魔法科高校のドッペルゲンガー   作:西の家

2 / 24
入学編 1話「原作主人公を揶揄う際は計画的に。でないと後が怖い」

 

登校途中、街頭のサイオンセンサーに引っ掛かる事なく、ワタシは無事に第一高校の校門前に到着した。

 

「うんうん。センサーに反応することなく想子を抑え込む特訓をした甲斐があったよ」

 

街中で感知されなかった自分を自画自賛してみる。

殆どの魔法師は無意識にある程度の想子を放出しているが、ワタシはそれに加えて纏う皮の維持のために余分に想子を放出している。

その為か街頭のサイオンセンサーに感知される。

これではせっかくの変装が台無しだ。

例えるなら、変装はしたが侵入先の警備システムに引っ掛かる泥棒のようなもの。

だからワタシは想子放出量をコントロールし、無意識に放出する想子を抑制して皮の維持に無駄なく想子を割当てることでセンサー感知を誤魔化している。

要は、一般の魔法師が無意識に放出する想子量としてセンサーに誤認させている。

 

校門周辺を眺めてみるとまばらな新入生の付き添いの父兄の姿に混じって、前世で見慣れた2人の人間の姿を発見した。

 

「何故お兄様が補欠なのですか?入試の成績はトップだったじゃありませんか!」

 

「魔法科学校なんだから、ペーパーテストより魔法実技が優先されるのは当然じゃないか」

 

激しい口調で食って掛かる女子生徒を、男子生徒が何とか宥めようとしている。

主人公司波達也とその妹にしてヒロイン司波深雪。

口論するその姿は側から見ると完全に恋人同士にしか思えない。

 

「うわー、リアルで見るとまた違った味があるね」

 

ワタシは2人のやり取りにそんな感想を口にする。

前世では本やテレビ越しで眺めるだけだったが、間近にリアルで眺めると口の中が不意に甘酸っぱく感じる。

 

「おーい、そこのラブラブなカップルさん。朝から校門の前で痴話喧嘩は感心しないぞー」

 

「ち、痴話喧嘩⁉︎私とお兄様はそんなんじゃ・・・って、待ってください!」

 

これ以上眺められないワタシは2人の側を通り過ぎる際、わざとらしく注意を促す。

後ろから司波深雪の呼び止める声が聞こえるが、聞こえないフリをして校門を抜けて、学校の敷地内に入る。

アンタら、兄妹よりも恋人の方がしっくりくるよ。

 

 

***

 

時間潰しにぶらぶらと学内施設を眺めながら歩き回る。

魔法科特有の本棟、実技棟、実験棟以外にも大小様々な付属建築物が建ち並ぶ第一高校の敷地内は、高校と言うより大学キャンパスのイメージが強い。

 

暫く散策していると中庭に出る。

そこで一基のベンチに座りながら携帯端末で読書に勤しむ司波達也と遭遇した。

第一町人ならぬ第一原作人発見(校門前で遭遇したけど)。

主人公には強い関心はないと言ったが、せっかくだし軽く交友関係を結んでみるか。

 

「ねぇ、君。さっき校門前で彼女さんと口論してた人だよね」

 

ワタシが声を掛けると彼は律儀に端末を閉じて顔を上げ、こちらに視線を合わせる。

 

「君は確か、校門前ですれ違った・・・」

 

「ワタシは佐々木っていうの。お互い新入生だろうし、無理に敬語なんか使わないで話そうよ」

 

「そうか。俺は司波達也だ。さっきの言葉を訂正しておくが、校門前で口論していたのは妹だ」

 

「えっそうなの⁉︎てっきり彼女さんかと思ったよ。あんなに綺麗で可愛らしい妹さんがいて司波君が羨ましいよ」

 

「妹を褒めても俺からは何もでないぞ」

 

原作知識で把握してたが、敢えて初耳のふりをして彼の妹を褒めておく。

自分の妹を褒められて内心ご満悦な様子。

変装技術で磨かれたワタシの目は誤魔化せないぞ。

反応が面白いのでワタシは内心で彼を達也君呼びに変えておく。

 

