咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
「まずこの世界のイザヨイサクヤなんだけど、彼女は魔法の名家、イザヨイ家の長女なんだ」
「魔法の名家?」
「代々宮廷魔法使い――ロンガディア王国に仕える優秀な魔法使いを輩出している家で、国王にも強い発言権があるからそう呼ばれてるんだ。彼女の家系は皆魔法使いでね、サクヤはイザヨイ家始まって以来の天才なのよ」
魔法使いの一族なのね。
「そんな彼女と私の出会いは、今から100年前に遡るわ。平和だったレクラム大陸に、突如として異世界から魔王が軍勢を引き連れて侵攻してきたのよ」
「魔王って?」
「魔族達を統べる魔族の王よ。魔族は人間より力も魔力も強く、人間を虫けらとしか思っていない邪悪な存在だったわ。魔王軍はあっという間にレクラム大陸各地の国家を次々と侵略して、征服していったわ」
侵略戦争ね……。
「人間達の危機的状況を憂いた女神アルカディア様は、ロンガディア王国の王子アレスに神託と光の力を与えたの」
「光の力? 神聖魔法とは違うの?」
「神聖魔法がアルカディア様の力を再現したものだとするならば、光の力は女神様の力の源泉。特別な適性が無いと行使できない特別な力で、アレスが一番適性が高い人間だったのよ。光の力は魔族に効果覿面で、魔族を弱体化させる効果があるわ」
「ふぅん」
「後に勇者と呼ばれるアレスは、女神様のお導きに従って世界各地を回り、魔王軍に侵攻された各地の村や街の救援に入ると同時に、アルカディア様の光の力に適性がある四人の人間を集めた。アルカディア教会の聖女リィン、イザヨイ家の若き天才魔法使いサクヤ、アレスのパーティーに盗みを働きに来た盗賊ミーシャ、そして私の合計五人。私とサクヤの出会いはこの時よ」
魔王と勇者ねぇ。おとぎ話でありがちな話に思えるけど、この世界では現実に起きた出来事なのね。
「どんな出会いだったの?」
「私は日本という異世界で高校生だったけど、下校中にこの世界に飛ばされてね、モンスターに襲われている所をサクヤに助けられたのよ。そこで私に光の力の適性がある事を知らされて、魔王軍との戦いの旅の最中、アレスからは剣術、サクヤからは魔法を教わりながら必死に修練を重ねたの」
(日本って、確か外の世界の国の名前よね? もしかして、同郷?)
「戦いに戦いを重ねて、私達は魔王の元に辿り着き、激戦の果てに魔王を倒したわ。残りの魔族も、各国の連合軍と冒険者達が一人残らず打ち倒して、世界に平和が訪れたのよ」
「結構あっさりとした描写なのね?」
「この話は本題じゃないからね。それでね、魔王を倒した私達は光の力を沢山使った影響で、肉体の成長が止まって、寿命が飛躍的に伸びたのよ。所謂不老長寿ってやつね」
「それが長生きの理由なのね。魔王を倒した後はどうなったの?」
「アレスは王位を継承してロンガディア国の国王になってね、幼馴染のリィンと婚姻を結んでレクラム大陸を統一したわ。リィンは王都にあるアルカディア教の聖地で聖女として活動しているの。それでね、ミーシャは功績を称えられて冒険者ギルドのギルド長に、サクヤは家督を次女に譲った後、この島に別荘を建てて魔法の研究に没頭するようになり、私は最高ランクのS級冒険者として、元の世界に帰る方法の捜索も兼ねて、自由に世界各地を旅したわ」
遠い過去を懐かしむように語る彼女には、色んな思いが渦巻いているように見えた。
「あれから100年が経っても、私達の関係は良好でね、今でも定期的に時間を作って会って近況についてお喋りしたり、時には冒険に出かけたりしているの。今回の貴女とサクヤの入れ替わり現象も、私の仲間は絶対に力になってくれるはずよ!」
力強く断言した彼女は続けて「……まあ話が長くなっちゃったけど、私とサクヤは戦場で共に戦い抜いた戦友でもあり、私に戦いの術を教えてくれた恩人でもあるのよ。だから私は、サクヤが困っているのなら、助けてあげたいと思っているんだ」
「そうだったのねぇ」
彼女達の冒険については想像することしか出来ないけれど、きっと深い絆が結ばれていたのでしょうね。
「……それにサクヤが異世界の研究なんて始めたのも、きっと私の存在が影響しているかもしれないからね。だからこそ、私は貴女に余計な心配を掛けたくなかったのよ」
「ねぇ、一つ確認なのだけれど、貴女の住んでた日本ってどんな場所なの?」
「う~ん、一言で説明するのは難しいな。ざっくり言うと、地球という星の極東に位置する島国だよ。地球ではモンスターや魔法は空想上の存在になっていてさ、代わりに科学技術が発展しているの。特に日本は世界でも上位の大国だったんだ」
(地球! やっぱり……)
彼女の話を聞いて確信が持てた。彼女は私と同じ日本人ね。それなら私もこの情報を明かすべきでしょう。
「私が居た幻想郷はね、日本国の何処かに存在する隠れ里なのよ」
「ほ、本当に!?」
彼女は立ち上がり、此方に迫ってくる勢いに押されながらも答える。
「間違いないわ。私もかつて日本に住んでいたから、科学技術についても詳しいわよ。むしろ、魔法文明の存在に驚いているくらいね」
「西暦は? 西暦何年なの?」
「2024年よ」
「私が失踪した年じゃない! あぁ、なんてことなの! まさかこんな奇跡が起きるなんて!!」
小躍りするくらいにはしゃぐ彼女は、私の両手を握り、「咲夜! 絶対に幻想郷へ帰る手段を見つけましょうね!」
「え、えぇ」
「それじゃ私はミーシャに依頼してくるから、悪いけど留守番よろしくね! 今日中には戻るから!」
「ちょ、ちょっと!」
両手を放した彼女は、一方的にまくし立てるように言い立てると、目にも止まらぬ速さで部屋を出て行った。