咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
図書室に到着した私達は、サクヤが勉強していた机の前で、向かい合うように椅子に座り、今後のことについて話し合うことにした。
「え~じゃあまず、私の自己紹介からしようかな。私はサクラギ・ユウ。職業は魔法剣士で、普段はノンビリとした日常を過ごしてるわ、サクヤとは戦友、相棒みたいな関係ね。もしかしたら、昨日聞いていたかな?」
「はい、聞いていました」
「やっぱり見てたかぁ。ちょっと恥ずかしかったけど、無事に伝わって良かったわ」
「何が恥ずかしかったのでしょうか?」
堂々とした自己紹介のように思えたけれど。
「いや、それは……」
「それは?」
「――あーそうそう! さっきから言おうと思ってたんだけどさ、口調が堅いよ? もっとフランク、というか砕けた口調でもいいよ!」
(露骨に話題を変えたわね)
私はそれを指摘するようなことはせずに、彼女の話に合わせる。
「そう……ね。分かったわ」
「うんうん! 今のサクヤはメイドじゃないんだし、友達と接するような感じで気楽にしてね?」
彼女からはまるで敵意を感じないし、きっとサクヤと仲が良かったのでしょうね。
「それでね、貴女の事をもっと知りたいんだけど、教えてくれないかな?」
「私は十六夜咲夜、種族は人間よ。職業はお嬢様お付きのメイドで、主に家事・炊事・洗濯等の仕事をしているわ。自己紹介としてはこんなものかしら」
「今の話を聞いていくつか質問が浮かんだんだけど、訊ねてもいいかな?」
「答えられる範囲であればどうぞ」
「まず1つ、種族は人間って、貴女の住んでいる土地には人外が沢山いるの?」
「そうよ、私の住んでる場所は幻想郷と言ってね、人と妖怪が共存して住んでいる世界なの。私が働いている紅魔館も、私以外は全員妖怪よ」
「妖怪かあ……、それって、河童とか鬼とかそういうの?」
「河童も鬼も確かに存在しているけど、あいにく彼女達と普段会う事はないわね」
小声で「あ、本当にいるんだ……」と呟いた彼女は更に質問を続けた。
「2つ目の質問、どうして妖怪だらけの職場で働こうと思ったの? 種族が違うと、文化や風習の違いで苦労が多そうだけど」
「それは……」
私は答えることに躊躇してしまう。この経緯に関しては、あまり他の人には言いふらしたくないのよね。
そんな私の様子を見て、何かを察した彼女は頭を下げる。
「……ごめんなさい、どうやら答えにくい質問をしてしまったようね。無理に話さなくていいわよ」
「別にいいわよ。……そうね、これも何かの縁だし話すわ」
そう前置きして私は語りだした。
「私はね、生まれた時から時間停止能力を持っていたの。それに気づいたのは6歳の時で、自由に使えるようになったのは8歳だった……。他の人には無い能力が私にある事実に最初はとても喜んだわ。だけどね、それを周りの人に言ったら、今まで私に優しく接してくれた両親や友達の態度が豹変して、私の事をまるで化け物のように扱いだしたのよ」
外の世界は私のような人間に不寛容だったわね。
「程なくして私は着の身着のままに村を追い出されたわ。村の外で途方に暮れていた私を拾ってくださったのが、今仕えているレミリアお嬢様なのよ。それ以来、私はお嬢様に忠誠を誓って、メイドとして働かせていただいております」
思えば自分の来歴を紅魔館の住人以外に話すのは初めてね。
私の話を真剣な表情で聞いていた彼女は、一転悲しい表情になり、目に涙を浮かべていた。
「そんな事があったのね……、今まで辛かったでしょう……。貴女の事情も知らずに、無神経な質問をしてしまってごめんなさい……」
「謝らなくていいわよ。私にとっては清算が済んだ過去だから、もう吹っ切れているわ。むしろこの事があったおかげで、お嬢様と出会えたのだから感謝しているくらいよ」
「そう……なんだ……」
ユウは私の言葉を聞いても、まだ何か言いたそうにしていたけど、私の顔を見て納得したようね。
半泣きの彼女は質問を続ける。
「貴女が仕えているレミリアお嬢様はどんな妖怪なの?」
「お嬢様の本名はレミリア・スカーレットと申しまして、種族は吸血鬼です。私を拾っていただき、私に存在意義や生きる意味を与えてくださった偉大な方です。あの方にお役に立てることができ、私は大変幸せに存じます」
吸血鬼という単語を聞いたとき、一瞬彼女の眉が吊り上ったが、すぐに穏やかな表情に戻る。
「貴女がそこまで絶賛するなんて、きっと、私の知る吸血鬼とは全然違うのでしょうね」
「こちらの世界にも吸血鬼が存在するの?」
「ええ。残忍で人を餌としか思っていない危険な種族よ。でもレミリアさんはとてもカリスマがありそうで、素敵な人だわ。私も会ってみたくなっちゃった」
「もし戻ることができたら紹介するわね。ちょっとワガママな性格ですが、それもまた魅力の一つですわ」
「ふふっ、その時は是非よろしくお願いするわね」
「ええ」
さっきまで重かった空気は、一転して和やかなムードになったことに私は心の中で安堵する。
「質問はこれで終わりかしら?」
「ん~じゃあ最後に、紅魔館の他の住人について教えてくれる?」
「いいわよ。まず紅魔館の当主のレミリアお嬢様、その妹のフランドール様、紅魔館の門番の美鈴、地下の大図書館の住人であるパチュリー様とその使い魔の小悪魔。その他使用人のメイド妖精とホブゴブリンが多数。住人に関してはこんな感じかしらね」
「へえ~、貴女が個人名を上げた人について、詳しく教えてもらえる?」
「そうねえ、レミリアお嬢様は退屈を嫌って、しょっちゅう事件を起こす豪放磊落な性格だけど、私にとっては尊敬できるお方ね。フランドールお嬢様は……、気分がいい時は人懐っこい子供のような性格のお方ね」
「姉妹揃って自由なお方なんだね」
「美鈴は陽気で元気溌剌な性格で、細かい気配りもできる女性よ。ただ昼寝癖があるのが難点だけどね。パチュリー様は、一見すると冷めているように思えるけど、困ってる時にはさりげなく助けてくださる紅魔館の頭脳で、皆が彼女を頼りにしているわ。そして小悪魔は彼女の補佐をする使い魔ね。話すことは少ないけど、悪い子じゃないと思うわ」
私が紅魔館の住人達に対する率直な評価を聞いて、彼女は何か考え込むそぶりを見せた。
(そういえば、彼女達を客観的に評価したことは今までなかったわね。今の言葉が、私が抱いている印象なのかしら)
「ねえ、今言った人達の中で、この事態を解決できそうな人はいるの?」
「う~んそうねえ、一番可能性が高いのはパチュリー様じゃないかしら? 彼女は魔法使いで知識も豊富だし、お嬢様や妹様、私、美鈴はあまりこういったことに詳しくないのよ。どちらかというと、戦闘のほうが得意だからね」
「魔法使い! それは期待できそうだね」
「今度は私からも幾つか質問してもいいかしら?」
「いいよ! 遠慮なく聞いてね?」
「まずここはどこなの?」