陰実を参考にタグにある勘違い要素を加えた話を投稿しました。上手く登場人物達が勘違いできてるといいなと感じている次第です。
入学2日目早朝4時。自宅の自室にて。
まだ薄暗さが目立つ時間帯に起床し、ベッドから這い出ると一番に部屋のクローゼットを開く。
「今日はマスク型でいいか」
中に掛けられてる皮の内、首のないゴンちゃんの皮を手に取ると背中の隠れたファスナーを開いて着用する。
ボクの被る皮には大きく分けて二種類ある。
頭部と胴体が合体している一体型。
頭部が別パーツのマスク型。
頭からつま先まですっぽりと被る一体型は正体が露見し難いが、その分着替えに手間取りやすいのと、制作の際に変装対象者の身体的特徴を沢山収集する必要がある。
対してマスク型は状況に応じて顔だけ交換できるが、胴体と別離しやすい。
昨日着用していたのが一体型で今日はマスク型だ。
姿見の中には相変わらず真っ白な素顔、その下は血色のいい身体と不自然な自分の姿が写る。
「今日は少し気温高めで暑くなるし、パットは外付けでいいや」
皮の上からパットを当て下着で固定する。勿論女物だ。ワタシ完璧主義なんで♪
皮の下から直接パットを装備すれば、直接見られても皮で見えないし下着で固定すれば型崩れしない。
しかし、暑い日は蒸れるからやりたくない。
魔法で通気を良くすればいいが、今日はそこまでリソースを割る必要もない。
軽く支度を整えると、下着姿で作業台に移動してある作業に取り掛かる。
「♪〜♪〜♪、うん、我ながらいい出来栄えだ」
ボクは鼻歌交じりに自室で日課の皮もとい変装用マスクの作成に勤しむ。
魔法師は顔の造形がいいから、制作する側も腕が鳴る。
現在制作しているのがマスク型の皮である。
顔だけなら特徴を収集しやすい。肉眼による直接観察あるいは写真撮影等。
「よし!これで完成だ」
最後の皮を完成させる。
作業台の上に乗る完成品のマスク型ーー深雪ちゃんの皮を作り上げることに成功。
表現が色んな意味で怖いが、ホラー映画みたいなグロい真似はしない。
これはあくまで、シリコン製の変装マスクである。
もう一度言うが、我ながら見事な出来栄えだ。
この深雪ちゃんに行き着くまでに、昨日帰宅してから何度も作り直した甲斐があったよー。
早速部屋の姿見の前で試着する。
首から下はゴンちゃんでいいか。
皮を被り、後ろ髪をたくし上げ、弛んでる頸部分ーー真っ白い素肌が覗いている場所に手を添える。
素肌が隠れるよう指の腹で弛みが均等に真っ平になるように伸ばしてやる。
頸は髪で誤魔化せるが、万が一があっては大変だからね。
上手く整えると、目を閉じて皮に想子を流し込む。
再び目を開けた先、姿見の中には深雪ちゃんがいた。
「どこから見ても深雪ちゃんだね。アッアッゴホンッ。流石ですお兄様。深雪のことが嫌いなんですか!この痴れ者が。流石ですお兄様、なんちゃって♪」
声帯模写で深雪ちゃんの声を真似る。
最後にもう一度流石ですお兄様通称さすおにで締める。
深雪ちゃんと言えばこれだね。
暫く姿見の前でポーズを取って遊んでいると、鏡写しで後ろの壁掛け時計に目がいく。既に登校時間が迫っていた。
ヤベッ、制作に夢中になり過ぎて時間を忘れていた。
深雪ちゃんのまま制服に着替えると部屋を出て、階段を降りてリビングに躍り出る。
「おはよう権三郎」
「おはよう母さん」
現代では珍しくリビングのキッチンで朝食作りを行う母さんと挨拶を交わす。
テーブルにはよく焼けた朝食のトーストが皿に盛られている。
ウチは朝はパン派なのだ。
「あら、今度は随分と綺麗な子ね」
「ふふん!でしょう。自信作なんだー」
胸を張って深雪ちゃんに変装した自分を見せる。
本物の深雪ちゃんは絶対にしないな。
そんな姿のボクに何事もなく自然に話しかけてくる母さん。
見知らぬ人間がいきなり現れたら大抵は驚く。寧ろそれが普通だ。
しかし、母さんは、ボクがどれだけ姿形、声色、立ち振舞いを変えてもボクだと見抜く。
今は仕事でいない父さんも同じだ。
「もうゴンちゃんの姿はやめて、その姿で登校するのかしら」
「ううん。このガワでは登校しない。暫くはゴンちゃんのガワで学校生活を送る予定だよ」
首を横に振って否定の態度を示す。
ダブル深雪ちゃんも面白いが、本人が混乱するし、達也君にバレたら良くて半殺し、最悪分解されるけど、スリリングな変装もいい!
