魔法科高校のドッペルゲンガー   作:西の家

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新年明けましておめでとうございます。
前回の投稿から新年を迎えました。年越しに加えて鏡開きも過ぎての間の空いた投稿になりましたが、これからも時間の許す限り投稿していくのでよろしくお願いします。


入学編 22話「氷の女王VSドッペルゲンガー」

 

「あっ戦いの前にこれは片付けておきましょう」

 

ホールで倒れているブランシュと有志同盟の生徒を移動魔法で二階へ移動させる。

優しく卵を扱う様に安全圏へ放つ。その様子に司波兄妹は黙って見守る。

これから始まる重大な戦いの邪魔になるからね。そう、本人公認ダブル深雪ちゃんを賭けた戦いだ‼︎

ふふふ、深雪ちゃんに勝てば大手振って深雪ちゃんに変装できる。愛しのマイシスターが決めたことに天下の魔王達也君でも文句は言えない。

絶対に勝って本物の深雪はどっちでしょう大会をやってみたい!あっ、でも達也君には公式チート『精霊の瞳』があるからバレるか。いや、彼の両脇を深雪ちゃんで固めて他の男子たちの嫉妬を買わせるハーレムごっこの方が面白いかも。

『精霊の瞳』といえば、エリカちゃんに変装した時、すぐに正体を指摘してこなかったのは何でだろう?ワタシの意表を突きたかったのか・・・まあ、別にいいか!それよりも。

 

「さて、邪魔なものもなくなったし、初めましょうか」

 

戦いの準備が完了し、深雪ちゃんと向き合う。

似た顔同士が視線を逸らすことなく、睨みを効かせ合う。それに並行するように徐々に館内の空気が重く冷たいものに変わっていく。

オラすげぇゾクゾクしてきたぞ。なんちゃってね♪

未だに気を失っているブランシュや有志同盟の人間達は幸運だった。並大抵の人間では緊張感に包まれたこの場の雰囲気に耐えられそうにないのだから。

まだ睨み合って1分も経ってないが、体感では長く重く感じる。

このまま睨み合ってもしょうがないので、攻撃しやすくしてあげよう。

 

深雪ちゃんに向けて伸ばした右掌から野球ボール台の雪玉を生成し、そのまま射出。

射出速度は当てる気があるのか、と疑うほどに遅く余裕で躱わせる程度。

そんな攻撃に深雪ちゃんは顔を顰める。

 

「(雪玉?私への当てつけのつもりかしら?こんなもの魔法を使うまでもなく躱わして反撃を・・・ッ⁉︎)」

 

「って思うでしょう?」

 

ワタシが深雪ちゃんの胸中を読むと同時に彼女の眼前で雪玉が一瞬だけ膨らむと激しく音を立てて破裂。ホワイトアウトに陥ったように視界が白一色に染まる。

 

『雪玉』

文字通り雪で球状の物体を生成する魔法。遊び心溢れる魔法に思えるが、雪を固まる際の圧力次第で石礫並の硬さにもなる。ちなみに殺傷力はDランク。

 

本来なら雪玉を作って終わりだが、ワタシは敢えて一手間を加え雪玉の中に高圧縮した空気の塊をブレンドすることで標的に着弾と同時に爆発するようにした。

某建築ゲームで凶器と化した雪玉を参考にさせてもらった。前世で一時期ハマってたからね。

 

「まあ、簡単にやられるわけないか」

 

視界が晴れると対物シールドを展開し、『雪玉』を防いでみせた深雪ちゃんの姿がそこにあった。

シールドの表面は少しだけ凍っている。

凍っていない部分から不意を突かれたのを払拭するように毅然とした表情をこちらに見せてくる。

あの一瞬の間に『雪玉』の危険性を察知したか。並の相手ならシールドを展開する間もなく終わってたのに。

 

「一瞬だけ焦った顔も綺麗だったよ。もっと色んな顔をワタシに見せてよ!」

 

表情の参考にしたいからね!

端末CADを指先タップ。再び『雪玉』を発動する。今度は自分の後方宙に浮いた状態で大量生成し、連続で射出。射出速度は初弾と違い高速で飛ばす。

 

「ぷぷ、クケケケ。季節外れの雪合戦だ」

 

いかん。興奮して口調が乱れた。訂正せねば。

側から見れば雪合戦をしている様に見るが、即席の爆弾を投げつけるようなものだ。その証拠に弾ける雪玉の音が爆発音そのものだからね。

攻撃開始から既に雪玉を5、10・・・50発と機銃掃射の様にぶつけてみたが、対物シールドが崩れる気配はない。

硬いな。戦車でも引っ張り出さないと崩せそうにないぞ。これ以上やっても無駄な攻撃だな。戦法を変えるか。

そう思いつつも構わず雪玉をぶつけ続ける。シールドに弾かれた雪玉の破片が壁や天井、柱に飛び散る。

 

「ねぇ、君は減速魔法が得意だから寒いのは強いほうだったりする?」

 

攻撃の片手間深雪ちゃんに語りかける。

相手も器用でシールドを展開し、攻撃を防ぎながら会話に乗る。

 

「どういう意味かしら?戦いの最中にお喋りはあまり感心できないわ」

 

「純粋な質問よ。得意だと気付かないのかなって」

 

ワタシが干渉力を強めると辺りに飛び散った雪玉の破片がパキパキと音を立てながら広がり、飛散した箇所を凍らせていく。

それに並行して図書館内の気温がどんどん下がっていく。館内という限定された空間内でよく冷える。その証拠にお互いの口から出る息が白い。

ここでようやく深雪ちゃんが気付く。

 

