咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第24話 6日目 side 咲夜 ミーシャとの出会い

 彼女が出て行ってから約1時間が経過した頃、暇つぶしに適当に本棚から持ってきた本を読んでいた時、微かに私を呼ぶ声が聞こえたような気がした。

 

(もう帰って来たのかしら?) 

 

 私は図書室を出て1階に降りていき、ロビーをうろついていると、突然後ろから声を掛けられた。

 

「サクヤ!」

 

 振り返ると、私から数メートルくらい離れた場所に桃髪の少女が立っていた。

 年は私と同じくらいかしら? 背丈は私よりも頭一つ分小さく、忍者が着てそうな体のラインがはっきりと分かる黒い装束を身に纏い、黒いブーツを履いている。彼女の佇まいには隙が無いわね。

 そう観察している間にも、彼女は一瞬で姿が消えて、次の瞬間には私の背後から抱き着いてきた。

 

「捕まえた!」

「!!」

「ユウの言ってた事は本当だったのね~。私の知っているサクヤなら、今の動きについてこれてたのになあ」

 

 残念そうに呟きながら離れる彼女に、私は問い質す。

 

「貴女は?」

「私はミーシャ。ユウからもう聞いてると思うけど、貴女を元の世界に帰す手伝いをしにきたよ。よろしくね!」

 

 彼女はフレンドリーに右手を差し出してきたけど、その手を取る気になれなかった。

 

(さっきの動き……、彼女、只者ではないわね)

 

 一向に手を取らない私を見て、彼女は苦笑いを浮かべる。

 

「あらら、いきなり嫌われちゃったかな? そんな警戒しなくていいんだよー?」

 

 困ったような顔で腕を下げるミーシャに、奥の廊下から歩いてきたユウが話に入ってきた。

 

「今のはミーシャが悪い。突然不意打ちなんてしたら誰だって不快に思うわよ」

「だって、ユウの言う事が信じられなかったんだもん。だからこうやって自分の目で判断しようと思ったの!」

「私の言葉は信用できた?」

「そうね、入れ替わったかどうかはともかくとして、彼女は全くの別人ね。雰囲気が全然違うし、私の事をまるで初めて見るかのような反応だったよ。うん、ユウの依頼を受けるね」

 

 この言葉を聞いて、ユウは安堵の表情を浮かべる。

 

「良かった。でもさっき言った通り――」

「分かってるよ。『内密に』、でしょ? 早速調査を始めることにするけど、あまり結果に期待しないでよね」

「こっちとしては受けてくれただけでも有難いから、どんな結果でも文句は言えないわ」

 

 そしてミーシャは私に『またね』と告げて、煙のように忽然と姿を消していった。

 

「……今の娘が依頼主なの?」

「そうよ。ミーシャは結構忙しいみたいだったから、会うのにも一苦労だったよ。無事に依頼を引き受けてくれてよかったわ。後はサクヤから連絡が来れば一番いいんだけれど、何回試しても手ごたえが無いのよ」 

「そうなのね」

 

 つまり進展は何も無いのね。

 

「あまり心配しないで。ミーシャとリィンが協力してくれているんだから、必ずなんとかなるわ」

「私にも何かできることはないの? ただひたすら待つのは辛いだけなのだけれど」

「……そうだね、少し考えてみる。悪いんだけど、外出はもうちょっと待ってもらえる? 今の貴女が一人で外出するのは、まだ危険だと思うの」

「分かったわ」

 

 私は了承し、ユウは自分の部屋へと戻っていった。残された私は、これからどうするかを考えることにする。

 

(さて、何をしましょうか)

 

 この屋敷の探索は昨日あらかた済ませたので、構造は大体頭の中に入っている。頭の中で逡巡した末に、下した結論は。

 

(掃除をしましょう)

 

 昨日この屋敷を探索した時から、2階の埃が溜まった部屋を綺麗にしたいと思っていたので、この機会に掃除をすることに決めた。

 そうと決めた私は、部屋に戻ってユウからもらったメイド服に着替え、2階の埃が溜まった部屋へ向かう。

 

(やはり汚いわね……)

 

 改めて部屋を見回して顔をしかめる私。どれだけ長い期間放置されていたのかしら。すぐさま私は掃除を始めようと思ったのだけれど。

 

(掃除用具がないじゃない……)

 

 部屋に備え付けられている家具の中を開けても全部空っぽで、仕方なく他の部屋に探しにいっても、全て空振りに終わってしまう。

 

(おかしいわね……。掃除用具は一か所に集められているのかしら?)

