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司波邸にて
夕食を終えてから、洗い物をHARにセットする深雪の背後で達也はリビングのソファに腰掛けて、ジッと物思いに耽る。
そんな達也を心配した深雪は隣に腰掛ける。
「お兄様。もしかして、今日学校に出現した偽物が気がかりで仕方がないのですか?」
「やはり、深雪から見てもそう思うか」
「お兄様にはもう偽物の正体が分かっているのではないのですか。てっきり意外な人物で驚いているのでは」
兄には『精霊の眼』がある。その異能からは誰からも逃れることはできない。偽物の正体が暴かれるのも時間の問題だと深雪は考えていた。
しかし、達也からの返答は深雪の期待を裏切るものだった。
「いや、わからなかった」
達也が口にした言葉に深雪は「え?」となる。
「俺の眼には七草会長の情報しか読み取れなかったんだ。奴の正体を見破ることができなかった」
「そんな・・・⁉︎お兄様の眼をもってしても、そんなことがあるなんて」
深雪は信じられなかった。
『精霊の眼』が通用しない。それは達也にとって致命的なことだ。
「あぁ、自分でも信じられないが、この眼で見たんだ。事実であることに間違いない」
昼間の時点では偽物を見抜く自信があったが、今日自分の前に現れた真由美の偽物を見て、達也は内心言葉にはできない不安に駆られた。
もしも、偽物が深雪に化けて現れた時、自分は見分けられるだろうか。
達也の不安を察したように、彼の手の甲に深雪がそっと手を添える。
「私はお兄様が偽物ごときに負けるなど、思ってません。もしも、不安なら私も一緒になって力になります」
妹からの励ましいに達也は少しだけ気が楽になる。
弱気になっている場合ではないと自身を奮い立たせる。
それから暫く兄妹で対策を上げていく。
「合言葉を決めるのはどうでしょう?」
「そういった曖昧なものはマネされたら逆効果だよ」
「そうですね・・・なら、プライベートな話題はどうでしょうか?私とお兄様の生活について」
「俺たちの実家に関する内容まで漏れてないと思いたいが、万が一の場合もある。それに、人前で大ぴらに話せる内容でもないからな」
「そんな・・・それじゃあ、どうすれば」
八方塞がりな状況に深雪はしょんぼりと落ち込む。
そんな妹を慰めるように達也は彼女の頭を撫でる。
「そっくりに化けても、完璧に他人になりきるなんて不可能だ。どこかで必ず綻びが出る。美月への呼称や会長の身長差のようにな。その僅かなミスをなんとか見つけ出せればいいんだが・・・」
達也の中ではひとつ懸念があった。
「それに、俺はこれ以上奴の犯行がエスカレートしない内にケリをつけなければならないと思っている」
「何故ですか?初対面の印象から、ただの愉快犯のような気が・・・もしかして、また私に成りすますのを懸念しているのですか?」
「それも勿論ある。深雪は奴が語った他人に化ける動機については覚えているか」
「確か・・・綺麗で可愛いから化ける。他人に好かれたい。そんな風に口にしてたと思います」
「そうだ。俺が思うに奴が他人に化けるのは、愛情に飢えている。つまり、愛されたい気持ちから来るものだと考えられる」
「愛されたいから・・・でも、どんなに他人に成りすましても、それで得られる愛情は本物ではありません。成りすました本人に向けられるものです。それは少し悲しい気がしますね」
深雪は悲痛な表情で他人に成ってでも愛情を得ようとする偽物の生い立ちを想像する。
偽真由美の顔の下には偽物の素顔があること。
愛情に飢える、つまり、親や周りの人間から愛されなかった。
他人の容姿を羨み、妬み、成りすまして、それで隠そうとする。
それほどまで他人に知られたくない、見られたくない容姿なのだろうか。
そう考えると哀れみで胸がいっぱいになる。
「そんな奴の歪んだ愛されたいという気持ちが暴走する可能性がある」
「暴走ですか」
「例えば偽物が本人に化けても、本人をそのまま野放しにすれば、今日の七草会長のように成りすましが発覚してしまうだろ?ではどうするか。本人を消してしまうのさ。ずっと本人に成りすます為。愛されたい為にね」
深雪は口に手を当てて、顔を真っ青にする。
彼女の頭の中では自分の顔をした偽物が兄と何食わぬ顔で生活を送る最悪の光景が浮かび上がる。
それと並行して深雪の中で恐ろしさと怒りが入り交わる。
私に成り代わるなんて絶対に許せないと。
「愉快犯で済むならまだいい。しかし、このまま奴を放置すれば、更なる混乱を引き起す可能性が高い。魔法師界の重鎮に化けて、反魔法主義者との対立を激化させる潜入工作などお手のものだろう」
達也は続けて最悪の未来を語る。
「そしてそんな奴を十師族が放置しておくはずがない。特に四葉家がな」
四葉家。その名に深雪は自身の心臓がドクンと跳ね上がる感覚を覚えた。
