咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
――side サクヤ 7日目――
ふと目が覚めると、外はまだ真っ暗だった。肌寒い空気から逃れるように、ベッドの中で芋虫のようにノソノソと動きながら、壁掛け時計を見上げる。現在の時刻は午前4時を過ぎたところ。今日はかなり早起きしてしまったわね。
手を開いたり閉じたり、腕や足を伸ばしたり折り曲げたりしながら自分の体の調子を確かめる。
(まだ少し痛むけど、動けないほどではないわね。そういえば、ドレミーは何処に行ったのかしら?)
薄暗い部屋の中を見回しても、咲夜の家具と私物があるばかりね。
「おや、もう起きたのですか」
「!!」
振り返ると、ドレミーはいつの間にかベッドの横の椅子に座っていた。いつの間に……!
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「ええ、まあ、そうね」
私としては、貴女の出現のせいで目覚めが悪いんだけどね。
「さて、貴女の夢の調査についてですが、結論から申し上げますと、何もわかりませんでした」
「どういうことよ?」
「貴女の夢は完全に私の支配領域から独立していまして、侵入も観測もブロックされています。残念ながら原因も不明です」
「そう……」
「お役に立てず申し訳ございません」
「いえ、此方こそ協力に感謝しますわ」
駄目で元々だったわけだしね。
「引き続き私も独自で調べてみます。何か判明したら一報入れますね」
ドレミーは一礼すると、部屋の扉から外に出ていった。う~ん、幸先が悪いわね。なんだか目が冴えてしまったし、こういう時は気分転換に散歩でもしようかしら。
部屋の明かりをつけて、パジャマから着替えるべく、メイド服ばかり入っているクローゼットを漁っていると、黒を基調にしたタキシードを発見する。試しに着てみると、サイズもピッタリで、かなり様になっている。
(うん、自分で言うのもなんだけど、格好いいわね)
全身鏡の前で確認して自画自賛する私。誰かのプレゼントなのかしら?
(この衣装を選んだ人はとてもセンスがいいわね。ただ、一度も着られてないのがもったいないくらいね)
心が弾みながら全身鏡の前でポーズを取っていたけれど、
(しまったわ。散歩にいくつもりで着替えていたのに、正装をしてしまったわね。もっとラフな格好でよかったのに)そう思ったのも一瞬で、私は(まあいいか。また着替えなおすのも面倒だし)と思って部屋を出た。
自室を出た私はあてどもなく歩いていた。真紅のカーペットが敷かれた人気のない廊下には、私のハイヒールの足音が響き、窓から差し込む月明かりが辺りを照らして綺麗だった。
(夜の雰囲気はいいわね……)
夜の雰囲気を味わいながら歩いていると、遥か前方に一つのうごめく影。一瞬気のせいかと思ったけれど、目を凝らしてよーく見てみると、その影はゆっくりと此方に近づいてきているようだった。
(な、何!? まさか、ゴーストでもいるの!?)
私は恐怖に怯えながらも、せめて正体だけは見極めようとその場に踏みとどまり、固唾を飲んで影の接近を待つ。やがて、影は私がはっきり認識できる範囲内まで近づいてきて、窓から差し込む月明かりに照らされて明るみになった。
「あれ~? 誰かと思ったらやっぱり咲夜だ! こんな所で何をしているの?」
金色の髪に真紅の瞳、宝石のような羽、ドールのような赤い服。確か彼女は、レミリアの妹吸血鬼でフランと呼ばれていたわね。とりあえず畏まった口調で応対しましょう。
「今日はたまたま早起きしたので、散歩をしておりました。お嬢様におかれましては、いかがお過ごしでいらっしゃいますでしょうか?」
「お姉さまと遊ぼうと思って部屋に向かう途中だったの! そしたら見慣れない恰好してる人がいたから気になってこっちに来たら、咲夜とばったり出くわしちゃった。似合ってるね!」
弾ける笑顔で嬉しそうに語るフランは「でもここで咲夜に出会えたのは幸運だったわ。ねえ咲夜? 折角出会えたんだし、私と遊びましょ?」と手を差し出してきた。
私は肯定の返事と共に、手を取ろうとしたが、彼女の瞳を見て咄嗟に思い留まる。ルビーのような瞳は、私を見ているようで私を見ておらず、狂気じみた
感情が籠っていたからだ。
(これはまずいわね……、この子の【遊び】は、良くないことになりそうだわ)
直感で理解した私は、全身全霊を傾けて断る口実を考える。
「どうしたの咲夜? 私と早く遊びましょうよ?」
笑顔を張り付けながらも、彼女の眼は笑っていない。私はなんとか理由を思い浮かべ、頭の中で校正する間もなく言った。
「大変申し訳ありませんがお嬢様、私は遊ぶことができません」
「え~、なんでよ?」
「お嬢様、これをご覧ください」
不満げなフランに見せつけるように私は上衣を脱ぎ、包帯が巻かれている肩と腕を見せる。
「この通り私は怪我をしておりまして、このようにやっと歩けるというだけの状態でございますので、お嬢様のお遊びにお付き合いすることはできません。お嬢様も、怪我で満身創痍の私よりも、元気になった私とお遊びいただいた方が、お楽しみいただけるかと存じます」
そう言って上衣を着直すと、フランの不機嫌は直り、子供のような笑顔を見せた。
「それもそうね! じゃあ怪我が治ったら私と遊んでね?」
「ええ。いつでもお相手致しますよ」
フランは私が歩いてきた方角に向かって駆けて行き、姿が完全に見えなくなったことを確認してから、大きく溜息を吐いた。
「ふう、危機一髪といったところね」
もしあのまま遊ぶ流れになってたら、大変なことになっていたかもしれないわね。一見純粋無垢な子供のように見えて、彼女の内側には狂気が渦巻いている気がするわ。
(って駄目じゃない! 話の流れでうっかり遊ぶ約束しちゃったわ!)
「…………とりあえずフランの情報が必要ね。――明るくなったら誰かに聞いてみることにしましょう」
私は散歩を再開した。