咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第11話 5日目 sideサクヤ  メイドの仕事、美鈴との邂逅

 道を何本か間違えてしまいながらも、夢で観た時の記憶をなんとか引っ張り出してようやくキッチンに辿り着いた私は、まず冷蔵庫の中身の確認をした。

 

(ふむふむ、いくつか知らない食材があるけどだいたい分かったわ。何を作ろうかしら……、朝だし軽い物を作ることにしましょうかしらね)

 

 手早く決断した私は、食材を取り出して料理仕度をする事にした。

 私の記憶の中では、咲夜はいつも5人分を作っていたはずなので、それに習うことにする。

 料理を始める前に、まずはキッチンの周りで遊んでいるメイド妖精達に調理を手伝うように指示した後、料理を作りはじめた。世界が変わってもキッチンの構造や調理器具は大差ないようで、普段通りの感覚で調理が行えるのは幸いね。

 そうして20分ほどかけてできた料理を、キャスター付きのトレイに乗せてから、キッチンの傍にあるダイニングルームへとキャスターを押しながら向かった。

 5分もせずに辿り着いたダイニングルームには、先程私に食事の用意を申し付けたレミリアが上座に座っており、その隣には金髪で宝石の羽が特徴的な吸血鬼とパチュリー、下座には龍という文字が書かれた帽子を被った赤髪の女性が座っている。彼女はこの館の門番よね? 昨日、咲夜のナイフが頭に刺さっていたけど、見た感じ怪我は無さそうだわ。

 そして私が料理を彼女達の目の前に並べていくとこんな会話が聞こえてきた。

 

「あーやっとご飯が来ましたよ~、お嬢様の言ってたことは本当だったんですね~」

 

 そんな赤いロングヘアーの女性の言葉に、レミリアは「私も最初咲夜から聞いたときは半信半疑だったけど、私の前を急いで走り去っていったからねえ、あんな咲夜は初めて見たわ」と相づちを打っていた。

 

(うーん……確かにレミリアの前でいきなり走り出したのは、はしたなかった気がするな)と自省しながら、やがて料理を並べ終えると、彼女達はそれぞれ自分のタイミングで「いただきます」と食事前の挨拶をしていた。

 私は壁際に立ち、彼女達の食事の終了を待つことにした。

 

(確かメイドってこうやって主人の食事が終わるまで待機するはずだったわよね……?)

 

 自分の行動に迷いながらも、彼女達の食事を見守る。

 

「パチェ、咲夜が能力を使えなくなったことについて、何か分かったのか?」

「?」

 

 不思議そうに私をじっと見るパチュリーに、アイコンタクトを送ると、自然な動作で視線を外し。

 

「まだ調査を始めたばかりだから何とも言えないわ」

「ふむ、そうか。いったい何が原因なんだろうな」

「レミィが働かせすぎじゃないのかしら?」

「そ、そんなこと無いわよ!」

 

 そう言いながらレミリアは私に「咲夜も一緒に食べない? 貴女時間停止できないんでしょ? 一緒に食べたほうが時間の節約になるし、熱々の料理を食べられるわよ」

「承知いたしました。心遣いありがとうございます」

 

 キャスターに乗っていた自分用の食事を、赤髪の女性の隣の座席の前に置き、私も着席した食事を取ることにした。

 今日の料理は、コメと魚に香辛料を使ったお粥で、私の地元では最も一般的に食べられていた料理だ。久々に作ったので味が心配だし、貴族に出すべき料理なのか不安だったけれど、それは杞憂だったようだ。

 赤髪の女性は目を輝かせながら「これとてもおいしいですよ! こんな味の料理初めて食べました!」と言い、レミリアは「確かにそうね、お粥に似てるけど、何処か違うわ。これはなんていう料理なのかしら?」と関心するように訊ねてきた。

 

「メパシェという料理です。私の地……ごほん、私が創作した料理なんです」と危うく地元の料理と言ってしまうところを抑えつつ答えた。

 

