咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
自室で休むレミリアを見つけて大図書館に戻ると、既に紫の姿があった。
私は読書スペースと本棚の間のそれなりに広いスペースに立つ。手前には、一枚の紙を片手にパチュリーが立っていて、レミリアと紫は遠巻きに見守っている。
「パチュリーさん、お願いします」
「分かったわ。では始めるわよ!」
一枚の紙を片手にパチュリーが呪文を唱え始めると同時に、私の足元に魔法陣が現れ、全身が光に包まれていく。それは太陽のように強くなり、時間が経つにつれて、私の中で何かが潰されていくような感覚が生じる。
(まるで大岩に押しつぶされているような感覚ね……。きついわ……)
私は意識を失わないように心掛けながら、ひたすらパチュリーの詠唱が終わるのを待つ。時間にして5分程だろうか、私を包む光は収まっていき、圧迫感も次第に消えていった。
「終わったわ。調子はどう?」
私は簡単に自分の体の具合を確かめる。
手と足は問題なく動くわね。頭も湖のように澄み切っている。思考にも問題はなさそうね。
「問題ありません。パチュリーさん、ありがとうございました」
「そう」
一礼してから私はレミリアと紫の元へと歩いていく。
「一見すると何も変わってないように見えるわね?」
「八雲さん、貴女の能力で私を診てもらえませんか? 成功しているのかどうか確かめたいので」
「構わないわよ。どれどれ――」
彼女は私の頭に少しの間手を当てて再度調べ始める。
「これは驚いたわね。膨れ上がっていた魂が箱詰めされたかのように肉体に収まってるわ。どうやったのか詳細を知りたいわね」
「私の魂に刻み込まれた魔法や、潜在能力を封印して、咲夜の体に馴染めるように魂の形を変えました。言うなれば人間に戻る魔法ですね」
「簡単に言ってくれているけど、結構とんでもないことしてるわよね? 咲夜の体は大丈夫なんでしょうね?」
「はい。咲夜の身体を第一にしていますので、大丈夫ですよ」
レミリアはちらっとパチュリーを見た。
「サクヤの言い分は正しいわよ。私が保証するわ」
「……そう。パチェが言うのなら信じるわ」
「この魔法のメリットは、封印を解けば再び元に戻れるということなんです。ただ、私自身では解けないので、他の誰かに解除してもらう必要がありますが、これは大したデメリットではありません」
私の言葉に八雲紫は感心した様子だった。
「ふ~ん、そういうことだったのね。私の能力だと魂を削ぎ落とすけれど、この方法なら保護できると……考えたわね」
「ありがとうございます」
「サクヤ、約束通り、お前の来歴をもっと詳しく聴かせてくれないか? 異世界でのお前は何者なんだ?」
「分かりました、お話致します」
とその時、何かが壊れるような大きな音と共に大図書館の扉が開き、箒に乗った魔理沙が飛んできた。
「サクヤいるか~?」
暢気な声出しながら私達の目の前まで飛んできた彼女に対して、パチュリーは不機嫌な態度で答えた。
「帰りなさい」
「おいおい、出会い頭にそれってひどくないか?」箒から飛び降りて、見事に着地した魔理沙。
「貴女の普段の行動からして、こうなるのは当然だと思うけど? いい加減に今まで盗った本を返しなさい」
「私が死んだら取り返せばいいだろ? 100年もすれば返ってくると思うぜ?」
「貴女ねえ……」
そんなやりとりをしていた彼女達だったが、八雲紫の姿に気付いた魔理沙は驚愕していた。
「なんでスキマ妖怪がここに!?」
「サクヤの正体に興味があってね。これから話を聞こうと思っていたのよ」
「おぉ、ちょうど良いタイミングで来たみたいだな! それなら私も混ぜてくれよ!」
「ではまず、私の家についてですが――」
私は魔法の名家イザヨイ家の長女として生まれた事、100年前に魔王が攻めてきて、私は勇者アレスと共に戦い勝利した事。その時に人間を辞めた事を話していった。
「――以上です」
「なるほどねぇ……」
レミリアは感心したように頷き、