「これは・・・雪が広がっていく?」

 

「やっと気づいた。私ってば鈍ーい」

 

ワタシは常時皮を纏っているので、そこまで寒くはないが、深雪ちゃんはその限りではない。

この環境では人の体温は下がり筋肉の柔軟性は落ち関節の可動域も狭くなる。必然的に体捌きは鈍くなる。

前に服部先輩が使用した戦法を参考にされてもらった。

 

「長引くと皮が痛むからとっとと終わらせましょう」

 

口出した言葉は本心だ。

寒冷化した室内に長時間晒されるとドライアイスに漬けたように皮が痛む。

パキパキに凍った皮は処分するしかない。せっかく苦労して作った深雪ちゃんの皮を捨てるのは忍びないのだ。

 

ここで『雪玉』から別の魔法に切り替える。

ワタシは切り替え動作と魔法発動を同時に一瞬で済ませると、深雪ちゃんの頭上に天井を覆うばかりの氷塊を生成し、そのまま落下させた。

氷の女王様の深雪ちゃんならこれくらいできるはずだ!

 

「ちょっと⁉︎これはいくらなんでもやり過ぎです!」

 

いくら深雪ちゃんでも圧倒的物量で攻められたら耐えきれないはず。

ワタシの読みは当たったようで、彼女は悪態と共にシールドを解除すると回避に移行。

魔法の温存の為か、持ち前の身体能力だけで氷塊の有効圏外まで退避してみせた。氷塊が床に接触、轟音を立てて砕け散る。

氷の礫が辺り一面に飛散し、ワタシの方にも幾つか飛んでくるが部分的に展開した対物シールドで防ぐ。

氷塊が砕けたことで室内でホワイトアウトが発生。濃度は『雪玉』の比でない。

白い闇の中でワタシはさっきまでのやり取りを振り返る。

 

床は一面凍っており、滑って踏ん張りが効かないはずなのに深雪ちゃんの踏み込みはしっかりしていた。魔法で靴底と床の摩擦係数を操作して滑らないようにしているみたいだ。魔法ぬきの身体能力だけとはワタシの読み間違いだったか。

戦場において転倒は死に直面するからね。しかし、冷えた身体でいつまで動けるかな?

 

既に体感温度で室内は0℃を下回っている。

ワタシは皮を纏っているからまだ大丈夫だが、生身で冷気を浴び続けている彼女の身体は悴んで動けなくなってもおかしくない。

 

「早く出てきて一緒に暖をとりましょう」

 

「いいわよ」

 

「⁉︎」

 

ワタシの軽口への返答と共に白い濃霧から深雪ちゃんが突然飛び出してきた。

意表を突かれたワタシはすぐに行動に移せない。

マズイ‼︎

 

「はぁっ!」

 

「ぐぅッッ⁉︎」

 

腹に一発、強烈な正拳突きをお見舞いされた。

華奢な彼女に似合わない痛烈な攻撃にワタシは呻き声を漏らす。

そのまま後方に凍った床も相まって、5メートルほど後退する。

魔法技能だけでなく、体術も大したものだ。

坊さんのふりした素っ破の先生(名前は忘れた)の手解きか。

ブラコン女子と侮っていたよ。

攻撃を受けた腹部を軽く摩りながら深雪ちゃんを見詰める。

 

「いたたた、赤ちゃん産めなくなちゃったらどうするのよ」

 

「貴方にはないでしょう。私の顔と声で言わないでくれます?」

 

真似たせいか、若干キレ気味の深雪ちゃん。その証拠に笑顔だが目が一切笑ってない。よく見れば右こめかみに血管も浮かび上がってるし。

軽口を叩き時間を稼ぎながら、深雪ちゃんの攻撃を振り返る。

攻撃の瞬間、彼女の身体にキラキラと纏わりつくように想子の後光を見た。

よく目を凝らせば、今も想子の煌めきが身体から溢れている。

まさか、体温も併用して自身の周囲の空間温度を上昇、魔法で暖房を作り上げたのか⁉︎道理で寒冷化でも身体能力が低下しないわけだ。器用にも程があるぞ。

 

「お兄様私が私を虐めてきます。助けて」

 

「はぁ、お兄様」

 

「ああ、分かっている」

 

ダメ元でウルウルと涙目で達也君に助けを求めてみるが、反応は予想した通り。壁際に立ったまま呆れ気味で眺めるのみ。深雪ちゃんまで呆れてるし。

くそっ兄妹揃って似たような反応を。

流石に目の前で変装したから騙されるわけないか。

濃霧に紛れて、私よ!私が本物よ!ってやつをしてみたいが、相手は達也君だから騙せる自信がない。

別の手でいくか。

 

「兄なら少しは反応を示してもいいじゃない・・・かしら!」

 

「逃しませんよ!あと、貴方のお兄様じゃありません!」

 

ワタシは軽口言い切る前に走り出す。お互いに向かい合うように距離を取りながら館内を疾走する。

深雪ちゃんが走りながらCADを操作、魔法を発動する。

その様子を視界に収めていたワタシは自身の足元に魔法の発動の兆候を察知した。

 

「おっと」

 

掛け声と共に軽く飛んでみせる。同時に足を付けていた箇所が一瞬で凍った。

足を凍らせて動きを封じようとしたが、失敗に終わる。

このまま床に足を付けようと思った瞬間、

 

「そこ!」

 

深雪ちゃんが掛け声と共に空気の弾幕を放つ。

これは『空気弾』。

通常の外気では分かりにくいが、白い濃霧の影響で周囲と違う密度の空気の塊が沢山迫ってくるのが嫌でも分かる。

 

