咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

27 / 66
第27話 7日目 side サクヤ 散歩

 気の向くままに歩き続けていくと、紅魔館の正門玄関前の庭園に辿り着く。

 

「ん~! 空気が冷たくて気持ちいいわね~」

 

 私は思いっきり伸びをしながら、庭園を見渡す。噴水を中心として四方に広がる花壇には、色とりどりの花が咲き乱れ、月明かりに照らされて輝いて見える。

 

「綺麗ねぇ~」

「そうでしょう? 私が精いっぱい手入れしてますからね! この光景はあのフラワーマスターにも負けてないと自負してますよ」

「キャッ!」

 

 目の前の光景に見惚れていた所に突然後ろから声がしたので、私は咄嗟に飛びのくと、ニコニコ顔の美鈴が立っていた。

 

「お、脅かさないでよ!!」

 

 気配を消していたのかしら。全く気付かなかったわ。

 

「アハハ。すいません、まさかそんなに驚くとは思いませんでいたよ。サクヤさんはこんな時間に何を?」

「今日はたまたま早起きしたから散歩していたのよ。ちょうど怪我した所の痛みも昨日に比べて収まってきたからね。そう言う美鈴は?」

「ここでいつものように太極拳の構えをしていたら、ふと人の気配がしたので咄嗟に身を隠したんですよ~。そしたら来たのがサクヤさんだったので驚かそうと思いまして」

「なんでそこで驚かそうって発想になるのよ……」

 

 私は呆れながらに呟いた。

 

「まあいいじゃないですか。それよりサクヤさんその恰好……!!」

 

 美鈴は私のタキシード姿を見て驚いているようだった。

 

「ああ、これ? なんかクローゼットの中に大事に仕舞いこんであったから着てみたのよ。どう? 似合う?」

「とても似合いますよ! その姿を見れただけでも嬉しいです!」

「え、これ美鈴がプレゼントしてくれた服だったの?」

「はい、そうなんですよ。咲夜さんに似合うと思ってプレゼントしたんですけど、全然着てくれなかったので、もう忘れ去られてしまったのかと思いましたよ」

「そうだったのね……」

 

 折角の贈り物なんだから着てあげれば良かったのにねぇ?

 

「折角なので今日はその服で1日過ごしてみたらどうですか? お嬢様もきっと喜ぶと思いますよ?」

「でも私、メイドの仕事しないといけないんじゃない?」

「大丈夫ですよ。お嬢様からは『怪我が完治するまでゆっくり休みなさい』と与ってるので」

「そういう事なら分かったわ。……あ! そうそう、美鈴に1つ聞きたいことがあるのよ」

「はい、なんですか?」

「さっき廊下でフランお嬢様と会って少し話したんだけど、彼女について何か知っている?」

 

 私が訊ねた途端、ずっとニコニコしていた美鈴の表情が硬くなる。

 

「フラン様に出会ったんですね……。彼女はフランドール・スカーレット。レミリア様の妹君です。普段は地下室に籠っているのですが、時々夜になると屋敷内を徘徊しているんですよ」

「へぇ~……」

 

 美鈴は依然と暗い表情のままだし、なにか訳有りみたいね。

 

「ねえ、美鈴。こんなこと聞いていいのか分からないんだけれど――」

「彼女の事なら、私よりレミリア様かパチュリー様に聞いたほうがいいと思います」美鈴は私の言葉を遮るように告げた。

 

(ここは従ったほうがいいでしょう)

 

「分かったわ。美鈴、パチュリーさんってもうこの時間帯には起きてるかしらね?」

「多分起きてますね。私が何時に行っても、パチュリー様は大図書館にいらっしゃるので」

「ありがと、じゃあ行ってくるわ」

 

 私は美鈴に手を振って、紅魔館の中へ戻って行った。

 

 

 

 

「お邪魔しま~す」

 

 小声で呟きながら、扉を静かに開き、そろりそろりと図書館へ入った。まだまだ早朝の時間帯なのでうるさくしないほうがいいでしょう。

 さて、パチュリーさんは何処にいるのかしら? 本棚の間と間を注意深く見ながら、奥に向かって進んでいくと、読書スペースの座席に座る彼女の姿を発見する。

 

(え?)

 

 だけどパチュリーの隣には予想外の人物がいた。

 

(あれはレミリア? 何を話しているのかしら)

 

 私は気づかれないように彼女達に一番近い本棚に近付いて、陰に隠れながら聞き耳を立てる。

 

「――相変わらず大変ね」

「フランは時々ああやってガス抜きしてやらないとね。――ところでサクヤの事なんだけどさ」

 

 自分が話題に上がったので、より一層盗み聞きに神経を集中させる。

 

「精神の入れ替わり現象についてどれくらい分かったんだ?」

「……そうね、まだ何とも言えないけれど、一つだけ判明したことがあるわ」

「へえ?」

「私の知っている限りでは、少なくともこの幻想郷の住人が起こした事件ではない、ということね」

 

 パチュリーの断言にレミリアは目を細める。

 