「よかったら隣に座らないか。立ったままだと疲れるだろう」

 

「それじゃ、お言葉に甘えて」

 

立ったままのワタシを気遣ってか、自分の隣ーーベンチの空いたスペースを指し示すので、遠慮なく座らせてもらう。

やはり、妹を褒められて機嫌がいいと彼は紳士的だな。こういう気配りをされると、思わず惚れちゃいそうだぜ。ってワタシはラブコメしにきたんじゃない。

 

そこから暫く彼と雑談に興じる。

話題は主に達也君が魔法技師志望や実技が苦手(嘘ですね)など。

軽い会話の中でも確信的な心理状態が掴みにくい。コレが四葉式教育の賜物か。惚れ惚れするぜ。

彼の実家に感心を示していると、

 

「佐々木さんは一科生なのに俺と話していても気にしないんだな」

 

一科生のワタシが、花弁なしの二科生の自分と会話するのが不思議なのだろう、達也君が話題を変えてきた。

ワタシの胸に刺繍された八枚の花弁をデザインしたエンブレムに彼の視線が突き刺さる。

 

「えー、今更それを言う?別にいいでしょう。誰と仲良くするのもワタシの自由だし、一科二科の確執とか知ったことじゃない。そもそも、生徒をそんな制度で仕分すること自体が愚かだよ」

 

本当にどうでもいい。ワタシの関心はあくまで、魔法で変装のスキルを磨くことにあり、一科二科間の確執などに他所でやれスタイルを通すつもりだ。

 

「佐々木さんは学校に対して辛辣だな。だが、国が定めた制度だ。こればかりは仕方がない」

 

「司波君はそんな国の定めた制度の学校に受かって嬉しくないの?」

 

「さっきも言ったが、自分でも二科とはいえよく受かったものだと、驚いている」

 

「ワタシが思うに司波君は二科でも十分やっていけると確信しているよ」

 

「それは分相応だと言いたいのか?」

 

「ごめん。言葉足らずだったね。ワタシが言いたいのは司波君は誰かに教えを乞うより、自分で考えて理論を組み立てるタイプだと思うんだ。君って疑問に思ったら誰かに尋ねるよりも、まず自分で調べるタイプでしょう」

 

達也君の瞳孔が僅かに揺らぐ。

今の彼の心境はどうなっているのか気になるが、ワタシは後回しにして続ける。

 

「教員の付かない自習体制の二科生という環境はまさに君にとって渡船さ。自主性の強い人間には最高の環境だと思うけどね」

 

「二科に対して変わった視点を持っているな。それなら逆に一科に対してはどう思っているんだ?」

 

「二科生を見下すことでしか自分達の立場を把握できない哀れな集団。あっ、勿論全員がそうじゃないけど、大抵の一科生は二科生を下に見ている。在校生も新入生もね」

 

「随分と辛辣な評価だな。まだ入学したばかりだろう。その評価は早計じゃないのか?」

 

「敷地内を散策していれば、イヤでも自然と分かるさ。君もベンチに座ってるだけでイヤな視線を感じただろう」

 

達也君が自身のブレザーに視線を落とす。

心当たりがあるようだね。原作で把握済みです。

 

「一科の現状もある意味では考えものだと思うけどね」

 

「その理由は?」

 

「一科生と一口に言ってもその実力には個人差がある。例えば、一科で実力最下位の人間がいるとしよう。ソイツは努力して上位を目指すか?答えは否。自分よりも実力の劣る二科がいる。自分はまだ大丈夫、優秀なんだと勘違いをする。その時点で成長は終わる。俗に言う停滞。ワタシの大っ嫌いなモノだ」

 

ワタシ、ボクは停滞を拒絶する。

停滞しては変装のスキルが向上しない磨けない。一度やると決めたからには常に精進を重ねていくべきだ。

 

「花は咲いて枯れ落ちる。今の状態が続けば近い将来一科生は皆そうなる」

 

「佐々木さんはそれを改善するにはどうするべきだと思う」

 