「やっべ」

 

咄嗟に皮を硬化させ空気の弾丸を防ぐ。

凍った床に着地。両足でしっかり踏み込んで衝撃に備える。

 

「ギィぃぃッ・・・‼︎」

 

直接受けてみて分かる。これは真由美先輩が演目で後輩に見せた『空気弾』の比ではない。

真由美先輩がライフルなら深雪ちゃんは機関銃だ。

猛攻を受けながらも、顔の前で腕を交差させ、顔の皮が剥がれるのだけは防ぐ。

空気の掃射が止まる。

 

「私の見た目で頑丈ね」

 

「ぷぷぷ、クケケケ。硬気功術ってやつよ」

 

痛くも痒くもないとばかりに素の笑いを見せる。

変装者として鍛えた演技力でノーダメを演じているけど、衝撃までは完全に防ぎきれず皮の下はダメージを受けた。

それと皮で誤魔化してるけど、皮の下の素肌は真っ白だから青あざが目立つだろうな。

それにしてもよく自分そっくりな相手に攻撃できるな。後めたさとかないのかな?

一旦仕切り直すか。

自分の後方にある柱の裏に隠れようと背を向けて駆け出す。

 

「逃しません!」

 

「ッ⁉︎」

 

ワタシの逃走を阻止しようと深雪ちゃんが再び魔法を放つ。

ここで空気の流れが点ではなく、線であるのに気づく。

本能的に背後から迫る危険を感じ、咄嗟に首を横にズラすと髪(ウィッグ)の一部が切れた。

濡れガラスの羽に似た毛先が宙に舞う。

今のは空気を刃にして放ってきた。しかも、ワタシの顔を狙って。変装マスクを剥ぎ取るつもりだったか。

 

「あっぶな」

 

何とか柱まで辿り着くと上手く身を隠す。尚も空気の刃による斬撃は続く。身を隠す柱に一線、二線と斬撃による衝撃が走る。

深雪ちゃんがジリジリと距離を詰めてくるのが気配で分かる。

ワタシを柱から出さないつもりか。このままだとゼロ距離でキツいのをくらうな。

 

「自分相手に容赦なさ過ぎ。いや、寧ろ自分だからこそ容赦しないか」

 

攻撃をBGMに柱の後ろに身を隠しながら状況を整理する。

館内は白い濃霧に覆われて視界は悪い。天井には氷柱までできている。

この状況は利用できそうだ。

ここでワタシは奥の手を切る。

冷えた空気を軽く吸う。喉の奥が冷える感覚を味わいながら言葉を放つ。

 

「お兄様に結婚はまだ早いです!私ですらまだしてないのに‼︎」

 

悲痛な叫びを意識しながら深雪ちゃんボイスのまま館内全体に響き渡らせる。

歩み寄る深雪ちゃんの足が一瞬止めり、壁際の達也君は片眉を僅かに釣り上がるのが気配で感じる。

その間に口を動かしながら、魔法である準備に取り掛かる。

 

「お兄様が欲しければ私を倒してからにしなさい!」

 

「だから、私の顔と声で変なことを言わないで!た、確かにお兄様に恋人ができれば言いたくなるけど・・・‼︎」

 

動揺で彼女の攻撃の手が止まった。

チャンス!この学校で学んだ成果を披露する時だ!

この隙に懐から予備の変装マスクーー深雪ちゃんマスクを取り出す。マスクを土台に物体に干渉する加重、加速、移動魔法で肉体を持っているようにみせ、首から下は光学魔法で服を着せる。ほのかちゃんの技能を間近で観察した甲斐があった。

我ながら深雪ちゃんそっくりに創れた。変な言い方になるが、偽物の偽物だ。名付けるなら『偽りの共犯者(ダミー・アコンプリス)』と呼ぶべきか。カッコいい。

ワタシは創った偽物の深雪ちゃんを柱から出すと、本物の深雪ちゃんにわざと見える様に魔法を放つ動作をさせる。

 

「甘い!」

 

偽物を視界に捉えたことで動揺から立ち直った深雪ちゃんが先に魔法を放つ。

自身が得意とする減速系の冷却魔法で偽物を氷漬けにした。

偽物の深雪ちゃんは一秒と待たずに全身氷漬けになり、動かなくなった。抵抗の意思を持たない人形なので無理もない。

相手は氷漬けになり、勝負はついた様に見えるが深雪ちゃんはいつでも追撃できる態勢を解かない。

油断しないように警戒しているが、

 

「なっ⁉︎これは・・・‼︎」

 

ポロリと氷漬けになった偽物の頭が力無く床に落ちる。

凍った床を滑って、深雪ちゃんの足元で止まる。

その光景に深雪ちゃんは驚きを露わにする。

それはワタシが創った君の偽物さ。驚いてくれたかな。

首の断面の空っぽ。ここで初めて深雪ちゃんはハッと、偽物と気づく。

本物のワタシは何処かと言うと。

 

「ぷぷぷ、ここだよ」

 

魔法抜きの身体能力のみで柱を駆け上り、天井にできた氷柱まで到達すると重量魔法で氷柱を足場にする。

天地が逆転するが、変装者として鍛えた平衡感覚ならわけない。

ワタシの居場所に気づいた深雪ちゃんが上を見上げるが、もう遅い。

 

「雪だるまになっちゃえ」

 