「どうしてそう言い切れるんだ? この前の憑依異変の再発の可能性は無いのか?」

「無いわ。まず前提条件として、【異世界】の存在を認知している妖怪というだけで、容疑者は大幅に絞られるわ。恐らく幻想郷の管理者か、地獄の閻魔様くらいでしょう。もしかしたら竹林に住むあの医者も知ってるかもしれないわね」

 

 パチュリーは言葉を続ける。

 

「その中で、魂の存在を入れ替えられそうな能力を持ってる人物となると――うん、皆できそうね。じゃあ1つ1つ候補を潰していくことにするわ。まず竹林の医者、八意永琳だけど、彼女には無理だと思うわ。彼女は薬師だし、もし犯行に及ぶのなら薬を使ってくるはずだけど、最近紅魔館であの医者の薬を飲んだ人はいない。なので候補から外れるわ」

「そうだな」

「次に地獄の閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥだけれど……。あの花が咲き乱れた異変を覚えている? その時に咲夜が彼女に会ったらしいんだけれど、色々お説教をされてゲンナリした事を愚痴っていたわ」

「そんなことがあったのか。私は全然知らなかったなあ」

「あの子はレミィに弱みは吐かないからね。――それで咲夜の話では他にも色々な人がお説教を受けていたと聞いてるわ。このエピソードから見えてくるのは、彼女はとても真面目で、閻魔としての責務をしっかりと果たしているという事が分かるわ」

「つまり何が言いたいのよ?」

「あの閻魔が咲夜の精神交換を起こすのは性格的にありえないのよ」

「なるほどねえ、性格か」

 

 うんうんと頷いているレミリアだけど、私的には地獄の閻魔という存在が気になる。地獄ってあの地獄でしょ? 気軽に行けちゃうの?

 

「最後に幻想郷の管理者――八雲紫」

「あいつが一番怪しいと思うのだけど」

「私もそう思って、真っ先に調べたのよ。昨日この図書館に呼び出して、咲夜の事について問い詰めたわ」

「あいつはなんて?」

「彼女は初耳だったみたいで、何回か質問してみたけど、何も知らない様子だったわ。私の見立てが間違ってなければ、あの妖怪は関与していないわ」

「ふ~ん? でもあのスキマ妖怪の事だからねえ……」

「あら、私ってそんなに信用ないのかしら?」

 

 レミリアとパチュリーの間に割って入るように空間が裂け、その裂け目から金髪の女性が姿を現した。

 見た目は20代前半くらいだろうか、上品なドレスを着ていて、気品を感じさせる雰囲気の美女ね。何処かの家の当主様かしら? けれど、空間の裂け目の中から無数の目玉がいろんな方向を見つめていて、彼女に本能的な恐怖を感じる。

 

(幻想郷の管理者だけあって、只者ではないわね……!! それにいきなり空間を割って出てくるなんて、どういうカラクリなのかしら?)

 

 彼女を注視していた時、一瞬だけ此方を一瞥したような気がしたけれど、すぐにレミリアとパチュリーに視線を戻す。

 

(気づかれたかしら? なるべく気配を消すように心掛けてるはずだけど……)

 

「さっきパチェが言った事は本当かしら? もしお前が咲夜に何かしたのならただでは置かないわよ?」

 

 何の前触れも無く現れた紫に、レミリアは殺気を飛ばして今にも襲い掛からんとした様子だったけど、紫は涼しい顔をしている。

 

「そんな殺気を出さないでほしいわ。今回の件は本当に知らないことだもの。そこの魔法使いさんに言われるまで気づきませんでしたわ」

 

 レミリアは彼女の真意を探るように睨みつけていたが、やがて殺気を発散させる。

 

「いいわ。その言葉信じてあげる。その代わりに、お前の知っている事を話してもらおうか?」

 

 少し考え込む素振りを見せた後、彼女はこう言った。

 

「……そうねえ、教えてあげてもいいけど1つ条件があるわ」

「条件?」

「私も異世界について興味があるの。互いに情報交換と行きましょう?」

 

 紫の提案に、パチュリーは言った。

 

「私達もあまり詳しくないわ。貴女が求める情報を提示できるとは思えないけど?」

「あら、それならちょうどいい情報源がここにいるじゃない」

 

 そう言って彼女が右手を振ると同時に、足の感覚が無くなり、落ちていく。私の足元に裂け目が開いたのね……! 

 

「キャアアアアアア!」

 

 裂け目の中は私が外から見えた時と同じように、無数の目玉がギョロギョロと私の事を見つめていた。

 時間にして10秒だろうか、永遠に落ちていくだろうと思われた自由落下は終わりを迎え、私は地面に座り込む形で着地する。突然の登場にも関わらず、パチュリーは平然としていた。

 

「それもそうね、まずはサクヤから色々聞いてみましょう」

「あの……、もしかして皆さん、私が覗いていた事に気付いていたのですか……?」

 

 思わずポロっと心の声が出てしまった私に、レミリアが勝ち誇った顔で答えた。

 

「もちろんよ。貴女は気配を消しているつもりみたいだったけど、私からするとまだまだね。もっと精進しないとダメよ?」

「……はい」

 

 何故かレミリアに激励されつつ、私は紫を見上げる。彼女は私を探るような目付きで、全身をジロジロと観察してから言った。

 

「ふうん……? これは面白いことになってるわね」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。