「一科二科を纏めて一つにする。そして常にお互いが切磋琢磨する環境を作る」

 

「その話を詳しく聞かせてもらってもいいか?」

 

「もちろん。開式までの時間潰しになるし」

 

ボクはベンチに座り直して姿勢を正すと、さりげなく身を寄せ合う。

 

「定期的に実力把握テストを行う。結果に応じてクラス替えをするんだ。成績が落ちるか、或いは上がればクラスが人間が変わる学校。最高だと思わない?」

 

人員が頻繁に入れ替われば、その分だけ変装成りすましがし易い。

まさに変装のためにある環境。

ボクが将来、教員に化けた暁には改革を行うのも面白そうだ。

 

「一科二科制度をなくして一纏めにする事で間違った優劣を無くすと言いたいのか」

 

「まぁ、噛み砕いて言うとそうなるかな」

 

「しかし、それはあくまで理想論だ。現状では実現が難しいぞ。教員数など様々な問題が山積みだ」

 

「理想論大いに結構。夢や理想も抱けないのはつまらないじゃないか。問題が困難であればある程、最高に面白いし、解決到達した時の喜びは計り知れない」

 

変装難易度がハードであれば、それだけボクは燃える。パーフェクトに成り切ってみせると意気込みが持ち易い。

 

「佐々木さんは教職に向いてるかもしれないな。それと口調が少し変わったな。それが君の本性か」

 

達也君の指摘にハッとなる。

熱中し過ぎて、無意識に変装中の『ワタシ』がボクになっていた。

ボクの変装が揺らぐとはこれが主人公か⁉︎知らぬ間に相手のペースに飲まれていたか。鍛錬がまだまだ足りない。とりあえず変装し直す為に時間稼ぎで話をずらそう。

 

「ワタシの本性は置いておいて・・・現状が改善されないまま魔法を学べと言われたら、ワタシは二科でも構わないよ。何だったら今すぐ校長室に乗り込んで二科にしろと直談判してもいい。今回は試験結果が学校側の定める一科の基準に満たしていたからに過ぎない。それに・・・」

 

自分の胸のエンブレムをトントンと軽く指で叩く。

 

「この制服のエンブレムも業者の発給ミスでこの型になっただけ。学校側もバカだよね。改善しないまま放置するから、殆どの一科連中が勘違いしてつけ上がる」

 

「・・・そんな情報は初耳だな。どうやって知ったのか参考までに聞かせてくれないか?」

 

「It's a big secret. I'm sorry Ican't tell you. A secret makes a woman woman. (秘密よ。秘密。残念だけど教えられないわ。女は秘密を着飾って美しくなるんだから)」

 

ボクは人差し指を唇に当ててにっ、と微笑むと、某千の顔を持つ魔女のセリフを呟く。

原作知識ですとは言えない。

都合の悪い場合、はぐらかす又は時間稼ぎのセリフとして使用している。◯ルモットさん、ごめんなさい!

 

「なるほど、秘密か。佐々木さんにはピッタリの言葉だな」

 

達也君、そんなに疑い深い目つきでボクを見るなよ。情報源はただの原作知識だから。

無理矢理話をずらしたのが不味かったか。思い切り怪しまれてる。どうするか。

 

ボクが茫然としていると突然、脳内である閃きが。

いや、待てよ。ここは敢えて怪しいと思わせるのも一興。

変装者にはその正体を暴こうとする人間が付きもの。これをきっかけに達也君をその立場に持ってくるか。

思慮深い表情の達也君と考慮中のボクが対峙していると、

 

「あなた達新入生ですね?もうすぐ開場の時間ですよ」

 

原作キャラの七草真由美が落ち着いた雰囲気で話しかけてきた。

ナイスタイミング!今のうちにボクから『ワタシ』にちゃんと切り替えよう。

変装をし直す傍ら、真由美先輩を観察する。

 

左腕には魔法発動に用いるCADが巻かれている。

原作において生徒で学内におけるCADの常時携行が認められているのは、生徒会の役員と特定の委員会メンバーのみ。

これが権力って、やつか。

 