頭上からを『雪玉』を豪雨のように激しく乱射し、弾幕にすると同時に再び『偽わりの共犯者』で深雪ちゃんを作成し、それにCADを投げて渡す。偽物の深雪ちゃんは右手で落とさずに掴むと攻撃を続行。ワタシは攻撃のバトンタッチを済ませると『雪玉』に紛れて床に着地し、近くの柱に身を隠す。

少しだけ見学だ。

 

「無駄ですよ!」

 

対してワタシが偽物と入れ替わった事など知る由もない深雪ちゃんは着弾寸前で対物シールドの展開に成功し、攻撃を防ぐ。

君ならこれくらい対応できるよね。

ワタシは偽物を操作し、攻撃の手をやめさせる。

こちらが攻撃がやめると深雪ちゃんは対物シールドを解除した。

油断したね。この隙にワタシは準備に取り掛かる。

 

「ぷぷぷ、クケケケ。亀みたいに殻に籠ってなくていいのかい?」

 

濃霧に紛れながら音飛ばしで偽物が喋っている様にみせる。

生憎と偽物を喋らせることはできない。喋ってる様にみせるには、こうして間近で音飛ばしさせないといけないのだ。

それに釣られて深雪ちゃんは真上を見上げる。

今だ!

 

「どういう意味ですか・・・ッ⁉︎」

 

突然、彼女の真横の濃霧から人影が飛び出す。

気配を感じさせない不意打ちに身を捻ってギリギリで転がるように回避する。

そのまま態勢を立て直すと姿を現した人影の正体に気づく。

 

「アナタは・・・渡辺先輩⁉︎何故ここに、それに今の攻撃は何のつもりですか」

 

深雪ちゃんの疑問に摩利先輩は口を閉ざしたまま答えようとしない。

答えるわけがない。そもそも彼女は答えることができない。

返答の代わりに濃霧から別の人影が続々と姿を現す。

 

「七草会長・・・それにエリカまで⁈」

 

見慣れた顔の出現に深雪ちゃんが驚きを隠せずにいる。

その顔頂きました!なんちゃってね♪

深雪ちゃんは驚きながらも自分の周りを取り囲む知人たちを観察して気づいた。

 

「まさか・・・この人たちは貴方が創った偽物ですか」

 

「正解。驚いてくれた?」

 

深雪ちゃんの偽物を創れるのだ。他を創れないわけない。柱に身を隠した後、作成して濃霧の中に潜ませていたのだ。

しかし、制服に仕込んでおいた皮はこれで品切れだ。

ポーチにもいくつか仕込んでいたが、肝心のポーチは達也君との戦闘で失ってしまった。

 

「偽物とはいえ、彼女たちを利用し、戦わせるなんて最低ですね。貴方はどう思っていたかわからないけど、みんな親切に接してくれた人達でしょうに」

 

「ワタシがガワをどう使おうと勝手じゃない。ケチつけないでくれます?」

 

「・・・見た限り、雫とほのかはいないようだけど、何か理由があるのかしら?」

 

深雪ちゃんが周囲を一通り見渡すとそんな事を訊ねてきた。

 

「・・・別に大した理由はないわ。ただ彼女達のガワを作り損ねていただけよ」

 

適当に言い訳を述べる。

最初は雫ちゃんとほのかちゃんの皮を作ろうと思ったよ。けど、制作しようとした段階でふっと思った。どっちらに化けても後がメチャ怖い。

ほのかちゃんは大人しい人ほど怒ると怖い言葉が似合うくらいにキレると怖いし、雫ちゃんに至ってはキレると無言の圧が半端ない。あの顔で何も言わずに睨みつけられるとトラウマになりそうなんだよね。

そういった理由があるので彼女達の皮もとい化けるのは避けていたのだ。

 

「過去に彼女達に対して後めたいことがあるから、変装するのを避けていた。いや、変装できないのでしょう?例えば・・・不意に危害を加えてしまった。或いはどちらかに素顔を見られたのが原因で2人に化けることができない。違う?」

 

「勝手に過去を詮索するな!」

 

殆どの当たっていらっしゃる。

驚きのあまり大声を上げてしまった。

中学時代に雫ちゃんを突き飛ばしてしまったのは悪いとは思っているよ。だけど、素顔を半分とはいえど、見られてしまったのだから仕方がないじゃないか。

名探偵ぶりを披露したお返しだ。

天井に張り付いている深雪ちゃんの偽物を操作。天井の氷柱の内、数本の特大サイズを深雪ちゃんに向けてぶつけるが、軽快なバックステプで華麗に躱わされる。まるでアイススケーターのようだ。

氷柱が床に激突し、破片が宙に舞うが、それすらも躱わし、尚も視線はしっかりと偽装兵のワタシを捉える。

 

「その態度は肯定と捉えていいのね!ようやく貴方の本音を聞けた気がするわ」

 

「うるさい!ワタシの中に土足で踏み込むな‼︎」

 

相手に本音を悟られるなど変装者に有るまじき失態だ!

激情に任せて再び特大サイズの氷柱をぶつけようとするが、当たらず代わりにエリカちゃんと摩利先輩に命中してしまった。

自分が創った偽物とはいえ、当ててごめんなさい!本物だったら、マジギレされても文句は言えないな。

2人は失ったが、柱の影に隠した真由美先輩は無事だ。

よし、彼女を上手く使って。

遠隔操作の要領で柱の影から『ドライブリザード』を発動させようとする。完全な視界からの掃射で蜂の巣になれ!

