咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
――side 美鈴――
「危ない!!」
サクヤが後ろに倒れていく姿を見て、私は机を飛び越えて彼女の後ろに回ると、身体が地面についてしまう前に受け止める。
「ふう……」
何とか間に合いました。怪我が無くて良かったわ。
「いきなり倒れこんじゃうなんてね、よっぽど緊張していたのかしら」
パチュリー様は驚いた様子でサクヤを見つめていた。
「いいえ、緊張だけが原因ではないわよ。美鈴には心当たりがあるのではないかしら?」
お嬢様に指摘されて、私は顔面蒼白になる。
(そ、そういえば私、思いっきり彼女のお腹を殴っちゃったんだった……! どうしよう……)
私がオロオロしてると、パチュリー様が口を開いた。
「そういえば咲夜がここに来たとき、美鈴から必死に逃げて来ていたわね。ドアを突き破ってくるくらい余裕が無かったみたいだし、貴女の姿を見てとても怯えていたわ。美鈴、貴女何をしたの? 非常に殺気立っていて、貴女らしく無かったわ」
「じ、実は……」
私はおずおずと事のあらましを話します。パチュリー様は目を丸くしまして。
「信じられないわね、美鈴が咲夜に対してそんな行動に出るなんて。」
「美鈴の話は事実よ、私が直接手を下そうと思っていたのに、勝手に飛び出したものだから、呆気に取られてしまったわ。遠くから見ていたけど、美鈴と咲夜の格闘戦は中々の見ものだったわ」
「あの時の私は、咲夜さんに化けていた偽物が許せない気持ちでいっぱいでしたから」
「それはやっぱり、今日のお昼の出来事が関係していたのかしら?」
「見ていたんですか!?」
「私を誰だと思っているのかしら。貴女達に気取られずに見張る事くらい朝飯前よ。――それで、どうなの?」
「お嬢様の予想通りです。最近は、咲夜さんとあまり長い時間を過ごせていなかったので、偽物と判明したときに、私の気持ちを弄ばれたような気がして、怒りが湧いてきましたから」
「ふ~ん、なるほどねえ……」
内心を吐露していると、パチュリー様がぽつりと。
「ところで、咲夜の治療はしなくてもいいのかしら? 貴女の話を聞いてる限りでは、何処か怪我を負っていても不思議ではないわ」
「ああ!! そうですね! 私、咲夜さんの治療をしてきます!」
私はサクヤを抱えたまま立ち上がると、急いで私の部屋へ運んでいった。
side ――パチュリー――
美鈴が慌てながら出口に向かう後ろ姿を見送った後、ふと対角線上の座席を見ると、レミィが何か言いたげな表情で私に視線を送っているのに気づく。
「私に何か言いたいことでもあるの?」
「パチェはあの咲夜のことについて、どう思っているのかしら?」
「また唐突な質問ねぇ」私は少し考えてから「そうね、少なくとも悪い子ではないと思うわ。彼女は自分の状況を理解して、順応しようと努力している印象を受けたわね。あと咲夜に比べると、賑やかな性格だと思うわ。レミィは?」
「私は正直、能力が無かったら別人に成り代わっている事に確信が持てなかったと思う。多少の違和感はあれど、彼女の行動は普段の咲夜をなぞっていたからね。そのくらい、彼女は上手に【咲夜】を演じていたよ」
「結構彼女のことを評価してるのね」
「まあね、この結果になって良かったと私は思ってるわ。私が昨日能力を使った時、咲夜が私の手にかかって血まみれで倒れている未来も視えていたわ」
「そうだったの?」
「あの時、美鈴が私の代わりに戦ってくれたから、現在の結果になったと思っているわ。もしあのまま私が彼女と戦っていたら、間違いなくこの手で殺していたわ」
「咲夜が亡くならなくて良かったわ。その未来が現実になっていたら、きっと後悔していたでしょう?」
「確かにそうね。大体、彼女も早く事情を説明してくれればいいのにあえて挑発的な言い方をしたのよ!? ついそれに乗っちゃったじゃない」
「まあ状況が状況だし仕方の無いことじゃない? 聞く限りでは、サクヤも相当焦っていたようだしね。きっとその時のレミィの雰囲気に呑まれてしまったのよ」
「……そう思うことにするわ。――さて、では私はそろそろ行くわ。また明日ね」
「ええ、また明日」
レミィは席を立ち、大図書館を後にする。
一人残された私は、小悪魔を呼び出した。
「小悪魔~出てきてちょうだい」
「はい、パチュリー様」
近くの本棚の陰から現れた小悪魔に、私は命令をする。
「話は聞いていたでしょ? 私は咲夜に起きた現象について研究するから、サポートして頂戴」
「畏まりました! まずは何からお手伝いすればよろしいでしょうか?」
「とりあえず壊れた入口の扉を直して頂戴」
私は図書館の入り口にある半壊した扉を指さす。両開きの扉の内、片方の扉が床に倒れて、機能を果たしていない状態だった。
「……畏まりました! さっそく作業に取り掛かります!」
「お願いね」
小悪魔は自室の奥から大工道具を持ち出し、扉の修繕に取り掛かっていく。
それを横目に私は座席に着き、調査を再開する。
「今夜は長い夜になりそうね」
机の上に積みあがる本の山を見ながら、私は本を開いていった。
次の話は咲夜sideになります