少し短いですが、どうぞ!
ブランシュによる学園襲撃の2日前、夜。
達也と深雪は九重寺の八雲の元に訪れていた。
境内の縁側に腰掛けて、八雲が収集したブランシュの情報を聞き終えると、達也が新たな話題を切り出した。
「師匠。差し出がましいようですが、もう一つ調べて欲しいことが。ドッペルゲンガーという存在をご存知でしょうか」
「他人を模した皮を纏って一高を騒がせている存在の事を言ってるのかな」
八雲からの返答に達也は目を丸くする。
「既にご存知でしたか」
「俗世を捨てた身でも弟子の通う学舎の情報くらいは耳に入ってくるさ」
ここで八雲は達也の目を盗んで深雪にさり気なく視線を合わせた。
独断で探りを依頼したことは伏せておくと、その視線だけ深雪は八雲の配慮を理解し、彼に感謝した。
「勝手ながら僕の方で調べさせてもらったよ。ドッペルゲンガーと呼ばれる存在が確認されたのが今から10年前。そこから今に至るまで全国各地で度々目撃されている。共通するのはその殆どが学校施設やその周辺で目撃されていることだ。一高に現れたドッペルゲンガーと同一だと考えていい」
八雲は捜査結果を深雪が以前提示した情報と加えて述べていった。
「学校施設・・・ドッペルゲンガーが出現した時期に転校や転勤で住居を移した人間はいますか」
「さすが達也君、鋭いね。君の予想通り、ドッペルゲンガーが現れた時に限って、転校を繰り返す条件に位置する人間をひとり見つけたよ」
「確認ですが、ブランシュとの繋がりは?」
「僕の見立てだと、ブランシュを始めそう言った犯罪組織には入ってはいないと思うよ。寧ろ彼は犯罪組織を取締る側の関係者だよ」
「と言うと?」
「君もドッペルゲンガー、いや、彼の正体にはある程度は辿り着いているじゃないのかな」
「やはり師匠にはお見通しですか」
「お兄様。勿体ぶらず、教えて下さい。ドッペルゲンガーは一体誰なのですか?」
自分を除け者にしているのが気に入らないのか、深雪はドッペルゲンガーの正体について促す。
達也は深雪の目を真っ直ぐ見つめて口を開く。
「俺の見立てが正しければ、ドッペルゲンガーの正体は・・・佐々木権三郎だ」
兄の口から出た名前に深雪は思わず息を呑む。
普段から女装し、自分や兄、その周りの友人達を揶揄う少し変わった人間だと思っていたが、まさか彼がドッペルゲンガーだったとは。
「お兄様を疑うわけではないのですが、彼がドッペルゲンガーだという根拠は何ですか?」
「部活勧誘時にヤツはエリカと対決し、エリカの技を忠実に模倣していた。しかし、それは一部だけ。少し話しは変わるが、校門前での諍いを覚えているか?」
「はい。言い争いから始まって、魔法を使用しようとした森崎君のCADをエリカが弾いって・・・まさか、お兄様」
ここで深雪は兄が何を言いたいのか悟る。
「そうだ。エリカの技を模倣するチャンスは校門前での諍いの時にいた人間に他ならない。当然その中に権三郎も含まれる」
「それだけで彼をドッペルゲンガーだと決めるのは・・・」
「俺たちと合流した際、アイツは諍いを止める為に助けを呼びに行ったと言っていたが、後で確認したら風紀委員の誰も権三郎とは会っていないそうだ。あの場で嘘を付く必要はないにも関わらず、明らかに不自然だ」
達也は密かに風紀委員の上級生たちに聞き込みを行っていた。結果、委員長の摩利を始め、誰も権三郎とは遭遇していなかったと裏どりが取れた。
「確かに・・・おまけに彼はあの時、はっきりと風紀委員から聴取を受けたとも言っていました。それも嘘だったとしたら、明らかに怪し過ぎます」
「それに決まってドッペルゲンガーが出現するのは権三郎がいない時に限ってだ」