 

「無駄ですよ」

 

深雪ちゃんが一言。

慌てた様子もなく、寧ろ攻撃がくることを予想していたように悠然と佇む。

いつまで経っても『ドライブリザード』が発動する気配はない。

これは領域干渉か⁉︎嘘でしょう偽物とはいえ、相手は十師族だぞ‼︎

 

「激情に任せた攻撃で、創り出した偽物3人を巻き添えにした様に見せかけて、実は1人だけ安全圏に避難。チャンスを伺って攻撃態勢に入っていることは予想済みです。今までの攻防から人の意表を突くのが大好きな貴方らしい戦法です」

 

深雪ちゃんが語り出す。

いや、激情に任せたのは本当です。変装の神に誓って!

 

「へぇー、こちらの手の内はお見通しってわけね。恐れ入ったわ」

 

お喋りに付き合う振りをして、そーっと真由美先輩を深雪ちゃんの背後に移動させる。

魔法が発動できないなら、これならどうだ!

偽物の内部は『雪玉』と同じ高圧縮の空気が仕込んである。至近距離で破裂すれば無傷では済まない。

真由美先輩が深雪ちゃんへ向けて駆け出す。

自分に迫ってくる偽物に深雪ちゃんは毅然とした態度を崩さない。その顔に恐れはない。

あと数センチで手が届く距離に入った瞬間、纏わり着こうとした偽物の真由美先輩を重量魔法で床にへばり付かせた。

えー、嘘でしょう。

 

「この偽物にも何か仕掛けがあるのでしょう?私が貴方なら破裂させるけど。どう、当たってる?」

 

床にへばり付く真由美先輩を一瞥。

全くその通り。

何も言い返さず、思わず口を紡ぐ。

本物の真由美先輩に劣るけど、スペックは80%似せたつもりだよ。それを一捻りとか出鱈目すぎるでしょうが。

試しに重量魔法に抵抗してみるが、ぴっくりとも動かない。

これ以上はリソースの無駄だな。

ワタシは『偽りの共犯者』を解除する。

魔法を解除した偽物の真由美先輩は空気が抜けた風船のように萎むと変装マスク一枚となって床に落ちる。

それを見届けると、ワタシは偽物の深雪ちゃんを天井から床へとダイブさせる。着地と同時に氷が舞い上がる。

キラキラと舞う氷を纏いながら不意に足下の真由美先輩の変装マスクを一瞥。

悠長にマスクを回収させてはくれないだろう。回収は諦めるしかない。

回収を諦め、柱の陰から深雪ちゃんをまっすぐ見詰める。

こちらに気づいていないのか、偽物と面と向かい合う。

 

「地の利を捨てて真っ向勝負ですか。貴方らしくないですね」

 

「言外に真っ向勝負もできない腰抜けにも聞こえるけど気のせいかしら」

 

「さあ、どうかしら」

 

返答代わりに不敵に笑ってみせる。

その態度に思わずカッチーンとなる。

こ、このアマ・・・調子に乗ってると痛い目に合うぞ。

 

「せっかく貴女に変装したのだから真っ向から叩き潰してあげたくなったの。有り難く思いなさい。自分に負けるなんて滅多にない経験よ」

 

「そう。なら貴方も有り難く思いなさい。化けた相手に返り討ちにされるのは滅多にない経験よ」

 

これ以上の挑発は不要。

お互い開始の合図もなしに魔法を発動。

それぞれ利き手のCADをタップし、両者選択した魔法はまったく同じ。

『冷却魔法』

深雪ちゃんが王道の個体作用で攻めてくるのに対して、ワタシは部分作用の絡め手で攻める。

 

魔法が相殺し合う。

発動して不発に終わり、また発動しては不発に終わるが繰り返される。

激しい攻防の中で深雪ちゃんの息が上がり初めているのをワタシは見逃さなかった。

深雪ちゃんの姿ならワタシは彼女とやり合える!変装の為に100%のトレースを頑張った甲斐があるってものだ!

ここでワタシは一気に勝負に躍り出る。

わざと攻撃の手を緩めて、隙を作ってやる。すると深雪ちゃんはそれを好機と捉えて、勝負に出た。

 

「これで・・・終いです‼︎」

 

最後の力を振り絞るように声を張り上げて魔法を発動。

使用した魔法は『ニブルヘイム』

振動・減速系統の高難度魔法。領域内の物質を均質に冷却する広域冷却魔法。

深雪ちゃんが得意とする魔法だ。

 

『ニブルヘイム』を抵抗なく浴びた偽物の深雪ちゃんは全身を白い霜に覆われて氷像と化した。

その光景はだれが見ても勝負あり。

勝者の深雪ちゃんは息は切れ切れで消耗しているのが判る。

そこまで勝負ありとはならない。本当の戦いはここからだ!

 

「待っていたよ!この時を・・・‼︎」

 

ワタシは身を隠していた柱から飛び出すと彼女に向けて魔法を発動させる。CADは偽物に渡したままなので、CADなしで魔法を発動させることになる。時間は掛かるが問題ない。

 

「なっ⁉︎まさか、こっちが偽物なのですか!」

 

ワタシの存在にようやく気づく。

完全に意表を突かれた深雪ちゃんの顔は驚愕に染まり切って最高だ。しかし、壁際で勝敗を見守る達也君は驚いた様子はない。愛しい妹の危機ですよー、お兄様。何かリアクションしてよ。不気味だ。

まあ、今はこっちに集中だ。

 

尋常ならぬ魔法の気配が感じ取ったのか、深雪ちゃんのみならず、ここでようやく勝負の行方を見守る達也君も顔付きが変わる。

 

「この魔法の兆候はまさか・・・!」

 

「気付いた?そう、君が得意な魔法だよ」

 

