咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第17話 5日目 side咲夜 話し合い②

「ここはレクラム大陸にあるロンガディア国のアルベリオン地方に浮かぶ離島セムイトだよ」

 

 彼女は虚空から取り出した地図をテーブルの上に開く。

 

「これはレクラム大陸の地図なんだけど、私達が居る場所はここだよ」

 

 彼女が指差した場所は周囲が海で囲まれた離島だった。地図の上部には、外の世界で言うユーラシア大陸に似た形の大陸があって、深い森で覆われた南端部分がこの場所から一番近い陸地のように思えるわね。

 

「随分と辺鄙なところに建っているのね? 他に住人は居ないの?」

「この島には私とサクヤしかいないよ。しかも空は常に気流が悪く、海流も見た目に反して荒々しいから、飛行船や船で近づくのも難しいの。この島に上陸するには、サクヤが設置した転移魔法陣を使用するか、腕利きのパイロットが操る乗り物しか無理ね」

「まさに孤島なのね。不便じゃないの?」

「まあ色々な事情があってね。この事について詳しく話すと本当に長くなっちゃうから、また別の機会に話すよ」

「そう。次の質問だけど……、私が元に戻る方法とか何か知らない?」

「ん~、残念だけど私には何も分からないわ。こっちの世界だと、人の精神に纏わる分野は、主に神聖魔法か精神魔法の二つからアプローチを掛けるのよ。私の友達にリィンって言う神聖魔法のエキスパートが居てね、彼女に貴女の事を相談したんだけど、まだ何も分かっていないみたいなのよ」

「神聖魔法って何?」

「ざっくり言うと、この世界の創造主アルカディア神の力を、魔法として人間が再現したものなんだ。人が開発した属性魔法と違って、アルカディア様への信仰が深い聖職者でなければ扱えない特別な魔法なのよ」

 

 幻想郷風に解釈するなら、霊夢や早苗のような巫女が扱う力なのかしらね。

 

「リィンはアルカディア教で一番偉い聖女様でね、過去に何度もアルカディア様から神託を授かって、奇跡を起こして世界を動かしてきた人なんだ。きっと吉報をもたらしてくれる筈よ」

 

 アルカディア教がどのくらいの規模の宗教なのかは分からないけれど、相当地位が高い権力者なのは理解できるわね。彼女の交友関係が気になるところだわ。

 

「次に精神魔法なんだけど、私の知る限りでは、この世界――アルカディアにおいて最高の魔法使いといえばイザヨイサクヤなんだ。だけどサクヤの精神は、異世界に行っちゃったし、信用の置ける精神魔法の使い手はかなり限られてくるから、率直に言ってかなり厳しいと思う」

「サクヤって、そんなに凄い魔法使いなの?」

「ええ。私はさっき魔法剣士と名乗ったけれど、私は多少の攻撃系魔法が使える程度。でも彼女は神聖属性以外の全ての攻撃魔法と、精神魔法を使いこなせる天才なのよ。私の魔法もサクヤに教えてもらったんだ」

「そうなのね……」

 

 こっちのサクヤは大魔法使いだったのね。世界が違うと、生き方も大きく異なるのかしら。

 

「私はこれからどうなるのかしら」

 

 もしかしたらもう戻れないのかもしれない――そんな後ろ向きな考えが一瞬頭をよぎるものの、それを遮るように彼女は再び話を続けた。

 

「そんなに落胆しないで。サクヤは貴女の体に入っているんでしょ? ならパチュリーと協力して何とかしてくれると思うわ」

「……」

「貴女の不安な気持ちは痛い程分かるわ。でもサクヤなら、きっとなんとかしてくれるし、私も貴女の事を精一杯支えるつもりだよ」

「……ありがとう」

 

 落ち込んでばかりもいられないわね。まだまだ仕事が沢山残ってますし、なんとしてでも紅魔館に帰らないといけないわ。

 

「ところで、私も貴女と同じって……?」

「実は私も100年前にこの世界に迷い込んだのよ。モンスターに襲われそうになった所を、偶然出会ったサクヤ達に助けられてね、以来助け合いながら現在まで生き続けているわ。例え貴女が私の知るサクヤでは無くても、その気持ちは変わらないわよ」

 

(100年……。彼女とこの世界の私は妖怪みたいな存在なのかしらね)

 

 どんな経緯があったのかは分からないけれど、此方の世界のサクヤは、人間を辞める選択をしたのでしょうね。

 続いて私は、少し前から気になっていた質問をする。

 

「この世界のイザヨイサクヤって、どんな人なの?」

「サクヤは基本的に優しくてね、彼女に頼めばなんでもやってくれそうな安心感があって、実際殆ど全てを一人でやってのけてしまうような凄い人ね。冷静沈着ながらも熱い感情を秘めていて、一緒に過ごしていて楽しいし、もし私が男なら彼女に惚れていたわ」

 

(イメージとしては、美鈴とパチュリー様の性格を足して割ったような性格なのかしら?)