 それから簡単にこの料理のレシピをレミリアに伝え、2人と取り留めのない軽い雑談をしながら、私は食事を済ませた。

 やがて赤いロングヘアーの女性が一番先に食事を済ませて、一言礼を伝えてからダイニングルームを出た後、次にレミリアが料理を完食して部屋を出て行き、パチュリーと“妹様”の食事を待ってから、後片付けをする事にした。

 

 

 

 後片づけを終えた私は、急いで自室に戻り、ロッカーに仕舞ってあったナイフをいくつかメイド服に仕込み、自室を出た。

 

(このメイド服、さっき気づいたけど、色んなところにナイフがしまえるように作られてるのよね――まるで暗殺者みたい)

 

 ただのメイドにしては過剰な武装な気もするけど、この館――紅魔館にはレミリアを筆頭とした人外の生物ばっかりなので、仕方がないのかもしれないわね。

 私の魔法が使えば1000本でも2000本でも収納できるのだけど、無いものをねだっても仕方ないと気持ちを切り替える事にして、次の仕事について廊下の真ん中に立ち止まって考え始めた。

 

(確か咲夜の1日のほとんどは、掃除・洗濯・料理などの家事で終わってるのよね……、しかも時間停止も併用していたから、時止めできない今の私だと全部こなすのは無理そうね)

(……ていうか、時間停止能力をメイドの仕事にしか使わないっていうのもどうなのかしら。こんな凄い能力を持っていたら、メイドなんかしなくても他に色々できるでしょうに)

(まあいいわ。何から始めようかしら)と逡巡し、やがて(よし、洗濯にしましょう。お日様が出てる間にやらないとね)と決断して、洗濯場へと向かって歩を進めた――

 

 

 

(これは大変ね……)

 

 現在、私は洗濯場で、溜まった洗濯物と格闘していた。

 メイド妖精に対して指示を出しながら、一つ一つ手洗いをしているのだけれど、私自身普段は洗濯をしない事と、重労働が重なり相まって、作業がかなり遅れている。

 メイドという仕事の辛さの一端を垣間見たような気がした。

 

(せめて魔法石があれば楽になれるのに……)

 

 私の世界では、樽の中に洗濯物と石鹸を詰めて水を張った後、魔法石を入れて魔力を込めると、石から風が起こって洗濯をしてくれるという便利な魔道具があるのだ。平民でもお手頃な値段で買える魔道具なので、普及率も高い。

 ――まあ、私の魔力ならそんな道具に頼らなくても自前でできてしまうのだけど。

 

(魔法が使えないと不便だわ。咲夜はこの仕事を毎日やっているのね) 

 

 そんなことを思いながら、私は作業を続けていた。

 

 

(よし、これでひと段落ついたわね。さて、次はどうしようかしら)

 

 洗い終わった洗濯物を、外に全て干し終えた私は次の行動を考えていた。

 ふと現在時刻が気になった私は、腰にかけてあった懐中時計を見る。時計の針はXIIを指していた。

 

(もうこんな時間なのね、お昼にしましょう)

 

 私はキッチンへと向かう事にした。

 

 

 

 昼食は朝と違ってゆとりを持ってレミリアに提供することができた。

 後片付けが終わり、次に私は門番をしていると思われる赤髪の女性に料理を届ける為、バスケットに詰めて、外に向かっていく。

 玄関の扉を開き、色とりどりの花が咲く花壇に癒しを感じながら門のほうへ近づくと、門番の女性が門に寄りかかって、眼を閉じている姿だった。

 

「寝ているわね……」

 

 私は昨日の出来事を思い出す。

 

(これはサボリなのかしらね? そういえば昨日も【咲夜】はナイフを投げて起こしてたわね……)

 

 私はナイフを手にかけようとしたが、すぐに思いとどまってやめた。

 

(流石に人に向かってナイフを投げるのはやめましょう。危険すぎるわ)

 

 そう判断した私は門で寝ている女性に近づいて目の前に立ち、右手に持っていたバスケットを地面にそっと置いた後、片手で彼女の左肩を揺すった。

 

「そろそろ起きなさい」

「……zzz」

「起きなさいってば!」

「…………」

 

 大声を出しながら強く肩を揺すっても起きる気配がなく、私は溜息を吐く。

 