選択する魔法は『ニブルヘイム』

君が得意とする魔法だよ。

 

魔法の発動工程は既に完了。後は目標に向かって放つだけ。自身が得意とする魔法で敗北しろ!司波深雪。

彼女目掛けて全力で魔法を放つ。

 

そして、魔法の効果で白い霜に覆われた深雪ちゃんの姿がそこに、なかった。

 

「何故魔法が発動しないの!まさか、領域干渉化にあるの⁈」

 

思わず疑問を口に出すが、その答えはすぐにやってきた。

 

「くっ・・・何これ・・・頭がぐらぐらする」

 

頭から足の先まで襲う強い倦怠感。

揺れる視界に頭を手で押さえて、何とか倒れまいと耐え忍ぶ。

 

「ようやくですか。思ったよりも時間が掛かりましたね」

 

さっきまでの戦闘による息切れが嘘のように深雪ちゃんは余裕のある態度で佇む。

 

「ぐぅぅぅ、ワタシに・・・「何したの?」魔法を受けた感じは、「しなかった」」

 

「私は別に何もしてませんよ。貴方自身が引き起こした自然の成り行きです」

 

「自然の「なんだって?」」

 

深雪ちゃんは何を言ってるんだ?

グラグラと揺れる頭のせいで思考が落ち着かない。おまけに声色を深雪ちゃんボイスで維持できず、所々中性的な地声に戻ってしまう。

 

「お兄様と一緒に疑問に思っていたのです。貴方が一体どこまで他人に成り切れるのか。今までの行動から振り返って、姿形は勿論のこと身体能力、魔法技能、些細な癖、動作まで模倣してみせた。正直誰にでも化けられるのではないかと思ってしまうほどに」

 

揺れる世界の中でも彼女の声は不気味なほど聞き取れた。まるで聞き漏らすのは許さないと錯覚するほどに。

 

「しかし、完全に他人に成り切るなど不可能です。その証拠に過去些細なことで正体が露見した。それで気づいたのです。貴方でも完全に模倣できない何かがあるのではないのかと。お兄様と話し合って一つの仮説を立てました」

 

「だからさ・・・「なんなんだよ!わたしが模倣できないもの」ってのはさ‼︎」

 

長々と話させないでほしい。気分が悪すぎて柄にもなくイライラしてしまう。

そんなワタシ、ボクの気分など知る由もなく、深雪ちゃんは一呼吸置いて語る。

 

「他人に化けすぎて、自分本来の想子量を忘れてしまったのではないのですか」

 

その一言がボクの胸を抉る。

想子量だって?

 

「生まれつき備わった想子は簡単には増やせません。最初は想子光まで模倣したので自然と想子量も模倣すると考えていましたが、それは不自然です。想子量は個人差はあれど、生来から決まっている。それを一朝一夕で増減させることなど不可能。貴方にできたのは、多くみせることだけ。私に変装して気が大きくなり過ぎていたのでは?」

 

例えるなら弾数を把握せずにバンバン撃ちまくって、弾切れを起こしたガンマン。

次◯先生が聞けば「自分の弾数くらい把握しておくできだったな」と呆れて、とどめの一発をお見舞いさせる。

振り返ってみれば、今まで様々な人間に変装するのに夢中で自分の想子量を把握ーー同年代よりも少し多いな程度の認識だった。

 

「ま、まさか・・・さっきまでの戦いで初歩的な魔法ばかり使っていたのは無駄な消耗を避ける為。そして・・・」

 

「はい。変装に拘りの強い貴方なら私に成り切るあまり消耗の激しい高等魔法を連発してくれると信じていましたよ」

 

「貴女が消耗し切っていた様に見えたのは、ワタシを油断させる為の芝居だったのね。まさか、途中からワタシが偽物と入れ替わっていたのも気づいて」

 

「ええ、急にCADを持つ利き手が左から右手に変わったのでおかしいと思い案の定、貴方は偽物と入れ替わっていた」

 

しまった。『偽りの共犯者』を深雪ちゃんに似せるあまり利き手を同じようにしてしまった。

ワタシの後悔を他所に彼女は続ける。

 

「人間の脳は複数の身体を操作できるほど器用にできてはいないのですよ。それにより最後の大一番で勝負に出た貴方は予想よりも早く想子切れを起こしてくれました。その姿を維持するのも苦しいでしょう」

 

「その証拠に」と続けてワタシの顔を指差す。

自分の顔、皮に触れて判る。表情を取り作るのが困難になりつつある。

ま、まずい。このままでは皮が脱げてしまう。その前に・・・。

 

「逃げようとしても無駄です。もう、勝負は付きました」

 

彼女の言葉を合図にワタシの腹部が霜で覆われていく。

これは・・・遅延発動型の魔法!

最初に似つかわしくない肉弾戦を仕掛けたのはこれを仕掛けるためだったのか。

霜の面積は段々と広がっていき、腰から下が氷で覆われていく。

おまけに皮越しに冷気が徐々に身体の芯へ食い込み、無慈悲に体温を奪っていく。

凍った皮のせいで寒い!寒い!寒い!