「ありがとうございます。すぐに行きます」

 

礼を述べてベンチから腰を浮かす達也君。

同時に人格の変装が終了したボクーーワタシも一緒にベンチから立ち上がる。

座高もだけど、こうして並んでみると達也君って本当に身長が高い。

彼の身長が目算でザッと175センチに対して、ワタシが160センチ。真由美先輩は155センチ。

 

「話し込んでいたようですけど、おふたりは顔見知りですか?」

 

「いいえ、今日お互い会ったはがりで初対面ですよ」

 

「そうだったんですか。仲が良さそうだから、てっきり顔見知りとばかりに。あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています。七草真由美です。ななくさ、と書いて、さえぐさ、と読みます。よろしくね」

 

原作通りの丁寧な自己紹介をする。

惜しい。最後にウィンクを添えていたら完璧だった。

 

「俺、いえ、自分は、司波達也です」

 

「司波達也くん・・・そう、あなたが、あの司波くんね」

 

「もしかして司波君って有名人だったりする?身分を隠した某国の暗殺者だったりして」

 

「そんな漫画のような隠れ設定はない」

 

真由美先輩の「あの」を落ちこぼれの意味と勘違いし、沈黙する達也君は味気ないから、上手く誘導して喋らせる。

暗殺者というワードでも彼の表情は平常を保っている。ボロを出さないところはワタシ以上。手強い。

ワタシが言える立場ではないが、身分を伏せているのは本当のくせに。

よっ!国防軍特尉&四葉の超絶シスコン魔王様‼︎

 

「佐々木さん 今失礼なことを考えてなかったか?」

 

「いえいえ。そのような事はございません」

 

内心で達也君をディスってると、察したのか勘繰ってきた。

勘のいいガキは嫌いだよ。

 

「ところで真由美せーんぱい。司波君について気になることがあったんじゃないですか?」

 

達也君の目線が怖いのでここは秘技話題逸らし。

 

「佐々木さん、上級生にそれも生徒会長に対して馴れ馴れし過ぎるぞ」

 

「司波君 それくらい別にいいわよ。あっ話を戻すけど、先生方の間では、あなたの噂で持ちきりよ」

 

下の名前を呼んでも気にした素振りもなく、むしろ微笑みを浮かべて話を続ける。

 

「入学試験、七教科平均、百点満点中九十六点。特に圧巻だったのは魔法理論と魔法工学。合格者の平均点が七十点に満たないのに、両教科とも小論文を含めて文句なしの満点。前代未聞の高得点だって」

 

「凄っ!司波君ガチの秀才じゃん。努力によって得た誇るべき才能だね」

 

「ペーパーテストの成績だよ。情報システムの中だけの話さ」

 

軽い称賛に聞こえないよう言葉に感情を込めて褒める。

彼は「天才」を侮辱の言葉と捉える節があるから、ここは秀才という言葉を送る。

 

「そんな凄い点数、少なくとも、私には真似できないわよ?」

 

「ほら、生徒会長である真由美先輩が言うくらいだし、少しくらい誇ってもバチ当たらないよ」

 

よしよしと頭を撫でようとするが、身長が圧倒的に足りない。爪先立ちでも届きそうにない。クソっ!ここで身長差がでるとは。

 

「そこまで言われると逆に反応に困るんだが、あと無理に撫でなくてもいい」

 

「ふふふ、彼女もそう言ってるし、いいじゃない。ところで・・・」

 

真由美先輩はチラッとワタシに視線を移す。

言外に「貴女の名前は?」と訴えかけているのが伺える。

きた。ついにきたぞ!

