今回の話は後半から三人称視点で執筆してみました。ぐだぐだかもしれませんが・・・
1限目、2限目・・・午前の授業は殆どが校内見学を兼ねた移動教室。
授業の合間に雫ちゃんを介して、ほのかちゃんとも親睦を深めた。
中学時代も似た形で2人と友好を結んだっけ。懐かしい。
実習棟で行われた3年生による魔法の実技演習は見所満載。
特に印象的だったのは、真由美先輩による放出系統魔法の実演。
彼女の魔法動作は実に参考になったよ。後々”ワタシ”の為に利用させてもらおう。
4限目の実習棟での見学授業が終了し、最後にみんなで一斉に「ありがとうございました!」と指導教員にお礼を述べて昼休憩に入る。
時刻は12時20分。丁度昼食時だ。お腹が空いてるからご飯を食べて午後に備えたい。
学食に足を運ぼうとすると、深雪ちゃんの周りに人集りができるの目の当たりにする。
「あの・・・司波さん。お昼どうされますか?」
「学食に行くつもりですが・・・」
「ご一緒してもいいですか?」
深雪ちゃんがクラスメイト達に学食へ誘われる。
本人は顔に出さないが、クラスメイトたちの押しに内心戸惑っているのがワタシには判る。
人気者はつらいねぇ〜。達也君たちと学食を共にしたいが、クラスメイトたちのお誘いを蔑ろにするのも気が引けるのだろう。
「席が空いていれば・・・」
「では埋まらないうちに急ぎましょう!」
控えめな言動ながらも、深雪ちゃんから了承を得ることに成功した森崎君が嬉々として仕切りだす。
はっきりと断らないから相手がOKと勘違いするのになー。
「えっと森下くん・・・?」
「なぜ、仕切る?」
ワタシの隣に立つほのかちゃんと雫ちゃんが頭に疑問符を浮かべる。
森崎君の行動には自分も思うところがある。深雪ちゃんの関心を引くつもりだね。おのれモブ崎。
あと、ほのかちゃんさりげなく名前を間違ってる。
森崎君たちに半ば強引に連れ出される形で深雪ちゃんはクラスメイト達と共に学食へ向かう。
殆どの生徒が深雪ちゃんに続くように実習棟を後にした。
去り際の彼女の横顔は戸惑い色が見てとれた。
若干可哀想な気もするが、この場合は拒否の姿勢を示さなかった深雪ちゃんが悪い。
ワタシは気持ち切り替える。
学食には達也君たちがいる筈だ。早く行って彼らで遊ぼう♪
学食へ移動しようとすると、後ろから雫ちゃんに袖を引っ張られる。
「ゴンちゃんよかったら一緒に行かない?」
唐突な食事へのお誘い。
雫ちゃんからのお誘いは正直迷うところである。
学食にいる筈の達也君たちで遊びたいが、雫ちゃんとほのかちゃんも捨てがたい。
うーむ、今なら深雪ちゃんの気持ちが分かる気がする。正直どうしようかな。
「うん。いいよ、一緒にいこう」
脳内で逡巡したが、ここは雫ちゃんのお誘いに乗ることにした。
達也君たちで遊ぶ機会はまだあるし♪
「ほのかもいいよね」
「勿論いいよ。わたしも権三郎くんと一緒に食べたいし」
こうして3人で食堂へ向かうことになった。
「(ジーッ)」
「どうしたのかな。ワタシの顔に面白いものでも付いてるの?」
「・・・別になにもない」
道すがら、雫ちゃんがワタシの顔を妙に凝視するのが気になる。
顔に何かついてるかな?皮なら被ってるけど。
***
ワタシ達が食堂に到着すると、既に大勢の生徒で賑わっていた。
この中で空いてる席を探すのは大変そうだ。
キョロキョロと辺りを見渡していると、
「司波さんのお兄さん・・・と二科生の友達か。なんだかちょっとガラが悪そうかも」