やっぱり、学校手前まで深雪ちゃんで登校しよう。
ボクが予定変更を決意すると、
「権三郎貴方の顔を見せて」
母さんが神妙な面持ちで、突然素顔を見せてほしいと言う。
「別にいいけど・・・」とボクは深雪ちゃんの皮を脱いで、死んだ珊瑚のような素顔を晒す。
「一度でいいから、本当の顔で登校してみない?ほら、魔法学校って多様性に富んでるらしいから、貴方の事情を受け入れてくれる友達がきっといると思うわ」
「っ嫌だ」
母さんの提案に明らかな拒絶を示す。
ボクは変装の達人になりたいのだ。
その為にも素顔を晒せば、◯パン師匠の信条に反する(家族はノーカンね)。
「大丈夫よ。昔に比べたら、全然可愛らしい顔立ちだし、そりゃ、他の人に比べたら白っぽいけど、些細な違いだと思うわ」
「思うって、あくまで希望的観測じゃん。誰も受け入れてくるワケがないよ」
変装への道は悲しいことに孤独なのだ。
勝手に他人が自分に変装して喜ぶ人間はいない。
それを覚悟でボクは変装の達人を目指している。
ボクの心情を察したのか苦悶の表情を浮かべる母さん。
「やっぱり・・・今でも自分のその顔が嫌い?誰かの中に隠れていないと、周りが怖くて堪らないの?」
あれ?なんで顔の話題に変わった?
別にボクは自分の素顔が嫌いじゃない。この顔で産んでくれた母さんを恨んだことだってない。
寧ろ、感謝してるくらいだ。だって素顔を隠す理由ーー自分の素顔を人前に晒すのが怖いという設定ができるからね!
自分の姿を嫌悪し、それを隠すために他者の姿を装う。
うーむ、我ながらいい設定じゃないか。
再び皮を被り直し、深雪ちゃんになる。
「ボクはワタシ。このガワこそが私だよ。ガワ(これ)だったら顔わからないじゃん。被ってる間は周りなんて怖くないよ」
「・・・そうね、ごめんなさい。嫌なことを聞いてしまったわね」
「別にいいよ。今更だし」
話し込んで少し冷めたトーストに齧り付く。
咀嚼しながらカウンターに飾ってる自分の写真を眺める。
幼稚園から中学校まで全部違う顔で女の子だ。
その中でも一際大きな額縁に納められた中学時代の写真が特に目立つ。
同じ制服姿の自分と女の子とのツーショット。
これは昔の自分への戒めだ。
◯パン師匠ごめんなさい。自分は嘘をつきました。
我が一生の不覚。
中学時代、一度だけ家族以外に素顔を半分見られた事がある。それが一緒に写る同級生の女の子だった。
忘れもしない中学2年の夏の暑い日。
当時、変装・制作技術共に未熟で通気性の悪い皮を被っていたのが悪かった。
メチャ蒸れて我慢できず、放課後誰もいない教室で顔の皮を顎まで脱いで扇いでいると、同級生の女の子が突然入ってきて見られた。
異様な光景に立ち尽くしている相手を突き飛ばして、急いでそのまま帰宅した。
半分とはいえ素顔を見られたのだ、父さんに頼んで即行引越し転校しましたよ。
ついでに転校先で顔は勿論、名前も変えた。
ボクの名前権三郎も改名によるものだ。
両親は改名に反対したが、過去の失敗を拭い去るには、これくらい徹底しないとダメなんだ。
ボクでもアレは苦渋の決断であり、改めて絶対に素顔を晒さないと誓った瞬間だった。
過去の失敗を反省していると、母さんが戒めのツーショットを手に取る。
なんでよりにもよってソレを選ぶ?あっそういえば、あの子突き飛ばして大丈夫だったかな。
「この写真の子覚えてる?最初に通っていた中学校で特に仲良かった名前は確か北や・・・」
「ッ⁉︎行ってきます」
変装道具を詰めた通学カバンを手に逃げるようにリビングから玄関に向かう。
流石、母さん。ボクの古傷を抉ってくる。
まさか、ボクの素顔を見た昔の同級生の名前を出してくるとは。
玄関を出ようとした所で、母さんが見送りにやって来て「待って」と一言かける。
「お願い権三郎。行く前にもう一度だけ顔を見せて」
しょうがないな、と深雪ちゃんマスクを脱ぐと母さんが優しくボクの顔を抱擁する。
「覚えておいて。他の人が貴方の顔をどんなに悪く言ってもお母さんは嫌いにならないし、寧ろ大好き。お父さんだって同じことを言うわ。だから、貴方も自分を嫌いにならないで」
「う、うん」
反応に困ってしまい口籠る。
急にどうしたんだ。ハッ⁉︎まさか、息子が変装にかまけ過ぎているので将来を心配しているのか。
名門校に入学したとはいえ、きっと本音では不安があるに違いない。
大丈夫、立派な変装の達人になって親孝行するから!