校門前、部活勧誘、放送室ジャック。どれを上げても必ず権三郎と入れ替わるようにドッペルゲンガーは現れた。
深雪が黙想していると、頭の中に一つのある可能性が浮かび上がった。
「お兄様、もしかして今まで私たちが会っていた権三郎君は」
「奴は本物の権三郎を消して成り代わっている。周りの人間に気付かれず。それこそ家族にすらな」
深雪は以前兄が自宅で語り聞かせたある可能性。ドッペルゲンガーの犯行を思い出す。
本人を消して人生を乗っ取る。
都市伝説ではドッペルゲンガーと遭遇した人間は命を落とし、人生を乗っ取られる。
都市伝説のドッペルゲンガーそのものではないか。
「待ちたまえ。僕の調べた限り、彼はそんな暗く血生臭い真似はしていないはずだよ」
場の雰囲気が陰気に包まれようとした所で八雲が待ったを掛けた。
「どういう事ですか?」
達也が尋ねると八雲は「もう少しだけ彼について話そうか」と加える。
「佐々木権三郎。家族構成は父と母との三人暮らし。父親は佐々木変造。警視庁捜査共助課に所属。母親は佐々木蔵子。元警視庁公安部第二課長。俗に言うと警察一家だね。魔法因子は母親からの遺伝。父方の家系には祖父母を遡っても一切ない」
片親が魔法因子を持つと次の世代である子にも発現する場合が多いが、逆も然り。
権三郎の場合は前者だ。
「出生も少々特殊でね。酷い難産でおまけに先天性の重い紫外線アレルギーを患って、幼少期の殆どを野外で過ごせなかった。少しでも日の光を浴びると肌は酷く爛れて、体調を崩したそうだ。過去にそれが原因で命を落としかけた事もある」
部活勧誘時にエリカとの戦闘で発覚した特徴と一致している。完全に黒だ。
八雲の話を聞く限り、ドッペルゲンガーが権三郎に成りすましているのではなく、ドッペルゲンガーの正体が権三郎というわけだ。
「それとコレを見てほしい」
そう言って、八雲は現代では珍しい印画紙の写真を複数枚見せた。
達也と深雪は揃って、写真を覗き込む。
そこに写っていたのは。
背中で輝くサラサラの美しい金髪、切長で青い瞳の大人びた金髪青目色白美人。
銀髪を肩ぐらいの長さで切りそられ、青色の猫みたいな瞳に泣きぼくろが特徴な文学系女子。
しなやかな筋肉が付いた身体、獣のような犬歯を覗かせながら嗤う野生味溢れる黒髪女子。
藍色の髪、聡明な顔立ちと、理知的な青い瞳、絶対に頭いい奴と一目でわかる。モデルのような洗練されたスタイルの美女。
透き通った湖のような髪にそれより少し深い色の瞳。目鼻立ちがくっきりした派手な顔立ちの少女。
猫ようなアイスパープルの瞳に黄金の髪。ネコ科の肉食獣を彷彿させるスレンダーな身体付きの少女。
暗色の長い髪が寝癖でピョンと跳ねている眠たそうに眼を擦る少女。
全員深雪にも勝るとも劣らない見目麗しい個性豊かな少女たち。
達也は一通り写真を身終えると、顔を上げて八雲に一言。
「師匠、まさかそういった趣味が?」
「いやいや。無いからね。君わざと言ってるでしょう」
「勿論冗談ですよ」
「君の口から冗談が聞けるとは、一体誰の影響なのか気になるね」
「先生、まさかここに写っている彼女達は全員・・・」
「うん。深雪君の思っている通り、全員が同一人物佐々木権三郎君だよ」
全員顔立ちは勿論、身長と体型も異なる。
事前に相手の正体を把握していなければ、例え八雲の口から説明されても、信じられなかっただろう。
「幼少期のある時を境に紫外線を遮断する特殊な外皮を纏い始めた。恐らく、我が子を不憫に思った両親が独自のルートで手に入れてきたのだろう」
皮の製造原材料を用意したのは間違いないが、生成加工は権三郎が1人で行った。
流石の八雲も権三郎が転生者で、幼少期時点で皮の生成を手がけるなど考えもしなかった。