ほのかちゃんがテーブルに腰掛ける達也君たち(エリカちゃん、美月ちゃん、まだ面識はないが原作知識で認知しているレオハルト君)二科生を発見。
「ガラが悪いって、ほのかちゃん面食いだね。席は多くて6人掛けか」
「私たち邪魔かも」
「雫ちゃんもそう思う?深雪ちゃんは本当は達也君と一緒がいいもんね」
「司波さんだけじゃなくて、下の名前で呼ぶくらいに権三郎くんはお兄さんとも結構親しいの?」
「達也君とは将来を誓い合った同士だからね」
達也君の耳に入るように声を響かせる。
変装術で鍛えたワタシの声量は伊達じゃないぜ。
一瞬彼の背筋がブルと震えるのを捉えた。
「将来ってことはゴンちゃんはそっちの気があるの?」
ワタシの冗談に雫ちゃんが珍しく茫然と表情に出す。
その顔に見覚えがあった。
何だよその友達の意外な一面を覗いたような顔は。
中学時代にワタシの素顔を見たときも同じ表情を浮べるなよ・・・。
嫌なことを思い出したので、明るい笑顔を貼り付けて話題を変える。
「なーんてね♪冗談だよ冗談。ワタシは男で異性愛者。恋愛対象は女の子。本気にしないでよ」
「もう!権三郎くん驚かさないでよ。本気だと思ったじゃない。でも、意外だね。てっきり恋愛とか興味ないとばかり」
「うん。自分大好き人間だと思ってた。恋愛には興味はあるんだ」
三者三様ならぬ二者二様。
ワタシの人柄をそれぞれ述べる。
うん、このやり取りが丁度いい。
うまく話題を変えることに成功して、皮の下で安堵する。
それから暫く雑談していると、学食の出入口から見知った集団が姿を表す。
「えっとあれは森下くん・・・?」
ほのかちゃんの視線の先、森崎君を筆頭にしたA組の面々を発見する。その中には深雪ちゃんも混ざってる。大所帯の取り巻きのせいでワタシ達よりも到着が遅れたようだ。
ほのかちゃんまた名前間違ってるし・・・せめて名字くらい覚えてあげようよ。
哀れモブ埼君。
遠目で確認する限り、森崎君が達也君初め二科生たちに「席を譲れ補欠くん」と言い寄ってる。
森崎君を皮切りに他の一科生達も口々に「自重しろウィード」「ウィードは所詮スペアなんだから」と学校の禁止用語を交えて、席を譲れと要求している。
深雪ちゃんの嫌悪を買うことになってると気づかないのかなー。
状況を把握したほのかちゃんが不快感を露わにする。
「信じられない。いくらなんでも横暴すぎるよ」
「大方深雪ちゃんにいいところ見せようと躍起になってるんじゃないかな。男って気になる女子の前だとIQ下がるよねー」
「ゴンちゃん 後半からさり気なく酷すぎ」
「結構ズバズバ言うよね。その理屈だと権三郎くんも男の子だから含まれるよ」
「ノン!余計なことを言わないでほのかちゃん」
「それはそうと止めに行く?」
「余計な波風立てる必要もなさそうだよ」
達也君が「俺はもう終わったから行くよ」と言って席を譲り渡す。
下手に反論して妹がもめ事に巻き込まれるを避けたのだろう。
よく見れば、彼が手に持つトレイの料理はまだ半分も減っていない。
達也君に続くようにエリカちゃんが「アホらし。私たちも行こう」と立ち上がると、他の二科の面々を伴ってトレイの返却口へ。
「さ司波さん。空きましたよ」
「え・・・でも」
二科生を強引に席から退けた森崎君を初め一科生のやり方に深雪ちゃんは若干引き気味だ。
そんな彼女をほのかちゃんは心配気味に眺める。
「司波さん大丈夫かな。本当はお兄さんと一緒になりたかったのに・・・」
「しょうがない。ここはワタシが一肌脱ぎますか」
「一肌って・・・ゴンちゃん何するつもり?」