ガチガチと上下の歯がうち鳴り出し、身体の体温がどんどん奪われていくのが嫌でも分かる。

 

「早く皮を脱ぎ捨てないと凍死するわよ」

 

「そ、それはワタシに素顔を晒せと言ってるの?」

 

震える唇を必死に動かして、声を出す。

 

「貴方に選ばせてあげる。今までの姿を騙った人全員に誠心誠意の意味合いを兼ねて素顔で謝罪するなら許してあげる」

 

彼女からの衝撃な提案にワタシは「んな⁉︎」と言葉を失う。

素顔を晒す、だと?それは変装者として敗北を晒す行為だ。ワタシ、ボクが家族以外に素顔を晒すーー敗北の条件は決めてある。

深雪ちゃんはその条件を満たしていない。なので、答えは決まっている。

ボクは冷えた息を大きく吸って吐き捨てる様に叫ぶ。

 

「この下に隠した素顔を大勢の前で晒すなんて、そんなの・・・答えはNOだよ‼︎」

 

「そう・・・ならば、引導を渡してあげるわ。自分の行いを氷の中で悔やみなさい」

 

深雪ちゃんは少しだけ残念な表情を浮かべると身体から想子を漲らせ、CADを構える。

この感じは『ニブルヘイム』で間違いない。『コキュートス』はマジで勘弁してほしい。変装者として活動できなくなるからね!

このまま負けるのは悔しいので、最後に捨て台詞を吐いて退散してやる。

 

「この、ブラコンめぇぇぇぇ‼︎‼︎」

 

渾身の一言。

入学してからずっと言ってやりたかった台詞。

その台詞を最後に凍てつく吹雪の中で深雪ちゃんの顔が僅かに釣り上がった様に見えた。

 

 

***

 

別サイド

 

深雪に変装した同級生ーー佐々木権三郎は完全な氷像と化した。

最初は八雲から聞かされた生い立ちに免じて、逃走できないように軽く身動きを封じる程度で済ませるつもりだった。

しかし、結果は生きているのが疑わしいほどに頭からつま先までカチカチの氷像。明らかにオーバーキル。その原因は。

この、ブラコンめぇぇぇぇ‼︎‼︎

最後に発した捨て台詞。自分の顔で自覚している事を直接口にされ、思わず心身が乱れて(怒りに任せて)加減ができず本気で凍らせてしまった。

 

「お兄様‼︎」

 

ハッと、我に返り冷静になった深雪は兄に、達也に助けを固有魔法『再生』による情報体の巻き戻しを願い出たが、当人は首を横に振るだけ。

まさか、お兄様の力でも権三郎を治せないのかと一瞬疑ってしまうが、そうではなかった。

 

「安心しなさい。俺が力を使うまでもない」

 

「どういう意味ですか?」

 

深雪の疑問に達也は氷像化した権三郎の後ろに回り込むとこっちへと手招きする。

深雪も釣られて後ろに回り込むとそこに答えはあった。

氷像の頸から背中にかけて大きく開いていた。

事前に制服に改造を施していたのだろう、背中は両開きの扉の様に開く仕組みになっていた。そこから覗く皮は背中に隠れたファスナーが全開で当然中身は空っぽで権三郎の姿はない。

 

「ニブルヘイムを受ける瞬間に皮を脱ぎ捨てて中身だけ逃げたのだろう。器用な奴だ」

 

「まるで蛇の脱皮ですね。ちょっと待ってください。それなら彼は今・・・」

 

深雪は頭の中で妄想する。

偽りの外皮を脱ぐ行為は自然と全裸になることだ。

幾ら女子の様に振る舞っても権三郎の性別は男子。同年代の権三郎の裸を想像し、顔が赤くなる。

暫く羞恥心に襲われたが、傍に兄がいることを思い出し思考を切り替える。

 

「外を素顔で逃げ回るのは命に関わるのでは?」

 

天窓から覗く空は陽が傾き始めたばかり。

紫外線に弱い権三郎が外皮もなしに外へ逃走するのは危険すぎる。

 

「所々抜けているが、用意周到な奴のことだ。上手く切り抜ける手立てはあるさ」

 

権三郎を逃げしてしまったが、それでも大きな収穫はあった。

達也は文字通り勝負の成り行きをジッと、"見守っていた"。

終盤に権三郎が外皮を脱ぎ捨てて逃げる際に達也はその眼で確かに捉えた。

外皮を纏わぬ、権三郎本来の個別情報体を。

 

 

***

 

日が傾き出した頃。

 

権三郎は全裸のまま逃走する訳にはいかず、学校の敷地外に隠してある適当な皮(切れ目の一般女子生徒)と衣服を纏うとそのまま自宅へと向かった。

 

住宅街の屋根伝いで自宅へと到着。

玄関から家に上がると住人である家族の気配はない。

父親は勤務中で留守なのはわかるが、いつもならこの時間帯は必ず自宅にいる母親の姿がどこにもない。

買い物で外出中だろうか?と、疑問に思う余裕が権三郎にはなかった。

慌てて靴を脱ぎ去り、乱暴な足取りでリビングを抜けて浴室へ直行。

冷水シャワーを全開勢いよく浴びるながら濡れた衣類を脱ぎ捨てると、纏っている皮を顔から順に乱暴に剥ぐ。

ビリビリと裂けた皮がタイルに散らばり、シャワーの水飛沫がその下に隠された真っ白な素肌に降り注ぐ。

 

「ぐぅぅぅぅ・・・‼︎あぎいぃ、イタィ!イタィ!アツイアツイアツイアツイ‼︎痛いよッッ‼︎‼︎」

 

冷水シャワーの下で権三郎は体を抱きしめるように疼くまり呻き声を上げて悶え苦しんでいた。

真っ白な肌は所々赤く爛れて、苦悶の表情を浮かべる顔は特に酷い。両親以外の人間が見れば顔を背けるほどに重症だ。まだ日の高い時間帯直射日光の中を全裸で逃走したので無理もない。

