咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
翌朝目が覚めた私は早速状況確認に努めるも、元の体に戻っている事はなく、サクヤの体のままだった。
(目が覚めたら元に戻っているかもしれない――なんて思っていたけど、都合よく行かないわね。それにサクヤの夢も見なかった……。お嬢様がどうなさっているのか、心配だわ)
いつまでこの生活が続くのか不安だけれど、ベッドの上で嘆いている訳にもいかないわね。私はフウとため息をつき、サクヤの普段着に着替えて部屋の外に出る。
窓から差し込む眩い朝日を身に浴びつつ、リビングに向かうと、ユウがソファーで寛いでいた。
「おはよう咲夜、今日はよく眠れた?」
「まあまあね、寝心地は悪くなかったけど、夢は見れなかったわ」
「そっかぁ。貴女がこっちに来た事と何か関係あるのかな?」
「……分からないわ」
私達はまだ何も前進していない。今日こそ、どんな小さな事でもいいので解決への取っ掛かりが欲しい所。
「朝から落ち込んでちゃダメだね! 朝ご飯を食べたら、昨日の続きをしましょう!」
「そうね」
私達はダイニングルームへと向かっていく。
食後に図書館に移動した私達は、サクヤとユウが残した書物とを切り崩す作業に取り掛かる。昨日教えてもらった翻訳魔法のおかげで、全く意味の分からない文字列がスラスラと頭の中に入っていく。
(なんだか不思議な感覚ね。でも、悪くないわ)
奇妙な感覚を楽しみつつ、私は本を読み進めていく。
事前にユウから『重要だと思う文章や単語があったらメモしておいてね?』と言われているけれど、私は魔法の事に精通してないので、文字が読めても意味が分からない――いわゆる専門用語が多すぎて、困惑していた。精神魔法と普遍的無意識の共通項とか、イドとエゴの認識と魔法の関連性とか書かれてもねぇ? パチュリー様なら、すんなりと理解できるのでしょうけれど……。
隣の椅子に座る彼女も、なんだか困っている様子でうんうん唸っていて、終いには耳を疑うような事を呟いた。
「駄目だ~。本の内容がぜんっぜん分からない!」
「ちょっと!? 貴女も魔法使いなんでしょ? 私が分からなくても貴女なら理解しているだろうと思っていたのに!」
思わずツッコミを入れると、彼女は申し訳なさそうに「こんなに難しいとは思ってなかったんだよ~、本当にごめん! 読書は中止にしましょ」
「はぁ……。時間を無駄にしたわね……」
「あはは……」
本を閉じて大きな溜息を吐く私に、彼女は気まずそうにしていた。
(彼女の言うとおりに行動してて大丈夫なのかしら?)
思えば此方の世界に来てから、私の主体性は無く、只々流されるままに行動しているだけな気がするわ。お嬢様が私に命令を下す時も、機械のように言いなりになるのではなく、自ら考えて行動する事を求められることが多い。
幻想郷に帰る為にも、私は何を成すべきなのか? ……完全に出口の見えない迷路に迷い込んでしまったわね。
気が滅入りそうになった時、彼女はふと思いついたように言った。
「次の案を思いついたわ! 実は私の友達に探し物が得意な人がいるのよ。その人に頼んで、入れ替わり現象を解決できそうなきっかけを見つけてもらうことにしましょう!」
ユウの言葉に少し不安を覚えた私は、彼女にこう尋ねた。
「大丈夫なの?」
「精神の入れ替わり現象なんて私は聞いたことないし、はっきり言って見つかる可能性は低いと思うわ。だけどね、何もしないでいるよりはずっとマシなはずよ」
「その程度の認識なのね……、まあ他に手段もなさそうだし、やるしかないわね、――それで探し物が得意な人って言うのは誰なの?」
「名前はミーシャ。レクラム大陸の冒険者ギルドのギルド長をやっている女の子でね、歳は私やサクヤと同じくらいね」
「冒険者ギルド? ギルド長?」
知らない単語が出てきたので訊ねると、彼女は説明を始める。
「この世界には冒険者と呼ばれる人達がいてね、彼らは迷い人探しや街の清掃といった雑用から、モンスターの退治、ダンジョンの攻略等、多岐に渡る仕事をしてね、まあ一言で言ってしまうと何でも屋みたいな職業なんだ。それでね、彼らの能力に合わせて、仕事を斡旋したり、依頼者との仲介を行ったりするのが冒険者ギルドで、世界各地にあるんだ」
「へぇ」
「その世界各地の冒険者ギルドを管理する中央ギルドってのがあって、ミーシャはそこのトップなんだよ」
「彼女は信用できるの?」
「勿論! なにせミーシャは私達の昔の仲間だからね。彼女は元盗賊なんだけど、今は改心しているし、気立てが良い性格だから大丈夫よ」
「ふ~ん……」
(魔理沙みたいな人なのかしら? それに昔の仲間ってなんだろう、気になるわね)
「ねえ、結局のところ、この世界のイザヨイサクヤと貴女はどんな関係なの? 昔の仲間ってどういうこと? サクヤの過去に何があったの? そろそろ貴女達の事をちゃんと教えて欲しいわ」
今のところ、サクヤは彼女と仲が良く、長生きしているということくらいしかわかっていない。どうしてそこまでひた隠しにするのかしら?
「……確かにそうだね。混乱を招くと思って黙っていたけれど、貴女にはきちんと話しておくべきだったよ、ごめん」
疑惑の目を向けると、ユウは申し訳なさそうに謝り、ぽつぽつと語り始めた。