雫ちゃんに「まあ、見てのお楽しみ」と呟くと機会を伺う。
不服な趣きで深雪ちゃんが椅子に腰を下ろそうとしたタイミングでそれはきた。
ここだぁ‼︎
達也君が座っていた椅子の背もたれに森崎君が手を掛けた瞬間、クラスメイト達の和の中に颯爽と飛び込む。
ちゃっかり、深雪ちゃんの隣に座ろうとするなんてワタシが許さないよー。
「みんな〜こんな所で何をしているのかな?」
「ゲェ⁉︎佐々木。なんでお前がここに」
突然のワタシの登場に森崎君だけでなく、他の一科生や深雪ちゃんまで目を丸くする。
変装者としてやりたい事の一つ。
大いに場をかき乱す。
「ご飯食べるからに決まってるじゃない。ワタシがいたら悪いの?」
甘えるような上目遣いでヂリヂリと森崎君に迫る。
それに合わせて彼はテーブルから離れて後ろに一歩、また一歩と下がってワタシから距離を取る。
偶然なのか、後退方向は食堂出入口の方を向いて。
「ねぇ、どうして離れるの?あっ照れてるのかな?森崎君可愛い〜よかったら、ワタシも同席してもいい?君のと・な・りで♪」
森崎君にすり寄ると、彼の顔が一気に青ざめて、ゾワゾワと背中に怖気が走るのが手に取るように分かる。
「や、やめろ、こっちに来るな!ヘンタイ野郎ォォォォ‼︎」
「あっ待ってよ森崎くーん♪」
踵を返して脱兎の如く逃げる森崎君を追いかけるが、撒かれてしまった。
チッ!逃げ足の早い野郎だ。
仕切り役の森崎君が退場したことで右往左往の一科生たち。深雪ちゃんも未だに困惑気味だ。
さて、モブ埼君も排除したし、仕上げといきますか。
「みんなごめんね。ちょっと深雪ちゃんを借りていくね。さあ、行きましょう深雪ちゃん」
「あの、ちょっと権三郎君⁉︎」
深雪ちゃんの手を引いて出入口に向かおうとする。しかし、クラスメイトたちに道を阻まれる。
「佐々木君勝手な真似は困るよ」
「そうよ」
「え、ダメなの?」
うるうると涙腺に涙を溜めて抗議したクラスメイトたちの目をジーッと覗き込む。
その行為に彼らは「な・・・」と一言を最後に言葉を失う。
変装術で鍛えた秘技ウソ泣き。
多用すると涙腺が腫れて痛み出すから、回数制限があるのが欠点だけど。
「アクシデントで目にソースが入ったな」
「これでは誰が司波さんを連れて行こうとしているのか、わかりませんね」
そう言って、全員テーブルに備え付けの調味料を自らの目に入れる。
その結果、彼らは目が開けられない状態に陥る。
やり♪伊達に10年近く女の子に変装してないぜ。
改めて深雪ちゃんの手を引いて出入口に向かう。
「まったく女装なんてするから、みんながおかしくなったじゃないですか」
「あら、やめてほしいの?」
「どういう意味ですか」
深雪ちゃんと一緒に人混みから抜け出る。
その際に雫ちゃんとほのかちゃんに「後は任せた」とアイコンタクトで伝える。
意を汲み取ったのだろう。2人はグッとサムズアップで返答した。
後処理を彼女達に任せて、ワタシと深雪ちゃんは食堂を後にする。
***
「あのどこまで連れ歩くのですか?」
食堂を出て廊下に差し掛かったところで彼女の手を離す。
「改めてなんのつもりですか権三郎君。あ、ちょっとそれ以上顔を近づけないで。」
「えー、ワタシの君の仲じゃない。別にいいでしょう」
深雪ちゃんの抗議を無視して、変装者の危険ーー顔に手を添えられるのを承知で彼女に身を寄せる。
変装者たるもの偶にはスリルを味わってみないとね♪
「本当はさ・・・達也君と一緒にお昼取りたかったんでしょう」
「どうしてそれを・・・」
「いや、バレバレだからね。寧ろバレない方がおかしい」