 

「流れ的に司波君の次はワタシの番だね。初めまして佐々木権三郎です。因みに男でーす」

 

ワタシの自己紹介に周りの空気がピシィと軋む。

これだよ。この性別を暴露した時の雰囲気。何度経験しても堪らない。しかも、達也君の揺らいだ表情がいい!最高にいい‼︎

正に変装冥利に尽きる。

皮の中で☆*○が勃◯するところだったぜ。

ワタシが自分の心と皮の中で奮闘する最中、未だ驚愕中の真由美先輩が口を開く。

 

「えっ?貴女いや、貴方があの佐々木くん⁉︎本当に男の子なの?どこから見ても女の子じゃない」

 

不意に先輩がワタシの顔に触れようとしてきたので、未だにフリーズ中の達也君の後ろに隠れる。

危なっ!この人遠慮がないな。直接触られると変装がバレる。

 

「あら?どうして司波くんの影に隠れるのかしら。もしかして、佐々木くんって意外と恥ずかしがり屋さんなのかしら?」

 

「あはははっ、ワタシってシャイなんで。特に先輩のような可愛い人の前では。あっそういえば、司波君もそうですけど、ワタシにもあのって、付け加えてましたよね。何かしましたっけ?」

 

顔から話題を晒す為、先輩に嘘とお世辞を付け加えて質問をする。

 

「ある意味で貴方有名よ。当校始まって以来、男子で唯一女子制服の着用を申請したから教師陣や生徒会でも話題になったの。まさか、こんなに女の子らしい男の子だとは思わなかったけど」

 

未だに信じられないとばかりに、ワタシを怪訝な眼差しで見つめてくる真由美先輩。

 

「先輩も女性なら知ってるでしょう。女はメイクで変わるものって」

 

「いや、お前は男だろう」

 

驚愕から復帰したのか、達也君がツッコミを入れてきた。見かけによらず意外とノリがいいね。

 

「佐々木、生徒会長が言った事は事実なのか?」

 

「そうだよ驚いてくれた?あと、付け加えるなら戸籍上も男だよ」

 

「それならなぜ女子制服を着ているんだ?」

 

「一校を選んだ理由として女子制服が着たかったからこの学校にしたんだ。校則にも制服ならOKとあったしさ」

 

「そんな理由で一校に入学したのはお前くらいだろうな」

 

さりげなくワタシから距離を取る。

 

「ちょっと司波君。ワタシが男だと知った瞬間から突き放し気味じゃない?初対面の時はあんなに紳士的だったのにー。少しショック」

 

ワタシはひしっと達也君の二の腕にわざと抱き付く。

その行為に彼の表情が僅かに強張る。

やべっ。メッチャ楽しい。

この光景を達也君の妹に見せつけたい衝動に駆られる。

 

「・・・すまないが、離してくれ。自分でも複雑な気分になる」

 

「えぇー、いいじゃない。このまま一緒に講堂に行こうよ。ねぇ、先輩もそう思いますよね?」

 

真由美先輩に尋ねると彼女は微笑を唇の端にたたえて、明らかにこの状況を面白がる。

 

「入学式の時間も迫ってるし、そのまま連れっていちゃいなさいよ。それじゃ、司波くん しっかりと佐々木くんをエスコートしてあげてね」

 

悪ノリした真由美先輩はそのまま講堂へ向かって歩いて行ってしまった。

 

「ほらほら、司波君。先輩もああ言ってるしさ、一緒に二人三脚で行こうよ」

 

「頼むから、いいかげん俺から離れてくれ」

 

困惑気味な達也君を引っ張る形で一緒に講堂へと向かう。

入学して早々に原作主人公を揶揄う遊びにハマりそうだが、当初の変装のスキルを磨く目的は忘れない。

 

 

***

 

 

 

講堂内は既に大半の席が埋め尽くされていた。

前方に一科生、後方が二科生に綺麗に別れている。

後方で空席を探そうとする達也君の後ろをワタシが着いて歩くと、彼はこっちを振り返り立ち止まる。

 

「まさか佐々木、まだ着いてくる気か?お前は一科生だろう。俺とこれ以上一緒だと流石に目立つぞ。一科生と同じ席に着くべきだ」

 

「向こうの席はなんだかつまらなそうだもん。それよりも達也君と一緒に座ったほうが楽しいよ」

 

ワタシは一科生側の席をつまらなそうな眼差しで眺める。

達也君と一緒にいると面白い気持ちは本当だ。もうちょっとだけ彼を揶揄っていたいからね。

 