「魔法文明が発達した世界!? すげえな!」
魔理沙は目を輝かせ、
「勇者に魔王、そんな存在が貴女の世界では現実にいたのねぇ」
八雲紫はしみじみと呟いていた。
「
「今の話が本当なのだとしたら、サクヤは私と同じ、種族としての魔法使いになっているのね」
「それは何が違うのですか?」
私が問いかけると、パチュリーは詳しく解説してくれた。
「幻想郷には、私のようにひたすら魔法を研究する"魔法使い"という種族がいるのよ。捨食の魔法で食事を捨て、捨虫の魔法で成長を止める事で後天的に魔法使いになる人間もいるわ」
「此方にはそんな魔法があるのですね。ますます興味深いですね。もしかして魔理沙も魔法使いなのかしら?」
「私はまだ人間だし、種族としての魔法使いになる気はないぜ!」
「なるほど……」
一口に魔法使いと言っても、人によって考え方は異なるのね。異世界の魔法が気になる所ですけれど、魔法談義に興じるのは後ね。
今はそれよりも、予てから気になっていた事を訊ねてみましょう。
「私からも八雲さんに聞きたいことがあります。少しお時間よろしいでしょうか?」
「なに?」
「貴女は幻想郷の管理者だとお嬢様から聞きましたが、管理とはどんなことをしていらっしゃるんですか?」
「この幻想郷はね、妖怪と人間が共存している楽園なのよ。幻想郷の外の世界は、人間が勢力を伸ばしきってしまって妖怪の居場所がないの。私は外と幻想郷を結界で覆ってこの幻想郷が崩壊しないように調整しているのよ」
「それはすごい大仕事ですね――でもなぜ結界で覆う必要があるのですか?」
「外の世界では“科学”が発展していてね、私達妖怪を構成している、妖力や魔力といったものは、全て外の世界では幻想になってしまったのよ。だから、私が結界で覆わないと、科学の力が入り込んで来てしまって、私達は消滅してしまうわ。だから、ここは云わばその幻想となってしまった者達の最後の楽園ね」
「なるほど……、重大な役割を担っていらっしゃるのですね」
仕組みに感心すると同時に、科学という言葉が引っかかる。
「八雲さん。外の世界の科学が発展した国に、日本はありますか?」
「幻想郷は日本の中にある地域よ」
「そうでしたか……!」
もしかしてと思ったけど、まさか幻想郷が日本にあったんて。この外にはユウの故郷があるのね。
「実は私の友達のサクラギ・ユウが日本からアルカディアに来たらしいので、もしかしたら今回の入れ替わり現象と何か関係があるのかもしれません」
「日本からですって?」
「その人って、100年前の魔王との戦いで一緒だった女性だよな?」
「ええ。幻想郷に来る直前まで彼女と一緒に住んでたので、恐らく私の身体に入った咲夜からも事情を聞いているかもしれないわ」
「サクヤの考えについて、パチェはどう思う?
「数ある異世界の中で、同じ世界から二人の人間が来るのは確かに、偶然とは思えないわね」
「なあスキマ妖怪。お前の力で異世界に行けないのか?」
魔理沙の素朴な疑問に、紫はかぶりを振った。
「無理よ。私は異世界の存在を感知できていないし、知らない世界に境界を繋げる事は不可能だわ。そもそも、私の力が世界の壁を越えられるのかさえも分かっていないもの」
「なるほどなぁ」
紫ってもしかしてとても凄い妖怪なのかしら?
「なぁサクヤ。ドレミーはどうなったんだ?」
「誰よドレミーって?」
「実はね――」
私は昨晩、夢の管理者と呼ばれる少女に、自分の夢を調査してもらったが空振りに終わった事を話す。
「ふ~む、そうだったのか。あいつでも分からないとなると難しいな」
「私が夢を全く見なくなった事と何か関係があるのかもしれないわね」
「魔理沙、用が済んだのならさっさと帰りなさい」
話を遮るようなパチュリーの言葉に、魔理沙はムッとしながら「嫌だよ。どうしても私を帰したいなら、こいつで勝負しな!」と、ドロワーズに掛けてある筒のような物を構える。
それを見てパチュリーも3枚のカードを取り出し、臨戦態勢に入る。
「今日は負けないわよ!」
「いくぜ!」
魔理沙の声で弾幕ごっこが始まった。