゴンちゃんから、昨日完成した壬生沙耶香を模した皮を纏い始める。

まだ日暮には間のある時間帯なのでカーテンの隙間から差し込む日光に注意しながら、ゴンちゃんの皮を脱いで真っ白な本来の姿になった。

そして、壬生の皮の背中に隠れたファスナーを開けると全身真っ白な素肌が隠れるように纏ってからファスナーを閉めた。

最後にマスクを被って完成だ。

 

「あっあっあっゴホン!桐原くん・・・実は私、貴方のことが・・・すっすっすっ好きじゃないわよ!なんてね♪」

 

予め購入しておいた剣道着も纏ってからの姿見の前で一人芝居。

剣道着姿の壬生だが、一ヶ所だけ不自然な部分がある。

それは胸だ。

本物の壬生にはない不釣り合いで豊満な胸があった。

 

「うーん、やっぱり壬生先輩にこの胸は邪魔だな。剣道家の動きを阻害しかねない」

 

声色は壬生のまま口調だけ戻すと両手で胸を持ち上げる。

皮の下にパットを水増ししてわざと胸を豊満に仕上げたのだ。完全な遊び心である。大きさはほのかを参考にした。

本物の壬生に知られたら、竹刀で一方的にボコボコにされても文句は言えない。

ましてや彼女に好意を寄せる剣術部のエース。

好きな子にわざと意地悪して関心を引こうとする典型的な不器用で素直じゃない男子桐原武明に知られたら「壬生で変なことすんじゃねぇッッ‼︎‼︎」とキレて打首にされるだろう。

 

夕食と風呂を済ませるまで壬生でいることにした権三郎は部屋のノートパソコンを起動。

◯ouTubeを開く。

 

「第三次世界大戦後も残り続けるとは、偉大なり◯ouTubeよ。永遠なれってね」

 

ノートパソコンはテーブルに、自身は剣道家の壬生に成り切ってフローリングの床に正座。

そのまま検索を開始。

 

「おっ!美少女剣士や剣道小町などと騒がれてるだけ、すぐに見つかった」

 

望みの動画を見つけて鑑賞を始める。

それは過去に壬生が出場した全剣道試合の動画。

中学3年生において中等部剣道大会の女子部で全国2位。

剣道で華々しい好成績があるなら、試合動画もあると考えて検索し、探し当てたのだ。

剣道に限らず表のスポーツは資料の入手が容易い。

ネット上に自身の技を披露するスポーツマンや格闘家も多く、偶に魔法師も動画を上げている。

権三郎は画面の映像を食い付くように目で追いながら、トレースに集中。今日中に壬生の動きを最低でも70%は模倣したい。

動きのトレースだけならわざわざ壬生に変装する必要はないのだが、変装した方が気分が出るので変装したのだ。

これだけ真剣に他人を模倣していけば、九重八雲が語った自己喪失に陥ってもおかしくないのだが、権三郎本人に尋ねれば「自己喪失?ふっ、そんなモノとっくに前世で済ませてきたよ」とドヤ顔でキメるだろう。

完全に狂っていると言わざるを得ない。

 

壬生の全剣道試合を見終る頃には夕飯どきを迎えていた。

頭の中で壬生の動きを何千パータンと復唱し、技を実演しようかというタイミングで、

 

「権三郎、ご飯よー」

 

夕食の支度を終えた母親から呼ばれる。

夕食は後回し壬生の動きを完全にマスターすることを優先したいが、夕食を疎かにすると忍気呑声。

 

「はーい、今行く」

 

壬生の声色で返事をする。息子とは違う声が2階の部屋から返ってきても母親は気にしない。いつもの変装に決まっていると。

母親の声に出さない青く静かな怒りを買いたくない権三郎は先に夕食を済ませることにした。

変装に関しては狂人の権三郎を手懐けられるのは母親と今は勤務中で家にいない父親くらい。

夫婦共に只者ではない。

特に元警察官で今は一般的な主婦で魔法師の母親。

暴力主義的な破壊活動や国益侵害となるような行為についての捜査や取締に従事する部署に所属していた過去を持つ。

 




忍者マスター九重八雲参戦。
八雲先生が10人いれば四葉家を倒せそうな気がする。

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