 

 私は1階に降りて、空いている部屋を一通り探すも、見つからない。

 

「はあ、ないわね」

 

 怪しい部屋は幾つかあったのだけれど、全て鍵がかかっていたので私には入ることができなかったわ。

 

(それにしても、これだけ探しても見つからないなんて、普段はどうやって掃除してるのかしらね?)

 

 日常的に使用されている部屋や廊下は、埃やゴミ一つ無く綺麗な状態で保たれているので、ますます不思議だわ。

 

(仕方ないわね……。ユウに訊ねることにしましょう)

 

 私は3階に上り、ユウの部屋の扉をノックする。

 

「ちょっと聞きたいことがあるのだけれど、今いいかしら?」

 

 するとすぐ、扉越しに返事が帰って来た。

 

「どうぞ、入っていいよ~」

「ううん、すぐ済む話だから扉越しでもいいわ」

「そう? それで聞きたいことって何?」

「これから掃除しようと思っているのだけれど、掃除用具が見つからないのよね。どこにあるのか教えてもらえない?」

 

 私にとっては普段の仕事なのだけれど、彼女はとても驚いた声を上げた。

 

「え!? わざわざそんなことしなくてもいいよ!?」

「でも私、暇だと仕事をしたくなっちゃうのよねえ」

「ゆっくり寛いでいていいのよ? 貴女は今はメイドじゃなくて魔法使いなんだから」

「う~ん、でも職業柄気になっちゃうのよねえ」

 

 すると観念したように扉が開く。

 

「咲夜がそこまで言うのなら、お願いするわ。場所教えるからついてきて」 

 

 部屋を出た彼女の後をついていき、2階に降りると、一番右端の鍵が掛かった部屋の前で立ち止まる。

 

「確かここにあったはず……」

 

 彼女は懐から鍵の束を取り出だすと、その中の一つを扉の鍵穴に刺して鍵を開ける。部屋の中には何かよく分からないガラクタみたいな物が規則性無く、沢山積まれている。倉庫なのかしら?

 

「咲夜はそこで待っててね。……え~っと、どこだっけなあ」

 

 彼女は部屋の中に入ってロッカーを物色している。もしかして、ちゃんと片付けられていないのかしら?

 

「あったわ。これよこれ。見つかって良かった」

 

 時間にして5分程だろうか、両手にホウキとチリトリを持って部屋から出てきた

 

「掃除用具ってこれでいいかな? もっと何か必要?」

「雑巾とモップも欲しいわ」

「OK!」

 

 ユウは私に手渡した後再び倉庫の中に戻り、私が指定した物を用意してきた。状態が良いし、あまり使われていないのね。

 

「道具が揃ったので私は掃除してきますね、探してくれてありがとう」

「待って! 私も清掃する場所へ連れてって」

 

 私は彼女に頷き、隣の部屋に向かい、扉を開けて埃まみれになっている部屋を見せる。

 

「ここなんだけど」

「あ~……ここねー……」

 

 ユウは目も当てられないと言った様子でこの惨状を目の当たりにしていた。

 

「なんで2階フロアは管理してないの?」

「一応言い訳をしておくと、この屋敷にはめったに――というか、全く客が来ないからねえ、使わないまま放置していたらこうなっていたのよねー……」

「使用人を雇えばいいじゃない。サクヤの財力なら余裕でしょうし、こんなに広いお屋敷を2人で管理するのは無理でしょ?」

「私もサクヤと一緒に住むことになった時に提言したんだけどね、彼女曰く『研究成果を盗まれたくない』との事でこの話はお流れになったのよね」

「研究成果ってあの図書館にある本?」

「そう、それ。私がここに越してくる前――といっても100年くらい前の話だけど、サクヤは多くの使用人を雇っていたみたいなんだけどね、ある日図書室の本が何冊か無くなってたらしいのよ。で、その無くなった本というのが、サクヤが開発した最上級氷属性攻撃魔法に関する物でね、メイドに紛れたスパイが盗み出したみたいなのよ。それに気付いたサクヤが1人1人メイドを尋問していったら、スパイに襲われちゃってさ、以来彼女は人間不信になって、使用人を全員解雇して1人で暮らすようになった――とサクヤから聞いているわ」