「折角昼食を持ってきたのに、寝ているなら仕方ないわね。これは持って帰りましょう」と言って館の中へ引き返そうとしたその時、目の前の女性は急にカッと目を見開いた。

 

「お昼ですか!? 食べます食べます!」

 

 食事の話になったとたんに起きた彼女にに少し呆れつつも、私は口を開いた。

 

「貴女食い意地張り過ぎでしょ……。まあいいわ。今日は私も貴女と一緒に食べてもいいかしら?」

 

 そんな風に私が言うと彼女は「咲夜さんも一緒にですか? 珍しいですね、どういう風の吹き回しで?」ときょとんとした表情で彼女は私に尋ねてきた。

 

(あれ、この咲夜と彼女とはあまり仲が良くなかったのかな?)

 

「特に意味はないわ。強いて言うなら貴女と話をしたかったからよ。それとも迷惑だった?」

 

 彼女はそれを首を振って否定しながら「いえいえ、そんなことありませんよ。一緒に食べましょう!」と言う。

 私は持ってきた2つのカゴの内1つを彼女に渡し、自分の籠の中に入っていたシートを地面に敷いて、向かい合う様に座ってから食べ始めた。

 彼女は私お手製のサンドイッチを美味しそうに頬張りながら「このサンドイッチとてもおいしいですね!」と嬉しそうに言ってたので、私は「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ」と笑顔で答えた。

 

 その後食事をしながら彼女と軽く談笑していた私だったが、ふと気になることがあったので彼女に尋ねてみた。

 

「そういえば、あなたはいつからここの門番を務めているの?」

「急な話ですねぇ……」

 

 唐突な質問に彼女は何か考えてる仕草をしていたが、やがてその姿勢をやめてこう言った。

 

「もう忘れちゃいました」

「忘れるくらい昔からここにいるの?」

「少なくとも50年……いえ、100年以上は務めていますね」

「それはまたすごいわね……!」

 

 感心すると同時に、内心では驚いている。

 見た目は20代前半の女性なのにかなりの長命な事から、彼女もまた人間をやめた存在、もしくは元から人外なのでしょうね。

 

「門番になったきっかけってなんだったの?」

 

 そう訊ねると、彼女は昔を懐かしむように「ざっくりと簡単に説明するとですね、昔の私は世界中を気ままに旅をしていたんですよー。そんなある日に1人の吸血鬼――今のお嬢様に出会いまして、流れで勝負を挑んだら負けてしまったんですよ。その時に、私の力を見込んだお嬢様にスカウトされて以来、門番をやっているんですよー」と答えていた。

「へえ~そうなのね」

「あれ? そういえばこの話、前にも咲夜さんにもしませんでしたっけ? 確か――」

 

(ま、まずいわ。誤魔化さないと!)

 

「と、ところで門番っていつもどんな仕事をしてるのかしら? 侵入者なんてめったに来ないでしょう?」

「基本寝て――ゴホンゴホン、侵入者が入らないように常に見張ってますよ! その合間にガーデニングをしてますね」

 

 この人、今寝てるって言いかけたような? 

 

「今はどんな花を育ててるの?」

「主にアネモネやツツジやバンジーとかですねー。他にも――」

 

 楽し気に花の話をする彼女に(花が好きなんだなあ)と思いつつ、適度に相づちを打ちながら聞き役に徹する。

 

「――なんですよ~、ってあ! なんか私ばっか話しちゃってましたね。すみません、つい熱く語ってしまいました」

「別に構わないわよ? 貴女の話は楽しいから聞いてて飽きないわ。私、もっと貴女の事が知りたいの」

 

 実際にこの言葉は嘘ではなく、私の心からの言葉だった。彼女の花の咲いたような笑顔に、私も心が弾んで、自然と口元が緩んでいたしね。

 

「さ、咲夜さん!?」

「なんでそんなに驚いてるのよ?」

 

 心なしか彼女の顔が赤くなっている気がする。

 

「いや、その……あっそうだ、私そろそろ仕事に戻りますね! 御馳走様でした!」

 

 彼女は立ち上がり、逃げるように門のほうに戻っていった。

 