「最悪四葉が粛清に乗り出してそれに巻き込まれる可能性もある。いや、巻き込まれるというのは生ぬるいか。叔母上ならば、俺たちを四葉の駒として使う可能性がある。他の十師族の見ている前で」
「私たちは高校生ではいられなくなりますね。四葉に戻らなくてはならなくなってしまう」
兄との生活がなくなってしまう恐怖に深雪は怯えて、無意識に震えてしまう。
見かねた達也はソファから立ち上がって、深雪の肩後ろからそっと優しく手を置く。
「怯える必要はない。奴が何者であろうと、俺とお前の生活を壊させてたりしない。もし、それが必要になったなら、四葉が出てくる前に俺が処理する」
「お兄様・・・ありがとうございます。それなら、尚更偽物の正体を暴かないといけませんね!」
四葉の名が深雪の中で何か火をつけたようで、突然の妹の変わりように達也は「深雪?」と困惑してしまう。
意外にも、達也よりも深雪の方が偽物への感情ーー特に激昂が高い。
理由は自分になり代わって兄の隣でのうのうと生きる偽物の姿。もしも、兄が偽物を「深雪」と呼ぼうものなら耐えられることではない。
自分の兄に限って、そんなことは決してないが、万が一、万が一があるので深雪は一日でも早く偽物を捕まえなければと決心を強まる。
「今日は夜通し偽物への対策を考えましょう!」
「あ、あぁ。だけど、明日も学校があるから、程々にしよう」
「美月さんの場合を除いて、偽物は学校敷地内で現れました。学校に自由に出入りできる人間の可能性もあります」
「偽物が現れた時、あの場にいたエリカ、美月、レオ、光井ほのか、北山雫、森崎以下一科生、七草会長、渡辺風紀委員長は除外してもいい」
「今ある情報だけでは、とても正体に迫ることはできませんね」
「いや、そうでもないさ。確実に奴に近づいてはいる。この調子で次々に思い付く情報を上げていこう」
妹と情報合わせをする傍らで、達也は場合によっては自身の師匠に頼ることも視野に入れる。
***
司波兄妹が仲良く対策を練っている頃、司波邸から反対方向にある佐々木邸では。
鏡で怪我した手の手当を終えた権三郎は自室の姿見の前である人物の動作を真似ていた。
「確か、こう・・・いや、こうかな!」
フッ!シュッシュ!と棒切れを振り回す。
今日の校門前で目撃したエリカの剣士としての動きを模倣し、体得しようとしていた。
一体型の皮ーーエリカを模した皮を被り、その上から赤いレディースのスポーツウェアを着用して励む。
エリカに化けたのは、その方が気分が出るからだ。
権三郎が模倣体得できる動作と技には制約がある。
一つ。達也の『精霊の眼』のような異能や強化改造人間の特殊な身体能力までは模倣できない。
二つ。技は完璧に模倣できても、その威力は権三郎の身体能力に準ずる。
「ふぅふぅ。こんなものかな。あー、汗かいちゃったよ。やっぱりお風呂に入る前にやればよかった」
皮の中で汗だくになり、後悔するもある程度形になったので止める。
本人は知る由もないが、この時点で既に技の練度はエリカに迫っていた。
模倣されたエリカが聞けば「千葉の技は猿真似できるほど安くないわ‼︎」と激怒すること間違いなし。
「うーむ、発汗機能を追加した方がいいかな。汗が中で溜まるし、激しい運動に耐えられるよう近いうち改良しないと」
姿見の中の自分が変装したエリカは汗をかいていないが、その皮の中は汗でベタベタだった。
皮を纏う行為は一枚余分に重ね着すること。
中学時代の皮に比べればマシになったが、それでも暑いものは暑いのだ。なので、どうしても激しい運動後は皮の中で汗が溜まってしまう。
ここで手当てをした右手から滲むような痛みが。
「痛っ⁉︎やっぱり無理したのが悪かったかな」
皮の下に隠れた怪我で包帯を巻いた右手を眺める。
包帯に汗が滲んで傷口に染みた。
本当なら安静にするところだが、まだ記憶に鮮明なうちにエリカの技を模倣したい好奇心と向上心の方が勝った。
汗を流すため部屋を出て、階下の風呂場に向かう途中である事を思い出す。
「そういえば、達也君は何をしているんだろう。あのシスコンのことだから、ここにカチコミしておかしくないはずだけど・・・」
それが気掛かりだった。
自分が達也の眼を欺ける事に無自覚である変装者。
「ふふふ、何を企んでいるか知らないけど、ボクを現行犯逮捕、化けの皮を剥がせるのならやってみるといい。こっちとら、伊達に変装の達人を目指してないぜ!ひとまず今は周りから怪しまれないように明日からも普段通り登校することに専念しよう♪」
自分の知らない所で話が段々とエスカレートしている事に気づかない権三郎であった。
投稿ペースは遅いですが、焦りは禁物と最近自分に言い聞かせています。
初回の目標である入学編を書き上げることにまず一番に頑張ります。
早くリーナとオリ主くんを会合させたい(涙)