「そ、そこまではっきりと言う必要ないでしょう。確かにお兄様とお食事をしたかったのは本当ですけど」
「購買でサンドイッチでも買って追いかければ、午後の授業にギリギリ間に合うよ」
ワタシの言葉に深雪ちゃんはふっと視線を上げる。
達也君のもとに向かえと暗に促す。
「どうしてそこまで・・・」
「友達が困っていたら、助けるのは当たり前でしょう♪」
お茶目にウィンクしてみせる。
恩を売っておけば、また深雪ちゃんに変装するときに役立つからね。
胸中で打算を企てる。
「お兄様にたびたびちょっかいを掛けて楽しむ妄言癖と女装癖を兼ね備えた変な人だとばかりに思ってましたけど・・・」
「ちょい待て!妙にワタシをディスってない?君のこと助けたよね⁉︎」
「その、ありがとうございます。このお礼は後ほどさせてもらいますから」
深雪ちゃんは照れ気味にお礼を述べると達也君を追いかけて歩み出す。
「お礼は君の顔を貸してくれたらいいよ。なんちゃって♪」
ぼそりと洩らす。
その言葉を聞き取ったのか。深雪ちゃんは足を止めてこちらを振り返る。
ヤベッ聞こえてた?
「えっ今何とおっしゃいましたか?顔がどうの・・・」
「あー、なんでもない。ほら、早く行った行った。休憩が終わっちゃうよ」
詮索する彼女を追い払う形で早く向かうように急かす。
離れて行く深雪ちゃんの背中を眺めながら、この後の予定を立てる。
危ない危ない。でも、丁度いいスリルも味わえたし満足である。今度は森崎君でも捕まえて遊ぶか。
***
「お兄様ー」
達也たち二科生組が学食を後にしようすると、後ろから達也を呼ぶ声がする。
彼らが歩を止めて振り返ると、声の主は達也の妹の深雪だった。
購買で購入したのだろう、その手に沢山のサンドイッチを抱えて達也たちの方に近づいてくる。
意外な人物の登場に「深雪?なんで」「深雪さんどうして」「あれってタツヤの妹じゃねぇか」とエリカ、美月、レオハルトの順に驚きを口にする。
妹の登場に達也は意表を突かれるが、すぐに気持ちを切り替えて冷静に対処する。
「どうしたんだ深雪。クラスメイトたちと一緒じゃないのか」
深雪は一科生のクラスメイトたちと食堂にいるはずである。
「実は権三郎君がお兄様の元に行けるように取り計らってくれたんです」
「なに?あの権三郎が」
妹の口から意外な人物の名前が出たことに達也はまたも意表を突かれる。
佐々木権三郎。
実家の関係上、人間観察にある程度の自信がある達也からしても、女子にしか見えない男子生徒。
本気か冗談なのか、自分に絡んで来る権三郎に正直達也は苦手意識を持っている。
人柄はどうであれ妹を助けてくれたことに変わりはない。
今度会ったら礼を述べておくか。
そんな考えが達也の頭をよぎるが、同時に礼を述べたらまた絡まれるのでは?と疑念が浮かぶ。
「よろしければ、昼食をご一緒にしませんか?あんな形で退席させてしまって、ちゃんと食べてないと思って。もちろん、お兄様が嫌でなければ・・・」
深雪は自身が抱えるサンドイッチに視線を落とす。
その様子に達也は先程までの疑念を一旦先送りにした。
「そんなわけないじゃないか深雪。寧ろ、俺もお前と一緒で嬉しいくらいだ」
「お兄様・・・!」
兄妹の周りにだけ別の甘い空気が漂う。
完全に2人だけの世界に入る。
「あー、お二人さん。イチャイチャしているところ悪いけど、お昼済ませるなら早くしないと。休憩なくなっちゃうわよ」
「そういうやり取りは別のところでやってくれ。見てるこっちが変な気になるぜ」