 

「後はね、さっきも言ったように魔法の扱いに関しては天才的なセンスの持ち主ね。彼女以上に魔法をうまく扱う人を私は知らないわ」

「そこまで褒めちぎるなんて、貴女はサクヤのことをよく見ているのね」

「ええ。彼女とは苦楽を共にした仲間だからね。良い所も悪い所も全部知っているし、私はサクヤが好きなのよ」

「いい関係なのね」

 

 私はお嬢様を敬愛しているけれど、前提には主従関係があるので、二人のような関係性にはなれない。

 

(だからといって、お嬢様と対等な関係になりたい訳では無いわね)

 

「最後の質問なのだけれど、私はこれから何をすればいいのかしら?」

「え? うーん、好きにすればいいと思うよ。元のサクヤも基本的に一日中魔法の研究をするか、時々外出してパーッと気晴らししてくるみたいな生活だったわよ?」

「そ、そうなの……」

 

 自分で言うのもなんだけど、趣味が仕事と言ってもいいくらいの仕事人間なので、時間の使い方に困ってしまうわね。

 

「好きにしてもいいと言われても、何も思いつかないわ。私にとっては知らない場所だし……」

「それなら、一緒に帰る手段を模索しましょう。手をこまねいて待っているよりも、実際に行動したほうがいいでしょ?」

「確かにそうね。まずは何を始めるの?」

「実は万が一の事があった時に備えて、私とサクヤの間でテレパスができるようにしてあるのよ。早速試してみるね」

 

 そう言った彼女は立ち上がり、こめかみに右手の人差し指と中指を敬礼するように当てながら視線を上に向ける。およそ5分程無言の時間が経った頃、彼女は姿勢を解除し、溜息を吐きながら座席に着く。

 

「どうだったの?」

「ダメね、全然繋がらないわ。このテレパスは世界の何処にいても瞬時に繋がるんだけどね」

「何か原因は分かりそう?」

「可能性として挙げられるのは三つ。サクヤが貴女の身体に乗り移ってしまったから届かないか、あるいは“幻想郷”がテレパスの範囲外か、もしかしたら魔法が使えない状況なのかもしれないわね。咲夜は元の身体の時に魔法は使えたの?」 

「いえ、生まれつき備わっていた能力もあって、魔法にあまり興味は無かったわ」

「確か時間停止能力を持っていたんだよね? 今はその力を使えるの?」

「ちょっと試してみるわ」

 

 私は精神を集中させて、普段の感覚で時を止めようとするけれど、何度試しても能力が発動する気配が無かった。

 

「駄目ね。感覚は掴めるのだけれど、能力は発動しないわ」

「なるほど。咲夜の力は、肉体と精神が一致していないと使用できない固有能力なのね」

「そういうこと……になるのかしら」

 

 能力にも種類があるのね。今まで考えた事すらなかったわ。

 

「私達が使うテレパスはれっきとした魔法だから、魔法が使えない人には効果がないのよね。これに気づいたサクヤが、魔法を扱えるようになっているといいんだけどねぇ」

「あら、私が元の世界に戻ったら魔法使いになっているのかしら」

「そんな大それた物じゃないよ。幻想郷の事は知らないけど、この世界では魔法が日常生活に組み込まれているから、家事や掃除といった日常的な事にも魔法を使うんだ。多分サクヤもそのレベルまでしか扱わないんじゃないかな」

 

 それを聞いて私は安心する。パチュリー様やアリスのような魔法使いになってしまうと、必然的に人間を辞めることになってしまうわ。

 私は人のまま生きて、人のまま生涯を終えたいと思っていますからね。

 

「そうだわ! 今の貴女なら魔法を扱えるんじゃない? 魔法使いサクヤの身体だし、もしかしたらテレパスが繋がるかもしれないよ!」

「試してみる価値はありそうだけど、魔法に関しては私は素人よ?」

「ちゃんとやり方を教えるから大丈夫! ここだと危ないから外に出ましょう!」

「分かったわ」

 

 私は彼女の後ろをついていった。

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