「そんなことがあったのね……、その後どうなったの?」

「襲ってきたメイドはサクヤが捕まえて、国に引き渡したらしいわ。ちなみに当時の最上級氷属性魔法は、今では上級氷属性魔法に成り下がってるわね。最新の最上級氷属性魔法は、私の知る限りではたぶんサクヤが一番うまく使えるんじゃないかしらね」

 

 以前パチュリー様は魔法は日々更新されていくものと仰っていましたが、それはこの世界でも変わらないようね。

 

「実はね、あの図書室にある本の中には、魔法学会で発表するだけで現代の魔法学が根底が崩れ落ちるような強力な魔導書や、一生遊んで暮らせるくらいの収入が入ってくる書物がゴロゴロあるのよ。それだけ高度な魔道書ばかりだから、今でも使用人を雇うのには抵抗があるんじゃないかな」

「サクヤってすごい人なのね」

「そうでしょ!? それでね、サクヤが開発した魔法の1つにこんなものがあるのよ。ちょっと見ててもらえる?」

 

 ユウは部屋の中に入っていき、カーテンを開けて窓を解放する。

 そして部屋の入口に戻って来ると、彼女の手のひらに小さな風の渦が生まれる。それはどんどん大きくなっていって、顔と同じくらいの大きさまで成長すると、彼女の手のひらから離れて床に落ちていく。

 やがて風の渦が部屋の中心で静止すると、部屋全体に風が行き渡り、部屋中の埃が風の渦に集まっていく。やがて全ての埃が集まると、風の渦は窓の外に飛んで行った。

 埃が積もり積もった汚部屋は、ものの5分程で清潔な部屋に早変わりしていた。

 

「どう? こういう生活に便利な魔法もあるのよ」

「凄いわね、その魔法。私にも教えてくれないかしら?」

 

 こんなに使い勝手のいい魔法があるなんて、素晴らしいわね。紅魔館に戻った時にも使えないかしら?

 

「勿論いいわよ! と、言っても、元々この魔法を開発したのはサクヤなんだけどね」

 

 そして私はユウからお掃除魔法を教わった。この魔法は力加減と制御が難しく、何度か失敗しながらもユウが丁寧に教えてくれたおかげで、半時程で私は習得することができた。

 

「やっぱり咲夜は凄いわね。私よりもずっと物覚えがいいわ」

 

 習得に成功した私を見て、ユウは満足げな表情で頷いていた。

 

「そんなことはないわよ、このサクヤの体が優秀なだけだと思うわ」

「魔法というのは、どちらかと言うと精神の比重が高い技なのよ。確かにその体のスペックは高いけれど、魔法をしっかり使えるというのは紛れもなく貴女の実力よ」

「あ、ありがとう」

 

 褒められるのは悪い気分じゃないので、つい声が上ずってしまった。

 

「教えた後に言うのもなんだけど、この魔法にも一応弱点はあるのよ」

「弱点って?」 

「骨董品とか美術品みたいな壊れやすい物がある部屋で、お掃除魔法を使うのはあまりお勧めできないわ。それらを避けながらお掃除魔法を行使するのはかなり難易度が高いし疲れちゃうから、普通に掃除したほうがいいわよ」

「なるほど、理解したわ」

「後こういうのもあるよ」

 

 彼女が教えてくれたのは、服を綺麗にする魔法だった。呪文を唱えるだけで、洋服が新品のように綺麗になるなんて、洗濯要らずだわ。魔法って本当に何でもできるのね。

 

「じゃさっそく他の部屋も掃除してくるね」

「本当に他の部屋もやるの? 大丈夫?」

「今教えてもらった魔法をさっそく試してみたいから」

「ふふっ、それならこれを渡すわ」

 

 そうして手渡されたのは、先ほど倉庫を開けるときに使っていた鍵も含まれている鍵束だった。

 

「この階は鍵がかかってる部屋が幾つかあるからね、それがあれば入れるようになるわ」

「ありがとう」

「くれぐれも無理はしないでね?」

 

 私は彼女の隣を抜けて反対側の部屋に向かい、鍵を開けて扉を開ける。そこはカーテンが閉め切られたがらんどうとした部屋で、床全体に六芒星の魔法陣が描かれている。転移魔法陣の部屋とは魔法陣の形が違うし、何か召喚でもするのかしら?