2人の醸し出す空気に耐えかねたエリカとレオが割り込む。
「あの、皆さんの分も買ってきたのですけど、宜しかったら一緒に食べませんか?」
「マジで?ありがとう深雪。正直言うと全然食べてなかったのよね助かるわー」
「おっ!いいのか。オマエの妹さん気が利くじゃねえか。勿論代金は払うぜ、それでいいだろうタツヤ」
兄の肩に手を掛けて親しげにするレオに深雪が尋ねる。
「あの失礼ですけど、貴方は?」
「おっと。自己紹介がまだだったな。オレは西条レオンハルト。気軽にレオって呼んでくれ。よろしくな」
「レオ君ですね。はい、こちらこそよろしくお願いします」
レオの紹介を終えて、一同は昼食を取れる場所を探す。
その中で美月だけが終始無言でいるのを達也は気になっていた。
***
達也たちは一科生がいる学食を避けて、中庭の芝生の上で昼食を取った。
皆で円を描くように昼食を取るその姿はちょっとした遠足のような光景。
本当に一緒になりたい仲間と昼食を共にできて深雪は満足気だ。
昼食を終えてお開きに入るところで、
「美月、なにか言いたいことがあるんじゃないか?」
突然の達也からの指摘に美月は「えっ」と固まる。
「美月さんがどうしたのですか?」
「教室で見かけた美月の反応が妙に気になってな」
達也は今朝教室で自分と顔を合わせてから何かを言いたげなの美月の様子に疑問を抱いていた。
それが学食で深雪を見てから公然と見てとれた。
「何か言いたいことがあるなら、言っておいた方がいい。勿論、美月が言いたくないなら無理にとは言わないが」
「・・・いいえ、達也さんに言われてやっと決心が付きました。言わせてください」
意を決した趣きで美月は深雪に尋ねる。
「あの深雪さん。今朝はお一人で登校しましたか?」
「いいえ、お兄様と一緒に登校したわ。そうですよね」
「あぁ、深雪とは家から学校の昇降口で別れるまでずっと一緒だった。どうしてそんな事を聞くんだ美月?」
美月は「やっぱり・・・」と呟いた後で、事の経緯を全員に語り出す。
母親の忘れ物を職場に届けた事。そこで深雪そっくりの人物と遭遇した事。
彼女の経緯を黙って聴き終えた達也と深雪は何とも言えない表情を浮かべる。
代わりにレオが口を開く。
「他人の空似じゃないのか?」
「アンタ美月の話をちゃんと聞いてた?最後はあからさまに自分は偽物ですって白状するように逃げるなんて怪し過ぎよ」
「魔法による成り済ましか?街中にはセンサーが至る所にあるんだぜ。魔法を使用すれば即刻通報されるぞ」
「美月からしてその相手は魔法を使用しているようには見えたか?」
魔法による成り済ましの可能性を考える。
「いいえ。ごく自然体で、魔法を使用しているようには見えませんでした。声と立ち振舞いは深雪さんそっくりでしたし、それに・・・」
「それに、なんだ?些細なことでもいい。気づいたことがあるなら教えてくれ」
「オーラも深雪さんとそっくりだったんです。相手の失言が無ければ、あのまま深雪さん本人だと勘違いしていたと思います」
美月の発言に顔には出さなくて、達也は内心驚愕した。
姿のみならず美月の目を誤魔化せる、オーラまで似せた高度な成り済ましに達也は警戒を強める。
「美月が言うならそうなんだけど、他人のオーラを、霊的なものって真似できるものなの?」
「私の見てきた限りでは、オーラは人によって別々のモノです。他人のオーラを真似る人を見たのは今日が初めてです」
会話が続く傍で達也は考察を続ける。
深雪に成り済ました人間の目的は?どこまで成り済ませるのか?