 私は首をかしげながら「何かまずいこといったのかしらね?」と呟きながら、彼女の後ろ姿を見つめていた。

 

 

 

 ――side 美鈴――

 

 

 

 咲夜さんから逃げ出して、門の陰に隠れた私は寄りかかりながらつぶやいた。

 

「不覚にもドキドキしてしまった……」

 

 今日の咲夜さんは昼寝していた私のことを優しく起こしてくれて、更に一緒に食事するなんて珍しいことがありました。しかも私の言葉を熱心に聞いてくれて、『貴女の話は楽しいから聞いてて飽きないわ。私、もっと貴女の事が知りたいの』って飛びっきりの笑顔で言うものですから、恥ずかしくなってついつい逃げてしまいました。

 

(今日の咲夜さんは、まるで別人みたいに表情豊かだったなあ……)

 

 いつも澄ました顔でいる彼女が、あんなに楽しそうにしている姿は久しぶりに見た気がします。

 

(また明日もお話したいなあ)

 

 私はボーっと空を見上げながら、午後も頑張ろうと思いました。

 

 

 

 ――side サクヤ――

 

 

 

 

 お昼を済ませて館に戻った私は、後片付けを済ませた後、箒を持って掃除を始めようとしたのだけれど……。

 

「それにしてもこの館は広いわね……」

 

 廊下の幅だけでも10m以上はありそうなこの館は、一部屋辺りの面積も広く、部屋数も多い。元々手を抜くつもりはないけれど、豪奢で華美な内装ともあって、細心の注意を払う必要があるわ。

 

「これ絶対に半日では終わらないわね……。時間でも止めないと無理よ」

 

(それに紅魔館の全体像をまだ把握してないのよねぇ。どこかに間取図でもないかしら?)

 

 私は掃除をしつつ、見取り図を探すことにした。

 

 

 

(結局見つからなかったわ……)

 

 外はすっかり日が沈んでしまったが、間取図も見つからず、掃除も終わらない。

 半日かけてずっと掃除していたのに、この館の半分も終わってない事を考えると、一体どのくらい広いのかしら? 残りの仕事の量を考えると鬱になりそうだわ。

 

(日も暮れたことですし、掃除は一旦終わりましょう。確かそろそろ夕食の時間だったはずですし――)

 

 私は掃除用具を片付けてキッチンに向かった。

 

 

 

 キッチンで料理を作り終えたちょうどその時「今日のご飯は何かな~」と、溌溂な声が響く。昼間に話した門番の女性が現れた。

 

「今ちょうど料理ができあがったところよ。もうすぐダイニングルームに運ぶからそこで待ってて頂戴」

「分かりました!」

 

 彼女がキッチンを立ち去るのを見つつ、私も朝と同じようにキャスター付きのトレイに料理を並べ、ダイニングルームへと運んで行く。

 

 

 

 ダイニングルームに到着した私は、既に着席しているレミリアと妹様、門番の彼女とパチュリーの前に料理を並べていく。

 またレミリアからの許可が出たので、私は少し彼女達と離れた場所に座り、共に夕食を摂っていく。門番の女性が結構積極的に話しかけてきたので、私は話を合わせつつ、レミリアの観察をする。

 

「フラン、今日は何をしていたの?」

「今日はねぇ、お人形遊びと、新しい弾幕を考えていたのよ!」

「あら、そうなの? どんな弾幕を作ったのかしら?」

「お姉さまにはまだ内緒! 次に魔理沙が遊びに来たら披露するつもりよ!」 

 

 レミリアは“フラン”と呼ばれる金髪の吸血鬼と話していて、会話を聞く限り姉妹仲は良好なようだ。

 やがて全員の食事が終わると、フランとパチュリーは一足早く自室に戻っていく。レミリアは空になった皿を見つめていて、門番の女性は部屋の隅で軽いストレッチを行っていた。

 

「失礼します。お皿を片付けますね」

 

 レミリアの皿をトレイに置こうと手を伸ばした時、彼女に声を掛けられる。

 

「ねえ咲夜」

「はい、何か御用でしょうか、お嬢様」

「貴女は一体何者なのかしら?」

 

 ――その言葉に、場の空気が凍りついた。

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