「頻繁に纏う外皮を、つまり容姿を変えては、別人として生活を送っていたようだ。今見せた写真は中学時代のものであって、それ以前のものを含めるともっとあるけど」
「どうしてそんな生活を一つの顔で十分なのに、それに成りすますなら男性の方が楽な気がするのですが・・素顔が関係しているのでしょうか」
「それについては僕もわからない。どんな考えで性別を偽るような真似をしているのか。ただ、彼は生まれた時から他人に顔を見られるのをひどく嫌悪し、両親以外には決して素顔を見せなかった。しかし、時折家族以外に素顔が明るみになりかけた事もあったみたいだ。頻繁に転校を繰り返していたのはその為だね」
「顔の形態異常あるいは身体醜形病を患っているのでしょうか?」
深雪は路地裏で権三郎が去り際に放った言葉を思い出した。
誰も彼もこの顔の下にある素顔を見たら化け物、出来損ないと言っては拒絶するんだ‼︎
普段はどこか掴みどころがない彼が始めて人に見せた本音、悲痛な心の叫び。
偽りの顔の下に隠された素顔。自身すら嫌悪するような素顔とは。
他人の容姿で隠そうする権三郎を不憫に感じた。
そんな深雪の心情とは別に八雲は達也の質問に淡々と答える。
「その可能性は大いにあるね。最後に彼は過去に改名した記録がある」
「改名ですか。以前の名前は?」
「巧妙に隠蔽され、改名以前の名前は判らなかった。改名の痕跡を見つけるので精一杯だったよ。両親特に母親の力が働いたとみるべきだね」
師匠の力でも痕跡を見つけるのが精一杯とは。
公安に所属していた経歴があるならそれくらいの芸当はおかしくない。
ここで深雪が八雲に尋ねた。
「どうしてそこまでして。いくら息子でも気にかけ過ぎなのでは?」
「ここからは僕の推測だけど、我が子の安寧を願う純粋な親心によるものじゃないかな。当たり前のように日の下で暮らせない息子の不憫を憂いてのこと。それもあってか、彼が頻繁に他人を模した外皮特に女性を騙ることに大きな反対もしなかった。寧ろ息子のやりたいようにさせている状態だ」
実家や両親に冷遇されている兄の達也とは対照的だ。
形はどうあれ両親から愛されている権三郎に深雪は言葉にできないモヤモヤした気持ちになった。
***
翌日の朝。
登校して一番に達也はHR前にエリカ、レオ、美月を教室の隅に集めると
「「「権三郎がドッペルゲンガー⁉︎」」」
「しっ声がでかい」
達也が口に指を立てて注意する。
その動作に3人は慌てて口を塞ぐと周りを見渡す。幸い他の生徒には聞こえなかったようだ。
全員身を寄せ合い、代表するようにレオが達也に意を決して尋ねる。
「なぁ、タツヤ。本気で権三郎のことを疑ってるのか?」
「間違いなく疑っている」
「でもよ、アイツも会長に化けたドッペルゲンガーに会ってるだろう?」
「そういうことになってるな。校門前の諍いを止める為、助けを呼んだところニセ七草会長に遭遇・・・と本人は言っているが、権三郎自身がドッペルゲンガーだと俺は疑っている」
達也は続けて九重寺での推理を少し意図的(八雲の存在は伏せて)に変えて、3人に語った。
傍聴する中で美月がボソッと呟く。
「・・・あの違和感はそういう事だったんだ」
「美月、アンタ何か気になることがあるの?」
「私、演劇部に仮入部にしているんですが、そこのお芝居に使用するカツラと権三郎君の髪の質感が似ている気がして。入学式で権三郎君の頭を撫でた時、地毛にしては妙な違和感を覚えて。あれはそういう事だったんだ・・・」
美月は顎に手を添えて、さらに続けて喋る。完全に推理劇に突入した探偵モードだ。
その迫力に達也たちは口を挟まず、黙って傍聴に徹する。