深雪の魔法技能まで真似できるとは思えないが、もしもできるとすれば、警戒をする必要があるな。
深雪を語って良からぬ企てを実行に移される前に、いや既にもう・・・
様々な思考を巡らす中で、「お兄様・・・」と呟く深雪な不安げな囁き声に達也はハッと我に帰る。
「大丈夫だ。お前が心配する必要はないさ(深雪の為にも早めに対処しなくては)」
妹の頭にそっと手を添えて今後の対処を決意する。
その後も仲間内で深雪の成り済まし犯の話題は続く。
「深雪に成り済まして何の得をするのよ?まぁ、ある意味では得でしょうけど」
エリカは深雪に軽く視線を移す。
深雪の容姿は誰もが羨むほどに整い過ぎている。
「どうしてその人物は私に成り済ましたのでしょうか?」
「自分の容姿にコンプレックスを抱いているとか。それなら深雪さんに成り済ましたくなる気持ちもあるかも」
顎に手を添えて思考する美月の姿は探偵のようだ。
「ってことはよ。成り済まし犯はタツヤの妹と最低限の面識がある人間じゃねぇのか」
「その可能性はあるな。もしくは遠巻きから眺めていた線も捨て切れないが」
「アンタにしては冴えてるじゃない」
「余計なお世話だ!」
「いや、犯人への突破口のきっかけになったことは事実だ」
もっと議論したいところで昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴る。
達也たちは芝生から立ち上がる。
「深雪以外の人間にも成り済ますかもな」
達也の発言に皆が足を止めて気付く。
深雪に成り済ました事実が強過ぎて、その可能性を考慮していなかった。
「もしかして、タツヤ君さ、ここにいる人間を疑ってる?ちょっと傷付くけど」
「そんなっ・・・私は深雪です!お兄様の妹の深雪です‼︎決して偽物ではありません・・・‼︎」
「達也さん、証拠になるか分かりませんが、入学式の時に見たおふたりのオーラの詳細を語りましょうか?」
「オレはホンモノだぜ。何なら朝のコイツとのやり取りを1から10まで細かく言ってもいいぜ」
エリカは睨みを利かせ、深雪は悲痛な叫びを、美月は入試式のやり取りについて、レオはエリカを指差す。対してエリカは「誰がコイツよ」と文句を述べる。
「いや、俺の視る限り、ここにいる人間は全員本物だ。断言してもいい」
「大した自信ね。根拠はあるの?」
達也はここにいる全員対して自身の異能『精霊の眼』を使用した。その結果、全員本人と判明したが、もしも犯人が情報体まで偽造できるとすれば話は別だが。
エリカの問い詰めに『精霊の眼』については伏せて、上手く誤魔化しを混ぜた説明を述べて取り敢えず納得させる。
最後に達也は深雪に向かって、
「俺が特に自分の妹を、お前を間違えるわけないだろう」
「お兄様・・・!はい、お兄様が私を偽物と疑っているのではと思っていた深雪が馬鹿でした」
深雪は感動して、達也の腕の中に飛び込む。
再び兄妹とは思えないイチャイチャした2人だけの空間が広がりを見せる。
その光景に残された3人の心境は『うわー、兄妹とは思えねー』とピッタリと一致する。
***
一方その頃。
廊下で深雪と別れた権三郎はある場所を目指していた。
「授業の前にトイレに行っておこう♪」
到着したのは男子用と女子用で別れたトイレの入り口。
勿論彼?が使用するのは男子トイレである。
突然入ってきた見た目は完全に女子の権三郎にトイレーー小便器を使用していた一年生の男子達は驚く。
彼らの反応など気にも止めず、迷わず小便器前に。
そして、スカートをたくし上げようとした権三郎に男子達が一斉に「ちょっと、待った!」とストップをかける。
「個室の方がいい?」
「「「個室でして下さい。お願いします‼︎」」」
男子達の必死の懇願に権三郎は個室へ向かう。
個室の扉に手を掛ける瞬間、男子達からは見えないように口の端を釣り上げる。
確信犯である。
因みに、権三郎の隣の個室では森崎が息を殺して隠れていた。