  

「この部屋は何なの?」

「いやぁ~私にも分からないな。もしかしたら、サクヤが何か実験をしていたのかもしれないけど、帰ってきた時に聞くしかないわ」

 

 私の後ろから部屋を覗き込む彼女は困った様子で呟き、そのまま何処かへと立ち去って行った。まあ下手に調べて、魔法が発動しても困るし、この部屋はそっとしておきましょう。

 それから私は、2階の鍵がかかっている残りの2部屋を全て調べていく。2階の左端の部屋を開けると、金銀財宝が山積みになって保管されていた。ここは宝物庫なのね。果たしてこの世界ではどれくらいの価値があるのかしら? 恐らく外の世界でも大富豪になれそうね。

 それにしても、客間と同じフロアにあるなんて、警備が緩い気がするのだけれど、盗難にあったりしないのかしら?

 私は扉を閉じて鍵を掛けた後、今度は宝物庫の反対側の扉を開く。そこは魔法の杖や怪しげなマジックアイテムが大量に保管されている。この手の部屋は経験上弄らない方がいい事を知っているので、私はそっと扉を閉めて鍵を掛ける。 

 鍵が掛かった部屋はどれも綺麗に管理されていて、掃除の必要性は無さそうね。

 私は鍵の開いてる部屋に入り、お掃除魔法でどんどん部屋を綺麗にしていく。お掃除魔法が使えなかった場所は、私が直接掃除用具を用いて掃除を行う。なんだか楽しくなってきて、気付けば2時間かけてこの屋敷全体を清掃してしまったわ。

 

「ふう~終わったわ! 家が綺麗になると気持ちいいわねえ」

 

 私はリビングルームのソファーに腰かけて、仕事を終えた解放感に満ち溢れていた。

 

「時間を止めずに仕事をするのもとても久しぶりな気がするわね。紅魔館だと時止めしないと回らないくらい仕事多かったからねえ……」

「お疲れ様、咲夜。紅魔館のメイドって、時を止めないといけないほど仕事が多いのね」

 

 リビングルームに入って来たユウは、私の隣に座る。

 

「その分やりがいはあるわ。私の敬愛するお嬢様に仕えることができる。それだけで幸せなのよ」

「素晴らしい忠誠心ねぇ。それだけ沢山仕事してると疲れたりしない? 紅魔館って使用人が少ないの?」

「妖精メイドとホブゴブリンがいるんだけどねえ、簡単な指示を出さないと動いてくれないから、私がその分多く仕事をしているのよね」

「妖精って、あの妖精!? アルカディアだと、妖精は女神様の使いで、神聖なものとされているんだけど、幻想郷って凄い場所なのね……!」

 

 彼女は驚嘆しているようだけど、そんなに高尚なものではないのよね。

 

「そういえば、私に何か用?」

「咲夜の様子を見に来たんだけどね、どうやらもう終わったみたいね」

「たった今終わったところよ」

「ならちょうど良かったわ。貴女に聞いて欲しいことがあるの」

「何かしら?」

「昨日、リィンに貴女の身に起きていることを相談してるって話したの覚えてる?」

「覚えてるわ。彼女はアルカディア教の聖女で、100年前の仲間なんでしょ?」

「そうそう! さっきリィンから連絡があってね、明日の午前10時~11時の間、スケジュールに空きが出来たんだって! その時間なら貴女を診察できるみたいだから、明日は王都の大聖堂に行くことになるんだけど、いいかな?」

「構わないわ。むしろ此方からお願いしたいくらいよ」

「ふふ、決まりね! リィンなら絶対に貴女の身に起きている事が分かるはずよ!」

 

 その自信は何処から来るのか分からないけれど、いつも明るい彼女の前向きな姿勢だけは見習いたいと思うわね。

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