「権三郎君の何気ない挨拶のニュアンスや時折見せる仕草はドッペルゲンガーと似てる。それだけじゃない。深雪さんやエリカちゃん他の人のドッペルゲンガーは現れたのに、権三郎君のドッペルゲンガーは一度も現れていない。綺麗で可愛い条件は十分満たしているのに・・・」
「美月ストップだ。もう十分わかったから」
達也がストップを掛けた。
探偵の推理劇に口を挟む度胸は凄い。
美月はまだ語り足りない様子で肩を落とす。そんな時、
「あんにゃろう・・・!人を散々バカにして。アタシたちと親しげに付き合って内心ほくそ笑んでいたと思うと、あー!イライラする‼︎」
エリカは憤りを露わにする。
直接対峙した際に散々虚仮にされたので無理もない。
教室を出ようとしたエリカの肩にレオが手をかけた。
「おい。どこに行く気だよ」
「決まってるでしょう。直接問いただしてやるのよ。そんで、化けの皮を剥がしてやるわ!」
レオの手を払いのけ、そのまま権三郎のいるA組に乗り込もうとするエリカに達也が「落ち着け」と待ったを掛ける。
「何よ?邪魔しないでくれる」
「今追求しても上手く誤魔化されるだけだ。それに聞いたところでは、アイツはA組を始め他クラスでも人気者。乱暴を働けば、大勢を敵に回すことになる」
権三郎は男女問わず人気が高い。
性別関係なく、一種のアイドル的な立ち位置を確立している。
達也の言う通り、下手に乗り込めば、権三郎を慕う人間全員を敵に、いや、権三郎が差し向けてくる可能性だってある。自身の正体を白日の元に晒そうとする人間を排除するため動いてもおかしくない。
「じゃあどうすのよ。このまま指咥えて、いいように遊ばれろっての?人の容姿を勝手に使う奴に」
「何もするなとは言っていない。如何なる理由があれ、これ以上アイツの勝手を許すつもりはない。全員で権三郎を放課後演習室に連れ出す。そこでドッペルゲンガー騒動にケリをつける」
もうこれ以上深雪を騙らせない。
達也は確固たる決意でドッペルゲンガーもとい権三郎と決着をつける腹積りだ。
その日のうちに権三郎を連れ出し、正体を暴く計画は失敗に終わる。
飄々とした態度を崩さない権三郎は、達也たちを前にしても余裕の表情。変装した偽りの顔で、その下はどんな表情を浮かべているのか。
結果的に権三郎の態度が達也たちに火をつける。
***
ブランシュ襲撃当日。図書館にて。
特別閲覧室のある二階廊下でエリカとの一騎打ちの末、負傷した壬生を途中まで一緒だったレオに託し、達也と深雪、エリカの3人は館内のテロリスト及び洗脳された生徒が一掃され、静まり返った館内で身を潜めていた。
達也はここに権三郎がやってくると予想した。
あの無駄に目立ちたがりの愉快犯なら必ず、やってくると。
二階に深雪とエリカが、一階ロビーの物陰に達也が潜む形で。
暫くすると目的の人物はやって来た。
暗い館内天窓から差し込む光に晒されて、姿が露わになる。
学校でよく見知った姿とは違う。
アイスパールの瞳と白髪のショートヘア。黒いライダースーツ越しで映えるネコ科の動物を彷彿させるような体躯。
八雲が入手した写真にあった少女、権三郎の世を忍ぶ仮の姿のひとつ。
事前に知らなければまず同一人物だとは誰も思うまい。
念の為、『精霊の眼』で視てみるが、権三郎の個人情報体は写らない。完全に別人として存在している。
(やはり、化けの皮を剥がし、強引に正体を暴くしかないな)
達也は物陰から出ると、図書館の出入口の前に立ち塞がる。
「動くな」
権三郎にCADの銃口を向けた。
二度と深雪を騙る真似はさせない。必ずここで仕留める。
八雲先生の口調難しい(泣)
最後に達也とのバトルもといお仕置きタイムを期待した皆様ごめんなさい!
次回こそはバトルシーンを入れた話を投稿します。
あのさす兄もといラスボス魔王様を相手にどう立ち回るかな・・・メチャ迷う!