このままでは遅刻するので、母さんの抱擁から抜け出ると皮を被り「行ってきます」と告げて家を出る。
登校するだけなのに世界が変わった。
昨日と同じ通学路を歩くだけなのに、すれ違う通行人の視線、視線、視線の嵐。
視線に酔いそうだ。
深雪ちゃんはいつもこんな気持ちなのかな。
達也君が守りたくなるのも無理ないぜ。
「助けて〜お兄様なんちゃって♪」
深雪ちゃんボイスで一人芝居していると、翻訳教室の広告が目立つビルの側で見知った顔と遭遇。
「あっ美月ちゃんだ。やっほー」
「えっ深雪さん。おはようございます」
美月ちゃんに明るく生き生きと手を振って挨拶する。対して彼女は律儀にぺっこりと丁寧にお辞儀で返す。
完全に騙されているね。
「ここで会うなんて奇遇ですね。この近くに住んでいるのかしら」
「いえ、実は母がこのビルに翻訳教室を構えていまして、今日は偶々登校ついでに忘れ物を届けに寄っただけです」
暫く並んで登校していると美月ちゃんが不意に足を止める。
「あの・・・達也さんは一緒じゃないんですか?てっきり2人で登校しているとばかり。それに深雪さんはこの近くじゃないですよね」
控え気味に口を開く。
昨日のカフェの談笑で所在地についても触れた。
確かに司波家はこの近くに住んでいない。
「実は昨日お兄様と喧嘩しまして、別々に登校することにしたの」
「達也さんと喧嘩なんて想像できませんね」
ボクの即興の嘘に美月ちゃんは釈然としない。
くく、確かに本物の深雪ちゃんは絶対に喧嘩しないね。
「深雪さん少し変わりましたか?」
「・・・どういう意味かしら?」
この感じはまさか⁉︎
察したボクは敢えて質問に質問で返す。
「昨日と違って深雪さんらしくないといいますか、ビルの前での挨拶と達也さんとの喧嘩は深雪さんの人柄から離れ過ぎてます」
「私だってお兄様と喧嘩くらいするわ。だって、兄妹ですもの」
「百歩譲って喧嘩は納得しましょう。でも、朝の挨拶だけは疑問があります」
「疑問?だだ普通に挨拶しただけよ。どこか変な所があったかしら」
困ったわと頬に手を添える。
戯けるボクの進行方向を塞ぐように美月ちゃんは前に出ると、
「深雪さんは私を美月ちゃんではなく、美月さんと呼ぶんです」
面と向かって言い放つ。
美月ちゃんサイッコウ。君は探偵か。
これ以上の誤魔化しは無理と判断したボクは、深雪ちゃんの顔で「てへ♪」と舌を出して戦略的撤退。
平たく言えば逃走を選んだ。
「あっ待ってください」と呼び止める美月ちゃんの横をすり抜けて先を急ぐ。
危なっ⁉︎腕を掴まれそうになった。顔に似合わず行動力あるわー。
「あの!深雪さん本当に待って、いえ、本当に深雪さんなんですか!アナタは誰なんですか‼︎」
必死に叫ぶ美月ちゃんを尻目にぐんぐんと距離を引き離す。
友達に化けた正体不明の存在を追うメガネ女子。
追われる側からしたら、最高のシチュエーションじゃないか!一度これやってみたかったんだ。
深雪ちゃんだと通行人は勝手に道を開けてくれるから助かるよ。
あははは、この顔は逃走に誂え向きだね。今度はエリカちゃんを揶揄ってみよう。
上手く美月ちゃんを撒くことに成功すると、近くの公衆トイレに駆け込む。
こういった変装のためのスポットは調べてあるのだ。
さて、ゴンちゃんに変装しないと。
過去にオリ主君の素顔を見た女の子が誰なのかもう分かりますね。
原作知識がありながら、同じ一高に通う理由は次回に投稿する予定です。
深雪顔で達也は当然として、特にあの人を彼を、か・れ・を早く揶揄いたい!そのためには入学編を書き上げるのを目標にします。