咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
「今日の料理、美味しかったわ」
「咲夜の口に合って良かったよ」
夕食後、私と彼女はリビングのソファで寛いでいた。
メニューはコボロ肉のステーキと、ソイネケ野菜の付け合わせ。見た事も聞いた事も無い材料が使われていて、少し不安を覚えたけれど、実際に食べてみたらとても美味しかったので満足している。
「明日は図書室で勉強会だね。一緒に頑張りましょう!」
「ええ」
「私はそろそろ部屋に戻って寝るわ。サクヤも好きに過ごしてくれていいよ、私の部屋は三階にあるから、何かあったら呼んでね?」
「今日はありがとう。おやすみなさい」
「うん、おやすみ~」
そう言って彼女は立ち上がり、部屋の外に向かっていったけれど、数歩進んだ所で、何かを思い出したように引き返した。
「そうそう、言い忘れてたけど、今晩の夢をチェックするのを忘れないでね? 貴女とサクヤを繋げる唯一の鍵なんだから」
私は頷く。
「それじゃ今度こそおやすみ」
彼女は欠伸を隠すように口元を手で覆いながら、今度こそ自分の部屋へ戻っていった。
「さて、自由時間になったけれど、どうしましょうかしら」
壁際に設置された振り子時計は、短針が西、長針が北を指している。ユウの話を聞く限り、この世界の暦は幻想郷と非常に良く似ているみたいなので、西暦換算すると、現在時刻は午後9時になる。
(寝る時間にはまだ少し早いわね。折角ですからこの館を散策することにしましょう)
いつ帰れるのか分からない事ですし、損は無いでしょう。リビングルームを出た私は、1階を見て回ることにした。
窓の外はすっかり暗くなり、満月の光が輝いている。それとは別に、私が歩く先が次々と明るくなっていき、通った後を振り返ると、真っ暗になっている。どんな仕組みなのかしら?
1階は玄関を開くと三階まで吹き抜けになっているロビーがあって、三階まで続く大きな螺旋階段と、私の部屋とダイニングルームに繋がる扉がある。玄関正面の廊下には、リビングルームの他、もう1つのダイニングルームの入口や、トイレ、浴室に繋がる扉があって、どの部屋も紅魔館と遜色のない設備が整っている。この階は生活空間なのかしらね。
廊下の突き当りの扉を開けると、地下に繋がる細い階段があり、降りた先にも扉はあったけれど、厳重に鍵が掛けられている。以前夢の中で見た時、この部屋から、城がある街に出ていたから、恐らくこの部屋に転移魔法陣があるのね。
地下から引き返した私は、ロビーの階段を上って2階フロアに辿り着く。ロビーを見下ろせる少し広めのフロアの先には、左右に別れた廊下があった。2階は14部屋あるみたいで、客室が8部屋、洋間が2部屋、残りの部屋は鍵がかかっていて、入ることはできなかったわね。
この空き部屋は、贅沢な調度品が使われている上質な部屋なのに、埃が被っていて咳が出てしまったわ。全く使われていない部屋なのかしら。
(汚いわね……。掃除したくなってきたわ)
私は螺旋階段に引き返して、三階に上がると、海と砂浜を見渡せる大きなガラス張りの窓が私を出迎える。満月に照らされる夜の海は、なんだか神秘的な雰囲気ですわね。
3階はバルコニーに続く扉と、図書室の他に、『ユウ』とネームプレートが掛けられた部屋、『サクヤ』の名前が刻印された部屋が隣同士に並んでいる。
(3階にもサクヤの部屋があったのね)
早速覗いてみると、1階のサクヤの部屋と全く同じ間取りの部屋が広がっていた。というより、これ1階の部屋じゃない?
窓から見える景色が1階と同じ高さですし、ベッドやクローゼットを使用した痕跡が今朝と全く変わってなくて、机の上には、サクヤが書いた夢の日記が開かれたままになっているわ。
1階に戻ってサクヤの部屋に入って確認してみても、3階のサクヤの部屋と全く同じね。開け放たれた入口の扉を見ると、1階のロビーと3階のフロアが重なって見えている。恐らく空間魔法で二つの部屋の入口を繋げているのね。
ちなみにこの状態で部屋の外に出ると、最後に入ったフロアに出るみたいね。3階から入ったら3階に出たわ。
(これで大体家の中は見て回れたかしら)
自宅の大きさや、調度品の質の良さから推察するに、この世界のサクヤは相当な資産家なのでしょうね。だからこそ気になることがある。
(家がこれだけ広いのに、家政婦が一人もいないのは何故かしら? 2人で維持するのは大変でしょうに)
紅魔館に限らず、白玉楼、永遠亭といった大きな家を持つ勢力は、私のような使用人が建物の維持管理を行うのが一般的な筈。大陸から離れた孤島に住んでる事といい、何か事情があるのかしらね?
(明日聞いてみようかしらね)
夜も大分更けてきたので散策を終え、私は浴室へと向かっていった。
身体を清めて自室に戻った私は、寝巻に着替えてベッドに入り今後の事を考えていた。
(明日は図書室で本を読むのよね、こんなことをしてて、私は紅魔館に戻れるのかしら……。もし戻れなかったら、今後の身の振り方も考えなきゃね……)
不安な気持ちでいっぱいだったけれど、慣れない生活で疲労が溜まっていたのか、私はいつのまにか眠っていた。
これにて5日目は終了です
次の話はサクヤsideの話となります