咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
――side サクヤ ――6日目
「ん……」
ふわふわとした妙な感覚で私は目が覚める。
(あれ、ここはどこかしら?)
知らない天井ね、私はどうしてここにいるのかしら? 天井をボーっと見つめている間に私は昨夜の出来事を思い出していた。
(そうだわ、確か図書館で意識を失って倒れたのよね! ここはどこなのかしら……?)
私の部屋にはない爽やかな花の香りに誘われるかのように起き上がろうとした時、ベッドの横から声が掛かった。
「あ! 起きたんですね、おはようございます~。と言っても、お昼ですけどね」
見ると、昨日私をボコボコにした美鈴と呼ばれた女性が、丸椅子に座り、優しい笑みを浮かべていた。
「何故貴女がここに?」
「ここは私の部屋です。昨日貴女が大図書館で倒れた後、ここで治療してからずっと見ていました」
私は改めてベッドから起き上がり、体を見てみる。寝ている間に赤色のパジャマに着替えさせられたようで、お腹、肩、足に包帯が巻かれているようだ。
ベッドから出ようと立ち上がろうとした時、足に鈍い痛みが走り、崩れ落ちる。美鈴は慌てて私の身体を支えた。
「あっ! まだ起きちゃ駄目ですよ! 一通り治療しましたが、昨日のダメージがまだ残っていますので、安静にしててください。幸いながら骨は折れていなかったので、2,3日ゆっくり休めば動けるようになりますよ」
「そう」
確かに彼女の言うとおり今日は動けそうにないので、おとなしく従うことにしましょう。
(今日はパチュリーの所へ行こうと思ったけれど、この怪我では無理そうね。仕方ない……二度寝でもしましょうか)
ふと美鈴に視線をやると、何か言いたげな表情で私を観察している。
「何? 言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」
やがて覚悟が決まったのか、彼女は意を決して口を開く。
「イザヨイサクヤさん」
「何?」
「昨日はごめんなさい!」
彼女は私に向かって頭を下げた。
「えっ?」
私が目を丸くしてその様子を見ているのにも気を留めず、彼女は頭を上げたあとさらに言葉を続けた。
「昨日は貴女に怪我をさせてしまいました。事情を知らなかったとはいえ、危うく殺してしまうところでした。その事をずっと謝りたいと思っていたんです。本当にごめんなさい!」
再び頭を下げる彼女を、私は冷静に分析していた。
(まさか彼女がそんなことを思っていたなんてね……。考えてみたら、秘密にしていた私にも非はあるわ。私だって逆の立場だったら同じことをしていたでしょうし、彼女が謝る義理はないわよね)
この事を彼女に伝えると、顔を上げた彼女は泣きそうな顔になった。
「でも……! もしあの時私が殺してしまっていたら、取り返しがつきませんでした! それなのに、なんでそんなに淡泊な反応なんですか!?」
「さっきも言ったように、貴女が謝る必要はないし、全く恨んでいないわ。昨晩の私の話を聞いて、私を受け入れてくれた。それで充分だから、そんな顔をしないで?」
恐らく彼女は咲夜と懇意にしていたのでしょう。私という不純物が混ざってしまったのが、彼女にとって大きな不幸となってしまった。
「……分かりました。貴女がそう言うのであれば、私もこれ以上言いません」
どうやら納得してくれたようね。
「はい、じゃあこの話はこれでお終い! 話題を変えましょう!」
私は手を叩いて宣言してから、言葉を続ける。
「一つ貴女に質問いいかしら?」
「え、はい、どうぞ」
「貴女のお名前はなんていうの?」
私の質問に目をパチパチした後、一瞬間を置いて彼女は口を開いた。
「そういえば自己紹介がまだでしたね、私は紅美鈴。紅魔館の門番を務めてまして、趣味はガーデニングと中国拳法です」
「よろしく、貴女は何て呼べばいいかしら?」
「美鈴でいいですよ~。咲夜さんからはいつもそう呼ばれてましたし、あまり名字で呼ばれることには慣れてないんですよ」
「分かったわ、美鈴。貴女も私を好きに呼んでちょうだい」
「なら私も下の名前で呼ぶことにしますね」
「いいの?」
てっきり名字で呼んでくると思っていた私は彼女に聞き返した。
「ええ、中身が別人だとしても咲夜さんは咲夜さんですから」
「そう? ならいいけど」
「――あ、そうだ! そろそろお腹減りませんか? 良ければ、食事を作ってきますよ」
「そうね。お願いできるかしら?」
「了解しました!」
私の返事を聞くと同時に、彼女は元気よく部屋を出て行った。
約15分程後、美鈴は二人分の昼食を持って戻ってきたので、彼女に礼を言って食事を頂くことにした。
メニューは赤色のソースが、白い塊にドロリと掛かったスープと、薄皮に包まれた緑色の野菜の束に白いソースが付けられている。前者は麻婆豆腐、後者は春巻きサラダと呼ぶらしい。
麻婆豆腐は香辛料が良く効いていて、春巻きサラダは新鮮な野菜と薄皮の食感が良く、王都の貴族向けの料理店と遜色ない美味しさだった。
「とても美味しいわ。私の国でも上位に入る腕前よ」
「えへへ、ありがとうございます」
そういえば彼女は門番の仕事をしていた筈、なのにここにいても大丈夫なのか? その事を彼女に尋ねてみるとこんな答えが返って来た。
「サクヤさんが起きるまで看護するようにお嬢様に申し付けられていたので、私は午後から仕事に戻ります。サクヤさんについては『怪我が治るまで休んでいなさい』とお嬢様が仰ってたので、充分に休んでいてくださいね」
「分かったわ、今日はゆっくり休むことにするわね」
それから美鈴と雑談を楽しみ、彼女は「そろそろ仕事に戻りますね!」と言い、私の食器も含めて後片付けをしてから部屋を出て行った。
(さて、一人になっちゃったわね。今日はこれからどうしようかしら……。そういえば、今日は咲夜の夢を見なかったわね。私がこっちの世界に来た事と、何か関係があるのかしら?)
そんな風に考えていると、突然部屋のドアが勢いよく開く。
「よう! 元気か?」
現れたのは、咲夜の中にいたときにこの館に何度か泥棒に来ていた少女――魔理沙だった。