「下の名前で・・・まぁ、いい。早く席に着こう。いつまでも立ったままだと目立つ」

 

往生した趣きで席を探す達也君の後ろを着いていく。

歩き回っていると後方で幾つかの空席を発見。適当に一緒に並んで座るが、億劫な態度を隠さない達也君。

 

「露骨に嫌そうな顔しなくてもいいじゃない。こんなに可愛い子が隣にいるのにさ」

 

「自分で可愛いと言うのはどうかと思うぞ。中庭でも言ったが、お前は男だろう」

 

「知ってるかい達也君。可愛いに性別は関係ないんだよ」

 

嗚呼、このやり取り堪らない。これだけでも十分面白い。女の子に変装してよかったよ。

相席の様子を早く壇上で総代の司波深雪に見せつけて反応を確認したい。ついでに代表挨拶と同時に達也君に抱きついてやろう。下手すれば講堂が凍り付けになるかも。

入学式開始を待つ間、はやる気持ちを抑える。

 

「あのお隣よろしいですか?」

 

その直後、声が掛かった。

声で分かるとおりの女子生徒だ。

原作人物の柴田美月とその後ろにもう1人千葉エリカの姿が。

 

「どうぞ」

 

達也君は愛想よく頷いた。

ありがとうございます、頭をさげて腰掛ける柴田美月に続けて千葉エリカが腰を下ろす。

通路側から美月ちゃん、エリカちゃん、ワタシ、達也君の順に並んだ(フルネーム呼びが面倒なので下の名前でちゃん付けで呼ぶ)。

 

「私、柴田美月っていいます。よろしくお願いします」

 

「あたしは千葉エリカ。よろしくね」

 

「司波達也です。こちらこそよろしく」

 

「ワタシは佐々木権三郎。仲良くしてね」

 

「権三郎・・・なんだか男みたいな名前ね」

 

「最近は男の子ぽい名前の女性も多いですけど、佐々木さんの名前はあまりにも男の子過ぎる気が」

 

「あっ、分かった!親が男の子が欲しいから先走って名付けちゃったとか。どう当たってる?」

 

美月ちゃんが疑問を、エリカちゃんが自身の考察を述べる。

 

「残念でした。実はワタシ・・・」

 

「違うよ千葉さん。佐々木はこんな成りだが、正真正銘男だ」

 

「「えっ?」」

 

ワタシよりも先に達也君が性別をカミングアウトした事で周辺の空気がピシィと軋みを上げる。

くぅ〜本日2回目の暴露頂きました。自分から暴露したかったが、他人から言われるのもコレはこれでいい。おまけに2人の信じ難い目がいい味を出している。

やばい。また皮の中で☆*○が勃◯する。

 

「アハハ、司波君冗談が過ぎるって。佐々木さんが男のわけないじゃん。だって、全然男らしさがないもん」

 

「はい。身体つきは女性ですし、喉仏すらありません。それに加えて女性よりも女性らしいオーラを放ってます」

 

「佐々木 お前の口から直接2人に説明してやってくれ」

 

自分からするのは面倒なのだろう、達也君がワタシに説明を求める。

 

「達也君の言う通り、ワタシは男の子だよ。2人とも驚いてくれた?」

 

愛嬌たっぷりに「てへ♪」と可愛らしく舌を出す。

 

「冗談でしょう⁉︎こんなキレイな子が男なの⁉︎まったく分からなかった」

 

「女性のオーラを纏った男性・・・初めて見ました」

 

本人からの告白でようやく2人は事実と捉えた。

ワタシの性別を男子よりも女子の方が意外と信じてくれない場合が多い。

 

「本人の口から言われても、見れば見るほど信じられないわ。髪はツヤツヤで長いし、まつ毛はバサバサ、スカート越しでも足細いし」

 

「ワタシって、すね毛とか生えない体質みたいで」

 

「女性が欲しがるものを男性が持ってるなんて羨ましいです」

 

入学式前のプチ女子トーク会(一名男)が開催された。

隣で達也君は聞きに徹している。

このワタシの外見も皮による作り物。脱げば今とはまったく別人だけどね。

 