痛みに駆られて二の腕を抱き締める手に自然と力が籠り、爪が腕にめり込む。

 

「ちくしょうッ!ちっとも痛みが引きやしない!何なんだよ!素手で人を切り裂くとか、オマエは怪盗◯イーンか⁉︎それとも◯斗聖拳⁉︎あるいは寂◯流白手かっての‼︎達也君もそうだけど、深雪ちゃんも何なのさ!完全に氷の女王様じゃん。邪魔者は氷像にして粉々する気かっての・・・!」

 

痛みに駆られて司波兄妹へ悪態を叩く。

気の済むまで鬱憤を吐き出すと、

 

「・・・転校するか」

 

体に降り注ぐ水滴がタイルに流れ落ちる中、ボソッと呟く。冷水で暑さと痛みが引いたおかげか、落ち着きを取り戻す。

 

「我ながら派手に動き過ぎたし、完全に正体も露見しちゃってるぽいし、この辺りでお開きかな」

 

転校の動機は素顔を見られたと言えば両親は納得してくれるはず。今までもそうしてきた。

 

「今度はどこにも行こうかな・・・東京から離れた学校がいいから金沢の三校辺りにしよう!ゴンちゃんはおしまい。次は誰になろうかなー、迷うな」

 

引っ越した金沢でどんな人物に変装するか目を瞑ってシャワーに打たれながら考えていると、自然とある人物の姿が瞼の裏に浮かぶ。

切れ長の目元に薄いヴァイオレットの瞳。ゴールドベージュのスーパーロングをレイヤーカット。外見と相まって凛とした雰囲気の女子。

 

「金沢と言えば彼女が印象深かったな。顔は思い出せるけど名前がイマイチ思い出せないや。確か名前は・・・一色エクレヤ‼︎そう確かそんな名前だった気がする。うん!そうに違いない」

 

登校前と同じで権三郎が思い出したのは名字だけ。

下の名前に冠しては盛大に間違えている。正しくは一色愛梨。

もしもこの場に彼女がいれば激怒し、フェンシングの切先を突き立てられるだろう。

自分の間違いを意に介さず、着々と転校及び変装の計画を練る。

 

「数字の名を冠してるし、多分どっかのナンバーズの家の子だと思う。小中学共にリーベル・エペーの大会で優勝してたっけ。優勝者なら探せば写真付きの資料もあるだろうし、それを参考に彼女を模した皮を作ろう。いや、待ってよ・・・中学時代は金沢だがら必然的に彼女も地元の三高に入学してもおかしくないな」

 

一高でドッペルゲンガー騒ぎを引き起こした経験からか、一旦転校先での変装に待ったをかける。

まったく同じ人間が現れたら一高での二の舞になるのでは?権三郎の中で疑問が浮かぶ。

このまま変装対象を変更するかと思いきや、屈んだ姿勢から一気に立ち上がると、

 

「いや、寧ろそれがいい‼︎もしも転校先で遭遇しても他人の空似で通してみよう。押し通して本人や周りに空似だと納得させるのも変装の達人ではないだろうか‼︎」

 

違った。

屈んだ姿勢から一気に立ち上がると、決意を表明した。

変な方向で尚一層変装への情熱を燃え上がらせる。

 

「名前は改名しておこう。次のはどんな名前にしようかな・・・迷う」

 

この際転校する度に100回以上改名した某エクソシストのように改名しまくるか。と考えるが、実際にやろうとすれば、両親は反対するだろう。

現在の名である権三郎に改名する際も大きく反対した。

顔を変えるのはいい。それが我が子の安寧に繋がるならば。しかし、自分達が名付けた名前だけは大切にしてほしいと願っての行動だ。

 

「改名は後で考えるとして今の学校をどんな風に去ろうかな。何も告げずに黙って去るのは面白くないし、やっぱり去り際の台詞は大事だよね!」

 

親の心子知らず。

両親の細やかな願いを知らない権三郎は転校計画を練る。

頭から冷水を浴びながら暫く考えると、

 

「司波兄妹だけでなく、生徒会にもわざと正体を明かして華麗に去ろう。ふっははは、よくぞ見破ったな生徒会諸君。さらばだって感じで。うん、これでいこう!」

 

風呂場の鏡の前で去り際の台詞を呟きながら決めポーズの確認をする。

鏡の中に映るのは相変わらず、頭からつま先まで死んだ珊瑚のように真っ白な容姿。

紫外線による火傷の痛みは引いたが、所々爛れが目立つ。真っ白な素肌などで尚目立つ。

両親に見つかれば、明日病院もしくは、そのまま転校引越しに付き合わされる。

明日カッコよく学校を去る警戒が台無しだ。

両親が帰ってくる前に爛れを隠す意味合いも込めて適当な皮に着替えなくては。

権三郎は風呂場から出て身体を拭くと、まだ水気のある白髪のまま自室のクローゼットに閉まってある皮を取りに二階へと上がる。

階段を上がり部屋の前に差し掛かった時、

 

「あっ生徒会といえば、生徒会室の窓ガラスの弁償がまだだった・・・どうしよう」

 

割った時点でとっとと弁償しろ。

第三者が聞けば間違いなく怒鳴る言葉を吐く権三郎だった。

自分が呑気にやってる間に司波兄妹及び生徒会メンバーからの包囲網が迫っていることも知らずに。

 

 

 




原作を読む中で達也もですが、深雪も十分チート過ぎる。原作勢であの兄妹を倒せる存在はいるのだろうか(汗)

それはそうと、あと少しで入学編を終わらせるので、ゆっくりな更新を大目に見て下さい(平伏)
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