「つかぬ事をお聞きますが、佐々木さ・・・君はどうして女子制服を着用しているのですか?」

 

「あっ、アタシもそれ気になってた。もしよかったら聞かせてよ」

 

2人とも理由が気になる様子。この状況を利用しない手はない。ワタシの演技力を披露しましょう。

ワタシは表情にわざと翳りを落とし、重い過去がありますよ感をアピールする。

コレぞ変装に欠かせない演技力。

 

「あっごめんなさい。言いたくないなら無理に言わなくてもいいからさ」

 

ワタシの様子に負い目を感じたエリカちゃんが謝る。

ふっ見事に騙されてくれたね。内心ほくそ笑む。

 

「如何にも意味深な態度で2人を困らせるな。すまない。佐々木の悪ふざけだ。気にしないでくれ」

 

「えっ?もしかしてさっきは演技ですか」

 

達也君からの証言で美月ちゃんが演技と気付く。

チッ!中庭でのネタばらしが災いしたか。

 

「・・・で実際の理由は?」

 

「純粋にただ女子制服を着たかったからでーす♪」

 

「まぎわらしい態度するんじゃないわよ!」

 

「えっ?ちょっ待⁉︎痛ッ‼︎」

 

愛嬌ぶって誤魔化す間も無く、ワタシの脳天にエリカちゃんの手刀が炸裂する。

原作において彼女は剣術家なのか、素人よりも技に切れがあるのでメチャ痛い。

叩かれた箇所を手で庇うふりをしながら、変装用の皮がズレていないか確認する。

危なっ!衝撃で顔の皮がズレたかと思ったじゃないか。

 

「一応ワタシ達、初対面だよね⁉︎いきなり手をあげるなんてひどいよぉ、こんないたいけな女の子に。えぇーん」

 

「露骨に騙そうとしたアンタが悪いんでしょうが!それとアンタ男だし。あと懲りずに嘘泣きするな‼︎」

 

「ちょっと待ってエリカちゃん。もう入学式が始まりますから落ち着いて。それに私達すごく目立ってます・・・!」

 

ワタシ達のやり取りに近くの席に座る人達の視線が刺さる。明らかに注目を浴びている。

美月ちゃんが仲裁に入り、なんとかエリカちゃんと和解する。美月ちゃん本当にありがとう。

今度からできるだけエリカちゃんを怒らせないようにしよう。

そのうち某刑事のごとく、ギュギュウ〜と顔の皮を引っ剥がされかねない。

 

「達也君も黙ってないで庇ってよ。ひどい」

 

「これまでの行為を自分の胸に聞いてみろ」

 

達也君はジッと壇上の方に視線を向けて、ワタシと目を合わせないようにする。

中庭の件を根に持っているな。今に見てろよ。

 

『それではこれより、国立魔法大学付属第一高校の入学式を始めます』

 

司会進行役のアナウンスが入り入学式が始まる。

式は順調に進み新入生総代による答辞に入る。

壇上に総代の司波深雪が上がった。ここだ‼︎

 

「・・・佐々木なぜ俺に抱きつく」

 

「自分の胸に聞いてみなよ」

 

互いの頬が付くほどに密着して身を寄せ合う。

ふふ、嫉妬に駆られた妹にお仕置きされるがいい。

ワタシの行動にエリカちゃんは呆れ気味に、美月ちゃんは頬を赤らめる。

肝心の深雪はというと、平常に答辞をこなしているが、笑っていない目でこちらをしっかりと捉えている。明らかにキレてる。

うぉ!寒っ。本当に干渉力がハンパない。ここまで冷気が届いてきたぞ。

 

「佐々木 悪いことは言わん。今すぐ俺から離れろ」

 

「うん。そうします」

 

達也君からの忠告でワタシは即行で離れる。

これ以上やると本当に講堂が凍り付けになる。

これぞ触らぬ達也に深雪の祟りなし。逆もしかり。

それからは式が終わるまで無言でじっと過ごした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。